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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
2章

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2-7 静かな朝と、静かじゃない“声”

 討伐の翌日。ギルドの朝は静かだった。昨日の喧騒が嘘のように、紙をめくる音と、フィオがペンを走らせる音だけが響いている。

 今日は平和だ。フィオと二人っきりで、再びギルドの事務支援。しかもカイラムの邪魔も入らない。もちろんAIスマホは胸元のポケットに入っている。でも、二人っきりだぞ。


 しかも俺は気付いた。俺が下手にしゃべらない限り、AIスマホは黙っている。

「ではノアスさん、今日はこの三年分の報告書をまとめて……こっちは未完了の依頼書です。これを分類して、傾向を出して……」

「年度計画かよ」

「え?」

「いえ、独り言です」

「年度計画の自動生成を開始します。三年分の依頼データを統合し、最適な年間方針を――」

 独り言って言ったよね? 失敗した……無視しようかな。ああ、フィオが笑っている。

 それにしても、山積み書類を手作業で処理ってところが、もどかしい。パワポとエクセルがあれば一瞬なのに。せめて電卓が欲しい。

 この世界には「書類焼き付け」という魔法があるらしい。紙に魔力で文字を焼き付ける、プリンタみたいなもの。

 なんで機械文明じゃなくて魔法文明になったのか……と考えながら、俺は資料の山に向き合った。


「ノアスさん、ここの依頼は“未達成”ではなく“期限切れ”です。分類が違いますよ」

「あ、すみません」

「いえいえ。こういうのは慣れですから」

「分類基準の誤差を検出しました。依頼書の並び順を最適化し、正しいカテゴリへ自動再配置します」


 フィオはにこにこしながら、俺の書いたメモを丁寧に直してくれる。その笑顔が嬉しくて、つい頑張ってしまう。

 昨日のこともあってか、AIスマホの言葉をすべて拾うのも控えているようだ。ありがたい。


 ……とはいえ実際の仕事は、ほとんどAI任せ。俺はもっと役に立ちたいなあ。

「依頼書の分類を最適化します。三年分のデータを統合し、達成率と依頼金額の相関を――」

 AIの喋りは止まらない。無視もダメなのか。

「黙れって……!」

「音声出力を抑制します。ただし、内部処理は継続します」

「継続すんな!」


 フィオが肩を震わせて笑っている。

「ふふ……ノアスさん、今日も“声”が元気ですね」

「いや、元気じゃなくて……」

「でも、ノアスさんの提案、すごく助かってますよ。依頼金額の相場を“達成率で調整する”なんて、これまでのギルドに無い発想です」


「え、そうなんですか?」

「はい。普通は“去年と同じ”で済ませちゃうんです。でも、達成率を見て調整すれば、確かに依頼人も冒険者も助かります。こんな方法、思いつきませんでした」

 フィオは本当に嬉しそうに微笑んだ。

「……いや、それ俺じゃなくてAIのおかげなんだけど」


「依頼金額の最適化案を提示します。達成率の低い依頼は――」

「黙れって言ってるだろ!」

「最適化案の提示を中断します。ただし、内部での計算は――」

「中断しろ!!」


 フィオはもう笑いをこらえきれず、机に突っ伏した。

「ふふっ……ノアスさん、本当に面白いです……」

「いや、俺じゃなくてAIが……」

「でも、“声”って、ノアスさんが考えてるように見えるんですよ。だから、すごいなって思ってしまいます」


 その言葉に、胸が少し熱くなる。

 フィオは書類を束ねながら、ふと真面目な顔になった。

「……ノアスさん。昨日の魔石の件もそうですが、あなたの“声”は、やっぱり普通じゃありません」


「いや、普通じゃないのは分かってるんですけど……」

「でも、私は……ノアスさんの“声”が嫌いじゃないです。むしろ、助けられてばかりで……」

 フィオは少しだけ頬を赤らめた。それは俺に向けてでしょうか、AIに向けてでしょうか。

「だから、今日も一緒に頑張りましょう。ノアスさんとなら、きっと資料整理も楽しくできますから」


 その笑顔に、俺は思わず勢いよくうなずいた。

「はい、よろしくお願いします」

「では、次はこの依頼書の分類ですね。三年前の“魔石盗難事件”から――」

「魔石盗難事件の詳細を検索しますか?」

「検索するな!!」

 なんかフィオの声にも反応しつつあるな、こいつ。


 作業室の静かな空間に、フィオの笑い声がまた響いた。今日もいい天気だ。日差しが明るいこの部屋は、温かい。


***

「複雑な数表やグラフなんて、到底手書きはできないんですよね……」

 フィオが資料の山を前に、少し困ったように眉を寄せた。

「ギルマスに提出するのは手書きの書類ですから。その下書きをギルマスが判断して、最後に“書類焼き付け”で清書するんです。でも……」

「でも?」


「この量だと、焼き付け前の“下書き”だけで一日終わっちゃいます」

 そりゃそうだ。三年分の依頼書と報告書だ。エクセルがあれば一瞬なのに。

「AI、なんかいい方法ないか?」

「マーケティング分析手法を検索します。該当するのは――SWOT分析、PEST分析、STP分析、ファネル分析、RFM分析、回帰モデル、クラスター分析、ABC分析、コホート分析――」

「ちょ、ちょっと待て! そんなにいらない!」


「最適化のためには複数手法の併用が推奨されます」

「推奨すんな!」

 フィオがきょとんとした顔でこちらを見る。


「ノアスさん……今の“声”、なんだか難しい言葉をいっぱい言ってましたね?」

「いや、あれは……その……」

「“吸おうっと”って魔法の種類ですか? 書類を、吸い上げるような」


「違う違う違う!」

 フィオは首をかしげたまま、資料に視線を戻した。

「でも……依頼の傾向を“分類”するのは確かに必要です。魔獣の種類、依頼人の事情、季節ごとの発生率……そういうのをまとめれば、来年の計画に役立ちますし」


 うーん、この手の事務作業で悩むのは馬鹿らしい。AIチートで助けてあげよう。AIへ丸投げともいうが。

「AI、この世界でも通じる言い換えできないのか?」

「では、“魔素流動パターンに基づく依頼分類法”として説明しますか?」

「やめろ! 余計にややこしい!」


 フィオはくすっと笑った。

「ふふ……ノアスさん、今日も調子がいいですね」


 そのときだった。

「書類焼き付けプロセスを開始します」

「は?」


 次の瞬間、机の上の紙が――勝手に光り始めた。

 フィオが驚いて椅子から半分立ち上がる。

「えっ!? ノアスさん、また、魔法ですか!?」


 紙の上に、整然とした表が浮かび上がる。

 三年分の依頼達成率、依頼金額の相場、季節ごとの魔獣発生率……

 まるで高速プリンタのように、次々と紙に報告書が焼き付けられていく。


「書類焼き付け完了。視覚的理解を助けるため、棒グラフと折れ線グラフを追加しました」

「追加すんな!!」

 フィオは完全に固まっていた。

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