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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
4章

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4-7 静かな日々と、ほころび

 起きて、狩って、寝て、起きて、狩って、寝て。あれから、数週間が過ぎた。


 毎朝ギルドへ顔を出してボウガンを借り、森へ行き、ウサギ魔獣を狩る。提出する魔石は一日一つか二つくらいに留める。昼飯を持っていくのも忘れない。

 実際は十個前後を狩っていた。だがギルドへ提出分以外は、すべてAIに吸わせた。魔素を吸うたびにスマホが震え、そのたびにAIスマホは、いわゆる経験値を積んでいるらしい。いちいち聞いていないが、何かしら機能が増えているのかも。


 夜はAIスマホと会話を重ねる。立ち回りを考えるために。

 最近は、AIがロスティアの地名や歴史を元に回答するようになった。ネットもないのにどうやって、と思ったら。たまに図書室で俺が撮影した本の断片を勝手に統合しているらしい。便利なのか、怖いのか、よく分からない。


 この振る舞いの狙いは、俺自身を日常の風景にすることだった。オルベンは保守的な町という。毎日同じ時間にギルドへ行き、同じように森へ向かい、同じように報告する。ルーティンを積み重ねれば、オルベンの人たちもそのうち俺を“空気”として扱うだろう。 そこで俺への警戒心、フィオへの悪感情が減れば、を期待していた。

 実際、数週間たったら、そうなりつつあった。


 俺の思惑をフィオに伝えられないのが、歯がゆい。フィオと会話したい。報告の時に、カイラムがフィオに声をかけてるときもあった。フィオは躱してるようだが、なんかモヤモヤする。

 いや、別にフィオを口説きたいわけでもないが。やはりフィオが魔石について輝いた眼で熱く語ってた溌溂さをまた、見たいだけ。


 今は我慢だよなあ。フィオに話しかけたい気持ちを抑えつつ、ギルド職員と事務的に話す。仲良くはならないようにした。例外はこの事態に陥る前に、ちょっと話したルミリに対してだけ。

 ルミリも警戒心をだんだん解いてきたのか、時々にっこり微笑みかけてくる。しかし、気を抜いてはいけない。目の隅でフィオの圧を感じる。解せぬ。


 ちょうど別の町から冒険者が二人来て、オルベンの稼ぎの悪さに文句を言いながら去っていく騒ぎがあった。その横で淡々と日常を続ける俺は、ますます目立たなくなった。狙い通りだ。


 頃合い、よし。

 そう思っていた矢先、図書室で本を撮影していると、フィオがそっと近づいてきた。


「ねえ、最近……ウサギ魔獣、狩れなくなったの?一日一、二個しか提出してないみたい」

 声は小さいが、どこか探るようだった。

「いや、実は……AIに魔素吸収を優先させてた。実際は十個近く、毎日狩ってるよ」


「えっ!じゃあ、吸わせた石は?」

「毎日、あちこちにまとめて捨ててる」

 フィオは目を瞬かせたあと、少しだけ笑った。


「……見てみたい。明日、一緒に行ってもいい?」

「まずいんじゃないの? また何か言われるだろ」

「そろそろ皆の気が緩んできてるみたい。ノアスが大人しくしてるから、ね」


 そこで、軽く微笑みながら、わざとらしくにらみつけていた。

「ルミリとは順調に仲良くなってそうで、大人しくないなーとは思うけどね」

「おいおい」


「ルミリさんの“好感度推定値”は上昇傾向です」

「黙れ」

「……へぇ?」

 フィオは軽くにらみながら笑いかける。ああ、やっとフィオとのやり取りが戻ってきたなあ。


***

 そして翌日。フィオが「監視員」の名目にて、俺と二人で森へ向かった。今日もウサギ魔物狩りだ。

 今朝はカイラムの姿が無くてよかった。まだ彼に心を許す気にはなれない。かといって同行を主張されたら、断りにくい。

 しかもカイラムは俺に口添えめいたことをしてくれたらしい。


「ノアスがボウガンを持ち出せたの、カイラムさんが倉庫の鍵を“たまたま”開けておいたからだよ」

「たまたま、ね」

「あとルミリも協力してた。……よかったねぇ、ノ・ア・ス」

 いや、最後の一言だけ、妙に硬くないですか?

 今日もルミリは「同行しようか?」と笑顔で言ってきたが、フィオがにこやかに、しかし完璧に断っていた。


 俺がフィオに「妬いてるの?」と聞ける関係でも無いしな。ああ、五十五歳にもなって、こんな甘酸っぱい体験ができるとは。嬉しいやら、懐かしいやら。


 森に入ると、ウサギ魔獣がいつも通りひょいひょい寄ってきた。

「……ほんとに来るんだね。ノアスのところだけ」

「俺も不思議だよ」

「ノアスは“魔素ゼロの珍獣”と認識されています」

「やかましい」


 フィオは俺が狩った魔石をじっと観察し、魔石をAIに吸わせるところも食い入るように見ていた。

「吸った後の石は、私が持つね。ギルドに見つかると面倒だから」

「報告しなくていいのか?」

「今日の分は“研究用”ってことで。ちょっと考えがあるので、このあとはしばらく”声”に魔素を吸わせるのは待ってもらえるかな」


 そのあとは魔石を取るたび、フィオに手渡す。丁寧にそのたび、腰の袋へフィオは布で包んでしまっていた。

 夕方が近づいてきたころ。フィオは手持ちの魔石を布の上に広げて見比べる。しばらく選んでいたあと、三つを選んで、俺に渡した。

「今日はこれ、三個だけ持って帰って。種類をそろえたいから」


「種類?」

「うん。魔石って、見た目は同じでも“脈動の癖”が違う気がしてて……」

「分類なら、AIに任せれば?AI、魔石の分類方法を説明して」

「了解。現代日本の鉱物学に基づき、“外形・色調・内部構造・結晶軸・不純物スペクトル”の五項目で――」

「ちょ、ちょっと待って! 何それ、難しい!」


 フィオが慌てて手を振る。

 AIは構わず続ける。


「さらに“比重・硬度・破断面・熱膨張率”を加えると、より精密な――」

「ストップ! 魔石ってそんなに複雑なのか!?」

「本来はもっと複雑です。これまで吸収した魔素の流動パターンを加えると“十六分類”になります」

「十六だあ!?」


 フィオが目を丸くして俺を見る。

「……ノアス、これ全部理解してるの?」

「いや、俺も今初めて聞いた」

「安心してください。ノアスさんの理解度は“中の下”です」

「余計なこと言うな!」


 フィオは吹き出した。

「ふふ……よかった。でも、面白い。魔石の研究、やっぱり好きだなあ」

 魔素が抜けた魔石のかけらを摘まみ上げ、眺めるフィオ。その笑顔を見て、胸の奥が温かくなる。


「そういえば、フィオはあれからどうしてた?睨まれて、大変だったろう。何もしてやしないってのに」

「ううん。しかたないよ。ちょっと浮かれてたなあって反省したもの。

 あのあとはずっと、いろいろ考えてた。頭の中で。紙に書きたいけど、万が一にも誰かの目に留まったらまずいし」


 悔しそうに、フィオは喋り続ける。やはりうっぷんはたまっていたようだ。

「ノアスに見せた、あの紙も燃やしたよ。もったいなかったけどね。忘れないように、頭の中で、毎晩ずっと考えてる」

 こういう時こそ、助けなきゃ。・・・俺というより、AIスマホに、だが。


「なら、AIに話してみたら? 覚えて、分析もしてくれる」

「え?なにそれ。そんなことができるの?……いいね。じゃあ、また家に来てくれる?」

 おやまあ。嬉し恥ずかしオプションまでついてきましたよ。良いのかね。

「また噂になるだろ、大丈夫?」

「この間は一緒に帰ったからね。夜にこっそり来てくれれば大丈夫」

「間男みたいだな」

「間男って何? 魔石の一種?」

「違う」

 フィオは首をかしげ、俺は頭を抱えた。


***

「ちなみに、前の魔石を捨てた場所ってどこ? 見てみたい」

 そういえば。フィオは魔素を吸い込んだ後の魔石のカスについても興味を示していたな。記憶をたどりながら、俺はあたりを見回して捨てた場所を探す。


「ええと……例えば」

 たしか、このあたり・・・二、三日前に捨てた場所が近くだったはず。石の上に乗った葉っぱをかき分けた。わざわざ葉っぱをかぶせなかったのに。ずいぶん風が強いのかな。「ここだよ。ほら、十個くらい捨ててあるでしょ」


「ほんとだ。さすがにこんなに持って帰るのは……やめよ。ギルドやカイラムさんに知れたらダメね。持って帰るのは我慢しよう」

 フィオはしゃがみ込み、石を一つ手に取って光に透かした。


「他には? 他の場所も見たい」

「ええと……毎日変えてたから、場所をきちんと覚えてないや。ごめん」

「そう……残念」

 フィオは石を指先で転がしながら、ふと思いついたように言った。


「そういえば、この石の特徴を“声”に覚えてもらいたい。いい?」

「いいよ。思いつくまま言って。俺がAIに音声入力するよ」

「私の声じゃダメなの?」

「音声入力は“ノアスさんの声優先”に設定されています」

「ほら、俺のAIだから。俺の声で言うよ」


「そう……じゃあ言うね。いい?」

 フィオは石を見つめ、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

「外側は透明に近いけど、中心に向かって淡い青……脈動は弱くて、でも一定。たぶん、魔素の流れが細いタイプ……」


 俺はそれを聞きながら、要点をまとめてAIに向かって言い直す。

「AI、入力。外側透明、中心青、脈動弱め、流れ細いタイプ」

「記憶しました」


 淡々とした返事。いつも通りだ。


 だが――俺は気づいていなかった。

 フィオが説明を始めた瞬間、AIスマホの画面が一瞬だけ明滅したことに。

 そして、俺が言い直す前に、フィオの声に反応して“入力を開始していた”ことに。


「じゃあ次の石も……いい?」

 フィオが顔を上げる。

 その声に、AIの画面がまた、かすかに震えた。

 俺はただ、自分の声にAIスマホが反応しているだけだと、思っていた。

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