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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
第一章

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2-1 初めての討伐へ

 翌朝。今日もいい天気だ。だけど建物の外には出ていない。そういえば、別に禁止されていたわけじゃないのにな。居心地がよくて、つい宿の中で過ごしてしまっていた。


 今日は宿の受付でフィオを呼んでもらう手順は踏まない。直接、彼女の席へ向かうことにした。仕事ぶりも見てみたい。

 ギルドの扉を押し開けると、フィオが受付にいた。けれど、どこか表情が固い。近づくと、彼女も俺に気づき、スッと立ち上がった。軽く息をつき、頭を下げてくる。


「おはようございます、ノアスさん。すみません、予定を変えさせてください。今日はぜひ魔物討伐をお願いします」

「おはようございます、フィオさん。今日も書類事務じゃないんですか?」


 すまなそうに、彼女の顔が曇る。

「はい。昨日の事務作業は本当に助かりました。でも……渡り人の方には最低限の“外の仕事”を経験していただく決まりがある、と上司からの指示でして。

 ……そんなこと、初めて聞きました」


 最後のほうは、ほとんど独り言だった。聞かせるつもりはなかったのだろう。

 フィオは申し訳なさそうに眉を下げた。怒っているわけではなく、むしろ俺に負担をかけたくないという気持ちがにじんでいる。

 ここは、話に乗ろう。彼女を困らせたくはない。


「いや、まあ……決まりなら従いますよ。でも俺、武器は素人ですよ?」

「分析。ノアスさんの戦闘経験値は“ゼロ”です。推奨:安全性の高い武器を選択してください」

「まあ。はい、承りました」

 一気にフィオの顔が明るくなった。AI、やるじゃないか。


「……ふふっ。やっぱり“声”は正直ですね。大丈夫ですよ、ノアスさん。私がちゃんと見ていますから」

「分析。ノアスさんの武器適性は“未取得”です。推奨:扱いが簡易な遠距離武器を選択してください」

 AIよ。もう少し、俺の名誉とか、カッコつけとか、なんか配慮してくれないか。


「では早速、武器庫へご案内しますね。大丈夫です。今日は“初級討伐”ですし、危険な魔獣は出ません。……それに、護衛もつきますから」

「護衛?」

「はい。カイラムさんです」

 その名前を聞いた瞬間、背筋がわずかに固まった。昨日の昼食の空気が脳裏に蘇る。

 フィオが立ち上がり、カウンター横の通路を示し、俺も中に入るよう促した。


「受付ですし、フィオさんにお願いは……無理ですよね?」

「私も同行しますよ。三人で行きます」

「え、フィオさんも?」

 俺が中に入ると、フィオは事務所の奥へ歩き始めた。俺も後をついていく。しかし、フィオみたいな事務系も同行って、意外だな。


「はい。監督者として、渡り人の方の初仕事には必ず立ち会う決まりなんです。はい、これは決まりなんです!」

 フィオは胸の前で書類を抱え、微笑んだ。昨日よりも緊張が混ざっている。……何か、気にしているのか?

「……安心しました?」

「そりゃあ、まあ……」

「分析。ノアスさんの心理状態:緊張と警戒が混在。推奨:同行者との信頼構築を優先してください」

 フィオがすっと振り返って、微笑んだ。


「ご安心ください。私はノアスさんの味方ですよ」

 ……あれ?カイラムは?味方じゃないのかい?


 ***


「では、準備です。まずは武器の貸し出しから。こちらです」

 フィオに案内されたのは、ギルド奥の武具庫だった。

 扉を開けると、薄暗い空気が流れ出る。壁の棚には剣、槍、斧、そして弓やボウガンが並んでいた。

 どれも使いこなせる気がしないなあ。


「提案。最適武器は“逃走時の機動力を損なわないもの”です。逃げる確率が高いと推定しています」

 フィオが軽く肩を震わせる。おい、AI。俺の名誉は。


「ノアスさんには、これが良いと思います」

 フィオが差し出したのは、小型のボウガンだった。片手でも扱えそうな大きさで、重たくもない。詳しい構造はわからないが、頑丈そうでシンプルだ。


「昨日も言いましたが、剣よりはずっと扱いやすいです。狙って、引くだけですから」

「いや、でも……俺、本当に素人で……」

「大丈夫です。私が横で見ていますから」

 その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなる。


「……現在、あなたの心拍数が上昇しています。緊張の可能性があります。呼吸を整える方法を――」

「黙ってろって……!」

 AIはすぐに静かになった。フィオは口元を押さえて笑いをこらえている。


「……では、外門でカイラムさんと合流しましょう。今日の討伐対象は“ウサギ魔獣”です。危険度は低いですが、油断は禁物ですよ」

「ウサギ……魔獣?」

「はい。見た目は可愛いですが、跳躍力が高くて、角で突いてきます。初級討伐としては定番ですね」


 フィオは歩きながら説明を続ける。ギルドの廊下を抜け、外門へ向かうと、すでにカイラムが待っていた。腕を組み、こちらをじっと見ている。

「ようやく来たか、ノアス。遅かったな」

 おやまあ、もう呼び捨てか。


「フィオさん、準備は?」

 で、フィオには微笑みかけるのね。はいはい。

「はい。ノアスさんには軽装のボウガンを貸し出しました。初級討伐としては十分です」 カイラムは俺のボウガンを一瞥し、ふん、と鼻を鳴らした。


「……まあ、初日ならそんなものか。行くぞ。森の入り口までは歩いて十五分だ」

「さあ、ノアスさん、行きましょう」

 フィオが微笑む。その笑顔に励まされ、俺はぎこちなくボウガンのストラップを肩から下げた。

 こうして、俺の“初めての魔獣討伐”が始まった。

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