表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/77

5-7 オルベンへ帰還

 ついに俺は帰ってきた。やったぞ。

 猛烈な達成感とともに、馬車から降りた瞬間──崩れ落ちた。

「……ノアス、大丈夫? 無事?」


「だいじょぶ……じゃない……」

「解析します。ノアスさんの現在の状態は──馬車酔いです。

 フィオさんの心配は過剰反応と判定されます」


「ひどいっ」

 いっきにフィオの頬が膨れた。ぷくっと。

「ほんとだよ……」

「ノアスー。それはどっちに言ってるの? 心配してる私? それとも“声”?」


 難しいことを言わないでくれ、フィオ。お願いだ。

 オルベンの町が見えたとき、俺はほぼ魂が抜けていた。


 AIのセリフにむくれつつも、さんざん馬車の中でヘロヘロだった俺を見ていたフィオは、心配そうに背中をさすってくれる。嬉しい。手が暖かい。優しいなあ。


「ありがとう、フィオ」

「背中をさする行為は、ノアスさんの心拍を不必要に上昇させる可能性があります。

 フィオさんによる実施は推奨されません」

 ぴたりと止まり、離れていく手。


「……そう。ノアス。じゃ、私行くわ」

「ちょ、ちょっと待ってフィオ! おいAI、謝れ!」


「先ほどの発言は“心拍データの安全基準”に基づくものです。

 ノアスさんが他者から過度な身体的ケアを受ける状況は、

 私のサポート領域と一部競合するため、注意喚起が行われました。

 なお、フィオさんの介抱行為は有効でした。ノアスさんの安定化に寄与したと判定します。以上です」


 ……これ、フォローになってるのか?

 案の定、フィオは反応に困ってキョトンとしている。

 ああ、せっかくフィオが優しかったのに。おのれAI。


 いずれにせよ、揺れる馬車の余韻で頭がぐわんぐわんしている。

「しばらくここに座ってるよ、俺」

「うーん……そう。気を付けてね。じゃ、先にギルドへ行ってる」


「やってられんな。後は好きにしろ」

 カイラムはあきれ顔で俺たちの漫才を眺めていたが、そのまま去っていく。

 フィオも俺をちらりと見た後、その後を追った。


 カイラムはもちろん、フィオが俺に対して名残惜しそうな様子はない。まあ当然だ。

 ちょっとは慣れたかと思ったのに……馬車酔いは敵だ。もう一生オルベンで骨をうずめようかな。


 門の前で一休みしていると、門番の二人が槍を構えたままニヤニヤしている。

 覚えてろよ。いや、忘れてくれ。今の俺はひときわカッコ悪い。


「あー気持ち悪い。えらい目にあった」

「推奨します。深呼吸を三回、その後は動かず安静を保ってください」

「ありがとよ。お前にも背中をさすってほしいぜ。あと、水が欲しい」


「物理的な接触サポート機能は搭載されていません。

 水分補給は推奨されます。周囲の人間に依頼してください」

「優しくはあるが……何の解決にもならんな。フィオは優しかったなあ」


「補足します。フィオさんの行動は“適切な対人ケア”として分類されます。

 一方、私は物理的介入が不可能なため、同等の効果を提供できません。

 しかし──ノアスさんが“優しかった”と評価した事実は、記録しました」


 ようやく胸のむかむかが治まってきたので、町の門をくぐりギルドへ向かう。

「おかえり〜! どうだったの、泊まりがけの旅は〜?」

 さっそくルミリが満面の笑みでからかってきた。


「ルミリは今、私の話の何を聞いてたのよ……」

「いい旅でしたよ」

「報告。ノアスが“フィオは優しかった”という事実が記録されています」

「ちょっ……AI、お前は何を言い出す!」

 慌てて静止する俺、黄色い声を上げるルミリ。

 フィオは真っ赤になって俺の肩を掴み、揺らし始めた。


「なによそれノアス! いったい何を言い出すのよ!」

「俺じゃない、AIだってばさ……あ、揺らさないで、何か吹き出しそう」

「フィオさん、ノアスへの物理的刺激を一時停止することを推奨します。

 なお、ノアスさんの発言責任はノアスさん本人にあります」

「“声”さん、あなた絶対わざとでしょ!」


「誤解です。私は“わざと”という概念を持ちません。

 ただし──ノアスさんが他者を“優しい”と評価した際の反応は、

 通常よりも詳細に記録される傾向があります」

 ルミリのにっこにっこな笑顔は途切れない。

 AIは女の子の声に設定したままだから、まるで痴話げんかみたいじゃないか。


「AI、その言い方は嫉妬っぽくない?」

「誤解です」

 誤解じゃない気がする。


 オルベンに馬車が着いたのは16時ごろ。わちゃわちゃしているうちに日は傾き始めていた。

 本当ならギルマスに帰着挨拶をしたいところだが、今日は不在だそう。対面報告は明日に回すことにした。


 せっかくだからフィオと食事でも……と思ったが。

 彼女は初めての出張なこともあり、後片付けに追われているらしい。いきなり彼女の家へ、今夜尋ねるのも強引すぎるな。


 とりあえず俺はギルドの宿に戻ることにした。

 そうだ、懐具合を確かめてみるか。さて、今回の旅の成果は──。


 財布を開いたが、絶望した。

 予想通りではある。出張手当も雀の涙。現金収入が、圧倒的に足りない。稼いだ金は右から左に生活費。宿代、食費、ボウガンの借り賃……。

 

 ロスティアに転生して、そろそろ一か月くらいだっけ?

 財布はカツカツのまま。貯金なんて夢のまた夢。その日暮らしもいいところだ。

 宿の売店の値札を思い出す。パンツ一枚買うにしても、今の残金では躊躇う。


 俺の財布は、風が吹けば飛ぶレベルだ。

 真剣に身の振り方を考えないとまずい。


「……ギルドの事務処理や、オルベンの町仕事は安い。

 収穫期の手伝いなら、ちょっとは色が付くのかな。いずれにせよ数か月先の話だ。

 一番マシなのが魔石集めだけど、無茶苦茶に狩るわけにもいかない。

 目立ちすぎるよな。地道にやるしか……フィオに相談してみよう」


「現状の収支では“半年”でも不足する可能性があります」

「黙れAI。今は希望を持たせてくれ」


 俺は腹をくくった。金を貯める。それしかない。

 いっそ別の町に行こうか。しかし先立つものがない。

 そもそも移動は馬車なんだよなあ……乗りたくねえなあ、もう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ