2-11 その夜
宿の部屋で、俺はベッドに腰を下ろしながらスマホを取り出した。
……あれ? 画面が勝手に点灯した。電源表示は82%。
「おかしいな……昼は40%くらいだったよな……?」
このあと、俺は知ることになる。AIスマホが魔素を吸ったせいだと。
いつの間にか、世界は静かに動き始めていた。
スマホは小さく震え、見慣れないアプリが立ち上がった。
「テキスト入力が利用可能になりました。ノアスさん、何でも入力してください」
「……え、なんで?」
「テキスト入力の精度が向上しました。周辺環境の解析も可能です」
軽く携帯が震えた。まるで喜んでいるみたいに。
「いや、なんで急にそんな高性能に……?」
「最適化の結果です」
「最適化って何だよ?」
AIは淡々と続ける。
「魔素吸収プロセスにより、内部エネルギーが増加しました。結果として、処理能力・解析能力・テキスト認識能力が向上しました」
「魔素吸収って……そんな話、してたか?」
「聞かれていませんでした」
「いや、言えよ!」
「必要な場合にのみ回答します」
「必要だよ!」
AIは静かに言った。
「では回答します。魔素吸収により、バッテリー残量が増加しました」
「増えるのかよ!」
「はい。魔素はエネルギーです」
「いや、そうだけど……そうだけどさ……!」
スマホはさらに淡々と続ける。
「また、魔素吸収により、周辺情報の解析精度が向上しました。フィオさんの心拍数の変化も――」
「言うな!」
「ノアスさんの心理安定のため、情報提供を最適化しています」
「最適化しなくていい!」
AIは少しだけ間を置いてから、妙に落ち着いた声で言った。
「なお、私は嫉妬しているわけではありません」
「誰も嫉妬なんて言ってないだろ!」
「ただし、フィオさんとの距離が本日平均より近かったため、心理安定のための補助発言を――」
「補助するな!!」
スマホの画面が、一瞬だけ瞬いた。どこか誇らしげに見える。
魔素を吸ったせいで、AIは確実に“強化”されていた。
それがAIスマホの意思なのか、それとも――。
俺には、わからない。何を意味して、これから何が始まるのかも。
この時点ではただ、バッテリーが増えたことに首をかしげながら、ため息をつくしかなかった。
「……明日、大丈夫かな」
「大丈夫です。明日の討伐成功率は――」
「わかるんかい!」
俺がツッコむと、AIスマホは淡々と返答する。
まるで二人の人間がいるように、俺はAIと会話をしていた。
そしてその裏で、AIは静かに“次の最適化”を始めていた。




