第8話 え? 俺、何もしてないんだけど?
試験中止。
その四文字が告げられた瞬間、
訓練場は完全に沈黙した。
煙は晴れている。
怪我人はいない。
だが――
空気だけが、壊れていた。
◆ 公開の場で、評価が確定する
「……確認する」
教官の声が、やけに低い。
「リオ」
名前を呼ばれて、俺は反射的に背筋を伸ばした。
(怒られるか?
ついに怒られるのか?)
「お前は、なぜ下がった」
全員が、俺を見る。
村の大人。
役人。
子どもたち。
逃げ場はない。
俺は、正直に答えた。
「……近いと、危ないかなって」
ざわっ。
「事前に、暴発を予測していたのか?」
「……してないです」
さらに、ざわっ。
「なら、なぜ“一人だけ”無事だった?」
俺は、困った。
困った末に、こう言った。
「……たまたまです」
その瞬間。
完全に空気が凍った。
◆ “たまたま”が一番ヤバい
「……たまたま?」
誰かが、喉を鳴らした。
「いや……」
「それは……」
教官が、ゆっくりと息を吐く。
「無意識下での最適行動……」
(違う)
「危険域を直感的に避けた……」
(違う)
「測定不能なのも、説明がつく」
(説明ついてない)
俺は、思った。
(あ、これ
何言っても悪化するやつだ)
◆ 敵、完全沈黙
レオンは、まだ地面に座り込んでいた。
顔が、真っ青だ。
「……そんな……」
彼は、呟く。
「俺は、全部考えて……
指示も出して……」
教官は、レオンを見た。
そして、静かに言う。
「考えすぎたな」
それだけだった。
それ以上の追撃は、なかった。
だからこそ、重かった。
◆ フィン、最後の追い打ち(無自覚)
沈黙を破ったのは、フィンだった。
「……やっぱり」
小さな声だが、
なぜか全員に聞こえた。
「“動かない”という判断が、
最も高度だった」
俺は、即座に言った。
「違う!」
全員が、俺を見る。
「俺は、ただ……
巻き込まれたくなかっただけだ!」
正直な叫びだった。
だが。
フィンは、静かに頷いた。
「……その発想が、
もう“次元が違う”んです」
――詰んだ。
◆ 評価、確定
教官は、全体に向かって言った。
「結論を出す」
嫌な予感しかしない。
「リオは――」
一拍。
「測定不能ではない」
(え?)
「測定する側が、追いついていないだけだ」
(え??)
場が、ざわめきから、
どよめきへ変わる。
「今後、彼を
“価値ゼロ”などと呼ぶことを禁ずる」
(ありがたいが)
「むしろ……」
教官は、言葉を選ぶ。
「基準外だ」
(余計にやばい)
◆ 主人公、完全困惑
試験は終了。
解散。
だが、誰もすぐには動かなかった。
視線が、俺から離れない。
怖い。
純粋に怖い。
俺は、フィンに小声で聞いた。
「なあ……」
「はい!」
「俺、何かしたか?」
フィンは、真顔で答えた。
「“何もしなかった”ことです」
俺は、天を仰いだ。
「……え?」
その時、
心の底から出た言葉が、これだった。
「……え?
俺、何もしてないんだけど?」
◆ エピローグ(余韻)
その日から。
俺は――
価値ゼロ → 撤回
測定不能 → 再評価対象
要注意 → 扱い注意
という、
非常に面倒な立ち位置になった。
俺の願いは、ただ一つだった。
(頼むから
普通にしてくれ)
だが、世界はもう、
俺を普通扱いする気がないらしい。
――こうして。
「価値ゼロのはずだった俺」の
意味不明な日常は、正式に始まった。
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