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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
第一章

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1-3 AIがしゃべるから誤解されるんだよ

 灰色の石を積み上げた城壁が視界いっぱいに広がった。鉄や木は見当たらない。どうやら完全な石造りらしい。コンクリートみたいな素材は使ってないようだ。

 時間をかけて作ったんだろう、やたら重厚だ。築造年月はそれなりにあるのか、ところどころに汚れも見える。陽光を受けて鈍く光るその壁は、思っていたよりもずっと高い。


「ずいぶん立派な城壁だな。三メートル……四メートル?」

「推定値の算出には映像入力または距離データが必要です。現在、あなたの音声以外の情報を取得できません。“立派”という評価のみ記録しました」

 耳元で、いつもの無機質な声が返ってくる。まったくもう。


「いや、そういう評価が欲しいんじゃないけど……」

「要求内容が不明瞭です。“評価ではない返答”とは、どの種類の情報を指しますか。補足があれば処理を続行できます」

 ノアスは額を押さえた。この相棒AIは、便利なときは便利だが、こういうときはとことん噛み合わない。


「はいはいっと。ちょっと黙ってて。門番みたいな人がいるか、あっちの扉に向かってみるよ。まずは話を前に進めよう」

「了解しました。音声入力の待機状態に移行します。必要になったら呼びかけてください」


 城門の前には槍を持った男が二人いた。そのうちの一人が鋭い視線を向け、声をかけてきた。

「止まれ。どこから来た」

「ええと、それが覚えてなくて……」


 背後で、またAIが勝手に起動する。

「“覚えていない”という回答は出発地点の特定には不適切です。必要であれば、記憶補助のための一般的な質問リストを提示できます」


 ノアスは慌てて小声で言う。やめてくれよ、もう。

「いや、ちょっと待って。少し黙ってて」

「了解しました。音声入力の感度を一時的に下げます。必要になったら呼びかけてください」


 門番は眉をひそめた。俺の背中をのぞき込むようなそぶり。俺は手を広げて、何も持っておらず敵意のないことを示してみた。

「なんだ、今の声は?」

「いや、ちょっと……それより、質問ですよね。ええと、さっき森の中で目が覚めたんですけど、記憶がないんですよ」


 門番は眉をひそめたまま、緊張を解かず睨みつけてくる。もう一人は槍を持ち直し、身構えるような気配が目の端に映った。

「どういうことだ。詳しく説明を」

「“詳しく”という要求は説明内容の範囲が不明確です。必要であれば、記憶喪失時の一般的な説明項目を提示できます」


 まただ。勘弁してよ。こういう時ばっかり。

「いや、黙ってってば……お願い。次に僕が何か言うまで返事を控えて」

 今は遊んでる場合じゃないんだってば。それともAIなりに気を使ってるのかねぇ。

「了解しました。音声応答を一時停止します。次の指示があるまで待機します」


 門番はますます怪訝な顔をした。

「なんだ、その声は。……あなたは魔法使いであられますか?」

「いや、魔法使いって……なんです?それ。で、説明を続けますけれども……」


「“魔法使い”という語の定義が、私の参照可能な辞書には存在しません。説明を続ける場合は、どの情報を優先して整理すればよいか指示してください」

 ノアスは頭を抱えた。おい、そろそろシャレにならなくなってくるぞ。

「もう……お願い、黙ってってば。話が進まないだろ」

「了解しました。音声応答を停止します。次の指示があるまで待機します」


 城門前に、妙な沈黙が落ちた。門番同士がひそひそ話を始める。まずいな、どんどん疑われている。

 門番はノアスを、ノアスは沈黙を、そしてAIはただ待機を続けていた。


 しばらく腕を組んで考え込んでいた門番が、やがて小さくうなずいた。

「……では、自分の権限を外れますので、担当者を呼んできます。ここで待っていてください。逃げたりしないでくださいね」


「逃げませんって……」

 門番の一人は苦笑しながら建物の奥へ消えていった。残されたのは、俺と、もう一人の門番。特に口を開かず、地面につけた長槍を持ち、こちらを静かに見つめる。

 あとは静かに待機を続けるAIだけ。


「……待機状態を維持します」

「いや、別に宣言しなくていいから」

 そんなやり取りをしていると、足音が近づいてきた。

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