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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
2章

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2-5 魔石消失の真相と、揺らぎの兆候

「ノアス。お前、本当に魔石を拾ったのか?」

「拾いましたよ! フィオさんも見てましたよね」

 あんた、護衛だろ? その質問は理不尽だぜ。監視だとしても役目を果たしてない。なんなんだ。


「はい、確かに……確かに魔石でした。でも……どうして……?」

 フィオは困惑しながら石を見つめる。その横で、AIが淡々と告げた。


「魔素吸収プロセスは完了しました。魔石内部の魔素はすべて取り込み済みです。残留物は無価値の石です」

「お前かああああああ!!」

「音声入力を検知しました。“お前”の指示は曖昧です。対象を特定できません」

「お前以外に誰がいるんだよ!!」


 フィオは驚きつつも、すぐに俺の袖を引いた。

「ノアスさん……まさか、“声”が魔素を……?」

「いや、俺も知らなかったんですって……!」

 カイラムは腕を組み、冷たい目で俺たちを見下ろした。

「……魔石を紛失した上に、ただの石を持って帰ってくるとはな。初日から随分とやらかしてくれる」


「違います! 本当に魔石だったんです!」

「証拠は?」

「それは……」


 言葉に詰まる。五十五年生きてきて、こんな言い訳をする日が来るとは。

 フィオがきちんと口添えしてくる。


「カイラムさん、ノアスさんを疑わないでください。魔石は……何かの拍子で魔素が抜けたんです。そういうことも、もしかしたら……」

「聞いたことがないな」

「でも、ノアスさんは嘘をつくような人じゃありません。私が保証します。あ、それに。こちらの魔石は私が保持していました」


 フィオの声は強かった。昨日までの柔らかい雰囲気とは違う、芯のある声だった。


「さあ、証拠です。どうぞ」

 腰の袋から出した布を開き、魔石を取り出す。そのままカイラムに突き付けた。

 そのとき石を見て一瞬、息をのむ素振りは……気のせいかな。


 カイラムはしばらく黙り、俺とフィオを順に見た。

「……確かに、ウサギ魔物の魔石だ。フィオがそこまで言うなら、今回は不問にする。だが、魔石の紛失はギルドの記録に残る。次は気をつけろ」

「はい……すみません」


 フィオはそっと俺の袖を引き、声を潜めた。

「……ノアスさん。本当に気をつけたほうがいいです。魔石が“ただの石になる”なんて、教団が知ったら……」

「消去対象、ですよね……」

「はい。絶対に、誰にも言わないでください」


 フィオの声は小さく、しかし強かった。

 俺は懐のスマホをそっと押さえた。

 そして先ほどの魔石だった“石”。何が起こってるんだ。


 今回の目的は魔獣討伐だ。石を持って帰っても意味がない。まだ昼前だし、今日の時間はある。早めの昼食を食べたあと、俺はもう一度森へ入ることにした。


「無駄だろう。そんなに都合よく魔獣が出るか」


 カイラムは鼻で笑い、フィオを連れてどこかへ行こうとする。だがフィオは一歩だけ遅れて歩き、さりげなくカイラムの視界から抜け出した。


「ノアスさん、私も行きます。……さっきの魔石の件、気になりますし」

 小声でそう言うと、フィオは俺の横に並んだ。カイラムは引き留めない。あきれた目で無言のまま俺たちを見ていた。踵を返し、天幕に向かう。


 ……だから、護衛は? 監視は?


 森に入ってしばらく待つ。風が木々を揺らし、鳥の声が遠くで響く。静けさが続いたかと思うと――。


「魔獣接近を検知しました。距離は――」

「またかよ……!」


 フィオが息をのむ。「本当に……こんなに続けて来るなんて……」


 草むらから、ひょこっとウサギ魔獣が顔を出した。さっきと同じように首を伸ばし、こちらを伺っている。


「ノアスさん、落ち着いて……今です!」


 フィオの声に合わせて引き金を引く。矢が飛び、ウサギ魔獣は光に包まれて消えた。草の上には、淡い青色の魔石が残る。


「……また討伐できましたね。すごいです、ノアスさん」


 フィオは魔石を拾い上げ、光にかざした。だが、その表情がすぐに変わる。


「どうしました?」

「この魔石……さっきのより、ずっと質が良いです。魔素の密度も高い。なのに……」


 フィオは魔石をじっと見つめた。


「……ノアスさん。今度も、私が魔石を預かりますね」

「はあ、いいですけど。やっぱりさっきの現象のせいですか?」

「ええ。さっきの魔石が“ただの石”になったの、気になります。実はカイラムさんに渡すとき、気づきました。最初の魔石も、ごくわずかですが魔素が減ってるようでした。……私の気のせいではない、と思います」


 フィオは慎重に魔石を布で包み、胸元のポーチにしまった。


「これなら……大丈夫だと思います。ノアスさんの“声”が触れなければ、魔素は抜けないはずです」

「いや、俺の“声”って……」

「魔素吸収プロセスを開始しますか?」

「開始するな!!」


 フィオは微笑みつつも、緊張は崩さない。ずいぶんと複雑な顔をしていた。布で包まれた魔石を入れた腰の袋の上から、そっと石のあたりを押さえてみせた。


「……ノアスさん。やっぱり、あなたの“声”は普通じゃありません。だからこそ、私が守ります。魔石も、ノアスさんも」


 その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。


 森の静けさの中で、フィオは魔石の包みをそっと撫でた。


「……絶対に、今度は消えさせませんから」


 森を抜けて草原に戻ると、カイラムが腕を組んで待っていた。俺たちを見るなり、眉をひそめる。


「……早いな。まさか、もう一羽討伐したのか?」

「はい。ノアスさん、すごいんですよ。今日だけで三羽目です」

 フィオが嬉しそうに言うと、カイラムの目が細くなった。疑いの色がはっきりと浮かぶ。


「……フィオ。お前、何かしたのか?」

「え?」

「いや、ノアスがこんな短時間で三羽も討伐できるとは思えん。お前が何か“誘導”したんじゃないか?」


 その言い方には、色気づいた柔らかさは全くない。もっと冷静で、もっと鋭い。

 フィオの“能力”そのものに興味を持っている目だ。

 フィオは一瞬だけ言葉に詰まったが、すぐに首を振った。


「私は何もしていません。ノアスさんが落ち着いて狙えたからです」

「……本当にか?」

 カイラムの視線が俺に向く。疑いというより、“観察”に近い。


「偶然ですよ。たまたまです。運が良かっただけで」

 俺は必死に言い張る。魔石の件もあるし、これ以上突っ込まれたら困る。

 そのとき、AIが唐突に口を開いた。


「本日の討伐成功率は、統計的に見て“奇跡的な偶然”の範囲内です。フィオさんの能力は関係ありません」

「お前は黙ってろ!!」


 だが、カイラムはぽかんとした顔になった。

「……奇跡的な偶然、だと?」

「はい。統計的に見て、極めて低確率ですが、発生の可能性はあります」

「……そうか。まあ、奇跡的な偶然ならば……受け入れるか」


 妙に自分へ言い聞かせるように、静かにつぶやくカイラム。その声には、どこか“救われたい”ような響きがあった。

 AIのとぼけた助け舟が、まさかの効果を発揮したらしい。俺は心の底からホッとした。


「ノアス、オルベンに帰ったら報告書をまとめる。今日中にはギルドに提出するぞ。さあ、戻りましょう、フィオさん。天幕を片付けますので、少々お待ちくださいね」

 カイラムは踵を返し、天幕へ向かう。

 さりげなくフィオは俺の横に並び、小さく囁く。


「……ノアスさん。さっきの“声”の発言、助かりましたね」

「いや、助かったけど……あいつ、絶対わざとだろ……」

「“わざと”の定義を確認しますか?」

「確認しなくていい!!」


 フィオはくすっと笑い、俺たちは三人でオルベンへ戻り始めた。

 魔石がただの石になったことも、AIが魔素を吸い込んだことも、まだ突き詰められていない。

 胸の奥に小さなモヤモヤを残しつつ、俺は歩き続けた。


 オルベンへ戻る道すがら、カイラムは先を歩き、俺とフィオは少し後ろを歩いていた。カイラムが街門のほうへ向かっていくと、フィオはふと足を止めた。


「……ノアスさん。少しだけ、待っていてください」

 そう言うと、フィオは腰のポーチから、さっき預かった魔石をそっと取り出した。布に包まれたままのそれを、木陰に身を寄せて慎重に開く。


 魔石は――まだ青く光っていた。

「……良かった。ちゃんと魔素が残っています」

 フィオは胸をなでおろしたが、すぐに表情を引き締めた。光にかざし、角度を変え、指先でそっと触れる。


「でも……やっぱり、さっきのとは違いますね。魔素の流れが……少し不安定です」

「不安定?」

「はい。魔石って、普通は“脈”みたいに魔素が一定のリズムで巡っているんです。でもこれは……どこか乱れている。まるで、何かに触れたあとみたいに」


 フィオはちらりと俺の懐を見る。

「……ノアスさんの“声”が触れた魔石と、触れていない魔石。違いがあるのかもしれません」

「いや、俺は何も……」


「分かっています。ノアスさんのせいじゃありません。でも……“声”が魔素に影響を与えるのは確かです」

 フィオは魔石を布に包み直し、ポーチに戻した。


「この魔石は、私が預かります。ギルドにも、カイラムさんにも見せません。……絶対に」

「そんなに危ないものなんですか?」


「危ないのは魔石じゃなくて……“この現象”です。魔石がただの石になるなんて、教団が知ったら……」

 フィオは言葉を飲み込み、首を振った。


「……とにかく、ノアスさんは気をつけてください。私は味方と思ってくださって大丈夫です。本当に」

 そう言って、フィオは小さく微笑んだ。その笑顔は優しいのに、どこか張りつめた緊張があった。

「行きましょう。カイラムさんに怪しまれると、また何か言われますから」


 俺たちは再び歩き出した。

 フィオのポーチの中で、魔石はかすかに光を揺らしていた……はずだ。

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