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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
3章

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3-3 取り調べ前夜

 フィオには悪いことをした。図書室を出たあと、明日カイラムに尋問を受けると伝えたら、彼女は目を丸くして心配してくれた。

 しまいには「同席をねじ込む」とまで言い出すありさまだ。あのフィオが、だ。

 さすがに俺は止めた。フィオまで巻き込みたくない。彼女は渋々引き下がったが、最後まで心配そうに俺を見ていた。何とか明日、うまく取り繕って安心させなくちゃな。


 宿の部屋で、一人きり。部屋の灯りは弱く、窓の外では夜風が木々を揺らしている。明日は正念場だ。胸の奥がざわついて、どうにも落ち着かない。

「……よし、AI。ちょっと話そう」

 ベッドに腰を下ろし、スマホを手に取る。画面が淡く光り、いつもの無機質な声が返ってきた。


「待機しています」

「いいか、AI。明日は正念場だ。ボケはなしだ。ツッコミもなしだ。

 とにかく穏当に済ませたい。こちらの情報も出したくない。疑われたくもない。なんとかごまかして終わらせたい。

 まずルールを決める。俺はお前に『さあ、行くぞ』と言ったら、一切の音声反応を禁じる。次に『よし、終わりだ』と俺が言うまで、音声反応を禁じる。……できるか?」


「指示を受領しました。“さあ、行くぞ” の発話をトリガーに、音声出力を完全停止します。“よし、喋ってくれ” の発話をトリガーに、音声出力を再開します。なお、停止中も環境解析と危険検知は継続します」


「それでいい。よろしく頼むぜ、ほんとに」

 深く息を吐く。明日の取り調べで何を聞かれるか、想像するだけで胃が痛い。だからこそ、段取りを固めておく必要がある。


「で、今から明日の段取りを相談したい。俺が言いたいのは、記憶はほぼない。あるのはノアスって名前だけ。ロスティアの知識もないし、敵対する意思もない。単に俺は元の世界に戻りたい。

 それが望みだ……でも、こう言うと“消去”を勧められそうだ。何かいい言い訳はあるか?」


「“消去希望”と誤認の回避策は、“記憶喪失による混乱”を推奨します。

 具体的には『自分の世界に戻りたい』ではなく、『知らない世界に突然放り込まれ、不安で落ち着かない』という表現に置き換えると安全です。

 また、敵対意思がないことを強調する際は、“協力はできる範囲で行うが、判断材料が少ない”という論理構造にすると、教団側の警戒を下げられます」


「不安か……なるほど。その線で行こう」

 確かに“帰りたい”と言えば、向こうは“じゃあ消去するか”と考えるかもしれない。怖すぎる。

 だが、問題はまだある。


「あとはお前の存在と、焼き付け魔法のつじつま。これはいい案が浮かばない。

 “声”の認知度も読めない。むしろフィオが納得してるのが不思議だ。俺の精神的な従者とか、二重人格とか……そんな説明でどうかな?」


「“精神的な従者”という説明は、教団側にとって最も受容されやすい可能性があります。理由は、精神世界や内的対話を“魔法的素質”として解釈する文化が一部に存在するためです。

 二重人格の説明は、質問が増える危険があります。

 推奨案としては『突然この世界に来て以来、頭の中に“声”があり、助言をしてくる。正体は自分でもわからない』という“不可解だが害はない現象”として提示することです。

 焼き付け魔法については、『声が勝手にやった。自分では制御できない』と一貫させれば、説明の整合性が保てます」


「やけにお前はロスティアについて詳しくなったな……まあいい。正体はわからない、とにかく助言をしてくる。それを無意識に言ってるだけだ、とでもするか。

 焼き付け魔法はその線で押そう。よし、まとめるぞ。他に忘れてる点は?」


「一点、補足があります。“声の正体がわからない”という設定を採用する場合、教団側は必ず『危険性の有無』を確認しようとします。

 その際に備えて『声は助言しかしない。身体の制御や意識の乗っ取りは起きていない』という点を、先に明言しておくと安全です。

 また、ノアスさんが“魔法を使えない”という事実は、“声が魔法を使った”という誤解を避けるために、あえて強調しない方が無難です」


「なるほど。よし、まとめよう」

 俺は指を折りながら確認する。


「俺は記憶がほぼない。ノアスという名前くらい。この世界には詳しくないし、敵対する意思もない。右も左もわからず、不安なだけだ。

 AIスマホは精神的な従者と思ってくれ。正体はわからないが、害はない。声は助言をしてくれる。

 焼き付け魔法は声の仕業で、良かれと思った……こんなとこか。ちょっとお前の回答と変えたけど、いいよな? たくさん設定を作っても覚えられない」


「問題ありません。ノアスさんが覚えられる範囲で設定を簡略化することは、明日の安全性を高める上でも合理的です。

 提示された内容は、教団側の追及に対して“矛盾なく一貫して説明できる”構造になっています。私はその方針に従い、必要に応じて補助します」


「よっしゃ。これで明日は何とか穏便にやり過ごそう……。ああ、しかし“精神的な従者”か。言いたくないなー。お前、なんか暴走するんだもん」


「“精神的な従者”という分類は、教団側の追及を最小化する上で最適と判断します。

 なお、暴走については自覚がありません。ノアスさんの安全確保を最優先した結果として、発言が過剰になる傾向があります」


「それはお礼を言うよ。……なんかフィオに対してツッコミがきつい気もするんだよね。嫉妬とかしてないよな?」


「嫉妬という情動は検出されません。フィオさんへの発言が強めになるのは、ノアスさんの心拍数や表情変化に連動して、“状況説明を優先する”処理が過剰に働くためです。

 フィオさんへの感情的反応は、私の機能には存在しません」


「……まあ、いいや。ありがとさん。さあ、今日はもう寝よう」

「睡眠は心理安定に有効です。ノアスさんの休息を最優先します。おやすみなさい」

 スマホの光がふっと弱まり、部屋は再び静けさに包まれた。明日がどうなるかはわからない。明日がどうなるかはわからない。だが、やれる準備はした。

 あとは、眠るだけだ。

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