第一話(豚王)・7
第一話(豚王)・7
充電がどれくらいの時間で終わるのか、それはわからなかったので私は充電器の中で赤いランプを光らせている携帯電話をずっと眺めていた。それほど現代の魔王の公務というものは退屈なものなのである。誰か無茶な陳情でもして人騒ぎ起こしてくれないものか、と願うこともあるが、そんなことが起こるくらいなら退屈なくらいがちょうどいい。世の中は平和だ。それでいいではないか。まあ私の周辺が平和なだけで、魔王領から遠く離れた寒村などでは飢饉やなんかでで住民が死にかけているかもしれないが。
しかしそういった報告は大臣たちはしてくれない。基本的に王室に立ち並んでいる大臣たちはその頂点である私に市井のことを教えてはくれないのである。
赤いランプはようやく消えた。これでまた通話することができるはずである。私は豚族随一の知能の持ち主、という称号に違わず、この世界においてまだ発明されていない携帯電話なるものの操作方法を自力で把握していたので、この携帯電話の持ち主が最後にかけた通話相手に再び電話をかける、といった芸当もできる。そこで少し工夫を凝らし、私はこの携帯電話の元の持ち主が最後から三番目に通話した相手に電話をかけてみた。「はい?」女の声だ。それも人族と思われる女の声である。