第9話 何もしてない人の評価会議
リオがその日、何をしていたかというと――
「……ふぁぁ……」
自宅の裏で、干し草の山に埋もれながら昼寝をしていた。
(静かだ……最高だ……)
昨日の公開訓練?
知らない。
評価?
聞きたくない。
彼の世界は、今日も平和だった。
――ただし。
◆ 一方その頃:大人たちの地獄
「……では、整理しよう」
村の集会所。
教官、役人、長老、そして魔術師ノイン。
全員が、重たい顔をしていた。
「まず確認だ」
教官が言う。
「リオは、何もしていない」
全員、頷く。
「だが――」
一拍。
「結果だけを見ると、完璧だ」
沈黙。
「危険域から外れていた」
「混乱を生まず、被害ゼロ」
「周囲の行動だけが崩れた」
誰かが、頭を抱える。
「……扱いに困る」
◆ 魔術師ノインの結論
「困る、では済まん」
ノインが、杖を鳴らした。
「測定不能という言葉が、誤解を招いた」
「では、どう言い換える?」
ノインは、即答しなかった。
代わりに、こう言った。
「測れないのではない」
「こちらが、追いついていない」
また、沈黙。
「彼は、力を使っていない」
「だが、“場”だけが変わる」
教官が、低く呟く。
「……つまり」
ノインは、頷いた。
「存在自体が、基準になっている」
(重い)
◆ 報告書という名の呪い
役人が、紙束をめくる。
「……報告書には、こう書かれる予定です」
・測定不能
・刺激厳禁
・不用意な接触を避けること
・集団行動においては、基準点として配置
誰かが言った。
「……子どもに貼る札じゃない」
だが、誰も反論できなかった。
◆ フィン、無自覚に決定打
「……あの」
そこに、フィンがいた。
なぜか、当然のように。
「一つ、いいですか」
全員が、顔を向ける。
フィンは、少しだけ考えてから言った。
「リオさんは、“自分から世界を動かさない”人です」
頷きが起きる。
「だから、こちらが勝手に動くと、
自滅するだけなんです」
――完全に、核心を突いた。
だが。
「……なるほど」
「それだ」
「つまり、“こちらが動きすぎるな”という警告……」
話が一段深くなった。
(フィン、やめろ)
◆ 結論(本人不在)
長老が、まとめる。
「よし」
嫌な言葉だ。
「リオについては――」
一拍。
「“特別扱いしない”ことを、
特別に徹底する」
全員、真顔で頷いた。
「過剰に期待しない」
「だが、軽視もしない」
「刺激しない」
「観察は続ける」
誰かが、ぽつりと言った。
「……これ、普通じゃないな」
ノインは、静かに答えた。
「普通であっては、ならん」
◆ 本人の世界
その頃。
リオは、寝返りを打っていた。
「……平和だ……」
誰にも呼ばれない。
誰にも見られない。
完璧な一日。
彼は知らない。
自分が今、
特例枠
要観察対象
基準外存在
として、正式に管理対象になったことを。
その日の夕方。
母が、ぽつりと言った。
「ねえ、リオ」
「なに?」
「明日から……
少し、環境が変わるみたい」
リオは、即答した。
「……面倒なやつ?」
母は、笑って誤魔化した。
「ええ。たぶん」
リオは、空を見上げる。
「……俺、何もしてないんだけどな」
だが、世界はもう、
その言葉を信じていなかった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




