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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
第一章

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1-6 "声"なんです、ほんとです。

「ギルドの事務仕事は、多岐にわたります。ここで斡旋する仕事は、通常業務の分類整理の支援が中心です。」

 フィオは手元の資料をめくり、柔らかい声で説明を続ける。奇麗な声だな、と。のんきなことを考えながらも、聞き漏らさないように注意した。

「依頼書の整理、報告書の写し、記録の転記……それから、渡り人の方の場合は読み書きの確認も兼ねて、簡単な文書作成をお願いすることがあります。

 計算が得意な方には決算関係などお金周りの処理を支援もお願いしたいところですが。

 誤りが許されない業務である点と、外部の方にお見せをためらう情報もあり、めったに斡旋はしていません。」

「文書作成なら、むしろ得意ですよ。任せてください」

 経理系に手を出すのは、やめておこう。どっちかと言えば、整理関係のほうがいい。AIもいるしな。


「“文書作成が得意”という自己申告を確認しました。必要であれば、文章構造の一般的な最適化手法を――」

「いや、黙ってろって……!」

 AIはすぐに静かになった。フィオはそのやり取りを見て、そっと笑う。

「……本当に、不思議な“声”ですね。その声には、どう答えたらいいでしょう?」

「え?あ、今、何か言いました?」


「“答える”という行為の定義が曖昧です。対象が音声である場合、返答は不要です」

 フィオは静かにほほ笑んだ。

「ほら、その”声”ですよ」

 俺は頭を抱えた。なんて答えよう。


「返答の必要性は入力種別によって異なります。現在の音声は、あなた宛てではありません」

 フィオの笑顔はどんどん眩しくなってくる。

「聞こえましたよね?あなた宛てというのは、どなたのことでしょう?」

 はあ、もう、どうにでもなれ。

「ええとですね・・・信じてもらえるかわかりませんが・・・」


「はいっ!」

 なぜか、フィオはとても嬉しそうな声で返事をくれた。

「あれは、俺の声なんですよ。真剣に考えるときの独り言、みたいなものです」

 信じて・・・くれないかなあ。

「え?はあ、そうですか・・・」

 なんか、すごくがっかりしてるな。なぜだ。まあ、追及されないより、ありがたいが。 しかしよく、こんな言い訳を受け入れてくれるな。

「”渡り人”候補の方と伺い、もしかしたらと思ったのですが・・・」


「渡り人である確率は未確定です。現時点で特別な機能は検出されていません」

 フィオはなぜか、嬉しそうに目を細めた。何なんだ、この人。

「ええと、"渡り人"の説明をしましょうか?」


「説明要求は受理されていません。渡り人の定義は未入力です」

 おい、AI。何を言い出すんだ。空気を読んでくれ。今はそんなこと、どうでもいいだろ。その話題を引っ張って、俺たちにメリットあると思うのか?

「”渡り人”の定義はですね・・・異世界から来た人のことです」

 ああ、もうフィオも嬉しそうに・・・。え?なんだって?


「ごくまれ、それこそ何年に一度という頻度ですが。このロスティアには、他の世界から来られたという方が、まれに現れます」

 異世界転生が、それなりにあるってこと?なんなんだ、それは。

「そして定住された歴史の記録もあります。その方は大きくこの世界を変えるために、渡り人に対して賛否両論ありますが。ただ、ほとんどの人は消えてしまいます。元の世界に帰られた、とも言われています」

「・・・聞き捨てなりませんね。要は、元の世界に戻れると?」

「こちらでは確認できません。ですが、そうなのかな、と言われています」


「帰還可能性は未検証です。推測に基づく希望値の上昇は非推奨です」

 フィオの表情が曇る。ああ、もう。AIさんよ、あなたはどうしたいんだ。

「・・・すみません。失礼しました」

 どんよりとフィオの気持ちが落ち込んでいるのが、こちらにもありあり伝わってきた。

「すみません、失礼しました。自問自答のつもりが責めるように聴こえてしまって。

 ご説明は嬉しいです。勉強になりました。ありがとうございます・・・黙ってろ、しばらく」

 必死に俺は弁解した。


「“黙る”の定義が不明です。発話停止の時間指定も曖昧です」

 フィオはいぶかしげな表情。そうだよね。わかるよ。目の前の男が何をしたいのか、わからないよね。もういい、すべて棚に上げよう。

「失礼しました。余計なことを言いました。このまま、改めてご説明を伺います。事務処理のご説明でしたよね、たしか」

 

 少し黙った後、フィオはつぶやいた。

「お若いのに・・・不思議な方ですね」

 何と言ったらいいのやら。どう見えてるか知らないけど、五十五歳のオッサンですよ、俺は。

「事情は掴み切れていません。でも”声”をあなたが使われている、という状況は受け止めます。これは個人的な発言ですが・・・事務仕事の最中でも、あの“声”が勝手に喋り出した場合は……必ず私に知らせてください。

 ギルドとしても、あれを放置するわけにはいきませんので」 


 はあ。わかりますよ。変な奴だもんな、いきなり”声”とか言って一人漫才を始めたら。

「よろしいでしょうか?」 

 黙っていた俺に向かって、フィオが念を押してくる。

「はい、わかりました。もちろんです。この後も”声”がしても、見逃してください」

 AIに変な茶々を入れる前に、返事をしておかねば。

「ええ。”声”は大切な存在ですので」


「私は存在ではありません。音声出力機能の一部です」

 もう・・・頼むよ。丸く収めようぜ、この場を。ほら、フィオが目を丸くしているだろ。

「ふふ」

 とうとう、軽くフィオがほほ笑んだ。

「では、そういうことで。・・・改めて、事務仕事の説明を続けますね」

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