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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
6章

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6-2 ギルドのざわめきと、AIの暴走気味な有能さ

 森へ行かない日は、ギルドで書類整理を手伝うことが増えてきた。

 最初は「上手いこと整理してくれ」と、大雑把な要望だけだったのが。俺たちはやりすぎた。いい方向に……だよな。たぶん。


 もともと頼まれていたのは、他の町の魔物や魔石に関する何年もの調査資料。

 先日にAIがまとめた書類がわかりやすく、各町で合同の連絡会にてオルベンの報告が好評で、他の町の分も情報整理の支援を求められたのが発端だった。町長がずいぶんと、自分の手柄のように吹聴したらしい。


 ギルマスは頭をかいてすまながっていた。渡り人の俺を目立たせまいと、整理手法をギルドの手柄にしたのが裏目に出たようだ。

 いや、俺とAIが悪目立ちしないのはありがたい。その分仕事が増えたのは悩ましいが。


「ノアスさん、今日もお願いね。ほら、この山」

 俺が作業室に入ると、ルミリが机の上に紙束をどさっと置いた。

「……これ、昨日より増えてない?」

「気のせいじゃないかなあ」

 ルミリはうそぶく。絶対気のせいじゃない。フィオは横で苦笑している。


「森に行かない日は、こういうのも大事だからね。……ね、ノアス。お願い」

 お願いされますよ。フィオの頼みなら断らない。

「さあて、まとめますか。ずいぶんとばらばらだな」


「解析します。ギルドの書類管理は非効率です。まずは情報をカード化し、属性タグを付与し、視覚的に整理する必要があります」

「おい、急に仕切るな」

 だがAIは止まらない。得意分野だしな。


「魔物名、出現地点、季節、魔石色、危険度──これらをカードに書き出し、机上に展開します。ノアス、書いてください」

「俺が書くのかよ!」

「補足します。私は筆記具を保持できません。……まさか、フィオさんやルミリさんに、この単純作業を押し付けるおつもりですか」


「ええ……ノアス、私にやらせるつもり?」

 わざとらしくルミリがしなだれかかってくる。

「いや、まさか。当然、俺がやるよ」

「ノアスー。鼻の下が伸びてない?」

「補足します。ノアスの“気の緩み”は作業効率を著しく低下させます。……特に、フィオさんやルミリさんが近距離にいる場合、その傾向が顕著です。

 二人ともノアスから少し離れていただけると助かります」


 結局、俺は延々とカードを書き続ける羽目になった。

 魔物名、魔石の色、出現季節、場所……。

 AIが読み上げは延々と続く。俺は手を動かし続けた。終わりが見えない。これって、森で狩りするよりしんどいな。


「次。『ラズナ北部・初夏・青系・危険度中』」

「はいはい……」

 気づけば机の上はカードが海のように折り重なっていた。

「これ……すごいね。これで完成かな?なにが出来上がったの?」

 ルミリが目を丸くする。


「まだです。ここからクラスタリングします」

「クラスタ……何?」

「似た属性のカードをまとめる作業です。

 ここから階層化クラスタリング、KJ法、タグベース分類、属性正規化、時系列マッピング、空間相関分析──さらにタプル更新時異状はすでに修正済ですので問題ありません」


「ちょっと待て、今なんて言った?」

 俺がツッコむより早く、フィオが首をかしげた。

「……タプル? 更新?異状って……魔物の病気の話?」


「違います。タプルとはデータ構造の一単位で──」

「データ構造って、魔石の形のこと?」

「違います。魔石は物理構造です。データ構造は概念構造で──説明を簡略化します。フィオさん、魔石を箱だと仮定してください」

「箱? 魔石が箱なの?」

「はい。そこに属性を“詰める”のです。魔物名、季節、色相、危険度……これらをタプルとして──」

「タプルって詰め物の名前?」

「違います。詰め物は“値”です。タプルは行で──」

「行? 魔石に行があるの?」

「違います。魔石は行ではありません。行はデータベースの──」


「……ノアス、助けて。何を言ってるの、この子……声が私をいじめてない、よね?」

 冗談抜きでフィオは涙目になっていた。なまじ分類に興味あるため、AIに食い下がってしまったのがフィオの敗因だ。ついていけるわけがないのに。そういうとこもかわいいのだが。

「おいAI、フィオを泣かせるな。あと“この子”じゃないぞ、フィオ」

「訂正します。フィオさんの理解速度が低いわけではありません。……説明対象として不適切な概念を選択した私のミスです」

「いや、絶対わざとだろ」


 そんな騒ぎをしながらもAIの言う通りにカードを並べていくと。不思議なことに、断片的だった情報が“形”になっていく。

「ノアス、これ……」

 フィオが息をのむ。ラズナ側の魔物の出現が、季節ごとに偏っていた。

 ミルダンでは魔石の色相が年々変化している。そして──


「トレッサのデータ、穴だらけだな……」

「解析します。トレッサの魔物分布は欠損が多く、現地調査が必要と推定されます」

 AIが淡々と言うが、フィオは腕組みして考え込んでいる。

 ルミリはふっと姿を消し、トラーム部門長を連れてきた。


「ノアス君、トレッサでは最近、魔石の質がいいって噂がある。しかし君の推測では違う可能性がある、と言いたいのかな」

「お前はここにいるだけで、今のトラーム部門長の意見を引きだしたということか?」

 その後ろから現れたカイラムも口を挟んできた。なんか久しぶりに顔を見るな。


 カイラムはカードを並べてできた俯瞰図をじっと見つめ、静かに眉をひそめた。

「……なるほど。教団が調査を指示してきた箇所だな」

 トレッサの森は、オルベンとは魔物の分布が異なる。いちどだけ谷の手前までは行ったが……」

 カイラムの呟きに、フィオが小さく反応した。


「カイラムさん、谷って……」

「余計なことを言ったな。忘れろ。深入りはしないほうがいい」

 軽く笑ってごまかすが、カイラムの目は笑っていなかった。


「さて、ノアス。お前は最近よく森へ入っていると聞いたが……奥へ行きすぎるなよ。あそこは“深い”」

 意味深な言葉を残し、カイラムは去っていった。

 その背中を見送りながら、AIがぽつりと言う。


「補足します。トレッサのデータ欠損は非合理です。現地調査を推奨します」

 フィオが不安そうに俺を見る。

「……ノアス、行くつもりなの?」

「俺は馬車に乗りたくないよ」

 軽口をたたきながら、俺はカードの俯瞰図を見つめた。

 そこには、確かに“何か”の影が差している。

 なんだか、面倒なことに巻き込まれそうだ。

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