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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
4章

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4-2 事務仕事すらも、意外とカオス。

 どうやら魔石稼ぎは、そこそこ収入は得られそうな感触を得た。だが、あまり派手に狩っても悪目立ちしてしまう。

 そして毎回、同行者がいる格好も避けたい。なんとか独り立ちの方にもっていきたい。

 今日はギルドの事務仕事を支援。フィオとなるべく一緒にいたい。経験を積みたい。

 ……もちろん、オルベンの知識蓄積って意味ですよ。いや本当に。決して、若い子と一緒にいたいとか、そういうんじゃない。


 というわけで、今日はギルドの事務仕事。転生前の細かいことは覚えてないが、やはり俺は事務仕事が素直に馴染む。


「ノアスくん、助かるよ。最近ちょっと書類が溜まっててね」

 受付のルミリさんが、申し訳なさそうに笑った。

 その後ろには、机の上に積み上がった紙の束。……いや、丘。いや、壁?


「これ、全部……?」

「全部。今日中に、できれば」

 無理だろ。


 とりあえず席に座り、紙束を手に取る。

 依頼書、報告書、魔石の買い取り記録、冒険者の登録更新……これ、オルベンの書類じゃないな。ミルダンとかいう場所の書類だ。なぜだ。

 種類がバラバラで、順番もバラバラで、字も人によってバラバラ。なんなら、裏と表で違う内容が書いてある書類まであった。


「実はね、ミルダンのギルドで何かあったらしくて……こっちに丸ごと、処理を依頼されたの。先週にノアスくんの手際を見たギルマスも、大丈夫と思ったみたい」

 これは……地獄だな。仕事をすると、新しい仕事が降ってくる。典型的な悪循環。

「AI、なんか……こう、現代知識でどうにかならん?」


「分析します。この書類管理システムは“前時代的”と分類されます。

 改善余地は、非常に大きいです」

「だろうな」

「提案します。

 一つ、書類を“種類ごとに仕分ける”という概念を導入する」

「概念って……そんなレベルなの?」


「はい。現在は“届いた順に積む”方式です。これは“混沌方式”と分類されます」

 混沌方式。言い得て妙だ。

「二つ、日付順に並べる。

 三つ、担当者ごとに分ける。

 四つ、未処理・処理済みの区別を作る」


「それ全部、当たり前のことじゃない?」

「当たり前の概念が存在しない世界です」

 AIの言葉に、思わず天井を見上げた。

 ……まあ、確かにこの世界は“紙文化”すらもが発展途上だ。定型様式でルーティンワーク化も、仕分けの概念が未整備なのも、仕方ないかもしれない。


「ノアスくん、どう? できそう?」

 ルミリさんが不安そうに覗き込む。

「えっと……まずは種類ごとに分けますね」

「種類……?」

 あ、そこからか。

「AI、仕分けの基準を音声で教えてくれ」


「了解。

 “依頼書”は左、“報告書”は右、“買い取り記録”は中央に積んでください。

 分類基準は紙の上部に記載された文字情報です」

「なるほど……って、ルミリさん、これ本当に全部混ざってたんだね」

「え、混ざってたの?」

 どうやら本人も気づいていなかったらしい。


 そこからは早かった。

 AIが読み上げる分類基準に従って紙を仕分け、さらに日付順に並べ、担当者別に分け、未処理と処理済みを分離する。最初は俺一人がやっていたが、ルミリも途中から要領をつ かみ手伝ってくれた。


 みるみる書類が減っていく。気づけば、机の上の“紙の壁”は、見たこともないほど整然とした“書類の棚”に収まっていた。


「す、すごい……! ノアスくん、これ、どうやったの?」

「いや、ただ……整理しただけで」

「整理……って、こういうことなの?」

 ルミリさんが目を丸くする。ギルドの奥からも、他の職員が寄ってきた。


「なんだこれ……見やすい……」

「日付順って、こんなに便利なのか……」

「処理済みと未処理を分けるって、天才か?」

 いや、天才じゃない。ただの現代人だ。


「AI、これでどれくらい効率上がった?」

「推定で、作業効率は約三倍に向上しました」

「三倍……!?」

 周囲の職員がどよめく。……いや、そんなに驚くことか?


「ノアスくん、すごいよ! ギルドに革命が起きたよ!」

 ルミリさんが本気で感動している。

 その後ろで、今まで席を外していたフィオも戻ってきた。すでに事情を把握しているようだ。


「ノアス、すごい……! これ、研究にも応用できるかも……!」

 フィオの目が、きらきらしていた。

 ――うん。こういう反応は、悪くない。


「でも、ずいぶんとルミリと、仲が良かったみたいだね」

 ――うん。こういう反応は、勘弁してほしい。


「いやいやいや、仲が良かったっていうか……仕事の話をしてただけで」

「ふーん?」

 フィオの“ふーん”は、なんというか、妙に圧がある。

 にこやかなのに、目は笑ってない……気がする。

 五十五歳な中身としては可愛らしくしか見えないが、あまり踏み込むのもよろしくないよな。


「補足します。“ふーん”という語尾は、一般的に“軽度の嫉妬”または“探り”の可能性があります」

「黙れAI」

「了解。黙ります」

 AIは素直に黙った。……こういう時だけ素直なんだよな。


「まあ、でも……ノアスがギルドの仕事を手伝ってくれるのは、本当に助かるな。

 研究の方も、いろいろ始めたいし」

 フィオは書類の山――いや、今は“棚”になったそれを見て、嬉しそうに微笑んだ。

 そして、棚の書類をペラペラめくりながら、つぶやく。


「これ、ミルダンの書類なんだよね?向こうのギルドで何があったんだろう……気になるなあ」

「気になる?」

「うん。魔石の扱い方とか、記録の付け方とか……町ごとに違うのは知ってたけど、ここまで混乱してるのは珍しいよ。

 それにこないだ、“声”が言ってたでしょ。ミルダンの魔物分布はオルベンと違って、魔物が濃いって。

 森から距離が遠いミルダンの分布が、オルベンより濃いって変なんだよね」


「それって、ミルダンには森がないってこと?」

「あ、違う。そうじゃなくて……うーん、一口で言いづらいな。それは今度、じっくり説明する。とにかく、変なんだ」

 フィオの目が、研究者のそれになっていた。

 さっきまで圧をかけてきた人と同一人物とは思えない。好奇心が、静かに燃えている。

 ああ……これは、近いうちに“ミルダンに行きたい”って言い出すやつだな。未来が、なんとなく見えた。


「ノアス、今日の仕事が終わったら、少し研究の話をしてもいい?」

「もちろん」

 即答する。それ以外の選択肢はない。フィオが嬉しそうに笑う。


――うん。こういう反応は、悪くない。

「じゃあ、午後の分も頑張ろうか。……あ、でもルミリとは、ほどほどにね?」

「だから違うってば!」

 ギルドの奥で、ルミリさんが「えっ?」と振り返った。

 フィオはにこにこしていた。

 裏を読んではいけないぞ、俺は。ほんと、心臓に悪い。

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