第31話 一番壊れやすい場所へ
結論から言うと。
ここは、俺が来ちゃいけない場所だ。
目の前に広がる街は、
どう見ても限界だった。
壁はひび割れ、
通りには人が多すぎる。
怒鳴り声。
不満。
押し殺された焦り。
(……内乱前夜、
ってやつじゃないか)
そんな場所に、
俺は“後方配置”として放り込まれた。
「リオは、ここに立ってくれ」
示されたのは、
相変わらず後ろの位置。
前線ではない。
だが、安全とも言えない。
(いや、
ここ自体が危険だろ)
周囲の人間の動きが、明らかにおかしかった。
声が低い。
動きが遅い。
判断が、やたら慎重だ。
「……まず、状況整理を」
「いや、
もう一度確認を」
「念のため、
第三案も考えよう」
(確認、多すぎないか)
誰も強い指示を出さない。
誰も踏み込まない。
視線だけが、
ときどき俺に向く。
(俺、
何もしてないんだけど)
俺は、黙って立っていた。
指示もしない。
意見も言わない。
ただ、
そこにいるだけ。
それなのに。
全員が一度、動きを止める。
全員が、
「一呼吸置く」。
(……ブレーキ役?)
嫌な予感が、
はっきりと形になる。
この場所は、
本来なら壊れるはずだ。
誰かが焦って、
誰かが怒鳴って、
誰かが強行して。
でも――
誰も、
それをしない。
理由は、
俺には分からない。
分かるのは一つだけだ。
(……俺、
ここで一番、
役に立ってないはずなんだが)
それでも、
街はまだ持ちこたえている。
壊れずに、
踏みとどまっている。
俺は、空を見上げた。
「……本当に、
来ちゃいけない場所だろ、ここ」
誰も答えない。
だが、
誰も動かない。
それが、
この場所にとって
一番危険で、
一番安全な状態だった。
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