第一話(豚王)・3
第一話(豚王)3
私は豚族の中でも随一とも呼べるほど(唯一と揶揄されることもあるが)の知能の持ち主であり、そこを買われたのか知らないが、前魔王から次代の魔王になるよう指名された。もちろんほかの種族、特に前魔王と同じ種族である狼族からの反発は大きかったが、魔王の決定は絶対であり、魔王が言い直さない限り決定が覆されることはない。
きっとほかの種族はしぶしぶ、私が魔王となることを受け入れたのだろう。全魔王が死ぬときの延命処置は必死になって行われ、もし狼族が医療班にひとりでも属していれば「次の魔王が豚族なんて嘘ですよね? 嘘ですよね?」などと採算にわたって確認を取るであろうことは想像に難くない。
そんな私が玉座に座っている際に私の前に続く赤絨毯の両脇に、常に魔王からの命令に備えられるように待機している大臣たちに豚族は含まれていない。私はその点に於いて不安を感じている。いつか誰かから暗殺されるのではないか、という不安を。できるのであれば、これら大臣たちも信頼できる豚族で固めたい。しかしそんなことをすれば豚族以外からの反発は必至であり、それも避けねばならぬことである。
私は玉座へと続く絨毯の道を取り囲むように立っている烏族の者に尋ねてみた。「携帯電話とやらの充電器、というものを知っているか」烏族の大臣は睨むように私を見て、「なんですか、それは」「この携帯電話とやらの電源を充填するのに必要らしい。地下牢の人族が言っていたのだが」「ああ、充電器。ありますよ。もちろんありますよ」二回も言った。いかにも怪しい。