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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
2章

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20/27

2-8 静かな仕事の一日は、どこ行った。

「……ノアスさん。これ……魔法使いでも無理ですよ?」

「ええと、そうなんですか・・・?」

「はい。“書類焼き付け”は魔力の制御が難しくて、普通は一枚ずつしかできません。でも今のは十枚以上を一気に……」


 フィオは震える声で続けた。

「ノアスさん……本当に、魔法が使えないんですか?」

「使えないですってば」

 これはチートどころじゃない。ああ、やりすぎた。どうしよう。

 AIは淡々と補足する。


「書類焼き付けは、魔力ではなく熱処理によるものです。最適化のため、同時処理を行いました」

「熱処理!? お前、紙燃やす気だったのか!?」

「燃焼は抑制しました。安全性を優先しています」


 おい、何を言い出す。感熱紙じゃないんだ。

 フィオはぽかんと口を開けたまま、焼き付けられた資料を見つめた。


「……ノアスさん。あなたの“声”、やっぱり普通じゃありません」

「いや、普通じゃないのは分かってるけど……!」

「でも……すごいです。ギルマス、絶対に喜びますよ。こんなに分かりやすい資料、見たことありません」


 フィオは嬉しそうに笑った。

「ノアスさん、今日の仕事……もうほぼ終わっちゃいましたね」


 俺は頭を抱えた。

「……AI、頼むからもう少し空気読んでくれ」

「空気の成分を解析しますか?」

「解析するな!!」

 ギルドの静かな事務室に、フィオの笑い声がまた響いた。


 AIがやらかした十数枚の書類を前に、打開策を考えよう。これはさすがに、提出できない。作成に至った説明に窮する。

 これまで、フィオは下書きをどう提出していたか尋ねてみた。


「とにかくギルマスに、いろいろ説明するんですよ。お前も一緒に町長のところへ説明に来い、なんて言われたら大変なので。

 だけど細かすぎてもギルマスが覚えられないし。報告量の匙加減が、微妙なんですよね」

 フィオは資料の束を抱えながら、ため息をついた。


「なるほど……ギルマスが理解できる範囲で、でも必要な情報は全部入れないといけない、と」

「そうなんです。だから“下書き”をまとめて、ギルマスに渡すだけで精一杯で……その先の“行政への説明”はギルマス任せなんです」

「つまり、プレゼン資料は作らないってことか……」


「プレゼン資料を作成します」

 まただ。またこのAIスマホが勝手に言い出した。


「行政向けの説明資料を最適化します。視覚的理解を助けるため、スライド形式を推奨します」

「スライド?この世界にスライドはない!」

フィオがびくっと肩を揺らす。


「ノアスさん……“すらいど”って何でしょう?魔法の道具ですか?」

「いや、違う……違うけど……!」

 AIは止まらない。


「スライド一枚目:『依頼達成率の推移』。二枚目:『季節ごとの魔獣発生率』。三枚目:『依頼金額の最適化案』。四枚目:――」

「やめろ! 勝手に章立てするな!!」

「章立ての最適化を中断します。ただし、内部処理は――」

「中断しろって言ってるだろ!!」


 フィオは完全に混乱していた。

「ノアスさん……あの……“声”が難しい言葉を使ってましたね。行政向けの説明って、そんなに複雑なんですか?」

「どうなんでしょう……この世界のことがわからないので」


「ああ、確かに。でもギルマスが町長に説明するとき、そういう流れなら便利かもしれませんね……?」

「うーん……睨まれませんかね? 教団、とやらに」

 AIはかまわず、さらに追い打ちをかける。


「プレゼン資料の作成には、視覚的要素が重要です。棒グラフ、円グラフ、散布図、ヒートマップ、レーダーチャートを――」

「ヒートマップ!? この世界にヒートマップはない!!」


 フィオは目を丸くした。

「ひーとまっぷって何でしょう?魔素の流れを可視化する魔法ですか?」

「違います、ヒートマップってのは……ああ、そんな話ではなくて」


「魔素流動ヒートマップを作成します」

「作成するな!」

 机の上の紙がまた光り始めた。

「えっ!? また“書類焼き付け”が……!」

「魔素流動ヒートマップを焼き付けました。行政向けの説明に最適です」

「最適じゃない!!」


 フィオは震える声で言った。

「ノアスさん……魔法使い以前に、報告の形が魔法のようにまったく変わりそうですよ……魔素の流れを表にするなんて、教団の研究者でも難しいんです……体系とかが明らかになっていないので」


 AIは淡々と続ける。

「次は“町長向けプレゼン資料”を作成します。タイトル案:『オルベンの未来を変える依頼最適化戦略』」

「タイトル案を出すな!!」


 目を丸くしたフィオは、あきれ果てたようだ。もう笑いをこらえずに、机に突っ伏した。

「ノアスさん……本当に面白いです……!ギルマス、絶対びっくりしますよ……!」

「いや、びっくりで済めばいいんですが」


「では、プレゼン資料の表紙を焼き付けます」

「焼き付けるなああああ!!」

ギルドの事務室に、フィオの笑い声と俺の悲鳴が響き続けた。


**

「では、プレゼン資料の表紙を焼き付けます」

「焼き付けるなって言ってるだろ!」

 俺が叫んだ瞬間、AIが妙に落ち着いた声で言った。


「町長向けのプレゼン練習を開始します」

「はああああああ!? なんでそうなる!!」

 フィオが椅子から跳ね上がった。


「ちょ、ちょっと待ってください! ノアスさん、町長に説明するんですか!?そんなの聞いてませんよ!」

「聞いてないのは俺もだよ!」

 いかん、フィオに突っ込んではいけない。AIスマホを止めるんだ。電源、叩き切ってやってやろうかな。しかし再度電源が入る保証もない。AIスマホなしでこの世界に独りぼっちは怖いし・・・。


 AIは淡々と続ける。

「プレゼン練習モード。まずは“自己紹介”から始めます。ノアスさん、どうぞ」

「どうぞじゃねえ!」

 ああ、突っ込むのを止めたい。なんとかならんのか。


 フィオは完全に混乱していた。

「ノアスさん……あの……“ぷれぜん”って何ですか? 魔法の儀式ですか?」

「いえ、違います!なんか似たようなもんかもしれませんけど!」


 そして、AIは止まらない。

「自己紹介スライドを焼き付けます。タイトル:『渡り人ノアスの挑戦』」

「挑戦するな!! 勝手に挑戦させるな!!」


 紙がまた光り始めた。

「スライド二枚目:『オルベンの課題と未来』。三枚目:『依頼最適化戦略』。四枚目:『魔素流動ヒートマップの活用』」

「ヒートマップを活用するな!!」


 フィオは震える声で言った。

「ノアスさん……これ、ギルマスに見せたら……絶対に町長のところに連れて行かれますよ……?」

「そうです、やめたいんです。“声”が止まらないんです。……何言ってるかわかりませんよね、はは……」

 AIはさらに追い打ちをかける。


「では、発声練習を開始します。“本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます”と発声してください」

「言わねえよ!」

「発声が確認できません。もう一度お願いします」

「だから言わねえって!!」


 もうフィオは吹っ切ったようだ。完全に面白がっている。

「ふふっ……ノアスさん……発声練習ですよ?」

「許してください、フィオさん。お願いします」

 AIは淡々と続ける。


「次は“町長の質問に対する模擬応答”を開始します。“依頼金額の最適化とは何か?”という質問に対して――」

「模擬応答するな!!」

「最適な回答例を提示します。“依頼達成率と依頼金額の相関を――”」

「相関を説明するな!!」


 フィオは涙を浮かべながら笑っていた。

「ノアスさん……もう……だめ……お腹痛い……!」

「俺は胃が痛いです……」

 そのとき、ギルドの奥から声がした。

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