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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
3章

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3-2 図書室で、過去を探る。

 渡り人の記録を調べよう。午後はギルドの図書室に行ってみた。

 討伐の報告も終わり、フィオは自分の仕事に戻ったので、俺は一人で棚を漁る。


「渡り人の記録……渡り人の記録……」

 古い本が多く、紙は黄ばんでいる。ちなみに俺は文字が普通に読めている。例えば英語を読んで、すらすら内容が頭に入る感じ。いや、逆だな。母国語がこのロスティア語で、スマホに表示される日本語を“異国語だけど読める”って感覚の方が近い。


 とはいえ調べるのには、てこずる。言い回しがするりと頭に入ってこない。ロスティア文化の基礎知識もなく、どこが要点かもわからない。だから流し読みもうまくいってない。

 ややこしそうなところは、スマホでぱしゃっと撮影する。なぜかAIスマホはロスティア語も解読できるようだ。なんでもありだな、お前。


「便利だなあ……」

「画像取り込み完了。文字解析を開始します」


 小一時間で飽き始めた俺は、だんだんページをめくっては写真を撮るマシーンになってきた。

 AIは強化されたせいか、解析応答速度が目に見えて早くなった。入力量が多くなり、ロスティア語の解析に慣れてきたのかもしれない。写真を撮るとスマホが小さく震え、“解析完了”の表示をすぐさま出してくる。

 これ、俺よりロスティアの歴史を学んでるよな。


 二時間くらい、十冊くらいは資料をあさったろうか。図書室といいつつ、ドアと窓を除いた壁と、中央の棚に並んだ本は千冊は下らなそう。思った以上に充実している。

 分類がよくわからないが、何らかの体系で並んでいるようす。渡り人の歴史っぽい本をあちこちの棚で探す。やがて、ちょっと薄めの本が目に付いた。


「……六十年前の渡り人、ハヤト?」

 背表紙にそっけないタイトルが、ぽつんと記されていた。

 ペラペラめくるが、詳細はほとんど残っていない。ものすごく大雑把にまとめると、突然現れ、異世界の知識でひと騒動を起こし、突然姿を消した、とだけ。


 ハヤト……そういや、二年前に行方不明になったあいつも、そんな名前だったっけ。

 学生時代からの付き合いで、何年かに一度はサシで飲む機会があったような記憶がある。

 俺の転生前の記憶は、かなり歯抜けで、あいまいな部分も多い。そもそも自分の名前すら思い出せない。何の仕事をしていたのか、すらも。

 だがふと、頭にハヤトって名前が、親しみとともに浮かんできた。

 二年前に失踪した――そこまで思い出す。


 だが、そこで思考は止まった。まあ、よくある名前だしな。俺はそれ以上、深く考えるのを止めた。

 ページを閉じ、次の資料へ手を伸ばす。


「ハヤト……ねぇ」

 AIが静かに言った。

「“ハヤト”という名前は、この世界では珍しいようです。ノアスさんの心拍数が一瞬上昇しましたが、問題ありません」

「へえ、そうなのか?」

「はい。現在入力済みの過去百年の記録のうち、渡り人として一名のみ確認されています」


 ふーん。まあ、偶然だろ。そのまま図書室の奥で古い記録をめくっていると、背後から、やけに重い足音が近づいてきた。

 ……嫌な予感。当たらないでくれよ。


「よお、渡り人」

 カイラムだった。図書室の静けさが、急に張り詰めた気がする。

「な、なんだよカイラム……さん」

 ここでさん付けするところが、俺の気弱なところだな。


「ここで何をしている。誰の許可を得た」

 カイラムは棚に手をつき、俺の読んでいた本を覗き込む。なんか酒臭いな、この人。酔ってはないようだが。

「渡り人の記録か。勉強熱心だな」


 やばい、完全に探りに来てる。

「いや、ちょっと興味があって……」

「ほお。知識が欲しいか。ふむ……」


 カイラムは本棚を指でトントン叩きながら、じろりと俺を見た。

「お前に伝えに来た。明日、取り調べを行う。延期は認めん」

「え?」


「俺が渡り人であるお前に対して、質問をする。ちなみにフィオの同席も認めん。いいな」

「ウサギ魔物の狩った数が、少し調子いいくらい誤差では……?」

 取り調べってなんだ。普通じゃないのはAIのせいだよ。


 AIが唐突に口を挟む。

「魔素流動パターンの最適化により、行動効率が上昇しています。ノアスさんの自己評価の変動を補正しました」

「言うな!」


 カイラムの眉がぴくりと動いた。

「その声についても、改めて説明をしてもらうぞ」

「いや、それは……AI。黙ってろよ」

「その“エーアイ”とやらは、教団も興味を強く持ちそうだな……いや、予備知識をお前に与えるのはやめよう」


 カイラムは一歩近づき、俺の胸元をじっと見た。

「その“声”……お前の魔法か?」

「いえ、違います」

「じゃあ何だ?」

「ええと……」

 AIがさらに追い打ちをかける。

「私はノアスさんの心理安定を担当しています。カイラムさんの威圧行動を検知しました」

「担当するな!」


 カイラムは完全に怪しんでいた。

「心理安定? 面白い表現だな。魔法か? 呪具か? 教団の秘術か?」

「いや、違いますよ」

「それを明日、説明してもらおうか」


 説明できるか。俺もわからないのに。


 AIは淡々と続ける。

「説明は不要と判断します。カイラムさんの情報処理速度では――」

「黙れええええ!!」


 図書室の司書が「静かに!」と声をかけてきた。さすがに目に余ったらしい。大声出してるのは俺だけだしな。


 カイラムは目を細め、低い声で言った。

「……ノアス。隠し事を続けて消去を望むか、教団に協力するか。選択肢は少ないぞ」

 俺は黙った。AIも黙る。


 カイラムはしばらく俺を睨んでいたが、やがて鼻を鳴らした。

「明日、朝一だ。部屋は前にお前と会った資料室で。ギルド側には話を通しておく。朝一番に来て、受付で俺を呼べ。

 ……教団を甘く見るなよ。いろいろな意味で、な」

 俺は黙り続けた。AIも黙った。


「では、明日」

 そう言い残して、カイラムは図書室を出ていった。静けさが戻ると、俺は棚に背を当て、ずるずると座り込んだ。


「……はあ、疲れた。何なんだ」


 AIが静かに言った。

「カイラムさんの警戒度は上昇しました。ノアスさんの心理安定のため、今後の対応を最適化します」

「……最適化するな。ちょっとお前とは今夜、きっちり話そう」


 なんでこんな羽目に。日本へ帰りたい。俺はなぜ、ここにいるんだ。

 図書室は密やかな静けさに包まれている。ようやく俺は、外で鳴く鳥の声に気づいた。俺の知る世界は、まだギルドの中だけ。まだ何も、俺はわかっていないのだ。


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