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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
4章

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4-3 研究の話は、思ったより深かった。

 初めてフィオの家に行く。……いや、別に浮かれてるわけじゃない。わくわくしてもいいよな、くらいだ。

 

 仕事を終えた後、研究の話をしようとフィオは自宅へ招いてくれた。飲食店だと人目があるし、万が一でも教団に疑われるのは避けたい――そういう判断らしい。


 フィオの家はギルドを背負って右の方向。こないだ散歩がてら紹介してもらった農地側とは反対だ。十五分ほど歩くと、こじんまりした一軒家が見えてきた。

 アパートという概念は、この世界にはないようだ。維持管理は大変だろうな。


「さ、入って。ここを研究室にしようかと思ってる」

 玄関の右、小部屋。六畳くらいか? 机が一つ、壁際に箱が積まれている。納戸に近い。


「ちょっと埃っぽいかな。物置にしてたから」

 フィオが照れくさそうに笑う。いやいや、いいんですよ。特に何も期待してませんでしたから。

「いや、大丈夫。家族の了解は取ったの?」


「ええと……わたし、一人暮らしだから」

 ほう。詳しく――と言いかけたところで、

「実は、家族がいなくって……あまり聞かないでくれると嬉しい」

 ……失礼しました。話題変えますね。


「いやいや、ぶしつけにごめん。まずはここで相談、だね。椅子が一脚だから、もう一脚あると嬉しいかな」

「環境分析を開始しますか?」

「やめろ。空気読め」

「了解。空気を読むモードを起動します」

 

 そんなモードあったのか。

 フィオは笑いながら、積み上げた箱の裏から一枚の紙を取り出し、机に置いた。


「今日はね……ノアスに、“魔石の脈”の話をしたかったの」

「脈?」

「うん。魔石ってね、ただの石じゃないんだよ。おいそれと魔石を手元に置けないから、口で説明するしかないんだけど……

 魔石は魔力の流れ方に“癖”があって、それが種類や危険度に関係してるの」


 フィオの目が、また研究者のそれになっていく。

 昼間に見せた“ふーん”の圧はどこへ行ったのか。理知的で、探求者の雰囲気だ。


「AI、整理してくれ」

「了解。魔石内部の魔力流動は“擬似的な生体電流”に近い性質を持つ可能性があります」

「えっ……生体電流?」

「はい。脈動パターンを解析すれば、魔獣の種類や状態を推定できる可能性があります」

 フィオが息をのんだ。

「AI、つまり魔石は緩やかにエネルギーを個々に保持する物体。なんらかの区分で保持量や脈動のパターンが異なるってことか?」

 ちょっとカッコつけて言ってみた。ほぼデタラメだが。


「補足します。魔石は“魔素の凝縮体”であり、保持量と脈動パターンは個体ごとに異なります。

 脈動は、魔獣が生前に持っていた魔力循環の“残響”と推定されます」


 ここぞとばかりに、AIが畳みかけてきた。こういう知識マウントは、かなわない。


「分類要因は三つ。

 一つ、魔獣の種類。

 二つ、討伐時の魔素流入量。

 三つ、環境魔素濃度です。

 なお、魔石は外部環境に影響を受けやすく、長時間の持ち出しは危険です。教団の規制は合理的と判断されます」


 ずいぶんと一気に返ってくるな。なんでそんなスラスラと、ファンタジーな仮説を並べられるんだ。

 

「脈動の強弱は“危険度”と相関します。ただし、現行のギルド基準は経験則に依存しており、精度は低いと推定されます」


「フィオさんの仮説は妥当性が高いです。

 魔石の脈動を体系化すれば、危険度評価の標準化が可能になります。

 ただし、魔石を直接観察するには許可が必要です。無断研究は教団の監視対象となります」


 AIの分析と仮説は止まらない。


「提案します。脈動パターンを“言語化”し、紙上でモデル化することで、魔石を持ち出さずに研究が可能です。

 ノアス、あなたの分析力とフィオさんの観察力を組み合わせれば、安全かつ高精度の分類体系を構築できる可能性があります。……以上です」


 言葉で並べたてられた情報量に圧倒される。頭の中で咀嚼を試みるが……テキストモードがあればなあ。文字なら、すっと理解しやすいのに。


「……それ、すごい。そんな発想、なかった……!」

「え、わかったの?あの説明で」

「だいたい、だと思う。知らない単語もあったし。だけどほら、これを見て。色々考えてた魔石の調査方法。今の“声”の説明と同じ意見、とは言わない。

 だけど“声”の考えと組み合わせたら、新しい体系ができそう。それは信じられる」


 フィオは興奮して、ぐっと体を寄せてきた。いや、近いよ?

「ねえ、もっと“声”と話したい。何から聞こうか。一つ一つ、ここに書いた質問したら、答えてくれるかな?」

 とうとう袖をつかまれ、ぐいぐい引っ張られる。落ち着いてくださいませ。

 俺の困惑には気づかず、フィオは紙に何やら書きなぐり始めた。


「なあ、AI。今の情報で危険回避はどう取ればいい?この部屋で研究を続けて大丈夫と思うか?」

「回答します。現在の状況は“限定的に安全”と分類されます」

 どうも今のフィオは、危なっかしい。ここは冷静が俺の役割だろう。


「理由を三点提示します。

 一つ、魔石そのものを持ち込んでいないため、魔素暴走の危険はありません。

 二つ、研究内容は“言語化された概念”であり、教団の規制対象外です。

 三つ、外部への魔素漏洩リスクがゼロのため、監視網に検知される可能性は低いです」

 ふむ。喋ってるだけなら、言論の自由ってわけね。そんなものがこの世界にあるかは知らんが。


「ただし、注意点を二つ提示します。

 一つ、研究成果を外部に持ち出す際は“表現方法”に注意してください。魔石の内部構造に踏み込みすぎた理論は、教団の興味を引く可能性があります。

 二つ、フィオさんの興奮状態は“声量上昇”の兆候があります。近隣住民に聞かれると、研究内容が誤解される恐れがあります」


 そうだよなあ。防音は大事だ。この壁って何製なんだろう。軽く叩く。漆喰かな。


「提案します。

 この部屋での研究は“紙上モデル化”に限定し、魔石の実物を扱う場合はギルドの許可を得た上で、指定の観察室を利用してください」


 なるほどね。まあ、妥当だが……あとはAIの魔石吸収くらいか、問題は。


「フィオさん、聴いてた?」

「え……何を?」

「やっぱり。……ええと、ここで意見交換くらいならまだしも、実際に魔石の研究は無理でしょ?

 そもそもあまり大声で話し合うのも危険かもしれない。ギルドを巻き込んで、研究室を作ったら、って話だけど。どう思う?」


 途端にフィオの顔が曇った。

――そうだよなあ。

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