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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
6章

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6-1 森の日課と、静かに変わる生活

 朝起きて、軽く腹に入れて、フィオに「行ってきます」と声をかけてギルドへ向かう。

 その流れが、もう生活の一部になっていた。もう一か月くらい、こんな生活を送っている。


「夫婦みたいね」

 ルミリがからかってくるのも、最近は心地よい。

「そうなんだよねー」

 軽口を返した瞬間、照れたフィオがひっぱたいてきた。痛い。


「解析します。フィオさんの“打撃反応”は、ノアスさんへの独占欲の表れと推定されます。

 ……なお、ルミリさんの発言に対する私の不快指数も上昇しています」

 いや、フィオ。AIの言うことだから。そんなに胸を睨まないで。こぶし握らないで。絶対痛いから。ルミリさん、笑ってないで助けて。


 森へ通うのは、もはや通勤だ。前の世界と同じ生活パターンに戻った気がする。

 ラッシュ電車じゃなく徒歩だから健康的だし。……細かいことは覚えてないのに、通勤電車だけは思い出せる。都合のいい記憶障害だな。


 森の入口までは速足で一時間半くらい。朝の空気は冷たくて、踏みしめた土が靴底を押し返してくる。

 ロスティアは夏へ向かっているらしく、道の両脇の草は日に日に背が伸びてきた。晴れた日は草の匂いがツンと鼻を刺す。

 ときどき、草の色が光の加減で紫や赤に見えることもある。

 ……どう考えても不自然だ。


「魔素の流れを、俺がなんとなくわかってきたのかな。AI、どう思う」

「訂正します。ノアスが“魔素の流れを理解してきた”というのは、ほぼ誤解です。視覚情報と体感の偶然一致が続いただけと推定されます。……過大評価は危険です」

 冷たいな、こいつ。声を男に戻してやろうか。でも男の声で言われたら、それはそれで腹が立ちそう。


 森に入ったらしばらく進むが、あとはもう作業そのもの。すぐにウサギ魔獣がぴょこぴょこ寄ってくる。

 向こうから「狩ってください」と言わんばかりに。もはや俺が気配を消す必要すらない。


 ウサギ魔物は耳をぴんと立てて、こちらを見て、ぴょん。

 馴れ馴れしくは来ないが、ボウガンが届く絶妙な距離で止まる。あとは仕留めるだけ。

 狩り尽くす心配をしたが、まったくの杞憂だった。

 むしろ増えている気さえする。自然に湧いてるんじゃないか?


 だから最近は、どんどん森の奥へ進んでいる。AIスマホに魔素を吸わせるために、俺は働いてるんじゃない。

 フィオのためだ。……すると魔素をAIに吸わせないといけないのか。ううむ。


 いずれにせよギルド用の魔石は手前で、フィオにあげる分はなるべく奥で取る。こういう段取りにした。

 そろそろ何とか迷わず、日帰りの限界地点まで、森の奥へ進めるようになってきた。

 フィオの言う通り、この森は果てしなく深い。本当に出るのがウサギ魔物だけなら、野営してさらに奥に進んでみたい。

 

 採取する魔石は一日あたり、十個前後が目標。二~三個をギルドへ、残りは全部“声”に吸わせる。

「解析します。今日の魔石は平均より魔素濃度が──」

「はいはい、あとで聞く」


 毎日そんなやり取り。気づけば“声”は饒舌になってきた。

 言葉の“間”が妙に人間くさかったり、フィオが近づくと急に黙ったり。

 フィオは「嫉妬されてるのよね」とぼやくが、まさかそんな。


 収入は日本円換算で一日五千円から一万円。贅沢はできないが、貯金はじわじわ増えてきた。

 宿代はどうしようもないが、食事は……気づけば、ほとんどフィオの家だ。これが節約に効いている。

 いつのまにか甘え続けてるが、フィオは「どうせ一人で食べるより楽しいし」と笑ってくれる。俺の懐事情を知ってるから、食費を出しても受け取ってくれない。優しいなあ。


 その笑顔を見るたびに胸がちくっとする。

 いっそ泊まりたい。なんなら一緒に住みたい。

 ……けど、五十五歳の倫理観が邪魔して、口に出せない。

 フィオは受け入れてくれそうだが、困らせたくない。青春みたいな葛藤を今さらするとは。まあ、外見は十八歳だけど。


 魔石のカス──魔素を吸い切った石ころは、森へ行った日は毎晩フィオの家へ届けた。

 そして夕飯をごちそうになるのが恒例のコースになった。

 フィオは嬉しそうに受け取るが、調査用の小部屋に石積みができそうで心配だ。


 そもそも魔石カスの個人保持は禁止らしい。犯罪とは違うとはいえ、見つかれば面倒だ。

 何個かはギルドにも魔石カスを提出してみた。

 これらを使って研究して欲しくはあったが、フィオ曰く「一個一個が違う」らしい。なのでサンプルは多いほどいいそうだ。


 そこでデータはAIスマホに保存させることにした。証拠をフィオの家に残すのは危険だから。

 AIは「管理を任せてください」と得意げ。時々、俺を挟んでフィオとAIが魔石分類の話をしているが、そろそろ俺はついていけない。


 森で魔石を取り、ギルドで働き、フィオの家で夕食を食べる。

 そんな日々が、気づけば当たり前になっていた。

 こうしてオルベンでの生活は少しばかりの安定へ、ゆっくりとしかし確実に変わりつつあった。


 一番変わったのは、ギルドで俺の扱いかな。書類整理に大胆な提案が功を奏した。いかに保守的な組織でも、より突っ込んで分かりやすい分類は歓迎された。

 最初は「とにかく他の町の書類もうまいこと整理してくれ」って、大雑把な依頼だったのに。今では「森に行かないで、こっちの仕事をしてくれ」と匂わされる始末。


 ルミリだけでなく、フィオやトラーム部門長からも。しかし給金の話をすると、皆目をそらす。おい。

 きっかけはルミリの発言だった。

「ノアスさん、これ、どうやって分類したの?」

「え、普通に……」

 普通に、とは言ったが、実際はAIの指示通りにカードを並べ替えただけだ。

「解析します。ギルドの既存分類は非効率です。魔物の出現地点・季節・魔石の色相を軸に三次元で整理すると──」


「これってすごくわかりやすいよ。こんな分類、初めて見た」

 ルミリはカードをめくったり、壁に貼った大きな紙を見比べたりしている。

「トラーム部門長、これ正式採用しません? というか、この分類作業って他の町から報酬を上乗せできませんかね」

「そうだな……ラズナ側で魔物の変動が、こんなに偏ってたとは知らなかったな」


 いつのまにか部門長も、他のギルド職員も、机の周りであれこれ意見を交わしている。


「補足します。これは基礎的な情報整理です。

 ……ノアスさんの作業速度が遅いのは、私の指示を理解するのに時間がかかるためです」

「やかましい」

 でも、こうしてギルドで役に立てるのは、悪い気分じゃない。

 もう少し、詳しく事情を説明しようか。

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