第34話(最終話) 何もしていない日常
朝は、静かだった。
鳥の声。
風の音。
それだけ。
俺は、布団の中で目を開けて、
少しだけ考える。
(……ああ、
戻ってきたんだな)
どこへ、とは考えない。
ここだ。
◆ 何もない朝
顔を洗って、
適当に飯を食う。
誰も見ていない。
記録もない。
指示も、同行もない。
「……普通だ」
口に出してみて、
少しだけ笑った。
普通って、
こんな感じだった。
◆ 誰も特別扱いしない
道を歩く。
すれ違う人は、
俺を見ない。
見たとしても、
ただの通行人だ。
噂もない。
評価もない。
――完璧だ。
◆ 世界のどこかで
世界のどこかでは、
今も問題は起きているだろう。
争いもある。
判断ミスもある。
それでも。
俺が呼ばれることは、
もうない。
それでいい。
◆ 主人公の本音
昼過ぎ。
木陰に座って、
空を見上げる。
「……何もしなくていいって、
楽だな」
誰に言うでもなく、
ただの独り言。
前は、
何もしないことが
理由を持たされていた。
今は違う。
何もしないだけだ。
◆ 小さな違和感
ふと、思う。
(……あれ、
俺って、
役に立ってたのか?)
少し考えて、
やめた。
答えを出す必要がない。
◆ 夕暮れ
空が、
ゆっくり赤くなる。
今日も、
何も起きなかった。
それで、
十分だ。
俺は、伸びをする。
「……明日も、
何もしないか」
それが、
今の俺の予定だ。
◆
俺は今日も、
何もしていない。
それで、
世界は平和らしい。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
この物語は、
「努力しない主人公」
「成長しない主人公」
「何もしない主人公」
という、かなり変わった前提から始まりました。
物語の途中で
「いつ覚醒するんだろう」
「実はすごい力があるんじゃないか」
と思った方もいたかもしれません。
ですが、この作品では最後まで
何も起きませんでした。
主人公は強くならず、
世界を救う決断もせず、
勘違いを正すこともありません。
それでも世界は、
勝手に意味を見つけ、
勝手に納得し、
勝手に去っていきます。
個人的には、
「何かをしなければ価値がない」
「目立たなければ意味がない」
という考え方に、
少しだけ疑問を持ったことが
この物語の出発点でした。
何もしないことで、
救われる場面もある。
前に出ないことで、
壊れないものもある。
そんな話を、
軽く、静かに書いてみたかったのです。
最後まで、
この奇妙な物語に付き合っていただき、
本当にありがとうございました。
またどこかで、
「何もしていない物語」を
お届けできればと思います。




