第18話 もう普通は無理かもしれない
その日は、何も起きなかった。
訓練も、問題なし。
会話も、最低限。
誰も、俺に近づかない。
――完璧な一日。
の、はずだった。
◆ 静かすぎる日常
木陰に座って、空を眺める。
風が吹く。
雲が流れる。
俺は、何もしていない。
なのに。
(……落ち着かない)
理由は、分かっている。
静かすぎる。
誰も、雑に話しかけてこない。
誰も、気軽に声をかけてこない。
全部が、
**「配慮された静けさ」**だ。
◆ フィンの距離
フィンは、いつも通り近くにいる。
だが、一定距離を保っている。
「……フィン」
「はい」
「もう少し、近く来てもいいぞ」
一瞬、フィンが固まった。
「……いいんですか?」
「いい」
フィンは、一歩近づいた。
――すぐに、止まった。
「……やっぱり、このくらいで」
(だよな)
俺は、何も言わなかった。
◆ ふとした自覚
俺は、考えてしまった。
(俺、
“何もしない”ことで
ここにいるんだよな)
頑張ってもいない。
役に立ってもいない。
ただ、
問題を起こさない存在。
それが、
評価されている。
(……それって)
胸の奥が、
少しだけ、重くなる。
◆ 「普通」が思い出せない
昔のことを、思い出す。
誰かと並んで座って、
どうでもいい話をして。
怒られて、
笑われて。
今は――
誰も、
俺を怒らない。
誰も、
俺を雑に扱わない。
それが、
こんなに息苦しいとは、思わなかった。
◆ 本人の限界
俺は、ぽつりと呟いた。
「……なあ」
誰に向けた言葉か、分からない。
「俺、
ここにいていいのか?」
答えは、ない。
だが、世界は答えていた。
「ここにいろ」
と。
◆ 夜の独白
その夜。
布団の中で、
天井を見つめながら考える。
(逃げたい)
でも、どこに?
(普通に戻りたい)
でも、戻る場所は?
考えれば考えるほど、
分からなくなる。
そして、
ふと、思ってしまった。
「……もう、
普通は無理かもしれない」
声に出すと、
妙に現実味があった。
◆ エンディング
翌朝。
いつもと同じ訓練場。
いつもと同じ距離。
いつもと同じ視線。
何も、変わらない。
――だからこそ。
この日常は、
長く続かない
という予感だけが、
確かにあった。
次に来るのは、
きっと。
「ここでは済まなくなる出来事」。
それを、
俺はまだ知らない。
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