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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
第一章

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1-1 まずは転生。

 目覚めたら、森の中だった。背中にじんわりとした痛み。どうやら俺は地面の上に寝転がっていたらしい。倒れてたのか、寝入ってたのか知らないが……。

 だいたいなんで、俺はこんなところにいるんだ。


 目を開けて最初に見えたのは、濃くて緑に覆われた天蓋。枝と葉がみっしり重なり合い、昼なのに薄暗い。湿った土の匂いが鼻をつく。

 遠くで鳥が一声鳴いた。風が通る。寒くはない。


(……どこだ、ここは)


 頭を振る。直前の記憶が曖昧だ。酒をたらふく飲んで、橋の上をふらふら歩いて──そこで記憶が途切れてる。

 スーツの袖口は土で汚れ、ネクタイはゆるんで胸元が涼しい。ケガはないようだ。喧嘩の果てに倒されたとかじゃない。

 立ち上がろうとして、思わずふらついた。想定以上に身体が素早く動いてる。


(……身体が軽い?)


 動きがしなやかだ。膝も腰も痛くない。五十五年生きてきてガタが来始めていた身体を、いたわり気味に動いたのに。

 こんなにスッと立てるなんて、奇跡か……いや、奇跡なんて言葉はまだ早い。落ち着け、俺。


 脈絡もなく頭の奥に、ぽつんと名前だけが浮かんだ。


──ノアス。


(……誰だ、それ)


 自分の名前は思い出せないのに、その名前だけが先に出てくる。混乱したまま地面に座り込み、深呼吸する。慌てるな。現状を整理しろ。


 少しずつ、断片的に記憶が戻ってきた。あれは部長からリストラ対象と告げられた日のこと。胃の奥が冷える感覚。にじみ出る脂汗、こぼれそうな涙。

 不安に押しつぶされそうで、会社を定時で抜け、やけ酒をあおり、川べりを歩いて──足を滑らせた。

 視界がぐるりと回って……そこで記憶は途切れている。


(……俺は死んだのか?)


 ポケットにはハンカチ、スマホ。腕には時計。他には何も持ってない。財布も鍵も鞄に入れっぱなしだった気がする。

 今は昼間のようだ。なのに森の中でスーツ姿。不思議だ。


「……どうしよ」

 ぼそっとつぶやいた瞬間。

「入力を検知。応答モードを起動しました。ご用件を指定してください」

「うわっ!?」

 胸元を探り、ストラップ付きのスマホを引っ張り出す。黒い画面のままタップしたら電源は入った。充電95%。

 だがアプリはどれも立ち上がらない。AIアプリも無反応のまま。


「今、返事したよな……おい、AI。返事しろ」

「音声入力を検知。質問内容を指定してください」

 アプリは沈黙してるのに、音声だけが生きてる? そんなバカな。アンテナも立っていないのに、なぜだ。スタンドアローンのAIじゃないはずだろ。


「……しょうがない、AIさまに聞いてみるか」

 これまで天気予報から飲み会の予約、スケジュール管理に会議メモ。メール作成、議事録作成、資料作成、情報検索。

 単なる応答装置に留まらない。仕事で散々助けてもらってきた“相棒”だ。

 だがソフトが立ち上がらないのに音声だけ動くのは、どう考えてもおかしい。


「ここはどこ? 今はいつ?」

「位置情報は取得不能。参照可能な時刻は“日本時間・2028年1月21日・23時25分”。現在地の時刻とは一致しない可能性があります」

 俺は眉をひそめた。

「いや、今は昼だろ……?」

「検索結果では、日本時間・2028年1月21日・23時26分です」

 いったいどうなってるんだ。外国にいるわけでもないだろ。日付は深酒した日で間違いない。

「壊れてるのか?」

「異常ログは検出されていません。次の入力を待機します」


(……異世界転生でもしたのか、俺は)


 情報が足りない。とにかく整理だ。

「じゃあ、作り話だと思って聞いてくれ。俺は今、異世界に転生した。昼の森の中で、荷物はスマホだけ。生き延びるためじゃなく、脱出するにはどうすればいい?」

「仮定条件を受理。最適行動は“森を離れ、人の居住域を探索すること”です」


「……まあ、そうだよな」

 俺はがっくり肩を落とした。あまりに当たり前の回答だ。面白くない。もう少し何か、愛嬌というか、優しさというか、あってもいいじゃないか。


 俺はトラックにはねられた覚えはない。橋の上でバランスを崩しただけだ。死んじゃいない……よな?病院のベッドで明晰夢でも見てるのかね?

 定番だが、頬をつねってみても痛覚はキッチリ感じた。


「他に質問をどうぞ」

 そうだな、とりあえず情報を増やそう。

「今の天気は?」

「参照中の気象情報は“曇り”。一時間後の降水確率は80%。ただし、あなたの現在地の天候とは一致しない可能性があります」

 だめだ、こりゃ……現状把握に役立ちそうにない。もう少し自力で動いてから聞こう。

「次の入力を待機します」

「ない。まずは森を出る」

 方向もわからないが、開けていそうな方へ歩く。スマホの電源は切った。電池は貴重だ。

 一時間ほど歩くと、森を抜けた。


「ここはどこだ……」

「現在地を特定できません。GPS信号は取得不能です」

 スマホを取り出す。画面は黒いまま。

「……電源切ってるのに、なんで返事するんだよ。電源、切れてるはずだよな?」

「端末の電源状態は取得不能。音声応答機能は独立稼働中です」

(……なんだよそれ。ますます異世界じゃないか)

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