【フィオ断章:二日目の終わりに】
……ふう。今日は、はしゃぎすぎちゃった。ノアスさんにも失礼だったな。
机の上に散らばった紙束を揃えながら、私はそっと息をついた。
今日一日……ううん、ノアスさんが来てから、ずっと、いろいろありすぎ。
「“声”って、AIスマホ……って呼ぶんですね。魔法使いって、すごい……」
さっき、つい口に出してしまった言葉が、まだ頭の中で反響している。
“声”。
ノアスさんとは違う、あの不思議な“声”。
……別の人が、ノアスさんの中にいるのかな。
「私は存在ではありません」って、どういう意味なんだろう。
どうしてあんなに自然に会話ができるのかしら。
どうしてノアスさんの言葉と混ざって聞こえるんでしょう。
紙を束ねながら、私は小さく首を振った。
「……ずるいですよ、そんなの」
あ、いけない。また口に出してしまいました。
でも――本当に、ずるい。
どうやったら、あんな分析ができるようになるんだろう。
私は魔法使いになれないのに。
……私にも“声”がいたら、何か変わったのかな。
あの“声”は、飾らずに本音だけを話してるようにも思える。
ご本人は否定してたけど……動揺していたのは、確か。
初めて会ったときは、違和感しかなかった。
見慣れない服装なのに、きちんとしていて。
弟くらいの年みたいなのに、変に落ち着いていて。
でもときどき、不安そうに迷子みたいな目をして。
最初は、背伸びして可愛らしいな、と思っていた。
でも――あの深い考え方は、どうしても“年相応”に見えない。
“渡り人”だから?
でも、それだけじゃない。
カイラムさんも、ノアスさんを気にしてた。
いったい何が気になるの?
……助けてあげなきゃ。理由なんて、ない。ただ、そう思っただけ。
まして今日は……
「本当に、すごい人」
あれだけの報告書を、あんな短時間で片付けるなんて。
私は何年も魔石を触ってきたのに、今日だけで何度も驚かされて。
ラズナとトレッサの報告書は、不思議じゃない。行ったことある人なら、答えられるかもしれない。
でもミルダンの魔物は、オルベンと違うなんて。一昨日の私は、あの書類見ても、ちっとも気づけなかったのに。あんな短い時間で、どうしてわかるんだろう。
そう、やっぱり……オルベンの魔物分布は異常なのね。
初めての考え方ばかりで……悔しいけれど、楽しくもあって。
――そして、少しだけ怖くもあって。
箱を棚に戻しながら、胸の奥がじんわり熱くなる。
「明日も……一緒に、か」
言ってしまいましたね、私。
あんなふうに。
上目遣いなんて、普段しないのに。
……でも、あれは甘えじゃなくて。
ただ、ノアスさんの反応を“確かめたかった”だけ。
ノアスさん、少しだけ嬉しそうでした。
……ああ、もう。
「誰かを大切にしてはいけない理由なんて……ありませんから」
小さく呟いて、灯りを落とした。
明日もきっと、知らないことが起こる。少し怖いけれど、楽しみ。
私は静かに扉を閉めた。




