第4話 やらないことを選ぶ人
翌朝。
俺は、違和感に包まれていた。
(……視線、多くない?)
昨日まで「空気」だったはずの俺に、
今日はやたらと視線が刺さる。
好奇心。
困惑。
そして――一部、尊敬。
(やめろ
尊敬だけはやめろ)
俺は、いつも通り一番端の席に座り、
存在感を限界まで薄める。
完璧だ。
これで今日は平穏――
「リオさん!」
――違った。
◆ 盲信系、爆誕
声をかけてきたのは、小柄な少年だった。
俺より一つか二つ下。
目が、やたらキラキラしている。
「……なに?」
できるだけ低刺激で返す。
すると少年は、拳を握りしめて言った。
「昨日の行動……感動しました!」
……何の話だ。
「列の最後に回る判断!
歩調を合わせず、間合いを保つ動き!
そして、あの“立ち続ける姿勢”!」
全部、俺の中では
面倒くささの集合体なんだが。
「……それ、違う」
即否定。
だが少年は、首を横に振った。
「いえ!
あれは“やらないことを選ぶ”高度な判断です!」
(やらないのは合ってるが
高度ではない)
「多くの人は、やらなくていいことを“やってしまう”。
でもリオさんは違う!」
違わない。
俺はただ、動きたくないだけだ。
「リオさんは……」
少年は、息を吸い、宣言した。
「“何もしないことで、場を支配する人”です!」
――やめろ。
その言い方は、
後々とんでもない誤解を生むやつだ。
◆ 主人公、必死に否定する
「違う」
「いえ!」
「偶然だ」
「偶然を再現できるのは、実力です!」
「楽したいだけだ」
「合理的思考!」
(くそ……)
俺は、初めて思った。
(このタイプ、話が通じない)
「……名前は」
「はい! フィンです!」
フィン。
覚えたくなかったが、覚えてしまった。
「フィン、頼むから俺に近づくな」
するとフィンは、目を潤ませた。
「……近づくな、ですか」
(あ、言い方間違えた)
「やっぱり……」
フィンは、深く頷く。
「不用意に弟子を作らない慎重さ……!」
(違う!
違うから!)
俺は、頭を抱えた。
◆ ズレた味方は、敵より厄介
昼休み。
俺が一人で座っていると、フィンが隣に座る。
「……来るなって言っただろ」
「はい。
でも“距離を保ちつつ側にいる”のが、最適だと判断しました」
(判断するな)
しかも、周囲の視線がさらに悪化している。
「なにあれ……」
「弟子?」
「公認?」
(誰もそんなこと言ってない)
フィンは、真剣な顔で言う。
「リオさんは、“動かないことで周囲を考えさせる”」
「考えさせた覚えはない」
「でも、みんな考えてます!」
それが問題だ。
◆ 教官、誤解を後押しする
午後の訓練。
教官が、全体を見渡しながら言った。
「……一つ、注目点がある」
嫌な予感しかしない。
「リオの周囲だけ、無駄な動きがない」
(だからやめろ)
「彼は、積極的に指示を出さない」
(出せない)
「だが、結果として集団が安定している」
(偶然)
フィンが、小さく拳を握る。
「……やっぱり」
やっぱりじゃない。
◆ 主人公の内心
その日の終わり。
俺は、布団に潜り込み、真剣に考えていた。
(まずい
これは“変な味方”がついた)
敵より厄介だ。
殴れない。
追い払えない。
勝手に評価を盛ってくる。
「……俺は、ただ楽したいだけなのに」
フィンの目は、本気だった。
あれは、もう疑いようがない。
そして俺は理解した。
誤解は、否定すると強化される。
最悪だ。
翌日、俺の名前は
「何もしないのにすごい人」
として、小さく広まり始めていた。
――完全に、手遅れな方向で。
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