第1話 価値ゼロ、爆誕
この物語の主人公は、
努力もしません。
修行もしません。
覚醒もしません。
できることと言えば、
関わらないことと、サボることくらいです。
それなのに――
なぜか周囲が勝手に深読みし、
評価だけが上がっていきます。
本人はずっと、
「何もしてないんだけど?」
と困惑しているだけなのに。
これは、
何もしたくない少年が、
何もしていないまま逃げ場を失っていく話です。
肩の力を抜いて、
ツッコミながら読んでいただければ幸いです。
人生には、だいたい三回くらい「終わったな」と思う瞬間があるらしい。
俺の場合、その一回目は ―五歳だった。
「では、次。リオ・ハルド君」
名前を呼ばれた瞬間、広場の空気が微妙に緩んだのを、俺は感じ取ってしまった。
(あ、これ“期待されてないやつ”だ)
村の子ども全員が並ばされ、順番に「能力測定」とやらを受けている。
石でできた円陣に立つと、魔力だの属性だのが分かるらしい。
さっきの子は、火が出た。
その前の子は、水が出た。
出るたびに、大人たちは「おおー!」と盛り上がる。
――そして俺。
俺の番になった瞬間、
「……ああ、はいはい」
「次行こう、次」
「まぁ、数合わせだな」
そんな空気が、はっきり伝わってくる。
(分かる。分かるぞ。
どうせ俺は“ハズレ枠”だ)
実際、俺は目立たない。
泣かない。騒がない。主張しない。
大人から見れば、
「いてもいなくても同じ子」だ。
俺は深く息を吸い――やめた。
(深呼吸して失敗したら目立つしな)
とりあえず、何も考えず、円陣の中央に立つ。
「力を抜いて」
白ひげの魔術師が言う。
(力……?
そもそも入れてないんだが)
目を閉じる。
早く終わってほしい。
怒られませんように。
変なこと起きませんように。
――数秒。
……何も起きない。
目を開ける。
魔術師が、円陣を覗き込んでいる。
「……?」
周囲も、静かだ。
(あれ?
普通、ここで「ポン」ってなんか出るんじゃ?)
「もう一度」
杖が、コツンと鳴る。
――無。
火も出ない。
水も湧かない。
風も吹かない。
沈黙。
そして――
「……測定不能」
その言葉が放たれた瞬間。
「ぶっ」
「は?」
「測定不能?」
「そんなの初めて聞いたぞ」
笑いが、広場に広がった。
(あ、やっぱりそっち?)
「才能ゼロってことだろ」
「いや、ゼロ以下じゃね?」
「円陣が反応しないって、逆にすごいな」
いや、すごくない。
全然すごくない。
むしろ、俺の心は順調に地面を掘り進んでいる。
(知ってた……
やっぱり俺、何やってもダメだ)
父親が、後ろで咳払いをした。
「……先生。つまり、この子は」
魔術師は、少し言いづらそうに言った。
「現状では……価値が測れん」
誰かが、遠慮なくまとめた。
「要するに、価値ゼロだな」
――ドン。
俺の中で、何かが確定した。
(はい終了。
俺の人生、五年で終了)
母親が慌てて駆け寄る。
「そ、そんな……この子、静かなだけで……」
「静かすぎるのも問題だ」
「不気味だろ」
「将来、何になるんだ?」
(何にもならない予定です……)
俺は、深く深くうなだれた。
怒られないだけマシだ。
殴られないだけマシだ。
ただ――
「じゃあ次行こうか!」
魔術師があっさり言った。
――え?
終わり?
封印とか、追放とか、
もっとこう、重いやつは?
周囲も、拍子抜けしたように解散し始める。
「まぁ、害はなさそうだしな」
「放っとけばいいだろ」
「近づかなければ」
(放置確定)
円陣を降りた俺を、誰も見ていなかった。
誰も期待していない。
誰も注目していない。
――最高だ。
(よし。
これで一生、目立たずに生きられる)
俺は、その時、本気でそう思っていた。
まさかこの
「測定不能=価値ゼロ」が、
・深読みされ
・誤解され
・勝手に意味を盛られ
・最終的に人生を破壊していく
とは、夢にも思わずに。
俺は小さく、こう結論づけた。
「……やっぱり俺は、何をやってもダメだ」
その評価だけが、
この世界で唯一、正しかったのに。
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