1-5 地味な事務は、むしろ歓迎。
「さて。改めてギルドとしての対応をご説明しますね」
フィオと名乗った女性に連れられ、門の横にある部屋に移動した。そう簡単に町の中を歩かせてはもらえないようだ。
通りを覗かせてもくれない。なんとなく人通りが多くて賑やかな雰囲気はするが。
「よろしいでしょうか?」
フィオに声をかけられ、慌てて視線を彼女に戻した。いかんいかん。
「まず、ロスティアの東部に位置する町オルベンへようこそ、と言わせてください。あなたは不審者として拘束は致しません。この説明のあと、町の中を自由に過ごしていただきます」
……入門条件は厳しくなさそうだな。このまま放り出されても困るんだが。
「ただし“渡り人”の可能性を考慮して、五日間は指定の宿を使用していただきます。この猶予期間のあとギルドの判定を経て、本当に自由にオルベンでお過ごしいただけます」
質問しようかな。まずは黙って聞いていようか。
「これは“渡り人”の方には別の対応が必要なためです。ご不便とは思いますが、ご協力をお願いします。もちろん入門手続きを中止していただいても構いません。
その場合、オルベンへの入門はご遠慮いただきますが、そのまま門外から自由に移動していただいて結構です。制限はいたしません」
「なるほど」
黙ってるのも何だし、無難に相槌を打ってみた。
「ご希望の場合、“最初の五日間”は宿と食事をギルドから貸与します。これは生活の立て直しと、街に慣れていただくための措置です。資金援助が不要でしたら仰ってください。いずれにせよ指定の宿に宿泊はいただきますが」
「五日間……助かります」
どうやら無一文で放り出される可能性はないようだ。最低限のセーフティネットはあるのか。
「ただし、それ以降はノアスさんご自身で稼いでいただく必要があります。もちろん、ギルドとして仕事の斡旋は可能です」
フィオは手元のメモを確認しながら、淡々と続ける。
「仕事の種類は大きく三つです。ご説明は必要ですか?」
「仕事分類の詳細説明が必要かどうか、判断基準が不明です」
「しっ。黙れ」
静かにAIへ黙るよう指示。フィオはいぶかしげな顔をしたが、それ以上は突っ込まない。
「では、ご説明を続けますね。一つ目は魔物討伐。これは危険を伴いますが、報酬は比較的高いです。もっとも、この街の周辺にはごく弱い魔物しか確認されていません。
二つ目は街中の力仕事や雑用。比較的安全ですが、体力のある人にお勧めします。ノアスさん、でよろしかったですよね?
ノアスさんのようなお若い方は、こちらも良いかもしれません。ただし収入は討伐ほどは高くありません。
三つ目はギルド内の事務仕事。読み書きができる方にお願いしています」
「事務仕事……」
思わず声が漏れた。お若い方ってとこも引っ掛かったが、今はそれどころじゃない。サラリーマン生活を三十年余年、事務仕事はお手の物だ。
フィオはその反応を見て、少しだけ首をかしげる。
「……事務、ですか。ええと……本当に、よろしいのですか?」
「え、はい。むしろ安心しますよ。魔獣狩りとか体力仕事よりは、ずっと」
「いえ、その……事務仕事を“やりたい”と言う方は珍しくて。普通は皆さん、魔石のほうが稼ぎが良いので、そちらを希望されるのです」
「いやいや、命がけの仕事より、机の前のほうが性に合ってますって」
俺が肩をすくめると、フィオはようやく納得したように小さく息をついた。
「お若いのに、珍しいですね……なるほど。では、事務仕事の内容を簡単に説明しますね」
「え、若いって……?」
「見たところ、私よりもお若いようす。成人されてはおられるようですが」
「年齢推定には映像入力が必要です。現在、外見情報を取得できません」
「黙ってろって」
静かにAIスマホのボディを叩く。ああ、つねってやりたい。




