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第7話 能登の錫杖~後編~

作者: 目賀見勝利

  《大和太郎事件簿・第7話/能登の錫杖しゃくじょう

        〜竹内文献モーゼ伝説殺人事件〜

           《 後編 》



能登の錫杖28;捜査会議?

東京千代田区桜田門前警視庁捜査一課;2008年11月17日(月) 午前10時ころ


「拳銃の製造メーカーからの回答で、死亡したケネディ氏が握っていた拳銃の製造番号のものは6年前にアメリカ空軍に納入されたものの納品リストに載っていました。そこで、アメリカ空軍の横田基地を訪問して、兵器管理について訊いてきました。」と川角刑事が言った。

「殺人事件の件は伏せておいただろうな。」と円谷係長が言った。

「大丈夫です。テロ防止関連の調査のためと言っておきましたから。」

「それで・・。」

「パソコンの管理表では横田基地の兵器倉庫にまだあるとの回答でした。まだ、兵士には渡されていないと云うことでした。」

「と云うことは、ケネディ氏が持っていたベレッタは、横田基地から盗まれたものと云うことになるな。」

「まあ、そう云うことです。」

「誰が盗んだのかだな。しかし、米軍の兵器管理はどうなっているのだ?立川署の刑事の話では、兵器が盗まれたことをアメリカ軍のMPは知っていたはずだがな。」と円谷係長が言った。

「回答は対外的なもので、実際には調査中と云うところではないでしょうか?」

「いや、米空軍としては不祥事を隠ぺいしているのではないでしょうか。そのうちに、何かの事で消失したことにして、一件落着でお終いにしてしまうのでは?」と山口刑事が言った。

「まあ良い。それはアメリカ空軍の問題だ。我々としては誰が盗んで、どのような経路で死んだケネディ氏の手の中で発見されるに至ったかだ。要は、誰が、何のためにケネディ氏を殺したかだ。その凶器が軍用拳銃のベレッタであったのが偶然なのか、必然なのか、と云う事だ。拳銃を持っていた紺色スーツのサングラス男の事は何か判ったか?」と円谷係長が刑事たちに向かって訊いた。

「JR市ヶ谷駅から東京駅まで乗っていました。八重洲側改札口の監視カメラに写っているのを監視カメラ調査班が見つけてくれました。JR東京駅の協力で、監視カメラに写っていた時刻と一致する磁気記録時刻の回収切符見つけ出し、切符に残っていた指紋を採取しました。しかし、前科者の記録の中に合致する指紋はありませんでした。現在、東京駅近辺の駐車場やコンビニにある監視カメラ記録を調査中です。また、東京駅近くにあるオービスカメラの記録映像も調査中です。高速バスの停車場カメラには映っていませんでした。サングラス男は車かタクシー・乗合バスなどで移動しているはずですから、監視ビデオ映像からサングラス男の写真を作り、その写真を見せながら聞き込みを行っています。必ず手掛かりを見つけます。」と山口刑事が説明した。

「そうか、最近の切符は磁気で改札通過日時を記録しているから監視カメラと併用すれば便利な訳だ。昔に比べ、捜査が楽になったな。しっかり頼むぞ、みんな・・・。」と円谷係長が言った。


「係長、宝達志水町にあるモーゼの古墳の件から何か判りましたか?」と川角刑事が質問した。

「いや、何も判っていない。ケネディ氏の死亡との関連は今のところ不明だ。むしろ、サングラス男が持ちだした紙切れに何が書かれていたかだ。モーゼと関係があるのか、ないのかは不明。その紙切れの内容がケネディ氏死亡と関係してくるのではないかと半田警視長は考えておられる。ケネディ氏はその内容に関係して殺されたのではないかと推定できる。」

「やはり、半田警視長は殺しと考えておられるのですか、ケネディ氏の死亡は。」

「まあ、断定はしないが、そう云うことだろうな。ところで、昨日、半田警視長からベレッタの件で確認依頼があった。川角、この製造番号のベレッタ92FSは、アメリカ空軍納品リストに載っているかどうか判るか?」と言って、円谷係長は製造番号を読み上げた。


「ええ、その番号も載っています。」と納品リストを見ながら川角刑事が答えた。

「この製造番号のベレッタ92FSは埼玉県警の西入間署管内で発生した拉致未遂事件の犯人が残して行ったものだ。この事件の犯人とケネディ氏殺しの犯人が同一者であるとは限らないが、拳銃の出処が同じであると云うことは、関連調査をする必要があるかも知れないな。兵器流出経路が同じと云う可能性は大きいな、これは。」と円谷係長が言った。

「その西入間署管内の事件はいつ頃発生していたのですか?」と山口刑事が訊いた。

「10月30日だから2週間以上経っている。殺人事件なら警察イントラネット事件報告書で翌日には警察庁に電子メール報告されるが、拉致未遂と云う事で月例報告書にのみ書かれていたようだ。そのため、半田警視長の目に止まったのが昨日になった訳だ。少し出遅れたが、これからこの拉致未遂事件についても関連を調べていくことにする。被害者は富山県在住の人物らしい。ただ、富山県警へは事件翌日に西入間署から事件内容の報告は行っているようだ。それで、富山県警では事件に拳銃が絡んでいるので密かに拉致未遂被害者の身辺警護をその日から行っていたようだ。山さん、埼玉県の西入間署から調書のコピーを取り寄せて、調査してくれ。それから、富山に出張してその被害者の身辺に怪しい人物がいないかを詳しく調べて来てくれ。富山県警へは私から連絡を入れておく。」

「判りました。」と山口刑事が答えた。



能登の錫杖29;調査ミーティング?

香港アメリカ総領事館の会議室;2008年11月19日(水) 午前9時過ぎ


「前回のミーティングでの宿題の件をアメリカのCIA本部に確認した。日本の横田基地の銃器庫からライフルと拳銃が大量に紛失していることが最近になって判明したようだ。いつ頃から流出が始まったのか、犯人は誰なのかについては国防省の担当官が調査中らしい。それに昨日、日本の警察がこの件についても調査している模様との情報が入った。日本警察へは横田基地の銃器庫にある拳銃の製造番号リストを渡したらしい。たぶん、リチャード・ケネディ死亡事件と太郎が言っていた大学教授の拉致未遂事件で使われたベレッタ92FSの出所を調査しているのだろう。太郎には日本の警察の動きについての情報収集もお願いしたい。」とジョッシュ・オブライエンが言った。

「OK。」と太郎が答えた。

「スティーブの方は何か新しい情報はあるか?」とオブライエンが訊いた。

「太郎にコンタクトしてきた3人の武器商人の中にシェフチェンコと云う男がいる。自称ロシア人だが、この男を手伝っているのが松本と云う日本人で、なんとなく怪しい。」

「怪しいとは?」

「オメガ教団だ。アルファ真理教のロシア支部に居た日本人がモンゴルで開いた新興宗教団体と云うことだったな、確か。」

「その通りだ。」

「日本人とロシア人の組み合わせ。そして、武器商人。オメガ教団の資金源の一つが武器売買であるのかもしれない。米軍基地から盗んだ武器を香港マフィアの蛇尾に売りさばいているのが香港に居るオメガ教団幹部と云うストーリーを考えてみた。証拠はこれからの調査次第だが・・・。」

「判った。更に追跡調査してくれ。」

「蛇尾に操られているIT企業の宋理永の動きはどうだ、まー。」

「通常通りに会社通勤しているだけで、変わった動きは見られません。」と馬沢東まーつとんが言った。

「よし、オメガ教団については今後も注意していく。CIA本部からオメガ教団に関する詳細情報を私が確認しておく。たしか、日本には富山県の高岡市と北海道の札幌市に支部があったな。この支部の監視強化対策は日本大使館に居るジョージ・ハンコックと私で決める。今日はこれで解散する。」とオブライエンが言った。



能登の錫杖30;新聞連載小説

毎朝新聞夕刊の小説欄;2008年11月24日(月)〜29日(土) 


社会部事件記者の鮫島姫子が創作した短編推理小説が毎朝新聞朝刊の裏3面下段に掲載された。

毎回の挿入画の横には、射水神社の御守り絵が掲載されていた。


          山伏流霊能探偵・宝達奈巳の事件控

            《妖刀村正殺人事件》

              豊玉 姫子  作

              清水 久美枝 絵

  この小説はフィクションであり、実在の団体や個人などの事実とは一切の関係はありません。

      なお、本推理小説は6日間連載の特別企画です。お楽しみ下さい。(文芸部)

      

               第一回; 依頼

      

  警察庁刑事局長・夕陽朝生ゆうひあさおからの依頼電話があったのは、宝達奈巳が帰宅するために探偵事務所のドアーに鍵を掛けようとハンドバックからキーを取り出そうとしている時であった。

「はい。宝達でございます。」とハンドバックから携帯電話を取り出し、奈巳が答えた。

「夕陽朝生だが、迷宮入りになりそうな難事件がある。これから、そちらへ行くから待っていて欲しい。」と言って夕陽は電話を切った。


夕陽刑事局長の依頼内容は次のようであった。

『3か月前の深夜、静岡市内で村正と呼ばれる刀によって一人の男性が刺殺された。凶器であり、証拠品でもある村正の出所が不明で、事件の目撃者もいない。被害者は外資系の投資ファンド企業・メリーランド社に勤める笠原龍治であった。笠原氏の周辺にはトラブルもなく、温厚な人物であるので恨みを買うような性格でもなかった。殺害の動機、凶器の流通経路など何も判っていなかった。そこで、霊的能力のある宝達探偵に事件解決の手掛かりを見つけて欲しいと云う依頼であった。』


以前にも、2回くらい刑事局長の秘密依頼を受けて、宝達奈巳が無事に事件解決をした実績があった。宝達奈巳は1960年8月9日生まれの48歳である。探偵歴は18年。修験道による自己啓発を続けている女性山伏でもある。子供はなく、サラリーマンの夫と二人でマンション生活をしていた。


刑事局長から依頼のあった翌日、宝達奈巳は静岡市の殺人事件の現場に立っていた。

宝達奈巳の胸の前で合わせたられた両手の間には射水神社のお守りがある。

目を閉じた奈巳は呪文を唱え始めた。

「センテンナムフルホビル、センテンナムフルホビル、センテンナムフルホビル。」

同じ言葉を3回繰り返した奈巳には天地自然の霊気が足裏から頭の天辺にゆっくりと抜けて行くのが感じられている。

奈巳は更に言葉を続けた。

「ハルチウムチツヅチ、ハルチウムチツヅチ、ハルチウムチツヅチ。」

胸の前で合された両手が微かに震えている。

奈巳はゾクッと寒気を感じたが、その直後、緩やかな暖気が体内に湧きあがってくるのを感じていた。体内へのインスパイアー現象による潜在能力の発現であった。

宝達奈巳は9月5日の夜をイメージした。そして、閉じられている目に何かが見えて来ていた。いや、目に見えているのではなく、頭脳の視覚中枢に飛んできた電磁波が頭脳回路に電気を流し、それが奈巳には映像として感じられているのであった。

その映像を感じながら、宝達奈巳は呪文を繰り返し唱え続けた。

              

               第二回; 霊視


宝達奈巳の頭脳には、暗闇の中の街灯に照らされている町角にある神社の前の通り道が見えていた。

その通りに面している駐車場で、サングラスの男が車から降りてきた。

そして、ダークスーツの男がサングラスを取り、車が来るのを待っていたもうひとりの男に話しかけた。

待っていた男は怯えたように両手を前に突き出して何かを言っている。

ダークスーツの男が手に持っていた刀剣から刀身を抜いてさやを地面に捨てた。

怯えた男は体を翻して逃げようとした。

駐車場に設置された街灯の光が、冴えた刀身に反射してキラリと輝いた瞬間、男の背中に刀身が突き刺さった。

飛び散る血しぶきを前身に受けたダークスーツの男は、地面に転がっていた刀剣のさやを左手で拾い、ゆっくりと車に向かって歩き、そのまま車に乗り込んで、駐車場から走り去った。

駐車場には背中に刀身が刺さりうつ伏せに倒れている男の姿があった。

そこまでで、映像は奈巳の頭脳から消えて行った。

奈巳は呪文を繰り返しながら、再び映像を呼び起こし、走り去った車のナンバープレートに意識を集中した。

「三重ナンバーの○○○○ね。」と奈巳はすばやく番号を記憶した。

そして、神に感謝して呪文を終えた。


その後、宝達奈巳は殺人現場近くにある被害者の住んでいたマンションを訪れた。

被害者・笠原龍治の部屋は事件の証拠保全のため、警察の管理下に置かれている。

夕陽刑事局長の紹介を受け、静岡県警の捜査本部から預かってきた合鍵でドアーを開け、奈巳は笠原の部屋に入った。

そして、9月5日の夜をイメージし、殺人現場で行なったのと同じように呪文を唱えて霊視を試みた。

「何も見えない?この日には人がいなかったのかしら。しかし、笠原龍治は殺害現場へはここから出て行ったのでは?そういえば、この部屋には生活感がないわね。長年住んでいれば、何かを感じられるはずなのにね。ここには、住んでいなかった?自宅は他にあるのかしら・・・。」

宝達奈巳の霊視は人物が関係して居る場面にしか反応しないと云う特徴があった。

奈巳はリビングルームにある電話に意識を集中し、再び呪文を唱えた。

「声が聞こえないのが、私の霊能の欠点ね。しかし、映像で何かが判るかも知れないわね」と思いながら奈巳は電話に意識を集中しながら呪文を唱え続けた。

「電話相手の顔だわね。二人いるわね。一人は白人男性。もう一人は日本人ね。しかし、顔が判っても、どこの誰かしらね。夕陽局長か、警察関係者ならわかるかも知れないけれど。モンタージュ絵でも書いてもらいましょう。しかし、この電話で話した人物が二人だけとは、人数が少ないわね。何か秘密の電話で、番号は限られた人しか知らないのかしら。それとも、笠原と云う人は人付き合いが悪い人だったのかしら?」と奈巳は考えながら、神に感謝して霊視を終えた。


               第三回;モンタージュ

               

宝達奈巳の説明で書き上げらればかりの、三人の男のモンタージュ画を夕陽刑事局長が局長室の事務机に座って見ている。似顔絵師は部屋を出ていき、来客用のソファーには奈巳が座っている。


「これが、三重ナンバーの車に乗っていた犯人の顔か。早速、三重県警に問い合わせるかな。次の男性は笠原氏の勤めていた会社の社長さんだな。三人目は・・・・。」と言って、夕陽朝生は黙り込んだ。

「どうかしましたか、夕陽局長?」と奈巳が訊いた。

「ああ、いや。三人目の人物は見覚えのない顔だったので、過去に出あった人物を思い出そうとしていただけです。」と夕陽刑事局長が言いながら来客用の応接セットに近づいて来た。

「ははーん。見覚えのある男性でもいたのかな?」と奈巳は思ったが、事件の真実を明らかにするのは自分の役目ではないと思い、それ以上訊くのを差し控えた。

「宝達さん、ありがとうございました。犯人の顔と車のナンバーが判ったのは大収獲です。これから先は警察の仕事です。また、行き詰まったらご相談させてください。御苦労さまでした。これが謝礼です。」と言いながら、夕陽刑事局長がお札の入った封筒を奈巳に差し出した。


奈巳が刑事局長室を出て行った後、夕陽朝生は思案していた。

「この殺人には自衛隊が関係しているのだろうか?笠原龍治とこの自衛隊の人物の関係は何か?取り合えず、三重県警察本部に連絡を取って、犯人の特定を急ぐことにしよう。そういえば、宝達探偵が言っていたな、笠原龍治の部屋にあった電話は秘密電話かもしれないと。とすると、メリーランド社の社長も何か秘密を隠している可能性もある訳だな。さて、捜査活動をどのように進めればいいのか・・・。」


夕陽刑事局長は三枚のモンタージュ絵画をスキャナーでデジタルデータにして、パソコンに保存した。そして、三重県警察本部長宛てにイントラネットメールで犯人の顔のデジタルデータを送信し、車のナンバーから、犯人を特定する様に依頼した。


夕陽朝生はメール送信をした後、警察庁舎から歩いて三分くらいの所にある国会前庭に来ていた。

考えに行き詰った時はいつもこの国会前庭に来て庭園を散策しながら思案に耽るのが夕陽刑事局長の常であった。


               第四回;犯人追跡


モンタージュ絵画を参考にした三重県警察本部の調査で犯人は伊勢市内にある暴力団羽田組の組員・李太源りたいげんであることが判明した。しかし、李の居所については不明であった。暴力団担当の刑事の話では、李は松阪市に本拠を置く政治結社・神政愛国士団の団員でもあるらしい。しかし、神政愛国士団は目立った政治活動をしていない。したがって、三重県警察本部の公安部もあまり詳しい情報を持っていなかった。

伊勢市や松阪市を刑事たちが一か月に亘り調査したが、李の足取りを掴むことは出来なかった。

三重県警察本部からの報告を受けた警察庁の夕陽刑事局長は再び宝達奈巳の探偵事務所を訪問した。


「この写真の男の居場所が知りたいのだが。」と夕陽が言った。

「例の犯人ですね。見てみましょう。」と奈巳が言った。

射水神社のお守りを両手に挟み、李太源の写真を目の前の机の上に置いて奈巳は呪文を唱え始めた。李の顔をイメージしながら、奈巳は呪文を唱え続けた。

「センテンナムフルホビル、センテンナムフルホビル、センテンナムフルホビル。」

「ハルチウムチツヅチ、ハルチウムチツヅチ、ハルチウムチツヅチ。」

しばらくすると、李の姿見えてきた。奈巳は李の居る周辺の風景からその場所を想定しなければならない。しかし、周辺の景色がよく見えないので、更に呪文を付けくわえ、透視能力を強化した。

「ノーマクサーマンダバーザラダンセンダマカロシャーダソワタヤウンタラタカンマン。」


街を歩いている李の背景に東京タワーが見えた。そして、地下鉄の駅入口に書かれている御成門と書かれた文字を読んだ。しかし、この土地が李の住んでいる場所とは限らない。単に通りすがりの場所に過ぎない可能性もある。

そこで、奈巳は頭の中のイメージ時刻をいくつか設定して呪文を唱えてみた。そして、昨日の午後5時に設定した時、李の住処すみかの映像に出くわした。

メゾン高輪ロワイヤルと書かれたマンションに入って行く李の姿が映像として奈巳には見えていた。そして、エレベータの6階で降り、606号室に入る李の姿を確認した。

奈巳は神に感謝して呪文を終了した。

               

               第五回;逮捕劇

               

夕刻の5時ころマンションに戻ってきた李太源が表札に山田と書かれた606号室に入った。宅配便の業者に変装した静岡県警の刑事二人が捜索令状を携えてドアーホンのボタンを押した。事前に警視庁の刑事が二名づつ506号室と605号室、607号室、706号室に入り、その部屋のベランダを固めている。非常階段とエレベータ前には防弾盾を持った機動隊員が数名づつ身構えている。

「山田さん、宅急便です。」と刑事が言った。

「宅急便?サインでいいか?」

「ええ、構いません。」

「ちょっと待ってくれ。」


しばらくして、マンションのベランダから大きな叫び声が聞こえてきた。

「おい、やめろ!お前は袋のネズミだ。もう逃げられんぞ。あきらめろ。」と階下506号室のベランダに居る刑事が叫んだ。

自室のベランダから下の部屋のベランダに飛び移ろうとした李太源を見つけた刑事が叫んだのであった。

李は拳銃を部屋から持ち出して来たが、包囲されているのを察知したのか、発砲はあきらめた様子であった。

「おい、待って。」と刑事が突然に叫んだ。

しかし、李の体は地面に向けて落下して行った。

「ドン」と鈍い音が周辺に響いた。

606号室の鍵が掛っているので、宅配便業者に変装した刑事の一人が605号室の扉を開けて中へ飛び込みベランダに来た。すでに二人の刑事がベランダから下を見て、呆然としていた。


マンションのベランダ側の植え込み横の石畳通路で遺体検証が行われている。

「頭から落下しているから、顔の形が判然としないな。李太源で間違いないのか?」

「ええ。部屋に入る時に顔は確認しています。」

「しかし、自殺するとはな・・・。」

「逮捕されたくない理由でもあったのですかね?」

「こちらも殺人の証拠が充分あるわけじゃなかったからな。単なる捜索行為だったのにな。」

「しかし、実弾入りのピストルを所持していましたし、殺人に使われた刀剣の鞘と思われるものが部屋から発見されましたからね。少なくとも、銃砲刀剣類不法所持で現行犯逮捕はできました。」

「まあ、死人に口無だ。殺人の動機、背後関係などの解明は不可能になってしまった。刑事局長からは大目玉を食らうことになりそうだな。」


               最終回;妖刀村正


警察庁刑事局長室で夕陽朝生と宝達奈巳が応接テーブルに座り、話をしている。

「その村正と云う刀剣から何か透視できないかな、宝達探偵。」と夕陽刑事局長が言った。

「試してみましょう。」とテーブルの上に置かれている刀剣を手に取って、奈巳が言った。

そして、鞘から刀身を抜いて、鞘と刀身を並べてテーブルの上に置いた。


いつものように両手に射水神社のお守りを挟み、呪文を唱えながら、奈巳は透視を始めた。


「何か見えましたかな?」と夕陽が訊いた。

「これは大変な品物ですね。この刀は双子の片方ですね。この刀は陽の剣です。もう一本、陰の剣があります。江戸時代か戦国時代の武将が別々に所持していたようです。どちらの武将も何処かの殿様ですね。この陽の剣を持った人物の意思が陰の剣を持った人物に乗り移るように霊的な呪祖すそをこの刀に込めた人物がいるようです。このさやに収まっている時は平安ですが、刀身だけになった時は大変危険なものになるようです。このさやには、握っていると大変に穏やかな気持ちになるように霊的な呪祖すそが込められていますね。妖刀村正とでも謂うのでしょうか。この刀身の呪祖祓すそはらいを行わないと危険です。」

「呪祖祓いですか?」

「ええ、そうです。全国に数人の呪祖祓すそはらい師がいると聞いています。その方に依頼されることをお勧めいたします。」

「ところで、この刀剣から李太源の殺人の動機は読み取れませんかね、宝達探偵。」

「私の霊能は映像が見えるだけです。映像の中で話されている言葉を聴くことや、登場人物の意思を読み取ることはできません。映像に移った人物の行為や事物との関連から推測するだけです。」

「その推測で結構なのですがね。」

「李太源の写真はありますか?」

「ええ、ここに。」と言いながら、夕陽が上着の内ポケットから写真を取り出した。

「その写真を刀身の握り部の上に置いてください。現在、研究修行中の呪法を行ってみます。もしかしたら、李の思いが読み取れるかも知れません。」


「アマテラスオオミカミ、ハルチウムチツヅチ、ノーマクサマンダバザラダンカン、アマテラスオオミカミ、・・・・・・・。」と奈巳は三種類の呪文を複合し、それを十一回唱えた。

奈巳はいつもと違う感覚に襲われていた。それは、明るい太陽の光が自分を包み込み、天から何かが降ってきている感じであった。そして、両手の間にある射水神社のお守りが温かくなっていくのが感じられる。


呪文を唱え、透視を終え、神に感謝した宝達奈巳が言った。

「残念ですが『国の為』と云う思いしか伝わってきません。殺人の動機が『国の為』と云うことでしょうか?どこの国なのか、私には判りません。」

「なるほど、『国の為』か。政治結社の一員だった李太源が自殺した理由はその辺りにあるのかも知れないな・・、自分の正体を隠すことかな・・、死は無言なりか。どこかの国のヒットマンだったと云うことか。そして、笠原龍治は自衛隊の秘密情報員でメリーランド社を潜入捜査していたのが発覚して殺された訳か・・・。」と夕陽刑事局長は思った。


              《妖刀村正殺人事件・完》



能登の錫杖31;能登の謎を解く

京都左京区修学院の藤原教授宅の応接室;2008年11月30日(日) 午前10時ころ


大和太郎は『殺されたリチャード・ケネディとその殺人犯が追っていたと思われる古代史の謎』を知るため、そして、藤原教授は宝達教授からの『竹内文献と能登の関係を解けるか』と云う挑戦に応えるため、2週間前に太郎が行った能登調査旅行の結果を踏まえて、二人は能登の謎解きに関する議論を始めようとしていた。


「どこから始めましょうか、大和君。」と藤原教授が言った。

石動山いするぎやまから始めましょうか、教授。」と太郎が言った。

「それが良さそうですかね。」

「ええ。石動山古縁起が能登の秘密のすべてでしょうから。」

「秘密のすべて?どうしてですか。」と教授が訊いた。

「石動山古縁起では光る三個の石が空から降って来たことになっています。しかし、石動山にあったのは『動字』石の一個だけです。残りの『朝字』石と『竹字』石は何処にあるのかです。残念ながら、今回の調査旅行では発見できませんでした。それに石動山にあった『動字石』とされる石が宇宙から来た石と云うイメージは無かったですし、『動』の文字が書かれている風もなかったです。現地の説明書きによると単なる安山岩ということですから、火山の噴火で飛んできた石かも知れませんが・・・。そして、福、智、愛に相当する石がどの文字の石なのかです。また、日、月、星に相当するのはどの文字なのかです。」

「なるほど。石動山古縁起に書かれている順番では朝字、動字、竹字が福、智、愛と日、月、星の順に書かれていますね。したがって朝=福=日、動=智=月、竹=愛=星ですかね?竹内文献との関係はあるのでしょうかね?」と教授が言った。

「竹内文献に出てくるのは宝達山麓にあるモーゼの墓とされる三ツ子塚古墳群です。アメリカ軍の発掘調査を手伝った村人の話では人骨が出てくるところは目撃されていないと云うことでした。しかし、村人が手伝わなかったところでは人骨が出て来ていたのかも知れません。これは、アメリカ軍の調査報告書の存在が不明のため、何ともコメントできません。」

「確かにね。」


「実は、私が能登調査を行った理由ですが、現在依頼されている事件調査に関して一人のアメリカ人が殺されました。その人物が追いかけていたのが古代史であったようなのです。」

「ほーう。古代史ね。それが能登と関係あると?」

「いえ、現在のところは何とも言えません。しかし、宝達教授を襲った犯人とアメリカ人を殺した犯人には共通事項がありました。」

「どのような?」

「どちらの事件にもアメリカ軍用拳銃ベレッタが関係していました。そして、宝達教授は神代文字が読めます。殺されたアメリカ人も神代文字に関する文献をニューヨークの本屋から購入したばかりでした。そして、アメリカ人の部屋には呪文に関する『秘密のモーゼ書』なる本が残されていました。」

「古代文字と秘密のモーゼ書ですか。竹内文献のモーゼが古代日本に来ていた話と繋がる訳ですね。それで。」

「そのアメリカ人が持っていたもう一つの本があります。」

「何かね?」

「『神々の足跡』と云うG・H氏の著書です。」

「ああ、私も読みましたよ。書斎の本棚にありますよ。ギザのピラミッドの秘密ですね。」

「それです、教授。ギザの三大ピラミッドは墓ではなく神のための祭祀場であったとする説です。そして、クフ王、カフラー王、メンカウラー王の三つのピラミッドの並び方は夜空に輝くオリオン座の三ツ星の配置と相似形である云うことです。この三ツ星はギリシア神話に登場する狩人オリオンのベルトと呼ばれる場合もあります。」

「そのピラミッドが、酒井勝軍の云うところの竹内文献に載っている日来神宮ひらみっとと云う訳ですね。そして、神仏習合時代に祭祀の山であった石動山がカフラー王のピラミッドに相当すると云うことですね。」

「そうです。そうすると、山の大きさと位置関係から見て、クフ王のピラミッドに相当するのが宝達山、メンカウラー王に相当するのが穴水町甲村の円山と考えられます。宝達山が朝字石、石動山が動字石、円山が竹字石に相当すると考えれば良いのですが、光る山が空から降ってはこないですからね・・・。山に降りたUFOなら話が通じるのですが・・・。ピラミッドの建設方法についても謎が多くあるようです。あれほど大きく、重い石をどこから、どのように運び、どのように積み上げたのか。そして、ピラミッドの表面を覆っていたとされる白い大理石をどのように固定したのか。謎だらけです。」と太郎が言った。

「竹内文献で云うところの宝達山麓の三ツ子塚古墳は何か意味がありますかね?」と藤原教授が訊いた。

「オリオン星座の小三ツ星に相当するのかとも考えましたが、三ツ星に対する相対的な場所ではありません。何かを暗示しているのかも知れません。あるいは、竹内巨麿が竹内文書の理解を間違ったのか?」と太郎が言った。


「エジプトにあるギザ三大ピラミッドを考える時、スフィンクスとの関係が重要です。カフラー王のピラミッドから東の方に伸びていく参道の先に河岸神殿とスフィンクスがあります。これに相当する能登の場所は羽咋郡志賀町の神代かくみ神社と意冨志麻おおしま神社です。ピラミッド参道の突き当たりにある葬祭殿に相当する場所には賀茂神社が志賀町の矢駄やだにあります。」

「ええっ。先生は石動山がピラミッドと関係あると判っていたのですか?」

「まあ、竹内文献にモーゼが出てくればエジプトとの関係を想像するのが普通ですよね。旧約聖書のことを知っていればね。大和君の考えが私と同じかどうかを確認していました。私の考えが正しいとは限りませんからね。どうも、私たち二人とも同じような発想をしているようですね、あっはっはっは。」と教授が笑った。


「それで、スフィンクスが意冨志麻おおしま神社に相当すると云う、その理由は?」

「スフィンクスは女性でライオンの身体と鷲の翼と人間の顔と三種類の動物の合体した生き物です。意冨志麻おおしま神社の祭神は宗像むなかた三女神の奥津島比売命、辺津島比売命、市寸島比売命の三種の神様で、太陽神の天照大神が須佐乃王の持っていた十挙剣とつかのつるぎを噛み砕いた時に生まれた神です。宗像むなかたとは胸形をした像を意味し、ギザにあるスフィンクスも主として胸から上の姿が目立つ像になっています。また、意冨志麻神社の祭神の本地仏は不動明王、如来、菩薩とされ、不動の姿勢と取ったライオン、如来の様に天空から現れる鷲、女性の柔和な顔立かおだちの菩薩に通じる。すなわち、福をもたらす不動明王、智を授けてくれる如来、そして、菩薩の愛ですかね。」と教授が言った。


「神代神社が河岸神殿に相当する理由は何ですか?」

「神代神社の祭神は宇迦之魂神で食物の神様である。河岸神殿はナイル河の水をギザの地にある食物畑に導くための祈りを捧げる神殿、また春や夏の増水時には川から水を参道に引き込む取り入れ口であったと考えられる。」


「葬祭殿が賀茂神社に相当する訳は?」

「賀茂神社は京都の上賀茂神社と同じ賀茂別雷大神と下鴨神社の祭神と同じ玉依姫命と大山昨神と云われています。日吉ひえ大社では玉依姫命を大山昨神の妻神としています。賀茂別雷大神とは川上から流れてきた丹塗にぬりの矢と玉依姫命の間に生まれた神と伝えられています。丹塗にぬりとはあか色の漆塗うるしぬりのことです。ですから、丹塗にぬりの矢とは血の付いた矢と考えるとオリオンのギリシャ神話と重なります。オリオンは狩の名手で狩猟と月の女神アルテミスに気に入られます。これが気に入らないアルテミスの兄アポロンはオリオンが川を泳いでいる時に『川を渡っている鹿を射ることができるか』とアルテミスをそそのかして、鹿のように見えるオリオンを射殺させます。オリオンの血が付いた矢が川に流れたことでしょう。だから、能登に鹿島郡と云う鹿に関係する名が残っているのです。自分がオリオンを殺したことを知った女神アルテミスは大神ゼウスに頼んで自分、すなわち月が通る道筋の星空にオリオンを上げてもらいます。アルテミスがオリオンを射た矢、すなわち、血の付いた矢が丹塗の矢に相当すると考えると、高岡市にある射水神社と志賀町矢駄にある賀茂神社が繋がります。女神アルテミスが玉依姫でオリオンが大山昨神に相当する訳です。なお、月は女性の生理現象をも暗示しています。だから、能登のオリオンの三つ星である宝達山(637m)、石動山(564m)、円山(67m)とエジプトのオリオンの三つ星であるクフ王(147m)、カフラー王(143m)、メンカウラー王(66m)のピラミッドが重なる訳です。」と藤原教授が説明した。

「高岡市の射水神社まで関係しているのですか。うーん。」と太郎が考え込んだ。

「射水神社の二上大神は4月23日に行われる築山神事の時だけ降臨する神でどのような祭神なのか不明です。ただ、二上山頂の境外摂社に日吉神社の大山昨神が祀られています。二上大神は男神と考えられています。なお、高岡市を流れる小矢部川は射水川とも呼ばれています。」と藤原教授が付け加えた。


「そうしますと、石動山古縁起に謂うところの月に相当するのは加茂神社と繋がっている石動山と云うことに成りますね。そして、山の大きさから考えれば、宝達山が太陽、円山が星ですね。」と太郎が言った。

「そういう事でしょう。」

「でも、何故にエジプト・ギザの三大ピラミッドと能登の日来神宮ひらみっとである三つの山が関係するのですか、先生?」と太郎が藤原教授に訊いた。

「それが判りません。何を暗示しているのかですね。石動山古縁起で謂うところの天空から降って来た三個の石とはギザのピラミッドのことを暗示していると解釈することもできますが、どうでしょうかね。」

「ピラミッドが天空から降って来た訳ですか?」

「あっはっはっは。それはどうでしょうか。ピラミッドはUFOに乗って空から現れた宇宙人(?)が作ったのかも知れませんしね。エジプトの伝説では、魔術師が呪文を唱えて大きな石を空間に浮かせて運んだと云われています。私は学者ですから科学的サイエンティフィックな態度でこの問題を考えたいですね。UFOを目撃した人は当然その存在を信じているでしょう。そして、UFOを見ていない人は信じないか、まあ、どちらとも言えないと云う考え方でしょう。目撃した人のうちでUFOに触れた人は何人いるかですね。UFOの宇宙人(?)に誘拐されて無事に戻ってきたと証言している人もいます。私は学者で目撃経験もありませんから、どちらとも言えないと云う立場にいます。」

「と云う事は、取り合えず、UFO問題を推理することは保留にすると云う事ですね。」

「原時点ではね。ところで、調査旅行で天鏡船に乗って現われた少彦名命については何か発見できましたか?」

「いえ、これと言った物は何も発見できませんでした。七尾市にある宿那彦神像石神社にハンバーガーかUFO円盤に似た石が境内に奉納されていました。意味深長ですが、UFOの足跡と考えるにはどうかと思います。」と太郎が言った。

「しかし、少彦名を祀る神社は能登地域が一番多いのです。そして、UFO目撃の話も多い地域です。石動山古縁起だけでなく、『そうはちぼん』伝説などUFOらしい昔話も多い地域ですから、将来、何かの証拠が発見されるかもしれませんね。」


「ところで、宝達山麓にあるモーゼの墓とされる三ツ子塚古墳群はどのようにお考えですか、先生?」と太郎が訊いた。

「そうですね、オリオンの小三ツ星を表わしているのなら、三ツ星である宝達山、石動山、円山に対して、相似形の場所は岐阜県飛騨市の神岡鉱山跡地・カミオカンデがある二十五山あたりになります。かつては金、銀、銅などいろいろな種類の鉱石が出たようです。カミオカンデは宇宙線を観測するために真空管群で造られた大規模なセンサーシステムです。まあ、真空管群をたとえてみれば夜空に輝く散光星雲に似ていますかね。ところで、神岡町には大津神社があります。ここの主祭神は大彦命、武淳河別命、建御名方神です。摂社・末社には神明社、金山彦社、事代主社、稲荷社など12神を祀る祠があります。オリオンの小三ツ星はオリオンのベルト(三ツ星)からぶら下がっている剣に比喩されています。日本では、オリオン大星雲を含む若い恒星群を総称して小三ツ星と呼んでいます。以上の観点から宝達志水町にある三ツ子塚古墳群を小三ツ星に比喩しない方が良いでしょう。」と藤原教授が言った。

「竹内文献を素直に解釈し、モーゼの墓と解釈しておきましょうか。それとも、何かの暗示と考えるかですが。」と太郎が言った。


「むしろ、私は石動山の別の伝承の方が気になります。動字石の護命の徳『智=月』を守るため天目一箇あめのまひとつ尊が石動山に鎮まったと云うことです。すなわち伊須流岐比古神社の祭神は天目一箇あめのまひとつ尊と云うことになります。その後、崇神天皇の時代、天目一箇あめのまひとつ尊の末裔が、伊須流岐比古神社(宝満宮)を創建し宝剣を納めたと云うことです。また、崇神天皇6年に大彦命が神代の宝剣のレプリカを神宝として納めたらしいのです。しかし、現在はこれらの宝剣は見つかっていません。」

「そういえば、石動山資料館に3本の独鈷の宝剣を描いた3幅対の掛け軸がありました。」

「大和君が撮ってくれたデジカメ写真でその宝剣の姿を確認しましたが、石動山は剣の山なのです。天目一箇あめのまひとつ尊とは鍛冶の神様です。天岩戸神話では、刀剣、斧、鉄鐸さなぎを作る役目をしています。そして、神代の宝剣とは何かです。これが、気になります。」

「宝剣ですか・・・。」と太郎が考え深そうに言った。

「なにか、気になりますか?」と教授が訊いた。

「ええ。例の真珠の宝剣に関する失踪事件のことを思い出しました。」

「どんなことですか?」

「日本全国の霊地を一直線に結ぶ影向線が存在すると云うことです。」

「なるほど。日本地図と物差しを持ってきましょう。」と言って、藤原教授は書斎に入って行った。


日本地図を持って書斎から戻ってきた教授は、中部地域が描かれているページを開き、物差し定規を地図に当てながら言った。

「石動山が宝剣に関係するとすれば、十挙の神剣を出雲の海中に突き刺して、大国主に国譲りを迫った建御雷大神たけみかずちを祀る鹿島神宮と繋がりますね。石動山と鹿島神宮を結ぶ直線上にあるのは、榛名山ですね。そこには榛名神社があります。榛名神社の祭神は火の神・火産霊ほむすび神と土の神・埴山比売はにやまひめ神です。そして、御神体は御姿岩みすがたいわの洞窟内に祀られている。御姿岩は天空に向かって立つ天之沼矛あめのぬぼこの剣先に塩玉しおたまが乗っている形をしていると謂われている。天之沼矛とは、イザナギとイザナミが国土固めの時、漂う下界の海水を掻き廻すのに用いた天界の剣とされている。そして剣の先から滴り落ちる海水の塩玉が重なり固まってオノコロ島が出来たとされる。まあ、神霊的な事の喩え話ですね。」

「榛名山ですか。」

「榛名山とは多くの山・岳を総称した呼び名です。榛名富士(1391m)を中心にして、相馬山(1411m)、天目山(1302m)、掃部かもんケ岳(1448m)、蛇ケ岳(1229m)、烏帽子ケ岳(1363m)など、榛名湖を囲む外輪山の総称です。天目山の天目は天目一箇あめのまひとつ神に通じますね。榛名富士の山頂には富士山大権現が祀られている小さな富士山神社があります。明治42年に榛名神社に合祀された当時には大きな自然石が御神体としてあったようですが、ロープウェイが開設された昭和33年には消えていたそうです。誰かが持ち去ったのでしょう。富士山神社から10mくらい下ったところに石長姫いわながひめ大神、保食うけもち大神、ニギ速日大神、榛名富士大神(木花咲耶姫命)を祀る4体の石碑があります。石長姫は木花咲耶姫の姉で大山津見神の娘です。木花咲耶姫命は静岡県の富士浅間神社の祭神であり、その富士山の神様です。大山津見神は天孫・ニニギ命に二人の娘を嫁がせようとしますが、ニニギ命は木花咲耶姫命のみを選び、石長姫命は返された、と云う逸話があります。」

「この石動山と鹿島神宮を結ぶ影向線を石動いするぎ影向線とでも呼びましょうかね。この線上にはピラミッドの参道にあたる賀茂神社、神代神社、意冨志麻神社がありますね。」と太郎が地図を覗きながら言った。

「これは、面白いですね。」と藤原教授が言った。

「何ですか?」

「大国主への国譲り交渉で建御雷大神に同行した経津主大神を祀る香取神宮から先ほどの石動影向線に並行線を引くと、大国主命(大己貴命)や須佐乃王命を祀る気多大社と繋がります。」

「それに、先生。宝達山と榛名山を結ぶ宝達影向線の延長上にはイザナギ命とイザナミ命を祀る筑波山神社がありますね。そして、富山県の高岡城内にある射水神社もこの線上にありますね。」と太郎が言った。

「宝達影向線上には信州の長野市松代町にある皆神山もありますね。昔は群神山とか水上山とも云われていました。戦国時代末期から皆神山となったようです。皆神山は安山岩の溶岩ドームです。先ほどの榛名富士も溶岩ドームです。この皆神山の山頂には皆神神社こと熊野出速雄神社があり、この神社の境内には天地カゴメ之宮・諏訪大神と書かれた小さな社祠があります。神宮一二三と云う人物が昭和49年(1974年)に国常立尊や諏訪大神の神示を請けて、新しい大神の地上神界天下り戴冠式なる神業を行ったらしい。この時、ヒマラヤの国常立尊をはじめ、日之出大神、モーゼ、キリスト、ギリシア神話の神々などが来臨されたと謂う。まあ、竹内文献の内容を地で行く様な光景がこの天地カゴメ之宮社祠の横にある石碑には書かれています。大本教の出口王仁三郎に言わせると皆神山は世界の中心山脈の十字形である神山らしい。十字形とは意味不明ですが、霊ラインの交差点・集合点・発散点とでも言いたかったのかも知れませんね。また、大本教の三代目教祖・出口直日でぐちなおひ師が昭和29年に平和祈願祭をこの地で行っています。皆神神社の主祭神は出速雄命、伊邪那岐命、伊邪那美命、速玉男命、豫母都事解男よもつことさかのお命の五神です。出速雄命と云うのは諏訪神社の祭神である建御名方命の御子です。建御名方命は宝達山にある手速比売神社の祭神である奴奈宜波比売ぬなかわひめ命の御子です。ですから、出速雄命は奴奈宜波比売ぬなかわひめ命の孫神と云うことになり、宝達山と皆神山が繋がります。また、速玉男命は熊野速玉大社の祭神ですが、ニギ速日の御子である高倉下命ではないかと考えられます。高倉下たかくらじ命は天香具山命とも呼ばれ、神武東征の時に神剣・布津御霊剣を見つけ出し、神武軍の勝利に貢献した人物とされています。竹内文献には『天香具山銅造主あめのかぐやまかねつくりぬし尊、円鏡八咫鏡矛剣まどかかがみやたかがみほこつるぎ作る』と書かれているようです。豫母都事解男は熊野本宮大社の第一殿に伊邪那美命といっしょに祀られている黄泉国(あの世)の事をよく知っている神様です。」

「宝達山から石動いするぎ影向線に平行線を引くと何がありますか、先生?」

「うーん・・・何かあるかな。あれ、埼玉県の児玉郡か。ここの神川町には金鑚かなさな神社があったな。日本武尊やまとたけるが叔母の倭姫命から授かった火鑽金かさなかねと称される火打金ひうちかねを御霊代として神体山の御室みむろ山に奉納して天照大神と須佐乃王命を祀った。この神社の御神体は拝殿の裏山全体で、それが御室山であったな。そして、御室山に連なる御嶽山みたけやまには天然記念物の鏡岩と呼ばれる光を反射する大きな岩があったな。」と若いころに参拝訪問した金鑚かなさな神社のことを思い出して、藤原教授が言った。

「祭神が天照大神と須佐乃王命で、火打金に鏡岩ですか。」

「いったい、能登の宝達山、石動山、円山と云う3体の日来神宮ひらみっとは何を意味しているのだろうね。そして、気多大社と鹿島神宮を結ぶライン上の皆神山。皆神山と宝達山を結ぶライン上の筑波山、榛名山。榛名山と鹿島神宮を結ぶライン上の石動山と意冨志麻おおしま神社。そして、金鑚かなさな神社。これらの霊的スポットにはどのような関係があるのでしょうね?」

「ピラミッドに関して、ひとつ気になる事があります。」と太郎が言った。

「何かね?」

「エジプトのギザにあるスフィンクスは東から昇る朝の太陽を迎えます。しかし、能登のスフィンクスに相当する羽咋郡志賀町の意冨志麻おおしま神社は日本海に面していますから、沈む夕陽を見送ることになりますね。この相違は何でしょうか?」

「実は、意冨志麻おおしま神社は日本海に面していますが、社殿は日本海に背を向けて建てられています。すなわち、東向きです。」と藤原教授が言った。

「エジプトのスフィンクスと同じように、太陽を迎える東向きですか。なるほど。」と太郎は納得した。

「ちょっと付け加えておきますが、石動影向線上の日本海海岸には市寸島比売命を祀る弁天島があります。この島は昔から三味線島とも呼ばれていました。三味線は三本の霊線を暗示しているのかも知れませんね。どうですか、大和君。殺人事件と能登の謎は関係ありそうですか?」


「先生、ここだけの話ですが、殺されたケネディ氏はCIA要員でした。そして、ビッグ・ストーンクラブの一員でもあるのではないかと推測しています。」

「モーゼの十戒が書かれた石板と失われたアークを探していると云う秘密結社のビッグ・ストーンクラブですか?」

「そうです。ですから、ケネディ氏は宝達山のモーゼの墓には興味を持っていたはずです。そして、殺人犯か、その犯人が属している組織も同じ様にモーゼの十戒が書かれた石板に興味を持っていたら、と推理しています。モーゼの十戒が書かれた石板そのものに興味あるのではなく、石板が収められている聖櫃アークの存在場所が判明する時、それが世界の終わる時であるとするエレミヤの予言に関心をもっているのではないかと想像しているのですが。」


「なるほど。奈良東大寺大仏の台座に隠された金鉱山の場所を記した金板地図が発見される時、それは仏の終わりの時であるとする出口王仁三郎が言っていた事と重なりますね。殺されたケネディ氏とその殺人犯は金鉱山の在り処を探していたのではないのですか?金板地図の元となる役小角が見つけた金鉱山の場所が書かれた古文書を発見した。その古文書は漢字か神代文字で書かれていたので、ケネディ氏は古代文字の読み方を知るための文献を購入した。一方、殺人犯組織が宝達教授を拉致しようとしたのは古文書に書かれた内容を教授に解読させる為であった、と推理するのはどうです。」と教授が言った。

「その『仏の終わりの時』と云うのは何ですか?」と太郎が訊いた。

「ノストラダムスの諸世紀と云う書物の中の予言四行詩に次のようなものがあります。

  (一巻の48番)

  月が支配する20歳(幼なく若い時代)が過ぎて

  他のものが7000年代に王国を築き(支配する)

  太陽が記された(予定されている)日々を獲得したとき

  私の予言のすべても終わる 


 そして、別の詩では

  (五巻の53番)

  太陽の法と金星の法が競い

  (お互いに)予言の意味を(事件が発生する前に)先取りして(述べる)

  (しかし)お互いに相手を無視するが

  大いなるメシアの法は太陽によって引き継がれる(新しい太陽の法が生まれる)

    

  一巻の48番の詩に出てくる『月』とは伊勢神宮で云えば月読尊、月神、すなわちあの世を司る神様のことであり、仏の世界です。日本の神社史における神仏習合の歴史は仏教主導であったのですが、明治時代になって天照大神を祀る神道主導に戻ります。月は太陽の光を反射して地球を照らします。肉体を持つ人間が住む現実界を太陽の世界、仏の住む死後の幽界を月の世界と考えた場合、現実界の人間は幽界の仏に影響を与え、また仏から人間は影響を受けてきました。出口王仁三郎の考え方の特徴は先ず型が行われ、その後に型の内容が実現すると云うことです。仏の終わりの時が明治時代に神仏分離と云う型で示された。当然、その後のいつの日かに実際の仏の終わる時がくると云うことです。すなわち、仏と現実の人間が互いに影響を及ぼし合う時代に終止符が打たれる時、それが王仁三郎の謂うところの『仏の終わる時』でしょう。その時、『太陽の法』すなわち、太陽神である天照大神の教える世界が実現すると云うことです。エジプトのスフィンクスが迎えようとしているのがその太陽の時代なのではないでしょうか。そして、日本のスフィンクスである宗像むなかた三女神も、太陽神・天照大神の胸にある心(思い)を迎えるために産まれてきたのでしょう。」

  

「金星の法とは何ですか?」と太郎が訊いた。

「キリスト教でしょう。太陽の法が日本神道、月の法が仏教です。」

「イスラム教はないのですか?」

「金星の法に含まれます。イスラム教はムハマンドの教えが基ですが、イスラム人とイスラエル人の先祖は同じユダヤ人のアブラハムです。モーゼの十戒の『あなたはいかなる(礼拝すべき)像もつくってはならない。』に反して、キリスト像やマリヤ像などの偶像崇拝に走りだしたキリスト教のイスラエル人を諌めるために、礼拝堂モスクのみで神を敬うこと教えるイスラム教をヤハウェはムハマンドに創らせたのです。もちろん、アブラハムを守る神もヤハウェです。イスラム教の予言者ムハマンドもキリスト教の予言者キリストも信じる神はユダヤ教と同じヤハウェです。だから、この3宗教の聖地はソロモン王の時代にヤハウェの神殿があった、同じエルサレムなのです。」と藤原教授が言った。

「なぜ、キリスト教が金星の法なのですか、教授?」

「有名なノストラダムスの詩があります。

  (十巻の72番)

  1999年と7か月

  天から強くて恐ろしい王がやってくる

  アンゴルモアの大王を甦らせ

  その前後、火星が適正に支配するだろう


ヨーロッパのキリスト教徒にとってジンギス汗の引きいるモンゴル人が襲ってきた事件は恐怖の記憶です。アンゴルモアとはアナグラムです。アンゴルモア(Angolmois)は並べ替えるとモンゴリア(Mongolias)となりモンゴル人になります。

実は、源義経がモンゴルに行ってジンギス汗になったと云う説があります。源義経と云う漢字はジン(源)ギス(義経)と発音するらしいのです。かんは騎馬民族の首長の尊称です。

黄門様でおなじみの水戸光圀、江戸末期から明治時代に在日していたドイツ人医師のシーボルト、霊能者の出口王仁三郎などがこの説を主張しています。また一方では、現在に生きるある霊能者は陸奥の平泉で義経は死んだといっています。天眼通力の術を使える、この二人の霊能者の意見が異なっているのが気にかかります。しかし、出口王仁三郎と云う人物は霊体と肉体を持つ人間を区別しないで表現するくせがあります。モンゴルに渡ったのは義経に憑依した霊体、言いかえると京都鞍馬山にいた源義経を名乗る天狗霊がモンゴルに渡ったのを、出口王仁三郎は義経がモンゴルへ行ったと表現した可能性があります。現在のある霊能者が言っているように、肉体を持った本来の義経は平泉で死んだのでしょう。この鞍馬の天狗霊が曲者です。天狗霊に姿を変えたサナート・クマラだったのではないかと思われます。遠い昔、金星から鞍馬山に降臨した魔王尊サナート・クマラは鞍馬寺で修業する牛若丸こと源義経に天狗霊の姿となって憑依し、八艘飛びなどのジャンプ能力を義経に与えます。しかし、平泉で死ぬ覚悟を決めた義経から離れて、同行していた常陸坊海尊ひたちぼう かいそんと云う僧侶に憑依し、義経が死ぬ直前に平泉から姿を消し、大陸へ逃げたのでないかと思われます。そして、この常陸坊海尊が大陸に渡った時に、幼少のテムジン、後のジンギス汗に憑依し直します。その後、常陸坊海尊は日本に戻り、いろいろな人に目撃されています。常陸坊海尊は他の誰よりも逃げ足は速かったらしく、義経に憑依している天狗よりも有能な天狗が憑依していたのかもしれない。海尊は仙人になって400年以上生きたともうわさされている。江戸時代にいた残夢と云う人物が海尊ではないかと云う噂もあったようです。常陸坊海尊とは意味深長な名前です。


ノストラダムスの謂うアンゴルモアの大王とはジンギス汗に憑依した魔王サナート・クマラで、東ヨーロッパの国々を征覆しました。サナート(Sanat)はサタン(Satan)としてキリスト教徒に恐れられます。天から来る恐ろしいアンゴルモアの大王とは金星から来たサナート・クマラ、すなわちキリスト教徒にとっての悪魔・サタンであることを霊的に察知したノストラダムスはキリスト教のことを金星の法と表現したのでしょう。サタンが本当に人類にとっての悪魔であるのかどうかは考察の余地がありますがね・・・。」と藤原教授が意味ありげに言った。


「でも、大いなるメシアとはキリストではないのですか?」

「明らかに違います。メシアとは救い主です。キリスト教でのメシアはイエス・キリストかもしれませんが、ノストラダムスが謂っている大いなるメシアは人間の救い主を意味します。そして、ヨハネの黙示録では大いなるメシアの法は日の出の方角から来る『生ける神のしるしを持った御使い』の持っているしるしです。そのメシアの天使は東の方角から雲に乗って現われるとされています。スフィンクスも東方からくる太陽のメシアを迎える準備をしているのかもしれません。」


「予定されている日々とは何を意味するのですか?」

「仏の時代が終わり、太陽の時代とも呼ぶべき時代があらかじめ予定されていると云うことでしょうかね・・・?それが、予言としてこの地球に残されているのかも知れませんね。」

「それが、エジプト・ギザの三大ピラミッドであり、能登の日来神宮ぴらみっどである宝達山・石動山・円山と云うことですか・・・?メシアがピラミッドに舞い降りる訳ですか・・・?」

「そうかもしれませんね・・・?霊的なメシアでしょうが・・・?」と藤原教授が答えた。


「太陽の法が宝達山、月の法が石動山、金星の法が円山となる訳ですから、朝字石の太陽である宝達山を通る影向線がメシアの法と関係する訳ですね。それは、手速比売神社、射水神社、榛名神社、鹿島神宮、皆神神社、筑波山神社、金鑚神社ですか。」と太郎が言った。

「錚々(そうそう)たる顔ぶれですね。でも、この中でキーとなるのは榛名神社ですね。」と藤原教授が言った。

「何故ですか?」

「先ほどのノストラダムスの予言です。『月の支配する時代が過ぎて太陽が約束された日を獲得する時、私の予言の役目は終わる』です。動字石の月と関係する石動影向線と朝字石の太陽が関係する宝達影向線のクロスポイントは榛名山です。スフィンクスが迎えるために待っている相手は太陽です。月の法から太陽の法にバトンタッチする場所が榛名山です、たぶん。それが、出口王仁三郎の謂う『仏の終わる時』なのでしょう。」と藤原教授が言った。


「先生。金星の法に相当する円山から石動影向線に平行線を引いても、これと言った霊的ポイントは見つかりませんね。」

「金星の法はキリスト教・ユダヤ教・イスラム教だから、日本には関係しないと云うことでしょうかね?あるいは、メシアの法は太陽に引き継がれるので、金星の法はなくなると云う暗示かも知れませんね。敢えて円山を通る石動影向線の平行線上に探せば、新潟県糸魚川市の妙高高原の北にある火打山(2462m)かも知れませんね。空からの火が災厄をもたらすと云うノストラダムスの予言詩が幾つかありますが、どうでしょうか?よく判りませんね・・・。


  (二巻の96番)

   強い火が夜の天に見え

   ローヌの初めと終りころ

   剣と飢えに、大変遅れた助けが来る

   ペルシャはマケドニアに対抗するために来る 


  (二巻の91番)

   太陽が昇り、火が見える(時)

   北の方が光り、騒がしくなる

   (オーラが光る)球の中で死の叫び(声)が聞こえる

   剣による死、火、飢えが人々を迎える 


エゼキエルの予言では

『終りの日、神は北の果てのマゴグの地に住む、メシュクとトバルの騎馬民族の大首長ゴグにペルシャとクシュ(エチオピア?)とプテを従えてイスラエルを連合大軍で攻めさせる。しかし、神はこれを見て怒り、火とイオウと地震で天変地異を起こす。そして剣で同士討ちをさせてゴグの大軍を滅ぼす。そして、イスラエル人の主が神であることを世界に示す。』(旧約聖書エゼキエル書38章より要約)とされている。

日本は世界の縮図であるとする出口王仁三郎の説で考えると妙高高原の火打山はマゴグの地とされるロシア連邦のシベリア高原にあるプトラナ山に比定できます。妙高の妙は妙見を意味しており、妙見とは北辰の星、すなわち北極星です。だから、エゼキエル書が云うところの北の果てとは北極圏に近いと云う意味で火とイオウとは北極圏にある火山の爆発でしょうか?また、ノストラダムスは北極圏に見られるオーロラの輝きを暗示する詩を残したのでしょう。」と藤原教授が言った。



能登の錫杖32;

埼玉県神川町・金鑚神社の御嶽山山頂;2008年12月1日(月) 午前7時ころ


修験装束に身を包み、錫杖を右手に持った青山深雪あおやまみゆきは鏡岩から50mくらい登った金鑚神社の神社領域にある御嶽山山頂の岩場に立って北の方角を眺めていた。そして、小さく見える筑波山のある東の方角より少し南に寄った鹿島神宮の上空にはオレンジ色の朝日が輝いている。


「あれが赤城山の地蔵岳(1674m)。その左に見えるのが武尊山(2158m)と子持山(1296m)、そして更に左にあるのが榛名山の山々ね。大昔は富士山より高い4000m級だったのがここから見るとよく判るわね。すそ野の広がりもゆったりしていたのが現在でも見て取れるわね。天眼通力で神様から見せて頂いた超古代の榛名山の形も大爆発の繰り返しで崩れ、現在のように外輪山の山々だけが残ってしまった訳ね。でも、筑波山は見えるけれど、鹿島神宮は流石に見えないわね、うふふふ。でも、鹿島の神様の霊気はここまで届いているのね。」と思いながら、りんとして清々(すがすが)しい風景に心が洗われるのを青山深雪は感じていた。


「早朝に金鑚神社拝殿前で行った天照火打神事の神業を無事に終えられてほっとしたわ。8月8日の気多大社と亀鶴蓬莱山気多太神宮寺(正覚院)から始めた一連の亀鶴大神業ももう少しで終えられるわね。でも、神様のお告げではそろそろ神業の協力者が現れることになっているけれど、大丈夫かしら。私は女性だから、同じ血筋の男性でないと神業は成就しないし。もう12月になってしまったわね。雪が積もる前に榛名山斎生神業を行わないと大変なこと成ってしまうわね。でも、やはり、あの新聞の連載推理小説の挿絵に描かれていたあの御守りが気になるわね。家に戻ったら新聞社に問い合わせてみましょう。」と考えながら、青山深雪は岩場を降り始めた。



能登の錫杖33;透視?

岐阜県不破郡垂井町の南宮大社・社務所内応接室;2008年12月3日(水) 午後2時ころ


鮫島姫子、宝達君広、大和太郎、神職の青山深雪、の4人が応接セットのソファに座って話している。

毎朝新聞社会部の鮫島姫子が司会役を務めていた。

鮫島姫子は兄妹の生き別れ再会談を記事にするために同行してきていた。


「それでは、青山深雪さんは射水神社の御守りはお持ちじゃないのですか?」と姫子が訊いた。

「ええ。私の養父が死んだ時に遺品の中に有りましたが、斎場で遺骨といっしょに火葬にしました。てっきり、父の持ち物だと思っていましたから。時々、夢の中にあの御守りが出てきましたので印象には残っていました。私が赤ちゃんの時に産みの母が持たせてくれた御守りでしたの?」と深雪が言った。

「訊きにくいのですが、左脚の太腿にあざはありますか?」と宝達君広が訊いた。

「ええ、ありますが。それが何か?」

「その痣の形は菊花紋に似ていますか?」

「あら、よく御存じですわね。私の養父はいつも言っていました。この痣を見たから、捨て子であったお前を我が子として育てることに決めたんだって。養父は未婚でしたから子育ては養父のお母上がして下さいました。もう、20年前にその方もお亡くなりになりました。」

「養子で育てることにした理由をご養父に聞かれましたか?」と姫子が訊いた。

「ええ。子供のころ、父にも左太腿の同じ位置に丸い痣があったそうです。菊花紋ではなかったらしいですが。成人した時には痣は消えていたそうですが、最初にこの痣を見て、何か因縁がありそうだと思ったそうです。それから、私が捨てられていたところはこの南宮大社摂社の五の宮である南大神神社の前でした。祭神の南大神は天照御魂神とも呼ばれる太陽神である天火明あめのほあかり命です。別命はニギ速日命で、尾張氏・物部氏の遠祖です。」

「あのーう。その太腿のアザを見せていただけますか?」と姫子が恐る恐る訊いた。

「よろしいですよ。」と言って、青山深雪は着用している神職衣の白いはかますそをたくし上げた。

直径7センチくらいの小豆色をした丸い痣が左脚太腿の外股寄りの部分にくっきりと表れている。

「確かに16弁の菊花紋ですね。少し横長の惰円形で、地球の形みたいだわね。」と鮫島姫子が言った。


「地球の形?」と大和太郎にある考えがひらめいた。

そして、日本列島は世界の縮図であるとする出口王仁三郎の言葉と石動山縁起に登場した神人が日本国は神国であると言ったことを太郎は思い出していた。

「神は自分の姿に似せて人間を創ったとされている。以前、藤原教授が言っていたな、神国日本が神の体であり、日本列島は人間が左膝を折り曲げて横たわっている体勢と同じ形である、しかも女性の形であり、それは国生みの伊邪那美命か伊勢の天照大神かもしれないと・・・。とすると、青山師の左脚は日本列島の紀伊半島に相当し、アザの場所は伊勢市あたりに相当するな?菊の紋章は伊勢の天照皇太神宮を表わしているのか?南大神神社の祭神は太陽神・天火明か。」と太郎が考えを巡らせていた時、宝達君広教授が口を開いた。


「竹内文献では、第70代天皇・神心伝物部建かんごころつたえもののべのたての時代に皇后への神憑り神勅が3回あった。その第3神勅では次のように述べられている。『皇祖皇太神宮の神官が左股に万国図形の紋をつけて生まれてきた時代は天皇、地球、万民の滅亡が近くなった時である。それは皇祖皇太神宮を敬う万民が少なくなったためである。』竹内文献で云うところの万国図形の紋とはエジプト文明やシュメール文明の中にも見られる王の紋章である菊花紋のことと考えられます。」と宝達君広が言った。


「では、私がその神官ですの?」と青山深雪が訊いた。

「まあ、そのことは置いといて、やはり、あなたは私の妹でしょう。年齢も48才と云うことですから。射水神社の御守りがなくても、実家に残されている臍の緒のDNAとあなたのDNAを確認すればはっきりします。」と宝達君広が言った。

「そうかもしれませんわね。」と青山深雪が言った。

「しかし、へその緒と云うのは母親のものなのか、赤ちゃんのものなのか、どっちですか?」と太郎が訊いた。

「それも含めて、私の勤めている大学の医学部に確認します。」と宝達君広が言った。

「それでは、お二人は兄妹ということになったと仮定して、青山深雪さんは宝達奈巳のお名前に変更されますか?」と姫子が訊いた。

「名前の変更については少し考えさせて下さい。今はこれから行わなければならない神業が控えていますので、そちらのことで頭がいっぱいです。」

「神業?」

「ええ。神業を行う当日までは詳しくはお話できませんが、ある神業を年内に行う必要があります。宝達君広さんが私の兄なら、神業を手伝って頂きたいのですが。神示によると、同じ血族の協力者が必要ですので。」

「協力するのは構いませんが、まず、DNA鑑定を急ぎましょう。」

「ええ。ぜひお願いします。」

「私の勤める富山のT大学の医学部にDNA鑑定を依頼します。あなたの髪の毛を貰えますか。」と宝達教授が言った。

そして、宝達君広は青山深雪師から髪の毛を受け取った。


「神業についての日程など、打ち合わせは後ほどするとして・・・。ところで、宝達さん。」と深雪が言った。

「はい、何か?」

「先ほどからチラチラと見えている物が気になります。霊視させて頂いてよろしいでしょうか?」と青山深雪が訊いた。

「私を霊視するのですか?」

「ええ、よろしければ。」

「あなたは霊能をお持ちでしたか。」

「ええ、少しばかり。」


「私の何が見えているのですか、あなたには?」

「黒い十字架が先ほどから時々、眼に入ってきていました。」

「黒い十字架ですか?」

「ええ。ですから、ちょっと気になりまして・・・。」

「じゃあ、どうぞご覧ください。」


青山深雪は宝達君広の正面に座りなおして、両手のひらを宝達君広に向け、両腕を水平に前に突き出した。そして意識を集中するような仕草をしながら、深雪は両目を閉じた。

そして、祝詞のりとを上げるような言葉を早口で3回言った後、右手で印を3回切った。

「キエーイ、キェーイ、キェーイ。」

10数秒して、深雪は目を開けて言った。

「少し以前に、目出しマスクをかぶった二人の男に襲われましたね。それを助けたのが、隣にいらっしゃる大和さんですね。」

「はあ、その通りです。」と太郎が言った。

「その二人の男に黒い十字架の影が見えます。何でしょうね。そして、時々、その二人があなたの周りに現れていますが、別の二人の方があなたを護衛しています。それで黒い十字架の男たちはあなたには近づけないようですね。」

「二人の護衛ですか?」

「ええ、富山県の刑事さんですね。三交代制で24時間、あなたを見張っていますね。あなたを護衛しているのではなく、どうも、黒い十字架の男たちが現れるのを待っているようですね。近くに現れた男たちには気づいていないようですね。黒い十字架の男たちの方が先に刑事の存在に気づいて逃げて行ったようです。でも、黒い十字架の男たちの意識はまだ貴方に向いています。どこかでチャンスを狙っているかも知れません。」

「いつ頃、その男たちが現れるか判りますか?」と太郎が訊いた。

「私には将来を見通す能力はありません。現在と過去しか見えません。」と深雪が言った。

「その男たちはどこから来ているのかは見えますか?」と太郎が訊いた。

「映像は見えますが、場所がどこなのか、私には分かりません。路面電車が走っていますね。」

「どのような、路面電車ですか?」と宝達君広が訊いた。

「うーん。」と言いながら、深雪は再び目を閉じて、意識を宝達君広に向けた。


太郎は深雪が意識の中で何かを追いかけているように感じた。

数十秒してから、深雪が目を開いて行った。

「赤色の路面電車で行き先表示が高岡駅となっていますね。」

「それは万葉線ですね。富山県の高岡市内を走っています。」と宝達教授が言った。

「男たちが出入りしている場所は判りましたか?」と太郎が訊いた。

「広小路とか云う停車駅近くのビルですね。『末世立法・オメガ教団』の表示が見えますね。多くの人が出入りしています。」

「何故に、その黒い十字架の男は私を襲ったのでしょうか、判りますか?」と宝達教授が訊いた。

「判りません。他の人間から拉致するように言われているだけみたいですね。命令したのがどのような人物なのかは、その十字架の男たちを目の前にして霊視しないと見えません。」と青山深雪が言った。


※南宮大社;

主祭神は金山彦命で伊邪那美尊が火具土神を生む時に熱さに耐えきれず、口から吐き出して生まれた神である。脇神として、見野みの命と彦火火出見ひこほほでみ命を祀る。

主な摂社は、二宮に大己貴命を祀る樹下神社、三宮に木花開耶姫命とニニギ尊を祀る高山神社、四宮に火闌降ほすそり命を祀るははや隼人神社、五宮に天火明命を祀る南大神神社、大山津見神以下7神を祀る七王子神社がある。

金山彦命は金・銀・銅・鉄など鉱山・金属の神様である。この為、国宝級の刀剣の奉納品が多くあり、ある意味でほこの神様でもある。5月5日の例大祭では『蛇山』と呼ばれる櫓が設置され、金山彦命・大己貴命・木花開耶姫命の乗る神輿みこしを蛇頭が迎える儀式がある。

五宮の南大神神社の大神は奈良の大神みわ神社を連想させる。大神神社の祭神は大物主神で蛇に変身するとされている。また、南大神神社の祭神・天火明命(ニギ速日尊)は神武東征以前に九州の国東くにさき半島に降臨した天孫族の神で、奈良大和の地で蛇族の長・ナガスネヒコの妹と結婚した、と物部氏の歴史を語る先代旧事本紀には記されている。



能登の錫杖34;捜査会議?

警視庁・円谷班定例会議;2008年12月5日(金) 午前10時ころ


「半田警視庁から情報が入った。昨日、富山県警の刑事が宝達教授の行動を追いかけていた二人の怪しい男のアジトを見つけた。拉致未遂の犯人とは限らないが、明らかに要注意人物だ。その男たちが出入りしている組織はオメガ教団高岡支部だ。アルファ真理教のロシア支部にいた幹部がモンゴルに移動して創設した組織だ。教団の設立資金や運営資金の出所に不明な点があると云われている。オメガ教団本部が日本にないので、実体調査が困難である。公安部が常時監視を行っているが現在のところテロ活動に関する不穏な動きはない。」と円谷係長が言った。

「アングラで動いている訳ですか。」

「その可能性は充分ある。今回の宝達教授拉致未遂事件と米軍横田基地からの銃器盗難が結びついている訳だからな。」

「テロ対策については自衛隊の情報部門も活動していると聞いていますが、自衛隊からの情報はないのですか?」

「警察公安幹部と自衛隊幹部の定例会議は行われているが、会議の内容は秘密事項なので、我々には詳細情報が開示されていない。まあ、俺たちで独自に情報を集めるしかない。」と円谷係長が言った。

「札幌のオメガ教団支部の動きはどうなのですか?」

「公安部からの情報では、特に不穏な動きはないそうだ。」

「宝達教授におとりになってもらってはどうでしょう。」と山口刑事が言った。

「どうするのだ?」

「警護の刑事を遠ざけて、宝達教授には発信器を所持していただきます。そして、奴等が教授を拉致したところを逮捕し、教団を捜索します。」

「それで、教団の動きが必ず掴めるのか?奴らが、テロ活動の証拠を高岡支部に置いている可能性は何パーセントあるのだ?」

「はあ。だめですかね・・・。」

「まあな。むしろ、横田基地からの盗難銃器がどこに流れて行ったかだな。そして、どれだけの数量の銃器が紛失しているかだな。それを追いかける方が奴らの狙いを知る近道だろう。宝達教授を殺そうとしているのではなく、生け捕りにしようとしている訳だから、教授に何かをさせようとしているのだろう。身代金要求をされるような金持ちでもないし、国家の重要人物でもないからな。その辺の事情を宝達教授の身辺から探り出してほしい。教授の警護は富山県警に任しておけばいい。我々、円谷班の役目はテロ計画の有無を調べることだ。判ったな、みんな。」と円谷係長が言った。

「はい。」

「ところで、リチャード・ケネディ殺しの方からは何か判っていないのか?」

「進展なしです。」

「半田警視長の推理では、ケネディの所蔵していた書籍類と宝達教授の共通項は古代史だ。そして、日本の古代史とモーゼが結びつく場所は能登の宝達志水町にあるモーゼパーク、すなわち竹内文献だそうだ。この辺に宝達教授を拉致する理由があるのではないかと云うことであった。そして、ケネディ氏のマンションから出て行ったサングラスの男が胸ポケットに入れていたペーパーに書かれていた内容が古代史についての秘密で、その内容を宝達教授に解読させようとしているのではないかと推理できるとのことであった。」と円谷係長が言った。

「なるほど、話に筋が通っていますね。」と山口刑事が言った。

「感心してないで、宝達教授から能登の古代史、特に、モーゼと竹内文献の関係などで判っていないことが何かあるのかを聞いてくれ。その辺からオメガ教団のねらいが見えてくるはずだ。」

「はい、判りました。」と山口刑事が言った。



能登の錫杖35;調査ミーティング?

香港アメリカ総領事館の会議室;2008年12月5日(金) 午前10時過ぎ


「ちょっと遅くなったが、オメガ教団についての情報をCIA本部から入手したので報告する。1999年8月、モンゴルのウランバートルで教団は創立された。1995年アルファ真理教が東京の毒ガス事件を組織的に実行したとして東京地方裁判所から宗教法人としての解散命令が出された、更に、破壊防止法による団体解散の請求が出されたが公安審査委員会では将来における危険性はないと判断され、1997年団体解散請求は棄却された。先日の検察審査委員会の動きといい、日本の審査委員会にはバックに何らかの支援組織が付いているのかも知れないので、支援組織の有無について、CIAでは継続調査中だ。現在もアルファ真理教は名前を変えて存続中だがテロ活動を行っている形跡はない。アルファ真理教とオメガ教団との繋がりは現在ではないと考えられる。ただ、オメガ教団には創立時から何らかの資金支援組織が存在しているが、その正体は掴めていない。オメガ教団の幹部はロシア人6名、日本人6名だ。支部はロシア、日本、ドイツ、イタリア、エチオピアにある。資金源として武器商人をしているが取り扱い数量からみて規模が小さいのでそれほど大きな金額を稼いでいるとは思えない。武器商人はマネーロンダリングの隠れ蓑で、客先を装った何処かから大金が支払われているはずだ。それをCIAの別動部門が調査中だ。富山県高岡市のオメガ教団支部にはK国の秘密工作員が出入りしているのも確認されている。K国は秘密結社ブラッククロスの支援を受けているので、オメガ教団のバック支援組織もブラッククロスではないかと想定し、CIA本部ではその確認調査を継続中だ。武器商人以外にも貿易商社などの民間企業を5社所有している。その民間企業の役員は教団の信徒である。表向きは教団との関係が判らないようにしているので、従業員もオメガ教団とは気が付いていない模様である。」とチームリーダーのジョッシュ・オブライエンが言った。

「以前もその秘密結社ブラッククロスの話は出てきたが、下部組織の投資会社サラ・シスターズの動きはどうなっているのか?」とスティーブ・キャラハンが訊いた。

「サラ・シスターズはブラッククロスの資金調達のための合法企業だが、経済界を通じて、世界各国の動きを情報収集している諜報組織でもある。ある意味で、ブラッククロスとは国土を持たない国家みたいなところがある。ブラッククロスの結社目的は判明していない。」とオブライエンが言った。

「秘密結社のブラッククロスか。青山深雪師が霊視したオメガ教団に出入りしている男には黒い十字架の影があると言っていたな。」とオブライエンの話を聞きながら、太郎は思った。


「日本の横田基地の銃器盗難の件はどうなったのか?」と馬沢東まーつーとんが訊いた。

「メーカーから米軍に納品する運搬トラック上で、新品のライフルや拳銃と中古品が入れ替えられていたようだ。銃器の入った木箱を開け、一番上だけを本物を残しておき、下側にある銃器を中古品と差し替えていたらしい。トラックの運転手は金で買収されており、実行犯は運搬経路で待ちうけて、トラックに乗り込んで差し替え作業をしていたようだ。新品の中に混ぜて搬入された中古品は基地の銃器庫に運ばれたあと、多くの廃棄処分銃器に混入させて回修し、再度差し替えに利用すると云う手口だったようだ。廃棄処分品は基地から持ち出す際には検査が厳しくないので持ち出しやすかったようだ。基地内外の実行犯の名前と所在は判明しているが、バックにいる組織を確認するため、現在はFBIと国防総省の潜入捜査員が監視中らしい。銃器窃盗の犯罪組織が判るのも時間の問題だろう。」とオブライエンが言った。



能登の錫杖36;神業前日

長野市松代町皆神山;2008年12月7日(日) 午前7時前


前日夜は長野電鉄屋代線の松代駅近くにあるホテル・金鑑かなかがみに宿泊した修験装束に身を包んだ五人の男女が、ホテルから1kmくらい離れた皆神山麓の登山口にある大日堂に来ていた。

大日堂の前にある皆神山弁財天社祠の横にある『松井の泉(大日堂の清水)』でみそぎを行い、無住職の大日堂に挨拶したあと、山頂にある皆神神社を目指して、ジャラン・ジャランと錫杖の音を鳴らし、『六根清浄、六根清浄』と唱えながら登山口から五人は登って行った。


午前8時すぎに神社に到着した一行は随神門をくぐり、皆神神社境内の侍従大神社殿で挨拶参拝をし、熊野出速雄神社本殿に参り、中臣祓いの祝詞を奏上したあと、五柱の祭神(出速雄大神・伊邪那岐大神・伊邪那美大神・速玉男大神・豫母津事解男よもつことさかのお大神)に明日の神業におけるご加護とご助力を祈願した。


※侍従大神;1530年頃に京都鞍馬山で修業した大日寺和合院宥賢のことで侍従坊大天狗明王として皆神神社の侍従大神社殿に祀られている。

皆神山山頂には三つの峯(東峰、中峰、西峰)があり、神仏習合時代にはそれぞれの峯に大日如来、阿弥陀如来、弥勒菩薩を安置し、熊野三社権現と称されていたが、現在は廃寺され、神社に仏像が保管されている。麓の大日堂がその名残である。


そして、五人は境内にある摂社に挨拶したあと、更に境内の奥に進んだ。

『富士山・二国矛一』と書かれた扁額へんがくが掲げられている木造鳥居をくぐり、最頂上に行くと大本教の十曜とよう神紋が入った石祠があり、男女五人の一行を代表して宝達奈巳は冨士山本宮浅間神社の『山宮御神幸』の神事を思い浮かべながら、明日の神業予定をひつじさるの金神とうしとらの金神に向けて奏上した。

その後、熊野出速雄神社本殿の手前にあるカゴメ之宮守護神社祠の建御名方大神に挨拶し、カゴメ之宮社祠にも敬意を込めて手を合わせ挨拶した。


※大本教の十曜とよう神紋;大き目の中心丸の周りに、やや小さい9個の丸を配した紋章。

はじめの頃、大本教では綾部藩九鬼くかみ家の九曜神紋を用いていたが、ある祭りの時、『丸を一つ増やしたのは意味があってのことである』とするお筆先神示があり、以後は十曜神紋を用いるようになったとのことである。(九鬼くかみ家は熊野本宮大社の神官の家系である。)

中心の丸は太陽を表わし、周辺の9個は星を表わしている紋章とされている。

(著者注;水、金、地、火、木、土、天、海、冥が9星だろう。増やした1個の丸は冥王星か?冥王星は1930年に発見された太陽の惑星であるが、現在の国際天文学連合によって2006年に準惑星とされた。したがって現在は、再び太陽の惑星数は8星に戻された。

また、『富士山・二国矛一』の扁額文字であるが、国は國と云う文字で書かれており、ほこと玉をくにがまえで囲んだ文字である。また、矛はやまがね・かねかんむりの下に戈と書く文字が使われている。あえてこの字形で書いたと思われるが真意は不明。)


※山宮御神幸の神事;(神鉾神事)

北東に5km離れた富士登山道にある山宮浅間神社(磐境)から神(木花開耶姫?)を鉾に載せて富士山本宮浅間神社にお連れする神事。山宮参道にある直径40センチくらいの二個の大きな丸石を神鉾が渡って本宮に来る意味が判然としていない。

(著者注;宝達奈巳は明日の神業のことを考えながら、この大本教が作った石祠に参拝している。この石祠は昭和29年に大本教の三代目教祖・出口直日でぐちなおひが神業を行った時は木製の祠か何かであったものを近年になって石祠に替えたのであろうか?この石祠の御宮は富士浅間神社とされているが、大本教の神紋が入っているので、宝達奈巳は大本教が祀る神霊である厳霊いずたま神と瑞霊みずたま神、すなわちうしとらの金神とひつじさるの金神に向かって挨拶をしていた。

うしとらの金神は国常立大神とされているが、ひつじさるの金神は正体不明である。宝達奈巳は18歳くらいの若い美女神である坤の金神が木花開耶姫であると想像しながら参拝している。また、鳥居の扁額に書かれている文字『富士山・二国矛一』から二個の丸玉を渡る神鉾神示を想像しているのであった。著者はひつじさるの金神は白山菊理姫ではないかと推理しているが・・・?)


次に、5人の一行は随神門を抜け、石の大鳥居をくぐって坂道を降りて行った。そして、皆神山の南側中腹にある古代の祭祠場である天の岩戸神社に来た。石組で洞穴が作られており、穴の中には天照皇大神が祀られている。

一行は洞穴の前で横一列に並び挨拶参拝をした。5人の中央に立っている宝達奈巳が日文祝詞ひふみのりとを奏上し参拝を終えた。


日文祝詞ひふみのりと

47文字の神文。石上神宮、出雲大社、阿蘇・弊立神社、戸隠神社、大山阿夫利神社、鶴岡八幡宮、秋田・唐松神社などに残されている秘文ひふみ。推古天皇が『天照大神から大己貴命に降ろされ玉うた神勅と聞いている。』と聖徳太子に述べている。

《ひふみよい むなやこともちろ らねしきる ゆえつわぬそを たはくめか うおえにさりえ てのますあせえ ほれけ》


出口王仁三郎が云うところの『世界の十字形』である皆神山に参拝した5人はホテル・金鑑きんかがみに戻り、平服に着替えた後、昼食を取り、ホテルに預けてあった荷物を受け取り、2台の乗用車に分乗して、午後0時30分ころ群馬県にある榛名山に向けて出発しようとホテルの駐車場に来た。

その時、近くに駐車していた黒塗りの乗用車から拳銃を手に持ち、目出しマスクを被った二人の男が飛び出し、明らかに宝達君広に向かって走ってきた。君広の前に宝達奈巳が素早く立ちはだかり、ゆっくり、そしてゆるやかに身構えた。そして、奈巳に男二人が近づいた瞬間、5本の指が軽く開かれた奈巳の両手が前に素早く突き出された。

「わああー。」と叫びながら二人の男は自分たちが走ってきた方向に5m以上弾はじき飛ばされた。

東野流合気道『対気たいきわざ』であった。合気道5段の青山深雪こと宝達奈巳が男装坊なんそうぼうと呼ばれる所以である。

半田警視長の指令を受け、宝達君広を遠くから見守っていた富山県警と長野県警の4人の刑事が飛んできた。そして、地面に倒れている二人の男に素早く手錠を掛け、現行犯逮捕した。


神業後に警察を訪問する約束を刑事にした五人は、そのまま榛名山に向けて出発した。

県道35号線を通り、真田町で国道144号線に乗り換え、国道145号線の吾妻町郷原から県道28号線に入り、榛名湖を通り過ぎて榛名神社前の駐車場に到着したのは午後3時過ぎであった。


駐車場から榛名神社拝殿まで参道を歩き、明日の神業成就を祈念参拝した後、五人の男女が榛名湖畔のホテルに到着したのは午後5時を回っていた。



能登の錫杖37;神業・石長姫斎生降臨

群馬県榛名町の榛名湖畔の御沼おかみ神社;2008年12月8日(月) 午前6時過ぎ


榛名湖は榛名神社の御手洗し沼と呼ばれ、湖水は禊の水など神事をつかさどる清水とされている。この榛名湖に住む龍神を祀るのが御沼みぬまおかみ神社である。

近くの町営の無料駐車場に車を停め、修験装束をした五人は挨拶参拝をした。

まだ、道路脇の街灯や旅館など電灯の明かりがいているが空は白け始めていた。


榛名富士登山口;2008年12月8日(月) 午前6時15分ころ


榛名公園ビジターセンター前の駐車場に2台の乗用車を停め、個人持ち込み舟用桟橋前に行きみそぎを行った修験衣装姿の五人は、ビジターセンター横向いにある榛名富士登山口と書かれた案内指示板の前を通り、山に入って行った。

異常気象の為か、気温は例年になく高いが、やはり朝は冷え込みがある。

空は、ほの白くなり、山道もほどよく見える。気温は氷点に近く、吐く息が白く漂っている。


ジャラン・ジャランと錫杖の音を響かせ、『懺悔、懺悔、六根清浄、懺悔、懺悔、六根清浄』と唱えながら五人は九十九折つづらおりになった黒土の細い一本の山道を登って行く。ところどころに安山岩の大きな石が顔を出している。枯れた樹木林を透して榛名湖が田代慶子の眼下に広がっていた。榛名湖の向こう側には天目山が見える。

慶子は枯れた樹木林を透して見える天目山の反りがある稜線を、少し立ち止まって眺めた。

「あの稜線の古代鉾こだいほこを思わせる風情に気持ちが高揚して行くわね。奈巳さんから借りたこの山伏衣装はサイズがぴったりでよかったわ。体も温かくなって来たし、山登りが楽しくなりそう。」と慶子は思った。


橘幸平は『志摩の神珠』と命名された水晶玉の入った布袋を肩から袈裟掛けにしている。

田代幸造も『真珠の宝剣』と名付けた宝刀用木箱の入った袋を袈裟掛けに背負っている。

田代慶子は香を焚く道具類を入れた布袋を肩から袈裟掛けにしていた。

宝達君広と男装坊・南僧坊と呼ばれる宝達奈巳の兄妹はそれぞれ、手に錫杖を持ち、ヒスイの小玉で作られた数珠の入った布袋を肩から袈裟掛けにしていた。


榛名富士山頂のロープウェイ駅舎前広場;2008年12月8日(月) 午前8時前


最高峰にある富士山神社に挨拶を終え、少し下ったところにある石長姫いわながひめ大神、榛名富士(木花開耶姫)大神、保食うけもち大神、ニギ速日大神の四柱の石碑に向かって五人は手を合わせ、中臣祓いの祝詞を宝達奈巳が奏上し、『キェーッ、キェーッ、キェーッ』と印を三回切った。


石長姫いわながひめ大神;

 天孫・ニニギ命が九州の高千穂の峰に降臨した後、笠砂の岬で美しい木花開耶姫命と出会い、結婚を申し込む。木花開耶姫命の父神・大山津見命は木花開耶姫命とその姉・石長姫命をニニギ命に嫁がせるが、ニニギ命は美しさに劣る石長姫を実家に帰してしまった。それを知った大山津見命は『石長姫は長寿を司る神である。天孫のご子孫の寿命は花が散るごとくにもろく、長命はできないであろう。』と嘆かれた。

一方、木花開耶姫はニニギ命の子である彦火火出見命を産む。玉依姫の子である神武天皇は彦火火出見命の孫である。玉依姫は京都・賀茂御祖かもみおや神社の祭神である。

石長姫を祭る神社;伊砂砂神社(滋賀県草津市渋川)、雲見浅間神社(静岡県賀茂郡松崎町雲見)


※ニギ速日大神;

 天孫・ニニギ命の兄である。天津日継あまつひつぎ御子である天忍穂耳あめのおしほみみの指示でニニギ命に先んじて降臨し、大和国に住んでいた神である。物部氏の先祖である。



その後、ロープウェイ山頂駅舎の前の広場に戻り、宝達君広が袋から禊の時に詰めた榛名湖の水が入ったペットボトルを取り出し、その中の水を地面に撒いた。更に清めの塩を撒き、五人は事前打ち合わせに従って神業の準備に入った。五人はあらかじめ奈巳が指定していた場所に立ち、自分の役割の準備を終えた。


宝達君広が修験道具屋に至急で作らせた十字金具に2本の錫杖を嵌めこみ、縦の錫杖にヒスイの数珠を通した『錫杖十字架』を造った。そして、榛名湖を背にして立ち、東の空にある太陽に向けてその十字架を持ちあげた。

宝達君広の後方1mには小さな香炉を両手に持った田代慶子が立っている。周辺に何とも言えない柔らかな香りが漂っている。

田代慶子の左横1mのところには、『真珠の宝剣』の剣先を天に向けて持ち上げている田代幸造が立っている。

田代慶子の右横1mのところには、紫色の敷き布の上に『志摩の神珠』と呼ぶ水晶玉の載った小さな三方(台)を胸元で捧げ持った橘幸平が立っている。

そして、宝達奈巳が田代慶子の後方2mに立って、呪文を唱え始めた。右手と左手にはヒスイ玉で作られた数珠が握られている。


「ホンボラソモビルフルフルフル、ホンボラソモビルフルフルフル、ホンボラソモビルフルフルフル。」と言いながら奈巳は左手で印を切る動作をした。

「アマテラスオオミカミ、アマテラスオオミカミ、アマテラスオオミカミ、・・・・・・・・。」と奈巳は同じ呪文を11回唱えた。

「アヌナキ、アヌナキ、アヌナキ。」と言いながら、奈巳は右手で印を結ぶ動作をした。

奈巳は呪文を繰り返しながら、左手で印を切り、右手で印を結ぶ動作を繰り返した。


奈巳が呪文を唱え始めてしばらくすると、榛名富士の上空が俄かに灰色の雲で覆われはじめた。

それは不思議な雲であった。

榛名富士山頂高さより低い空間には雲は無く、天目山、相馬岳、掃部岳などの外輪山上空を覆う積乱雲が天空高くまでそびえていた。

突如、榛名湖表面が波立ち始めたかと思うと、上空から榛名湖の部分だけに雨が降り注いだ。

「ザザザッー」と云う音が自分たちの後方から聞こえた。

そして奈巳が他の4人に声をかけた。

「皆さん、回れ右をして、後方の榛名湖に体の向きを変えてください。」

そして、5人は榛名湖を向いて立っていた。

奈巳が呪文を唱え続けている。

奈巳の目には金色に輝く龍神が榛名湖の上空にゆっくりとうねりながら立ち昇って行くが見えていた。

奈巳以外の4人には夕立ち雨が榛名湖に降り注いでいるようにしか見えていない。

そして、上空の雲の中から別の金色龍神がゆっくりと湖面に向かって降りて行くのが奈巳には見えた。

しばらくすると、二柱の龍神は外輪山を構成している山々の上空を巡り始めた。

一柱の龍神は右回り、もう一柱の龍神は左回りに外輪山上空を巡り始めている。

そして、回る速度がだんだん速くなり、それは金龍の姿から、高速回転する2段に分かれている大きな金輪に変わっていった。

外輪山の上空で回転する巨大な金輪の中心に大きく透明な水玉が発生していた。そして、大きな水玉は赤紫色に輝き始めているのが奈巳には見えていた。


「皆さん、私を中心点にして、円弧を描く様に体を左方向に移動させ、北側頂上にある富士山神社の方向を見てください。」と奈巳が言った。

五人が回転移動を完了した時、山頂の空間全体が『ピカーッ』と金色こんじきに光り、薄暗くなっていた五人の周辺が数秒の間あかるくなった。

それから、上空にある灰色の雲の中で稲妻が光り、

そして、一塵の清風が北の富士山神社鳥居の方から南の天目山方向に山頂を吹き抜けた。

『ゴロゴロゴロゴロー、ビカーッ、ビカーッ、ビュイーッ。』

清風に揺れて、十字形に組まれた錫杖のすずが『ジャラ、ジャラ』と小さく鳴った。

「ただ今、榛名富士のご神体霊は木花開耶姫このはなのさくやひめ大神から、宇宙の星から戻られた石長姫大神に替わられました。今日まで留守を護られて居た木花開耶姫大神は静岡県の富士山にお戻りになられました。」と宝達奈巳が他の4人に言った。

また、大きな水玉は榛名湖に沈み、二柱の龍神も榛名湖の水中に潜って行ったのを宝達奈巳は見届けた。

「月の法から太陽の法へのヒツギ(日嗣、日月、霊継ぎ)神事は達成されました。」と奈巳が言った。


そして、5人が気着いた時には上空の雲は消えていた。

明るく、ふっくらとした感じで、やや南寄りの東方上空に輝く太陽が榛名山全体を照らしている。

そして、清々しい風が山頂に吹いてきた。

その時、烏帽子ケ岳を足下にして、その上空に立っている大神と天目山を足下にして、その上空に立っている大神がそれぞれ、語りかけて来る姿が宝達奈巳には見えた。

「我は山の幸・海の幸を司る保食うけもち神と呼ばれし彦火火出見ひこほほでみである。神業成就、あっぱれなり。」

「我は天火明あめのほあかり命ことニギ速日である。神業、ご苦労であった。」

宝達奈巳はそれぞれの大神に向かって2礼2拍手1拝を行った。

そして、二柱の大神はほどなく姿を消した。


「富士は晴れたり、日本(二本)晴れ(張れ)。万歳、万歳、万歳。」と宝達君広が富士山神社に向かって大声を上げながら万歳三唱をした。


五人は後片付けをして、ロープウェイが動き出すまで、遠景を眺めながら時間を過ごした。

遠くに富士山や筑波山が見えていた。



能登の錫杖38;神業遠景と宝剣・神珠の由諸

埼玉県神川町の金鑚神社領域にある御嶽山山頂の大岩;2008年12月8日(月) 午前8時ころ


昨日の夜に宝達君広から電話があり、「拉致未遂犯人が逮捕されました。また、明日の朝、榛名斎生神業を執り行います。」と聞かされた大和太郎は愛車ホンダ・リード80を駆って東松山から神川町にある金鑚神社に来ていた。御室山拝殿に参拝した後、神社領域にある御嶽山山頂の大岩に登り、遠くに見える榛名山を眺めていた。


「おいおい、天気は良いのに妙な雲が外輪山の上に湧いて来たぞ。冬でも積乱雲ができるのか?夕立でも降っているのかな。しかし、天まで届きそうな白い雲の柱だな。ははーん、神業が始まったな。雲の下は太陽が当たらないから暗いだろうな。」と思いながら、太郎は遠くに見える榛名山の上に太い柱を立てた様な、太陽光を受けている白い積乱雲のある光景を見ていた。


「おおおっ、雷様か。おい、雲の柱が金色に輝いたぞ。」と太郎は思わず口走っていた。

「それに、山から上に向かった稲妻と天から下降してきた稲妻が衝突して、バチーと光の玉が輝いたぞ。これはすごい光景だな。」

「なんだ、なんだ、あの稲妻は。富士山をかたどった様に光ったぞ。」

榛名山を構成する外輪山の上に、富士山の形をした光るかんむりかぶせたように見える稲妻が走り、雲の柱に数秒間だけ稲妻の残影がとどまった。


そして、雲の柱は自然に消えていった。

時間にして3分足らずの出来事であった。

「ふうーっ、すごい神業だったな。」と思いながら、太郎は呆然として榛名山を眺め続けていた。


榛名富士山頂のロープウェイ駅舎前広場;2008年12月8日(月) 午前8時30分ころ


ロープウェイが動き出すまでの間、宝達奈巳こと青山深雪が橘幸平たちと風景を眺めながら、ベンチに座って話をしている。


「今回はじめて『真珠の宝剣』と『志摩の神珠』が一緒にあるところを拝見いたしました。いままでは、それぞれが単独にあるお姿しか見ていませんでしたので不明な点が多々ありました。今回、この二つの神宝が近づくことによる共鳴波動を感じ、神宝の新しいお姿を霊視することができました。」と青山深雪が言った。

「それは真珠の宝剣の由緒ですか?」と田代幸造が訊いた。

「そうです。天目一箇あめのまひとつ尊の後裔(子孫)が崇神天皇の勅命を受けて能登の石動山に宝満宮こと伊須流岐比古神社を創建しました。その時、ここにある真珠の宝剣を奉納したようです。その後、四道将軍の一人である大彦命が社殿を造営して真珠の宝剣に布津御霊剣ふつのみたまのつるぎの分霊を入魂しました。その時、ここにある水晶玉・志摩の神珠に前玉さきたまの分霊を入魂して奉納したようです。その後、三韓遠征から帰国した神功皇后と武内宿禰が神託を受けて伊須流岐比古神社にある真珠の宝剣と志摩の神珠を愛知県の津島神社に移す神業をします。この時、石が空から降ってくる不思議な現象を収めるため、津島神社から東4Kmの現在の神守町が在る場所に憶感おかみ神社を創建して志摩の神珠はそちらの社祠に奉納したようです。その後、雄略天皇が志摩地方を攻める時、真珠の宝剣と志摩の神珠を持ち出し、その神力の加護を受けて戦い、勝利しました。そして、雄略天皇の親衛隊長であった豪族が志摩の地を治めるため、真珠の宝剣と志摩の神珠を家宝として祀りました。そして、その親衛隊長が死んだ時に真珠の宝剣は古墳に収められ、志摩の神珠は豪族の子孫が祀っていたようです。その後はそれぞれに紆余曲折があって、現在、ここにこうしてある訳です。」

「なるほど、数奇な運命を辿ってきた二つの宝物なのですね。」と橘幸平がしみじみとして言った。


「今日の神業で判ったことがあります。天目一箇あめのまひとつとは金龍が高速回転してできる水玉の種です。天の沼矛ぬぼこである二体の金龍が造る前玉さきたま、すなわち星の型なのです。」

前玉さきたまとはお星様のことですの?」と田代慶子が訊いた。

「今回の神業は、能登の気多大社とその神宮寺である正覚院こと亀鶴蓬莱山気多太神宮寺から始めなさい、と云う神示によるものでした。気多は早気多麻さきたまのことです。は神を意味します。神の遣いである早乙女さおとめと同じです。神宮大麻じんぐうおおぬさぬさのことであり、穢れを祓うこと、或いはその道具を意味します。表意文字として麻を解釈すると、家を表す广まだれの中に人が二人いる形の林と云う字で作られています。すなわち、人の住む家、或いは星を意味しています。したがって、早気は神の息吹きのことであり、多麻は多くの星のことです。一般には、前玉さきたまとは神の霊気が込められた玉(球)、地球をはじめ惑星、宇宙の星を意味しています。気多大社に関する正八坊そうはちぼん伝説に出てくる潮干珠しおひるたま前玉さきたまの一つです。また、正覚院の山号は亀鶴蓬莱山きかくほうらいさん、法号は気多太神宮寺です。亀鶴蓬莱山とは亀が石長姫大神、鶴が木花開耶姫大神、蓬莱山は富士山のことと謂われています。鶴は千年・亀は万年と云う諺が示すとおり、石長姫様は長寿を司る神様です。今回の神業成就で人間の寿命が延びるかも知れません。蓬莱山は不老不死の妙薬を作る為の植物がある山であるとして、古代には中国の秦王朝から徐福と云う仙術士が渡来しました。」と宝達奈巳が言った。


「私たち五人の神業での役割は何を意味していたのですか?」と田代慶子が訊いた。

「皆神山の熊野出速男神社の五柱の祭神です。罪、穢れ、悪を祓う十字架を持った君広兄にいさんは熊野出速男大神、サキタマである神珠の水晶玉を持った幸平さんは熊野速玉男大神、国生みに使う天沼矛あめのぬぼこである真珠の宝剣を持った幸造さんは伊邪那岐大神、香炉を持った慶子さんは伊邪那美大神、そして私は霊界と現実界の事を良く理解している豫母津事解男よもつことさかお大神です。慶子さんが持った香炉から漂う香の匂いで黄泉よみの国にます伊邪那美大神を清め、呼び出しました。愛知県にある津島神社に真珠の宝剣、憶感おかみ神社には志摩の神珠が神功皇后と竹内宿禰によって納められていました。その二つの神社の間に流れる日光川が香の匂いの流れる道筋です。ですから、香炉を持つ慶子さんの左右に宝剣を持つ幸造さんと神珠を持つ幸平さんに立っていただいた訳です。そして、お日様の光によって黄泉よみの国である月を照らし、メシヤをこの世に甦らせました。すなわち、日月神事です。日光川とは日の光が通る道をも意味しています。また、憶感おかみ神社を真北に登りますと能登の気多大社に行き当たります。気多大社はサキタマを祭る神社です。」と奈巳が説明した。


青山深雪こと宝達奈巳、それは二つの顔を持つ人物・・・、修験者・男装坊と霊能者・南僧坊。


「能登の宝達山麓にモーゼパークがあります。この公園内にある三ツ子塚古墳群はエジプト・ギーザにあるクフ王ピラミッドの近くにある東側墳墓群を表象しています。そして、三ツ子塚のモーゼ家族の墓とされる三つの古墳は、ヘテレス、メリテレス、ヘヌトスィンと呼ばれる東側墳墓群にある女王のピラミッドに相当します。そして、この三女王は大分県にある宇佐八幡宮に祭られている八幡大神である応神天皇の妃となった三ツ子の女王ひめみこである高木之入日売たかぎのいりひめ仲日売なかつひめ弟日売おとひめと同じ霊系です。宇佐で八幡大神の託宣を初めて受けた修験者・大神比義おおがのひぎとは奈良の大神みわ神社の秘義を司る人物でした。そして、私の名前の奈巳も奈良と大神神社の眷属であるへびに由来しています。また、イスラエル王国の南にあるエジプト王国はユダヤ人から南の国と呼ばれていました。大神神社の摂社である三つ鳥居で祭られた檜原ひはら神社のヒハラは日原であり、砂漠を意味するかわいた平原、干原ひはらでもあります。大神神社の三つ鳥居はギザの三大ピラミッドを表しています。エジプトのギーザと宇佐を結び付ける神的秘義を執行したのが大神比義であり、大神みわ神社を創建した太田多根子の子孫です。これがすなわち、三の秘義です。」と宝達奈巳が言った。



能登の錫杖39;透視?

長野県警本部;2008年12月8日(月) 午後2時ころ


榛名湖の駐車場を出る時に携帯電話から訪問を事前連絡していた宝達兄妹が長野県警に到着していた。


宝達君広と宝達奈巳が硝子越しに見える男を見ながら刑事と話している。

「見覚えはありません。」と君広が言った。

「青山さんは如何ですか?」と刑事が訊いた。

「あの男は以前、埼玉県比企郡の古代窯遺跡で兄の君広を襲った男です。」と奈巳が言った。

「何故判るのですか?」

「霊視です。先日、兄の霊体を通じて霊視したところ、あの男ともう一人の男の意識が感じられました。兄を襲った時は目出しマスクを被っていましたが、あの男の霊体から出ている波動で判りました。あの男は、高岡市のオメガ教団に出入りしていますが、教団の人間ではありません。兄を拉致しろと命令されているだけで、拉致の目的は知らないようです。黒い十字架の影が見えるあの男を霊視すれば、彼らに命令している人物像も判るとおもいますが。」

「あの男も、もう一人の男も黙秘していますので、霊視していただければ助かります。」


「では、はじめます。」

「隠しミラーガラス越しでも霊視できるのですか?」

「ええ、大丈夫です。始めますので、少しの間、お静かにお願いします。キェーッ、キェーッ、キェーッ。」と印を斬って、奈巳が霊視を始めた。

男に意識を集中し、数分間、小さな声で奈巳は呪文を唱えていた。そして、目を開いて言った。

「いろいろな人物が出てきましたが、ある一人の人物が命令者でしょう。その人物は英語を話す白人です。オメガ教団の幹部らしき男が通訳として出てきますが、命令を出しているのはその白人です。その白人は日本には済んでいない模様です。時々しかこの男とは会っていませんね。それも、会っているのは東京のホテルです。その白人にも黒い十字架の影が見えます。」

「黒い十字架ですか。その白人の顔ははっきり見えていますか?」と刑事が訊いた。

「ええ。モンタージュの似顔絵師の方がいらっしゃれば説明いたします。」


その時、長野県警から宝達兄妹が事情説明で出頭してくる旨の連絡を受け、東京の桜田門にある警察庁から長野新幹線で急遽駆けつけた半田警視長が県警本部長と一緒に部屋に入ってきた。

担当刑事から今までの経過説明を聞いた後、半田警視長が言った。

「10月26日の午前11時前後のこの男の行動を霊視できますか?」と半田が奈巳に訊いた。

「10月26日ですね。ちょっと視てみます。」と言って奈巳が目を閉じた。


「この日は高岡市のオメガ教団の寮でくつろいでいますね。昨夜遅くと云いますか、その日の早朝に車で戻ってきた様で、昼過ぎまで寝ていたようですね。外出は近くのコンビニへ行った程度です。教団支部にも行っていません。」と奈巳が霊視した内容を説明した。

「それでは、前日の10月25日の夜9時前後の行動はどうですか?」と半田が訊いた。


「どこかのマンションの部屋に入って探し物をしていますね。あっ、何か白い一枚の紙きれを読んでいますね。そして、紙きれを折り畳んで胸のポケットに入れました。」と奈巳が霊視しながら言った。

「その紙切れに何が書かれているか読めますか?」と半田が訊いた。

「そうですね・・・。英語の文面ですね。」

「その英語の内容は判りますか?」

「お待ちください・・・。何かの報告書のコピーみたいですね。竹内文献のモオゼロミュラスについての考察となっていますね。ローマ帝国を創始したロミュラスとの類似性があり、霊的な考察は転生である、と書かれていますね。モーゼは呪文で神を招喚し、呪術の達人であり、言葉を使い分けて神を使役したのであろう、と書かれています。黒聖書では、ある時モーゼは神をアークに呪文を使って閉じ込めたとされている。それと同時に、神は逆にモーゼの霊をどこかの山に封印したのではないか。この時、モーゼの肉体は死に、ヤハウェも姿を消したのだろう。それが、宝達山の可能性があるが、今回の調査ではその証拠は確認されなかった。なお、日本にも古代から呪文に似た言霊と云う概念が存在するがモーゼの呪文との関係は不明である。と、このコピーには書かれています。」と言ってから、奈巳は目を開けた。

「言葉を使い分けて神を使役した、と云うのはどのような意味だか判りますか?」と半田警視長が訊いた。

「たぶん、役小角や阿倍晴明が式神を使役するため使った法文と呼ばれる特殊な呪文・祝詞のことでしょうか。」

「特殊な呪文ですか?」と県警本部長が訊いた。

「呪文や祝詞は言霊です。言霊とは人が言葉を発することによって事物や事象が実現すると云う、ある種の霊的な波動のことです。言葉に宿る霊と表現する人もいます。私たち霊能者が神にお願い事をする時は言霊を奏上します。聖書の出エジプト記には、モーゼは言霊の呪文を使って神を動かし、エジプトの魔術師と技比べをして勝利し、エジプトで奴隷となっていたユダヤ人の開放をファラオ(エジプト王の呼称)に認めさせたとされています。たぶん、霊視した英語の文章はそのことを言っているのだと思います。」

「なるほど。よく判りました。ところで、この男のその後の行動は判りますか?」と半田が訊いた。

奈巳は再び霊視を続けた。

「ポケットからキーを取り出してマンションのドアーに鍵を掛けて近くの駅から電車に乗っています。JR市ヶ谷駅となっていますね。そして、東京駅で降りて、近くのホテルで外国人に会って先ほどの紙きれとドアーのキーをその外国人の男に渡しましたね。この外国人が先ほど出てきた白人の命令者です。その後、この男はホテル近くの駐車場車に停めていた車に乗って首都高速から関越自動車道に向かいましたね。そして、北陸自動車道に乗り継いで富山方面に向かいました。」と奈巳が言った。

「マンションのドアーに鍵を掛けたのですか。ところで、その外国人の動きは霊視できますか?」と半田が訊いた。

「その人物が目の前に居ないと霊的な波動を感じることが出来ませんので、私の霊能力ではその白人の行動を透視することはできません。」と奈巳が答えた。


「では、別の部屋でモンタージュ画を作成したいと思いますので、この部屋を出ましょう。」と県警本部長が言った。



能登の錫杖40;捜査会議?

警視庁・円谷班定例会議;2008年12月9日(金) 午前10時ころ


刑事局長補佐の半田警視長が長野県警本部からイントラネット経由で送られて来たパソコン映像の白人と日本人のモンタージュ画をビデオプロジェクターで拡大して見せながら、円谷班の刑事たちに説明している。


「この白人の男が宝達教授拉致未遂の黒幕です。オメガ教団とも繋がりがある秘密結社ブラッククロスの一員と思われます。外国に住んでいると思われますが、時々日本に来ている模様です。成田空港と羽田空港や関西空港など世界航空便の発着している空港の通関に手配して下さい。来日したら尾行を付けて行き先を確認してください。」と半田警視長が言った。

「公安部のオメガ教団担当から情報はないのですか?」と円谷係長が訊いた。

「モンタージュ画を公安部にも渡してありますが、現在のところ情報は入っていません。」

「ブラッククロスの事で判明している事柄を説明して頂けますか?」と山口刑事が言った。

「詳細は不明です。自衛隊とのテロ関連定例会議では名前が出てきています。アメリカ国防総省もテロ組織との認識を持っており、CIAが調査しているらしいのですが、実態はよく判っていない模様です。アメリカ議会やアメリカ政府内に工作員を潜入させているとの噂もあります。また、証拠はありませんがK国も支援している可能性がり、K国秘密諜報機関KISSもブラック・クロスの指示で秘密工作を行っているのではないかとCIAや自衛隊は心配している模様だ。」

「実体不明のテロ組織ですか、秘密結社ブラッククロスは・・・。」

「末世立法・オメガ教団を支援している秘密結社ブラッククロスですから、世紀末思想と関係している地下組織の可能性があります。」と半田警視長が言った。

「世紀末思想ですか。ノストラダムスの大予言ですね。」と川角刑事が言った。

「アメリカ軍用銃器の紛失事件と関係があるかは不明だが、テロ防止の観点から捜査を継続してください。オメガ教団についいては引き続き公安部が監視していきます。」



能登の錫杖41;調査ミーティング?

香港アメリカ総領事館の会議室;2008年12月12日(月) 午前10時過ぎ


「銃器窃盗団のアジトにFBIが乗り込んで、一味を一網打尽にしたようだ。この窃盗団は武器商人に盗んだ銃器を密売して利益を上げていたらしい。末端の武器商人は窃盗には関係していなかった。」とジョッシュ・オブライエンが国防総省からの情報を伝えた。

「蛇尾やオメガ教団はその窃盗団から武器を購入していただけですか。」

「そういうことだ。また、アメリカ海軍・第七艦隊の起動探索隊からの情報によると、中国海軍が巡航ミサイルを回修した模様だ。馬沢東まーつーとん宋理永そうりえいの動きはどうかな?」とオブライエンが訊いた。

「一昨日、IT企業・龍唖通信計算機系有限公司の技術部長・宋理永そうりえいが海南島・唖龍やーろん湾にある中国海軍・潜水艦基地に入りました。行動の詳細はまだ情報収集できていません。見張り役からの連絡では、まだ基地内に居るようです。ところで、最近知り合いになった中国海軍の技術武官と明日に会う予定です。何か巡航ミサイルについての情報を提供してくれるようです。見返りの金銭要求があります。承認願います。」と馬沢東が答えた。

「いいだろう。知り合いになった海軍技術武官とはどこの誰だ?」とオブライエンが訊いた。

「申し訳ありませんが、彼の名前はお教えできません。彼の名前が漏れれば、彼の命を危険にさらすことになりますから。私に任せて下さい。」と馬が答えた。

「判った。あと、何か報告することはないか、みんな?」とオブライエンが言った。

「12月9日にオメガ教団の武器商人が慌てて日本に戻って行ったが何か情報はないか?」とスティーブ・キャラハンが訊いた。

「12月7日にオメガ教団に出入りしていたヒットマンが日本の警察に逮捕されました。例の大学教授を拉致しようとした男たちです。逮捕に協力した霊能者によると、このヒットマンには黒い十字架の影が見えたそうです。警察はブラッククロスの一員であると判断しているらしいです。そして、そのヒットマンに命令している人物のモンタージュ画が作られたようです。」と太郎が言った。

「そのモンタージュ画の男はどんな顔なんだ?」とオブライエンが訊いた。

「男なのか、女なのかは聞いていません。日本に戻ったら、情報源の大学教授に確認しておきます。でも、何故に男だと思うのですか、オブライエン?」と太郎が訊いた。

「いや、なんとなくそう思っただけだ。確かに女である可能性もあるな・・・。しかし、ブラッククロスとオメガ教団との関係が確認された訳だ。そして、宋理永そうりえいの背後にいる香港マフィアの蛇尾がブラッククロスと繋がっているかどうかだな。誰か、確認したものはいるか?」とオブライエンが訊いた。

「もし、蛇尾がブラッククロスと繋がっていれば、巡航ミサイル暴発を仕組んだ組織はブラッククロスと云う推理が成り立ちますが、ブラッククロスは何を狙って巡航ミサイルを日本に向けて発射させてたのでしょうか?」と太郎が訊いた。

「それが、我々プロジェクトチームが明らかにしなければならない事項でもある。」とオブライエンが言った。

「日本と中国が戦争して利益を得る組織がブラッククロスか?」と馬沢東が言った。

「どんな利益だ?」とオブライエンが訊いた。

「利益ではなく秘密結社としての設立目的かも。」とスティーブが言った。

「ブラッククロスの設立目的とは何だ?」とオブライエンが訊いた。

「確か、『神の計画』の実現を助ける事であると、中東でボディガードをしていた時に聞いた記憶があるが・・・。」とスティーブが言った。

「そう云えば以前、神武東征伝説殺人事件の時、ビッグ・ストーンクラブのミスター・Bが言っていたことがある。ある秘密結社が失われたアークを見つけて、神の計画の邪魔をする可能性があると。ミスター・Bが云うところの秘密結社がブラッククロスであるとすれば、『神の計画』の推進を助けるのではなく妨害する為なのではないかな・・。それと、殺されたリチャード・ケネディ氏の部屋にあった『秘密のモーゼ書』の著者は黒い神が白い神の計画を阻止するため21世紀にモーゼの子孫が日本に生まれてくると書いていた。」と太郎が言った。

「スティーブの言っている『神の計画』と、太郎の言っている『神の計画』の内容が異なるのじゃないのか?」と馬沢東が言った。

「『神の計画』の内容に違いがある?」

「スティーブの云う『神の計画』はハルマゲドン。太郎の云う『神の計画』は人類救済。とすれば、ブラッククロスの目的は人類滅亡と云うことで一致する訳だ。」

「なるほど。しかし、予言ではハルマゲドンの後に人類を救済するメシアが現れると謂われている。」と太郎が言った。

「そう。最終的には人類は救済されるのが真の『神の計画』だ。たぶん、予定通りの時間に予定通りの事件が発生することが『神の計画』実現に必要と云うことだろう。その事件を発生させるのが秘密結社・ブラッククロスの目的と云うことだろうかな?」とオブライエンが言った。

「そのためには手段を選ばないと云うことか?」と太郎が言った。

けがれた人類を滅ぼし、新しい人類を誕生させるには、大事の前の小事と云うところかも知れないな。」とオブライエンが言った。

「まあいい。我々はブラッククロスが巡航ミサイル発射の新犯人かどうかを確認すればいいのだろう。明日、馬が会う海軍技術武官の話からそれが判ればいいのだがな。それと、リチャードを殺した犯人も見つけたいな。」とスティーブが言った。



能登の錫杖42;九龍カオルン市街の尖沙咀チムシャツォイ

九龍・尖沙咀カオルン・チムシャツォイの香港芸術館;2008年12月13日(火) 午前11時過ぎ


地下鉄の尖沙咀駅を出た馬沢東まーつーとんはネイザン通りを海岸方向に歩き、香港太空館と云う宇宙科学館前に来た。そして、周囲を見まわした後、香港太空館の海側にある香港芸術館に歩いて行った。

馬沢東は香港芸術館の一階にあるカフェに入り、ビクトリア湾が見える屋外テラスのテーブル席に一人で座っている男性に近づいて行った。屋外テラスの前は芝生のガーデンが広がっており、その向こうにビクトリア湾が見える。まだ平日の午前中の為か、周りの席や芝生のガーデンには他の人影はない。


屋外テラスで話している馬沢東ら二人をビル影から眺めている一人の男の姿があった。

香港太空館は定休日でもあり、海沿いのプロムナードも人通りが少ない状況であった。

男はジャンパーの内ポケットから消音器付きの拳銃を取り出して、テラスの方向に歩いて行った。

サングラスを掛け、野球帽を被った男が近づいて来たのに気づいた馬沢東ともう一人の男が椅子から立ちあがった。

そして、サングラスの男が拳銃を馬沢東に向けて発射した。

『プシューン』と小さな音が聞こえた。

男が拳銃の引き金を引く瞬間に体を右方向に投げ出していた馬沢東は、辛うじて銃弾を避けることが出来た。馬沢東の相手の男性も同じ様に体を左方向に投げ出していた。馬沢東はカンフーの達人で、その俊敏な動作が役にたった。そして、馬沢東は左胸のホルスターからレボルバー型の拳銃を素早く取り出した。馬沢東の着ているワイシャツの胸部は防弾チョッキの為に平たく盛り上がっていた。

その時、サングラスの男の後方から、拳銃を手にして走ってきた三人の男があった。

「動くな、オブライエン。銃を捨てろ。」とジョージ・ハンコックが言った。

振りかえったサングラスの男は消音器付きの拳銃を持ったまま、両手を挙げた。

「ハンコックか。それに、スティーブと太郎か。まいったな。」とサングラスの男が呟いた。

立ちあがった馬沢東がサングラスの男の手から拳銃を取り上げ、手錠を後手に掛けた。

「何故わかった。そこの男は海軍の技術武官じゃないな。」とジョッシュ・オブライエンが言った。

「香港警察の刑事だよ。気が付くのが遅かったようだな、オブライエン。」と馬沢東が言った。

「香港警察に俺を引き渡すのか?」とオブライエンが訊いた。

「いや、お前には外交官特権がある。CIAと国防総省が事情聴取したあと、最終的にはアメリカ本国のFBIに二重スパイの容疑で引き渡すことになるだろう。」とジョージ・ハンコックが言った。

「そうか。」

「ついでに教えておいてやろう。中国海軍がIT企業の宋理永を拘束したとの情報がCIA本部から入った。」

「そうか・・・。」とオブライエンはガックリと肩を落とした。



能登の錫杖43;透視?

岐阜県不破郡垂井町の南宮大社・社務所内応接室;2008年12月15日(木) 午後2時ころ


参拝者のお祓いを執行するために拝殿へ出向いている神職・宝達奈美が社務所に戻ってくるのを大和太郎と半田警視庁長、円谷係長が応接室で待っていた。


「宝達教授からの連絡で半田警視庁長にお会いし、モンタージュ画を見せて頂いた時には驚きました。CIAのジュッシュ・オブライエンがブラッククロスの一員だとは、考えてもいませんでした。お蔭様で無事にオブライエンを香港で拘束できました。CIAのジョージ・ハンコックもよろしく伝えてほしいと言っていました。」

「CIAが追いかけていた事件とはどのような事だったのですか?」と半田警視長が訊いた。

「それは、私立探偵の守秘義務がありますので申し上げられません。すいません。」と太郎が言った。

「CIAの方は事件解決かも知れませんが、我々の方はまだ、リチャード・ケネディ氏の殺害犯人を特定できていません。たて前上は自殺なので犯人逮捕の必要はないのですが、やはり、すっきりしませんからね。それに、米軍基地からの拳銃流出によるテロ事件発生の心配ごとを抱えています。我々警察としてはハッピーエンドにほど遠い状況です。」と円谷係長が撫然とした表情で言った。

「まあ、大和探偵が持って来てくれたこのオブライエンの写真とケネディ氏の写真を宝達奈巳師に見せれば、問題は解決すると思われますから、そういきり立たないで下さい。」と半田警視長がなだめる様に言った。

「はあ。申し訳ありません。つい、興奮してしまいました。」


その後しばらくして宝達奈巳が応接室に姿を表わした。


「お待たせしました。それで、私へのご用件とは?」と奈巳が訊いた。

「この写真の人物を霊視していただきたいのですが、できますでしょうか?」と半田警視長が二枚の写真を奈巳に見せた。

「これは、モンタージュ画の白人男性ですね。もう一枚の写真の方は?」

「アメリカ大使館員の生前の写真です。リチャード・ケネディと云う方ですが、東京の国会前庭と云う場所で殺された人物です。モンタージュの白人はジョッシュ・オブライエンと云う名前です。」

「このお二人はお知り合いだったのですか?」

「ええ、そうです。」

「判りました。それで、日付はいつ頃で霊視すればよろしいでしょうか?」と奈巳が訊いた。

「今年の10月26日の午前11時ころです。リチャード・ケネディ氏が殺された日です。」

「あらまあ、それはそれは・・・。では、はじめましょう。」と言って、奈巳は写真を見ながら10月26日に意識を集中しはじめた。そして、呪文を唱えた後、印を斬ってから霊視を始めた。


「ケネディ氏が何処かの公園の木立の中にいます。他に人の姿は見えませんね。石造りの小さなローマ風神殿の建物があり、その傍らに説明板がありますね。『日本水準原点標庫』と書かれていますね。石造りの建物には小さな金属のくぐり扉がありますね。その扉の真ん中には16弁菊花紋が彫られています。そして、16弁菊花紋を支えるような図柄で、2匹の龍のような形をした菊の枝が右渦巻きと左渦巻きに描かれていますね。その扉をケネディ氏が不思議そうに見ています。何かを考えていますね。何でしょうかね。確かに意味あり気な図柄ですね。ああ、オブライエン氏が突然に現われ、ケネディ氏が驚いています。オブライエン氏は寒そうにしていて、革手袋をしていますね。何か話していますね。どうも、オブライエン氏は日本の言霊調査にきて偶然に出会ったようなこと言っています。ケネディ氏がCIA秘密諜報員規定その3に関する違反行為だとオブライエンに言いました。オブライエン氏はケネディ氏に謝っています。そして、オブライエン氏がケネディ氏にモーゼの子孫は何処に居るのか、と訊いていますね。それは古代史研究者の宝達君広が知っているだろう。とケネディ氏が答えました。宝達氏が竹内文献の研究から何かを発見したらしい。とケネディ氏が答えています。そして、何故にそんなことに興味があるのかとオブライエン氏に訊きました。オブライエン氏が昨日ケネディ氏のマンションから盗み出した紙きれに書かれていたの内容を思い出して、モーゼはヤハウエ神をある山に封印したのではないかと言った時、ケネディ氏はオブライエンが何故そのことを知っているのかと思ったようです。それは、ビッグ・ストーンクラブでもごく一部の人間しか知らない事だと言っていますね。もしかして、お前は神の計画を妨害するブラッククロスの一員か?と言ってケネディ氏がオブライエン氏の右腕を掴みました。そして、黒十字の刺青いれずみを見せろと叫んでいます。その時、オブライエン氏はベルトの背面部にあるホルスターから拳銃を左手で取り出してケネディ氏の右頭部に突きつけました。ケネディ氏は右手でその拳銃を取り除こうとした瞬間に銃の引き金は引かれ、ケネディ氏はその場に倒れました。オブライエン氏が革手袋をしたまま、その拳銃に残っているであろう自分の指紋をハンカチで拭き取り、倒れているケネディ氏の右手に握らせ、その場を立ち去りました。」と言って宝達奈巳が目を開けた。

「やはり、ケネディ殺しの犯人はオブライエンでしたね。」と円谷係長が言った。


「今年の9月13日のジョッシュ・オブライエンの行動を透視できますか?」と大和太郎が言った。

「9月13日ですね。見てみましょう。」と言って、奈巳は呪文を唱え、透視に入った。


「この日のオブライエン氏はどこか、午前中に香港空港を飛び立ち、南方の島に到着していますね。そして、アメリカ軍の基地を訪問されています。ああ、グアム島のアメリカ軍基地ですね。基地内の会議室で軍人と調査打ち合わせをして、ホテルに戻ってきたのが夕方ですね。現地時刻で午後6時ころですね。日本に巡航ミサイルが落ちていなと公衆電話で相手と話しています。電話の相手は何処の誰かは判りません。相手のことをナンバー・ファイブと呼んでいますね。台湾近海に居る台風のため巡航ミサイルは海中に落下したのだろう、と言っています。今後の対応については後日、いつものように公衆電話から報告すると言って、電話を切りましたね。その後はシャワーを浴び、レストランで食事をして、その後はパソコンで世界地図を見た後、ベッドに入りました。特に気になる行動はなさそうです。」と言って、奈巳は目を開けた。

「ナンバー・ファイブと云う人物の姿は見えないのですか?」と太郎が訊いた。

「ええ、残念ですが私には透視できません。」と奈巳が答えた。



能登の錫杖44;言霊奏上

東京都・警察庁近くの国会前庭;2008年12月16日(月) 午前11時過ぎ


大和太郎と半田警視長が時計の塔が見えるベンチに座って話している。


「ブラッククロスのジョッシュ・オブライエンが一昨日、殺されたそうです。」と大和太郎が言った。

「また、どうして?」と半田警視長が訊いた。

「CIA筋の人間からの情報では、国防総省が事情聴取するためにグアム島のアメリカ軍基地へオブライエンを連行したそうです。グアム島の空港で迎えに来た軍用車に乗せようとしたとき、酒に酔った男が突然、人混から現われて至近距離から拳銃を三発発射したそうです。一発は頭に命中しており、即死だったそうです。犯人は何故に自分が拳銃を持っていたのかわからないといっていたそうです。どうも、酒を飲まされ、催眠術を掛けられていたのではないかと云う話です。」と太郎が言った。

「かつて、ロバート・ケネディ氏が暗殺された時も、犯人は催眠術を掛けられていたと云うことでしたね。黒幕は秘密結社のブラッククロスですかね?」と半田警視長が言った。


「ところで、今後のことですが、宝達奈巳師には護衛が付くのでしょうか?」

「大和探偵の説が正しければ、護衛が必要かも知れませんが・・・。」

「ブラッククロスはモーゼの霊的な子孫を抹殺しようとしています。竹内文献には、右足の太腿に万国図形のアザがある神官が現れる時代になった時、万民の滅亡が近いと予言しています。宝達奈巳師の左脚太腿には古代シュメール王などが用いていた16弁菊花紋のアザがあります。また、新約聖書のルカによる福音書では、南の国の女王は裁きの時、彼らを罪に定めるために現れると言っています。南宮大社の神官である宝達奈巳師は南の国の女王であり、宝達山麓に葬られたモーゼの霊的子孫の可能性もあります。神の計画の実現を阻止しようとしてブラッククロスが世界に暗躍しています。用心する必要があるのではないでしょうか?」

「私は、大和探偵の説には飛躍があると思うのですがね・・・。モーゼの霊的な子孫は呪術を使って神を使役出来るはずです。奈巳師は呪文を使って霊視はできますが、神を使役できません。罪人の罪を暴くことはできますから南の国の女王であるかも知れませんがね。まあ、宝達教授が拉致されかけた事件もありますから、当面は岐阜県警には注意してもらいますが、すでに別の組織が護衛しているとの知らせが岐阜県警から入っています。」

「別の組織が護衛しているのですか?」

「たぶん、ビッグ・ストーンクラブでしょう。」

「なるほどね。これで、宝達教授のお母さんも、少しは安心されるでしょう。」と太郎が言った。

「少しの安心だけですか・・・。」

「ああ、失礼しました。大いに安心されるでしょう。」と太郎が言い直した。


「そろそろ、その奈巳師が現れる頃ですがね・・・。」と言いながら、半田警視長が周辺を見まわした。

そして、宝達奈巳の姿が見えた。

「ほら、この公園の国会議事堂側入り口の木陰と、憲政記念館横の木陰に人影がみえるでしょう。あれが別組織の護衛ですよ。そして、桜田門方面の入口に立っている二人が岐阜県警の人間です。」と半田警視長が太郎にささやいた。

「お待たせいたしました。だいぶんお待ちになりましたか?」と奈巳が言った。

「いえ。我々も今しがた来たところです。お疲れですか?」と半田警視長が言った。

「いえ、大丈夫です。早速ですが、日本水準原点標庫を見に参りましょう。」と奈巳が言った。


石造りの建築物にある金属製の小さな扉のレリーフを見ながら宝達奈巳が呪文を唱えている。そして、しばらくの間、目を閉じた。

「やはり言霊をイメージしていたのね、この彫刻のデザイナーは。」と言って奈巳が目を開けた

「言霊ですか?」と太郎が言った。

「ええ。ケネディ氏はこのことを確認するために、殺された日、この公園に来たようです。あなた方が先日来られて、置いて行かれた彼の写真を霊視して判りました。ケネディ氏は国会図書館で出口王仁三郎聖言集・三鏡(八幡書店刊)と云う本を読んだようです。大学生時代は日本語学科で学んでいたようです。」

「やはり、ケネディ氏は日本語が読めたのですか。」と太郎が言った。

「その三鏡の中に、『言霊は地上75尺の高地より発するのが本当である』と書かれています。この日本水準原点の現在の高さは海抜24.414mです。しかし、明治時代に設定された時は24.5mでした。75尺とは日本単位で22.7m。踏台の上に乗った人の口の高さ1.8mを加えると24.5mになります。言い換えますと、日本水準原点は言霊発声の高さに設定されたのでした。その事を表現したのが、この扉に描かれているレリーフの図柄なのです。日本は言霊のさきわう国です。」

「はあ、そんな深い意味があるのですか、日本水準原点には。」と大和太郎が言った。

「そして、この図柄にある16弁菊花紋は言霊であると同時にサキタマでもあります。先日執行しました榛名山斎生神業の時、2柱の金色の龍が右回りと左回りに高速回転して大きな水玉、すなわちサキタマが創成されました。この図柄は言霊を奏上することにより、水から幸玉さきたまが生まれることを表象しているのです。ですから、この図柄では、龍のような形をした2本の菊の枝が右渦と左渦になって幸玉であり世界象徴図形でもある16弁菊花紋を支えている形に描かれているのです。」と宝達奈巳が言った。


そして、時計の塔の前にある大きな噴水池のふちにあがり、北向きに立ち、日本水準原点の真北にある皇居の賢所かしこどころを通じて天照大御神と北極星をイメージしながら、宝達奈巳が天津祝詞あまつのりとを言霊奏上し始めた。


『高天原に神留座かむずまります。神魯伎かむろぎ神魯美かむろみ詔以みこともちて。皇御祖すめみおやかむ伊邪那岐大神。筑紫の日向ひむかの橘の小戸おどの阿波岐原に御禊祓みそぎはらへ給ひし時に生坐あれませる祓戸の大神等おおかみたち。諸々の枉事まがごと罪穢を払ひ賜へ清め賜へと申す事のよしを天津神国津神。八百万の神等共に聞食きこしめせとかしこみ恐み申す』


賢所かしこどころ:天照大御神の神魂である八咫鏡を祀る宮中の祭祠場。皇居内では、三神殿の中央にある。恐所、威所、畏所、内侍所と呼ぶ場合もある。



能登の錫杖45;エピローグ

京都市左京区修学院・藤原教授宅応接室;2008年12月31日(水)  午前11時過ぎ


来年の正月は久しぶりに京都で迎えようと思っていた大和太郎は京都駅前の京都Tホテルの部屋を三カ月前に予約していた。学生時代の春休みにホテルロビーにあるコーヒーラウンジのウェイターとしてアルバイトをしていたよしみで、ホテルの専務取締役になっている元フロアマネジャーの紹介によって正月の部屋を特別に押さえることが出来たのであった。

年末の挨拶を兼ねて藤原教授を訪問し、教授が来年の春の日本古代史学会総会で発表する予定の論文の進み具合を確認しようと思い、太郎は修学院・藤原教授邸に来ていた。


「藤原先生、竹内文献に関する論文はまとまりましたか。宝達教授には勝てそうですか?」と大和太郎が言った。

「概略はまとめました。あとは、枝葉を付け加えていく作業が残っています。大和君の方は無事事件終了しましたか?」と藤原教授と訊いた。

「お陰さまで、無事ではありませんでしたが、業務終了といったところです。まあ、すっきりしない点もありますが・・・。」

「すっきりしない点とは?」

「ブラッククロスと云う秘密結社の男が殺されて、事件の詳しい背景やブラッククロスの狙いが有耶無耶になってしまいました。そして、宝達教授の妹の宝達奈巳師には護衛が必要になってしまいました。まあ、相手が世界的規模の正体不明の秘密結社ですから、致し方ありません。」と残念そうに太郎が言った。

「そうですか。私の方も疑問点が残っており、その点の解明について、今回は諦めました。」と教授が言った。

「どのような事ですか?」

「天津教教祖・竹内巨麿たけうちきよまろの正体です。」

「正体?」

「茨城県北茨城市磯原にある天津教・皇祖皇太神宮と宝達山・宝達大権現は同じ緯度にあり、この二つを結ぶ線上には高岡市二上山麓にある二上射水神社もあるのだよ。この越中総社・二上射水神社には天の真名井を祀る築山神事があります。そして、築山神事の時に天から降りてくる男神・二上大神の正体が不明なのです。竹内巨麿は京都鞍馬山で天狗修行とも謂われる修験道の修行をしています。そして、越中富山から遠く離れた常陸国の太平洋海岸にある磯原に皇祖皇太神宮を創建しました。以前、お話した、源義経と同行していた常陸坊海尊と云う逃げ足の早い坊主が怪しいのです。磯原の皇祖皇太神宮の真南には、鹿島神宮の要石と繋がっている見目浦の磐座(岩)が鹿島灘の海中にあるらしいのです。古代には鹿島灘を大海と呼んでおり、宝達山のある地域もかつては大海村と呼ばれていました。竹内巨麿に憑依した天狗霊が常陸坊海尊こと鞍馬寺の魔王尊サナート・クマラではないかと仮定してみると、竹内文献の内容が見えてくるのですが・・・。まあ、いろいろ調べましたが、科学的証拠がないのでね、今回の論文から外しました。それから、皇祖皇太神宮を上空から撮った写真を見ますとね、緑の雑木林が龍のように繋がっていましてね、その龍の手に相当する場所に皇祖皇太神宮があるのです。皇祖皇太神宮の神紋である16弁菊花紋を水晶玉と見立てると、龍が水晶玉のサキタマを手に持って天空を泳いでいる姿に見えるのだよ、私には。」と藤原教授が言った。


(※著者注;ヤフーの検索ホームページにあるヤフー地図で皇祖皇太神宮の住所・茨城県北茨城市磯原町磯原835番地を見てください。その地図画面にある写真ボタンをクリックすると航空写真に変わります。その航空写真で雑木林を見てください。あなたには、その雑木林が龍の形に見えますか・・・?)


「あっはっはっは。教授の発想はすごいですね。いつも感心させられます。全く・・・。」

「まあ、そう冷やかさないで下さい。私としては真剣なのですから。大和君、この謎を解いてくれませんかね。」と、藤原教授が真顔で言った。

「ええっ、私がその謎を解くのですか・・・?何となく、藤原先生がスフィンクスに見えてきました。」と言って、大和太郎は目をパチクリさせた。



       能登の錫杖〜竹内文献モーゼ伝説殺人事件〜 

               《完》

             目賀見 勝利

       2010年11月28日 15時15分 脱稿

       2010年12月12日 10時40分 37神事部分修正

       2010年12月14日 11時08分 38神業遠景一部分追加


          :参考文献:

 増補三鏡  出口王仁三郎聖言集 2010年 八幡書店刊

 神から人類への啓示 藤原大士著 1992年 日新報道刊 

 謎の竹内文書    佐治芳彦著 1979年 徳間書店刊

 超図解竹内文書   高坂和導著 1995年 徳間書店刊  

 気の発見      西野皓三著 平成元年  祥伝社 刊

 新訂三神の秘義   高良容像著 昭和54年 富士見書房刊

 強運        深見東州著 平成10年 たちばな出版刊

封印されたモーゼ書の秘密  K.v.プフェッテンバッハ著 並木伸一郎訳 KKロングセラーズ刊

 神々の指紋・下   グラハム・ハンコック著 大地舜訳 1999年 小学館文庫 

 地球の歩き方 エジプト     2009年 ダイヤモンド社刊

ノストラダムス大予言原典諸世紀 H.C.ロバーツ編纂 大乗和子訳 昭和50年 たま出版刊


    

 






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