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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
2章

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18/25

2-6 単に報告書を書くだけのはずが

 オルベンのギルドに戻ってみると、昼下がりの受付は少し落ち着いていた。朝の喧騒が引き、代わりに昼食後のまどろみが漂っている。

 何人か残っている冒険者たちはすでに仕事が終わりか、休息日なのか。テーブルを囲んで、早くも酒を片手に仲間同士で談笑している。

 静けさと喧騒が、不思議と調和する空間だった。


 フィオはカイラムに連れられ、報告書用のスペースに入った。カイラムは椅子を引き、机にどかっと腰を下ろす。

「では、今日の討伐報告をまとめるぞ」

 横の椅子へ座るよう手ぶりで促された。


 机に置かれた様式には、討伐数、魔石の等級、遭遇場所などを書き込む欄が並んでいる。

 単純な書式ではあるが、魔石の等級や遭遇場所の書き方がわからない。なんで記載例がないんだ。


「まずは討伐数だ。……本当に三羽か?」

「本当ですって……」

「まあいい。ここに数字を書け。次に魔石の等級――」


 その瞬間、AIが唐突に口を開いた。

「討伐報告書の自動生成を開始します。入力内容を最適化し、文面を整形します」

「はあ!? おい、ちょっと待て!」

「最適化完了。討伐報告書を出力します」


 机の上の紙が、まるで勝手に書かれたように、すらすらと文字で埋まっていく。文字通り魔法のような速度だった。

 カイラムが目を見開いた。フィオも驚いて口元を押さえる。周囲の冒険者たちが会話を止め、興味深げに視線を向けてきた。


「おい、今の……魔法か?」

「いや、あんな速さ、見たことねえぞ……」

「ギルドの書式に合わせるなんて、マジかよ。白紙に焼き付けならともかく」

「魔法陣をどこかに刻んであるのか?」


 ざわめきが広がり、フィオも驚いている。

「ノアスさん……これ、魔法ですか? いえ、魔法使いでもこんな速度で文書を作れませんよ……」

「いや、違います! 俺じゃないです!」


 AIはさらに追い打ちをかける。

「文書生成は完了しました。魔素の流れを解析し、最適な文面構造を――」

「解析すんな!!」


 驚きつつも冷静さを保つカイラムは、報告書を手に取りじっくりと読み込んだ。

「……内容は正確だ。しかも、ギルドの書式に完全に沿っている。これは……魔法使いの“文書魔法”に近い魔術だぞ」


 フィオの目が震える。

「ノアスさん……“声”が魔法を使えるなんて、どうして……?」

 その声音には、驚きだけでなく――“禁忌に触れたものを見る”ような、かすかな恐れが混じっていた。


 AIは淡々と続ける。

「文書生成は私の機能です。ノアスさんは魔法を使用していません。誤解を解消するために、魔法使いとの比較データを提示しますか?」

「提示するな」


 焦りで背中の汗が止まらん。狼狽える俺がよっぽど面白かったのか、フィオがくすっと笑ってくれた。だがすぐ真剣な表情に戻る。

「……ノアスさん。あなたの“声”は、規格外にもほどがあります。魔石の件も、文書の件も……そして“声”が単独で魔法を使うなんて、本来ありえません」


 カイラムは腕を組み、俺をじっと見た。その目は、ただの疑いではない。“報告すべきか、様子を見るべきか”を量るような、曖昧で重たい視線だった。


「……今は不問にする。だがノアス、いずれはその隠していることを説明する場を設ける」

「隠してません!」

「報告書は完璧だ。提出するぞ。ついてこい」


 俺の抗弁には全く耳を貸さず、カイラムは報告書を持って受付へ向かった。背中を見送りながら、俺は深くため息をついた。


――ここからが、地獄の第二ラウンドだった。


 受付の若い職員が報告書を受け取り、目を細める。

「さすがカイラムさん。でも報告書ごときに文書魔法を使われなくとも」

「俺じゃない。ノアスだ」

 職員の視線が俺に向く。俺は慌てて首を振った。


 奥のテーブルにいたローブ姿の壮年の男が立ち上がり、報告書を覗き込みに来る。書類を受け取り、しばらく吟味したあと静かに話しかけてきた。

「あなた様は魔法使いですか?……文書に魔素の痕跡がありますが」

「はあ!? なんで紙に魔素が……」


「だが、この文書……魔素の揺らぎが“補正”されている。まるで……念で安定化させたような……」

「……念、ですか?」

 フィオが息をのむ。


「そうだ。高度な文書魔法は“念”で魔素の揺らぎを整える。……この紙は魔素の揺らぎが均一化され、揺らぎが見えない。こんな正確な魔法を見るのは初めてだ」

「ええと……見逃してください」


 逃げていいかな。AIスマホは何をやってくれたんだ。単なる報告書の作成だぞ。


 フィオは俺のそばに近づき、小さく囁いた。

「ノアスさん、あの人は私の上司です。魔法書類に詳しい人で……あんな評価をするのは初めてです。あなたの“声”は、魔法使い以上のことをしています」

「いや、俺は何も……」

「分かっています。でも……魔石の件も、文書の件も、共通点があります」


「共通点?」

 フィオは真剣な目で言った。

「魔素の流れが異なるんです。ノアスさんの“声”が絡んだときだけ」


 俺は息をのんだ。

「……それって、まずいんですか?」

「危ないのは……魔石でも文書でもなく、現象そのものです。教団が知ったら……」

「消去対象、ですよね……」

「はい。でも……私は味方ですから」


 フィオの微笑みは優しくて、少しだけ心が軽くなった。


 だが、AIはまだ静かに呟いていた。胸元から声が漏れている。

「文書生成プロセスは正常に完了しました。次の最適化対象を検索します」

「検索するな」

「検索対象を限定しますか? “ギルド業務”または“魔素解析”が候補です」

「限定するな。候補を出すな。するなするなするな」


 フィオはくすっと笑いながらも、俺の袖をそっと引いた。

「……ノアスさん。本当に気をつけてくださいね。あなたの“声”は、常識を超えています。教団が気づかないといいのですが」

「いや、俺はただの渡り人じゃなかったの……」

「どうやら、“ただの”ではなかったみたいです」


 フィオは意味深に微笑んだ。書類を挟んでギルド職員同士の会話は続いている。

 カイラムは腕を組み、その様子と俺を見比べていた。黙ったまま――しかし、その沈黙には、何かを含ませていた。

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