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AIスマホは禁忌でした ~なのにチート扱いで受付嬢がやたら優しい~  作者: 本郷カケル
第一章

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1-0 プロローグ

「現代日本のデータベースに該当情報は存在しません」

「だーっ! わかってるよ。それはもう聞き飽きた。違う分析は無いの?」

「魔物:日本に存在しません。魔石:該当データなし。補足しますか?」

「もういい! 黙ってくれ……まったく」


俺は相棒の返事を強引にぶった切った。舌打ちしながら、なるべく声を出さないようにする。あいつに聞こえると、また妙なことを言ってきかねない。あいつはいつも、変に細かいところを拾ってくる。何考えてんだか。


地面から小さな鉱物を拾い上げた。手の脂が付かないように、そっと。

鈍く透き通っていて、手に乗せても温度を感じない小さな鉱物。

とてもきれいだ。何度も見てきたのに、不思議だ。どうしてこんなに、この輝きに惹かれるんだろう。


少し暑くなってきた。額の汗をぬぐい、ひとつため息をつく。

「ノアス、心拍数が上昇しています。休息を推奨します」

「いいってば、ありがとっ」

すかさず俺は相棒の声を遮る。


「聞きたいことがあるときはちゃんと言うからさ。今は黙ってていいよ。獲物の気配に集中しようぜ」

空気を読まずに割り込んできた相棒の声は、相変わらず落ち着いたトーンだ。

「了解しました。周辺に生命反応は検知されません。待機が最適行動です」


 太い木がひしめく鬱蒼とした深い森の中。しゃがんだ俺は、深呼吸してボウガンを軽く構えた。緊張しすぎず、力を抜いて。チャンスの時、すぐに撃てるように。

 耳を澄ます。遠くで鳥の声が微かに聞こえる。虫は昼間だと鳴かないらしい。

今日は、森の中に風がない。


小動物の足音なんて拾えるほど、俺の耳は良くない。息をひそめ、動かないようにして待つ。


胸元が、軽く静かに揺れた。一度だけ。俺はボウガンを構え、真剣にあたりの気配を伺う。

やがて見えてきた。ふわふわ滑るようにウサギっぽい動物が、とてとてと歩いてくる。時々立ち止まり、耳をくるくる回して警戒の素振り。あるいは餌を探すように、地面へ鼻面を突っ込む。食事ってしてるのかな。


ボウガンを構え、そっと引き金を絞る……矢が放たれる。

小動物は貫かれた。体が少し跳ねて、倒れる。勢いを殺しきれなかったようだ。地面へ落ちたあと、動物の体は霧みたいに消えた。


周囲に気を配りながら、そっと近づく。ボウガンの矢が転がった隣に、小さな石が落ちている。

「今日も調子いいなあ。もう三つ目だ。こいつはちょっと小さいかな?」

つまんだ石をかざしてみる。さっきの石より、少し輝きが鈍いように見えた。

「比較モードを起動しますか?」

「あー!! もう。俺の声を拾うなよぅ」

頭をかきながらぼやく。相棒は本当に懲りない。どういう基準で呼びかけてくるんだ。


「了解しました。以後、必要な場合のみ応答するよう努めます。ただし危険と判断した場合は例外的に通知します。バイブ機能と音声、どちらを求めますか?」

「バイブ。余計な声はいらんぞ」

「“余計”の定義が曖昧です。基準値を設定しますか?」

はあ……俺の相棒、スマホの形をしたAIは、ちょっと気が利くようで、ぶきっちょだ。


 「おわっ」

 いきなり、何かに足を取られた。堪えられず、そのまま転んでしまう。足首をひねらなくて良かった。

「急激な振動を検知。ノアス、身体の損傷を確認します。痛みの有無を回答してください」

「ないよ、ないない……ちょっと躓いただけ。ありがとう」

 おれは振り返って地面を見てみる。落ち葉がかぶさった地面の下が、妙に柔らかい。小さくて深い穴が開いていた。巣穴か何かだろうか。……あぶねえ。気をつけよう。額の汗をぬぐう。


「もう半年、経つんだなあ」

 しばらく歩いて、森は抜けた。開けた草原に出たところで、軽くひと呼吸。ふと、つぶやいた。

 このあと何を言われるか、わかってるのに。やはり独り言がやめられない。

「半年経過を確認。次の行動案の提示を求めますか?」

 相棒は律儀に独り言に反応してきた。たまには、付き合ってみるか。今日はまずまずの成果だしな。


「ああ、このまま腰を据えてこの地域で金を貯めるか、貯金をはたいて、さっさと別の街に向かって情報を求めるか。どっちがいいかね。このままこの街でフィオの力を借りて、生活を安定させるか、とかさ」

「フィオの存在が判断材料となる根拠が不足しています。補足を求めます」

 俺は構わず、言い続ける。


「どうやら隣町への馬車に乗れるくらいは、金がたまったらしい。この辺りはウサギ以外の魔物があまり出ないらしいし、大幅に魔石で稼ぐ手もないらしい。

 かといってオルベンの町中に、割のいい仕事もないらしいし」

「フィオの存在を判断材料に含めるかどうか、基準値が設定されていません」

 まだまだ、俺は構わず続ける。


「とはいえ馬車に乗っても、先立つものが心細いし、そっちの町で確実に稼げるか保証はないしな」

「フィオの存在は——」

 だー!もう、こんな時ばっか強調しやがって。

「やかましい!フィオ、フィオって。今の話は馬車に乗るかどうかだ。違うか?」


 相棒は淡々と話を続けてきた。冷静だよなあ、ほんと。

「“馬車に乗る”という行動の定義が曖昧です。日本の観光地検索と解釈してよいですか?」

 相変わらず、抜けた返事を相棒はかましてくる。


「そうじゃないってば。オルベンには馬車しか、別の町に行く移動手段はないの」

「オルベンという地名は日本に存在しません。ルーベンというベルギーの地名を指していますか?」

「違うってばさ……。半年も経つんだから、日本との比較はいい加減やめようぜ」

「私のネットワークは日本のデータベースに接続されています。参照先の変更は許可されていません」

「そうかもしれないけどさ。ロスティアに馴染んでもいいだろ、って話」

「会話継続のための入力が不足しています。ノアス、次に発するべきセリフを指定してください」


 この漫才みたいな繰り返しは、この一か月で何度したことか。

 どうすれば生産的な会話になるんだろう。どうやったらAIは、今俺が異世界転生の真っ最中だって、納得してくれるんだろう。

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