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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
4章

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4-9 理解度:低 努力値:高

 部門長がギルマスの部屋をノックする。俺とフィオはその後ろについて部屋に入った。 机の向こうでギルマスが目じりを揉んでいる。


「よし、トラーム部門長。後は俺が話す。下がっていいぞ」

 一礼して、ふわふわした洋服をひるがえし、部門長はそのまま退室した。

 ギルマスは一呼吸置き、口火を切る。


「トラームからおおむね話は聞いた。さっぱりわからなかったが……。

 つまりフィオはこう言いたいのか。オルベンの町を平和に保ちたい。ミルダンに行きたい。ノアスと一緒にいたい」


「ちょっ! ……ええと、間違って……いや、その理解はちょっと……」

 にやにやするギルマス。ええと、セクハラとかコンプライアンスとか、ここには存在しないらしい。

 ギルマスは表情を引き締め、俺へ向き直った。


「ノアスくん。魔石の研究は禁忌だ。これは忘れていないな? それをわきまえてもらわないと困る。フィオをそそのかすのもなしだ。彼女はギルドに無くてはならない人材だ。わかるな」


 やり手だな、この人は。俺たちの意図を汲んだうえで、“フィオは俺にそそのかされた”という構図を作り、なおかつ釘も刺す。そのうえでフィオには意図は理解しないが、目的だけは認めるというわけだ。

 フィオは何か言いたげだが、流れを乱さないよう黙っている。


「カイラムが同行だ。異論は認めん。いいな。……以上だ。ちょうど明日、馬車が出る。明日に出発しろ。フィオ、カイラムを呼んでくれ」


 ギルマスは軽く手を振り、部屋を出るよう促した。フィオはいったん口を開いたが、そのまま閉じ、一礼してドアへ向かう。俺が後ろからついていくと、ギルマスが声をかけた。


「ノアス。フィオは大切な部下だ。それを忘れるな」


***


 トラーム部門長へ説明し、部門長がギルマスに話し、ギルマスに呼ばれ……午前中はほぼ潰れた。いまさら森へ行く気にもならず、図書室に向かうことにした。

 そこへルミリが寄ってきた。にっこにこしている。


「ちょっと小耳に。フィオと泊りがけでミルダンへ行くんだって?」

「ルーミーリー。なによ、そのまとめ方は」

「ふふふ。さ、お昼に行きましょ」


 強引にフィオを連れ、ギルドを出ていった。

「おい、AI。どういう状況だと思う?」


「分析結果。ルミリさんは“事実の一部だけを抽出し、最大効率でからかいに転用する”行動特性があります。

 現在の状況は『フィオさんが照れ、あなたが困惑』の構図が完成しており、介入は不可能です。推奨行動は“静観”です。」


「いや、そういう硬い回答は求めてない。推奨行動は全面的に賛成するけどさ」

「ルミリさんの行動は“あなたとフィオさんをからかう”ことを目的としています。

 あなたが動揺しても、私には影響しません。……別に。」

 AIよ、なんかその反応は……魔素を吸って性格が変わってきてないか?


***


 午後は図書室で文献をあさる。というか、本を撮影してAIスマホに読み込ませる作業をぼちぼち続けていた。当分終わりそうにない。AIスマホの容量が弾けるのが先かもしれんな。

 そこへカイラムが入ってきた。


「ギルマスから聞いたぞ。明日だな。まったく、振り回してくれる」

「悪いな。フィオの意向だ」

「ふん、どうだかな。ギルマスやトラーム部門長、フィオに聞いてもよくわからん。なんだ、調べたいというのは。フィオは“お前に聞け”と言うから、わざわざ来たんだ」


「ええと、魔素流動の周期性の再検証。魔素流動の周期性は、非線形振動系における準安定解の逸脱を示して、特に局所的魔素密度の勾配変化が、位相遅延を伴う異常値を形成している」

 俺はAIスマホの発言をそのまま諳んじてみた。


「……なるほど。非線形……振動……系……」

 カイラムは腕を組み、真剣に考え込んだ。

 拍子抜けした。怒られるか、危険思想扱いされると思っていたのに。軽く煙に巻いてからかうつもりが、まともに受け止められた。


「つまり……だ。魔素が……こう、揺れてずれる、ということか?」

 なんか、すごく頑張って理解しようとしている。デタラメなのに気の毒だ。


「準安定、とは……安定と安定していない状態……?」

 語尾が弱々しい。でも本人は必死だ。質問というより、自分に言い聞かせている。


「遅延……魔素が……不安定……」

 いや、魔素の遅延ってなんだよ。なのにカイラムは、もはや自分の世界に入り込んでいる。


「……ふむ。つまりミルダンの魔素は、オルベンとは違う……と。教団の禁忌には触れていないな。よし、問題ない」

 いや、判断基準そこか。カイラムは満足げにうなずいた。

「理解した。……と思う」

 いや、絶対理解してない。


 そこへフィオが図書室に入ってきた。カイラムの様子を見て、いぶかしげに俺を見る。「明日は楽しみにしている。いや、実際の調査はあさってか。一日で帰るぞ。フィオ、時間を無駄にするなよ」

 フィオに気づいたカイラムはそう言い残し、図書室を出て行った。


「ノアス、何があったの? てっきり喧嘩してると思って様子見に来たのに」

「カイラムは善人だった、ということかな? AI、どう思う」


「評価。カイラムは“説明を理解できていない”ことを自覚しつつ、“理解しようと努力”を最優先しています。

 そのため、内容の正確性よりも“禁忌に触れない解釈”を優先して処理しています。

……結果として、善人に分類されます。」


「フィオ、カイラムってそういう人なの?」

「だとしたら、ちょっと見直した。私を口説いてくる、いやらしくて、教団の指示に従うまじめだけの人と思ってたから」

「ふむ、単なる敵扱いは失礼かな」


「補足。カイラムさんは“あなたを敵視する必要性が低い”と判断しています。

 理由は、あなたが“禁忌に触れる危険性を自覚していない”ためです。

 ……敵対するには、あなたは無防備すぎます。」


「善人……? うーん。あの人、私のことになると急に視野が狭くなるんだよね。

 善人っていうより……“不器用な番犬”じゃない?」

 案外厳しい評価が来たな。俺の評価も聞いてみたかったが、やめておこう。落ち込みたくない。


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