第12話 配慮という名の完成形
結論から言うと。
俺の日常は、完成してしまった。
しかも、
俺の知らないところで。
◆ 朝からおかしい
訓練場に着いた瞬間、違和感が確信に変わった。
人が――
俺を避けて動いている。
(露骨すぎないか?)
俺が一歩進むと、
周囲が半歩引く。
俺が立ち止まると、
周囲も止まる。
(信号かよ)
◆ 席が、毎回違う
「……あれ?」
自分の席がない。
正確には、
決まっていない。
空いている席に座ろうとすると、
「……そこは、視界が狭いかもしれない」
別の席に移ると、
「……風向きが悪いですね」
(何の話?)
最終的に、
誰も使っていない端の席に案内される。
「ここなら……」
教官が、満足そうに頷く。
「何も起きない」
(俺も何も起こさない)
◆ フィン、増える
「おはようございます、リオさん」
「……おはよう」
気づくと、フィンの隣に、
もう一人立っていた。
「こちら、ミラです」
「は、はじめまして……!」
ミラは、緊張しながらも、
俺を直視しない。
(またか)
「リオさんの“間合い”を学びたいそうです」
(やめろ)
フィンが、静かに言う。
「近づきすぎると、
考えを乱しますから」
(乱れてるのは周囲だ)
◆ 配慮が、勝手に進化する
訓練が始まる。
俺は、言われた通り、
何もしない。
だが。
「……あ」
誰かが、俺の近くで動こうとして止まる。
「いや……今は……」
「やめとこう」
(俺、爆発物じゃない)
教官が言う。
「リオの周囲一歩は、空けろ」
(立ち入り禁止区域か)
◆ 主人公、試しに動く
俺は、ふと思った。
(ここで一歩、前に出たらどうなるんだ)
好奇心だ。
深い意味はない。
俺は、一歩前に出た。
――ざわっ。
全体が、一瞬で硬直する。
フィンが、息を呑む。
「……判断を変えた?」
(してない)
教官が、手を上げる。
「……全員、待て」
(待つな)
俺は、慌てて元の位置に戻った。
空気が、ふっと緩む。
「……よし」
(何がよしだ)
◆ 主人公、悟る
その瞬間、
俺は理解した。
(あ、これ
俺が“動かない前提”で
世界が組まれてる)
抵抗しても、
誤解が深まるだけ。
否定しても、
配慮が増えるだけ。
(詰んだな)
◆ 日常の完成
昼休み。
俺は、いつもの木陰に座る。
誰も来ない。
ただ、一定距離の外側で、
フィンとミラが立っている。
「……番犬か?」
「違います」
フィンが即答する。
「安全管理です」
(何から何を守ってる)
◆ エンディング
その日の帰り道。
俺は、空を見上げて言った。
「……俺、何もしてないよな?」
フィンは、真顔で答えた。
「はい」
……よかった。
だが、続けてこう言った。
「だからこそ、です」
俺は、何も言えなかった。
否定すると、
何かが増える。
だから俺は、決めた。
(もういい
何もしないのを、
本気でやろう)
こうして。
ズレた配慮は、日常として完成した。
次に起きるのは――
この日常が、
外の世界に持ち出される事件だ。
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