表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

Case.02  運命の鎖車 (04

 アレからしばらくして夕方になっていた。

 その間にしていたことは立木さんに連れられ学校外周辺の施設周りだった。

今いるのは近くの公園に隣接するスーパーと雑貨店のある商店街。


「というわけで我々地保研のミーティング時とかのお菓子はココらへんで買ってるわけだよ」

「ふーん、服屋に惣菜屋、本屋にあのスーパー。銀行まであるんじゃ大体ここで済ませられるな」

「公園の反対側には大型ショッピングモールもあるんだよ」

「……ふむ、思っていたよりただの住宅街じゃないんだな」

「まあ私も宮子もココに直接住んでるわけじゃないからなんともいえないけど、団地帯って決まってこういうの多いんだよ。特にココらへんは再整備されたこともあるんだって」

「ふーん、まあ学校の合間にはこっちに出向くとしよう」

「それじゃ買い足すもんは買ったし、部室に戻ろうか」


 立木さんの号令の下に私と初瀬さんの二人が振り向き、ふわりと春風が吹く。


「ふむ、今日の宮子は無地ピンクっと」

「へ? と、灯!!?」

(またパンツか……)

「別にいいじゃないの、ストッキングはいてるんだから」

「そーじゃなくて! そういうのはせめて屋根のあるところにぃ……」

「何故もじもじする」

「なははー、まあ明希ちゃんもこれくらいの恥じらいで返してくれよー、今後は~」

「やるか、バカ」

「あうー、でもこの返しもアリ……!」

「灯がどんどんおかしくなっていく…」


 溶け込んでいるのか割と談笑らしきものは出来ている。

その場しのぎとはまた違うこの感覚、

嫌いではないのだがどことなく違和感を持つ。

女子高生ってこんなものなんだろうという理解がいっても、

いまだに自分がそれなのかという実感と納得がいかないというやつなんだろう。



 部室に戻ると校内は雰囲気を変えていた。

もともと校内にいる生徒が少ないのもあるが、

それ以上に不穏な空気が立ち込めている。

何がこの空気を作っているのかは察しがつかないが、

少なくとも平常なく浮き出ないというのは繰り返しつぶやいて納得していた。


「…………」


 部室の机に買い出ししたお菓子の袋を置くと、

自然と廊下まで足が動きあたりを確認していた。

右を見ては上ってきた階段、

左を見ては続いていく廊下の先までを探っていた。



「何か感じたの? 明希ちゃん」

「立木さん……、いや、なんでも」

「ウソつかなくてもいいって。顔に出てるよ」

「え?」

「どうしたの、二人とも?」


 顔に出ていた?

そんな言葉で一瞬動揺をしていたが地保研部員三人がそろって廊下に出ていた。


「いや、明希ちゃんが中二病的な何かを発症して」

「なにかって、別に風橋さんはそんな名前の知らない病気にはかかってないでしょ?」

「おっとと、この言葉がわかるのは私だけってことかい」

「何を喋ってるか知らないけど、さっきと校舎内の雰囲気が違う。それを感じただけだ」


 なんだかもつれて話がややこしくなるのを避け、

感じたままにその言葉を発する。

すると、

上機嫌で笑い口調だった立木さんの声色が変わり、

しだいに昨日聞いた鋭い声色になっていく。



「そう、じゃあこの感覚は当たってるのね」

「ん? どういう」

「宮子、たぶん向こうじゃないけど被害出てからじゃ遅いし、迎撃に出るよ」

「わかったわ」

「お、おい。どういうことか説明してくれないのか?」

「それは宮子が教えてくれるわ。私は先に行ってるから」


 肩に手を当て立木さんはすぐさまその場を去っていった。

その場に取り残された私は仕方なくも指示通りにしか従うしかなく、

その顔を初瀬さんのほうに向ける。


「……んでどうすればいいんですか? 初瀬さん」

「あ、うん、普通に追いかけるだけだよ。後から追いかけるのは灯って回り見ないで勘だけで動いちゃうから迷惑かけないようにって」

「なら勘で動くの止めればいいのに」

「そうすると遅れることも多くてね。しかたないけどこれにあわせて」


 かかとを返し初瀬さんは立木さんが消えていった教室脇の階段へ、

そのあとを追うように私も追っていった。




――体育館裏・用具置き場


「ふん、やっぱり遊霊ね!」


 私・灯李は土のはだけた体育館の裏にたどり着くと、

大型犬サイズの黒い影が二つほど見える。

影といっても真っ黒というよりは怪しげな緑の光を放っているだけで、

見た目はさまざまでも生物とはとてもいいがたい。

これが遊霊と呼ばれるよくわからない生命体のようなもの。

時として人に襲い掛かり、

その生命力を奪うといった根拠のない妖怪だというわけだ。

アルカナの使い方に慣れる以上という心持で、

地域保安の名の下にこの霊を退治しているのだ。


「天より雷轟を示せ。“ザ・タワー”!」


 胸元からカードを取り出し、

目の前に掲げコードを唱える。

一瞬の閃光の合間に両手には超電磁砲のザ・タワーが出現する。

それと同時に一瞬、

空が虹色のグラデーションを彩り、

あたかも空間が移動したかのような感覚が辺りを包んだ。

その後、遊霊は影の姿から明確な獣姿へと変貌する。


「狙い打つわよ!」


 右腕の砲身を構え、

こちらを睨み返す遊霊に標的を構える。

相手は三体、

それも力そのものは弱く感じる。

私の肌で感じる霊感というか魔力感知がそういう風に伝えてくる。


「シュートっ!」


 トリガーを引き砲撃する。

レールガンの閃光が瞬く間に一線を描くが、

その銃弾は三体のいずれにも当たらなかった。

目視距離でしかもそんなにいい距離でもない。


「やっぱりこんな近くじゃ威嚇にしかならないか」


 ばらけた遊霊の動きをそれぞれ把握するが、

こっちの武器の特性を感知したのか私を囲む形でその陣形を取る。

タワーを乱発して当てるのもありだけど、

それじゃ考えナシみたいに見られる。


「それにこの子、小回り利くタイプじゃないのよね……、どうしようかしら」


 赤い三対のまなざしがこちらを睨みつけている。

タワーは威力と防御力に優れても、

どうやら相手の機動性に合わせるのは厳しい状況、

ということみたい。

 内心で思考を巡らせつつ、

三体全てがココにひきつけられているようにせねばとも考えると、

なかなかどうも戦術が決まらない。

にらみ合いと威嚇の牽制が続く。



すると、


「―――回れ」

「っ!」


 囁くように聞こえた声から、

突如足元から飛び出すような鎖の波があたりを埋め尽くした。

よく目を凝らせばそれは地から地へ、

蛇のごとくジャラジャラと豪快な金属音を鳴らし、

弧を描いてうごめいていく。

口で言うにはなんとも説明しにくい光景だ。


 その鎖の波により当たりは一気に制限され、

私を中心としてある一定の円形を描いている。

その鎖から感じる魔力を感じてみれば、

私の手元にあるタワーと同じ、

つまり、これはアルカナのものなのだと感じ取れた。




――鎖の輪の外


「これって……?」

「ま、見世物じゃないが私のアルカナの一つだ」


 心配そうに見つめる初瀬さんをなだめているつもりはないが現状説明をする。

 目の前にうごめく鉄の鎖、

正確に言えば鉄の鎖のようなものがうごめいているわけだが、

それは私の言うように自身の持っているアルカナの一つ。

ホイール・オブ・フォーチュンといい、

こっちの言語にあわせれば運命の輪とかいうやつらしい。



「大丈夫だ、少なくともこの鎖の檻は囲んでいるだけだ」

「な、なら早く灯のところに!」

「そうなるな、鎖の檻を緩めるから突撃して」

「う、うん! 女帝の名の下、軍靴をそろえよ。“ジ・エンプレンス”!」


 初瀬さんが手元に掲げたのはアルカナのカード、

その呪文と共に足元には魔法陣が浮かび上がった。

アルカナのコードナンバーⅢ、

女帝のカード(ジ・エンプレンス)だ。

 何のアルカナか見当をつけていたが、

ほぼ予測どおりの代物であった。

女帝、魔法陣から現れる一刀と泥の兵士(ゴーレム)が主な手段、

連携を主体とする理屈的なアルカナだ。

 それを見据えて運命の輪を緩め、

次第に檻の中の光景をあらわにしていく。

中央には立ち止まった立木さん、

その周囲には衣服をまとった獣のようなものがうごめいている。

私にはわからないが、

あれらが何らかの魔力的な何かを秘めていて察知したということでいいのだろう。

近いもので言うなら中央圏のガイストという魔物がいるのだが、

それの近種なのだろうか?


 もう一つ気づくとすれば、

立木さんはアルカナに内蔵された魔法陣の一つである隔離空間を発動させている。

固有名の魔法ではないが、

この効力によってある一帯を擬似的別空間に移動させることが出来るものだ。

口で説明するのは難しいのだが、

一般人の感覚には窓ガラスの向こうに移る世界に私たちがいるということになる。


「ゴーレム、セットアップ!」


 陣から生えてくる剣を抜き取り、

天高く掲げると初瀬さんの背後から三体ほどの泥の兵士が出現した。

それぞれが剣・斧・弓矢とことなる武器を携えて獣めがけて走り出す。



「灯っ! 離れて!」

「宮子! よしっ!」

「っ!? お、おいっ!」


 初瀬さんの声と泥の兵士の突撃を見て立木さんはその場を避けるが、

あろうことか運命の輪の鎖に飛び乗った。

緩めて速度は遅くなっているものの魔道具であるアルカナの鎖だ、

咄嗟の判断でやったとしても危険すぎる。


「よっと」


 そう思ってみていたが、

鎖の運動にあわせ身体の重心を動かし、

勢いに乗って飛び上がる。

獣たちは立木さんの奇抜な動きに戸惑い、

連続でやってくる泥の兵士の攻撃を受け、

抵抗する間もなく跳ね飛ばされる。

これが連携というものか、

利用された側であるが二人の息のよさには思わず呆気をとられていた。



「ええいっ!」


 指示を出していた初瀬さんが女帝を手に取り獣の一体に切りかかると、

その攻撃に間を作らず立木さんの砲撃が獣を射抜く。


「シュートっ!!」


 壮絶な悲鳴をあげ獣の一体は爆散した。

立木さんはガッツポーズをとり、

初瀬さんは他の二体が逃げぬように泥の兵士を向かわせる。

たしかに女帝はこの遠隔操作と剣を持ち合わせた連携による攻撃が得意、

その分決め手に欠けるアルカナであるのはわかっていた。

その足りない火力を塔の砲撃で補うという連携、

この二人の素質というものが妙なくらい恐ろしくも感じた。



「状況はこちらが押しているなら……」


 緩めて囲っていた運命の輪を引き戻し、

私の足元に張りめぐらせる。

二人の連携による対応を見るためだ。


(あの獣のような奴がこの地区をうろつきまわっているとしたら、

奴らが生徒を脅かす原因と考えていい。

だが、あの大柄で校内に入ることは出来るのか?

昨日見つけた傷の高さを考えても直接の原因とは考えにくいか)


 いくつかの考えをめぐらせながら観察している。

 そんな私をさておき二人は残りの獣の対処をしている。


「なあ、明希ちゃんはなにしてんだろ」

「無理に前に出ても遊霊の対処は出来ないから私たちを見本にしてるんじゃない?」

「それもそうか、遊霊は中央圏にはいないしなっ!」


 また砲撃の光が空を切り、

その光をなぞるように泥の兵士、初瀬さんと続けていく。

いくつもの組み合わせのコンビネーションを繰り返し、

残りの二体もまた爆散していた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ