いい加減喋る時は漢字を使え
「おーい起きろー!」
何だようるせえなあ。疲れてんだ、ゆっくり寝かせろよ……。
「おーきーてー!」
「どいて〜、レオはこんぐらいしないと〜」
ぐあ!冷てえ、何事だあ!
「起きないよ〜」
「くおらあ!こんのガキどもめ、いい加減にしやがれえ!」
キャハハじゃねえ、人に水ぶっ掛けて喜んでんじゃねえよ!
まったく、なんてガキどもだ。どうしてこんなんに育っちまったんだか。
「俺ぁ昨日遅くまで起きてたんだ、も少し寝かせろ」
昨日はオルターの奴に付き合って遅くまで飲んでたんだ、もっとも俺は腹の痛みであんま飲めなかったけどよ。
治癒魔法ってのは傷は塞いでくれるけど痛みまでは取れねえ。
凄え治癒術師とかだったらそんなのも使えんのかもしんねえけど、そんな奴戦場に来る訳ねえ。
「ただでさえ戦場から命からがら帰って来たんだ、ちったあ労われ」
昔の夢を見てたのか……あの頃はコイツらも可愛いげがあったのによう。
子育てなんざ前世でも経験ねえんだ、どうすりゃあ良かったのかねえ。
「ガラガラ?ねえねえ、ガラガラって何ー。」
「ちたわれ〜?いったーちたわれ〜??」
「ちがうよ!からがらだったからちったあいたまれって言ったんだよ!」
言ってねえよ、お前らもうすぐ十歳だぞ……先が思いやられるぜ。
幸いな事に休暇をもらったから、コイツらに勉強でも教えるか?
俺に出来んのかねえ、イライラして引っ叩いちまいそうだ。
「レイ!ミュウ!リリー!」
コイツらの名前だ。ご丁寧にぼろぼろの服に縫いつけてあった。
〜って伸ばすのがレイ、ーで伸ばすのがミュウ、伸ばさねえのがリリーだ。
「昨日は美味いもんたらふく食ったろ、お前らも今日は寝てろ」
昨日は飯屋に連れてって、久しぶりに腹一杯にしてやった。
腹が痛いのもあったが、俺があんまり飲まなかったのはコイツらを連れてったからだ。
案の定、腹一杯になったらとっとと寝ちまいやがって、お前ら抱えて帰ってくんの大変だったんだぞ。
紐を用意しといて良かったぜ、おんぶに抱っこに肩車、紐で縛ってなきゃ落っことしてたとこだ。
「やーだー、あーそーぶー」
「ねるのさむいよ、レオンだっこして」
「ちたまれ〜!ちたまれよ〜」
うるせえ……確かに肌寒くなって来たし、こんなボロ屋じゃあ隙間風が堪えるな。
コレでも頑張って直したんだぜ?道具も何にも無しでよくここまで住める様にしたと思うぜ自分でも。
町外れで不便だけど、最初はもっとボロだったし、前の住人っぽい奴はここで骨になってた。
一応近くには埋めといたけどよ。
「わかったよ、教会連れってやっから、他のガキと遊んでろ」
ここよりは町に近いけど、同じく町外れに教会がある。
そこには10人くらいの孤児たちが住んでる。シスター一人で切り盛りしてんだから大したもんだ。
「えーきょうかいやだー」
「わたしたちここにいる!」
「レオといっしょがいい〜」
コイツらと話してると頭痛くなる。ちったあ漢字使って喋りやがれ。
以前教会に引き取ってもらおうとしたから、今だに根に持ってやがる。
「レオじゃないよ、レオンだよ」
「え〜レオだよ〜、そう言ってんじゃ〜ん」
「すーてーなーいーでー」
人聞きの悪い事言ってんじゃねえ。
マジで教会で勉強でも教えてもらえよ……そうか、その手があったな。
「別に一緒に住んでて良いからよ、教会行くぞ」
「じゃーいくー」
「レオンもいっしょにあそぼ」
「わ〜レオがおに〜」
『それー』って言って走ってっちまった。まあアイツら教会の位置ぐらいは覚えてんだろ……はあ、仕方ねえ。
「待てー!捕まえて食っちまうぞ〜!」
“キャー”
まったく元気な事だよ。
ホント、生きて帰って来れて良かった。
つーか、足遅えなアイツら。
「そーら、捕まえた!」
“キャー”
リリーを肩に乗せ、レイを右に抱えてミュウを左に抱える。
「リリー、しっかり捕まってろ!」
そのままダッシュで教会に向かう。兵士やってんだ、そんくらいの体力はある。
ほれ、もうすぐ着くぞ。
教会が見えて来たところで俺は速度を落としてガキどもを降ろす。
「もっかいやって、もっかいやって!」
「はーやーい」
「つぎ〜あたしうえ〜」
もう着いたんだよ、帰りまでお預けだ。
「また後でな、ほれ、教会行くぞ」
そのまま少し歩くと教会の孤児達が敷地内で遊んでるのが見える。
「ほら、お前ら混ぜてもらってこい」
「えーやーだー」
「ええレオンがいい!」
「え〜レオ〜あそぼ〜」
「『えー』じゃない俺はシスターに話があるんだ、いいから行ってこい」
渋るガキどものケツを引っ叩いて孤児の群れに送り出す。
“キャーレオンのえっち〜”
どこで覚えてくんだよそんな言葉。
まあいい、とにかくシスターと話をしてこよう。
「シスター!シスターエルシア!いるか?入るぞ」
ドアをノックしながら社務室に入る。
普段はここで色んな仕事をこなしているはずだ。
「キャー!」
下着姿のシスター発見、何でここで着替えてんだよ。
「ノックと同時にドアを開けたらノックの意味がありません」
左の頬を赤く腫らした俺の正面でシスターエルシアはプリプリと怒っている。
いやまあ、悪いのは確かに俺だが、こんなとこで着替えてる方もどうなんだよ。
いくら孤児達と遊んでる最中に汚れたからって、ここには客だって来るだろ。
……まあ、滅多に無いだろうけど。
「それでレオンさん、今日はどう言ったご用件で」
まだちょっと怒ってんな、いいじゃんか減るもんでもなしに。
彼女はまだ若い身空ながらここの教会を一人で任されている。それだけ優秀なのかと言うと、そう言うわけでもなく、町中にも二つ程教会があるが、そこからこの教会を押し付けられただけだ。
ついでとばかりに孤児もここに押し込められた。
大して広くも無い建物に10人もの孤児を押し込められたら寝る場所にも苦労するってもんだ。
以前うちのガキどもを預けようとした時に現状を見て諦めた。
その時よりさらに二人ほど増えてる。
「実は、折入って相談なんだが、うちのガキどもに勉強教えてやってはくれないだろうか?」
「あの子達に、勉強……ですか」
おおう、引いてる引いてる。まあそらそうだわな。
「もちろんただとは言わねえ」
俺は背負って来た背嚢から食材を取り出す。
「まずコレは挨拶の品だ、受け取ってくれ」
「こんなに……ありがとうございます……」
シスターエルシアの目に光るものが見える。ほとんど援助なんか無いもんな。
町で住人の情けによる寄付だけで何とかしてんだから頭が下がる。
「そんで、引き受けてくれたらコレだけ支払うぜ」
俺の出した銀貨は全部で10枚、10万テールだ。
この国、テルアヴィット王国の通貨は銅貨1枚で1テール、大銅貨1枚100テールで、1000テールが銀貨1枚の1ロンドになる。そして金貨一枚が100ロンドだ。
つまり俺は今回報奨金で金貨1000枚貰った事になる。
前世の感覚だと1テールが1円だ。1ロンドが1000円だから1億円もの大金を貰った事になる。
もっとも、税金で4割持っていかれるけどな。4000万円だぜやってらんねー。
とは言え、高額納税者は色々優遇される事もあるから悪いことばっかじゃねえけどな。
要はそんだけ持ってんだから、何も俺が教えなくても出来る人に授業料払って教えてもらおうって事だ。
「さらに月謝として5万テールを一年分先払いするぜ、どうだ?」
まあコレは半分寄付みたいなもんだ。
ガキども抱える大変さは分かっているつもりだ。町の人の寄付だけじゃ限界もあるだろう。
借金で首が回んなくなんねえうちに現金収入があったほいがいいだろ。
ガキに基本的な事教えるのに掛かる相場は月一人頭1万テールだ。
まあ、コレで一年やっていけって言われても無理だろうが、あまり大金を払うのも外聞が悪りいし、俺にだって何があるか分からねえ、蓄えは必要だ。
「な、70万テール……」
ち、もう一押しか?
「よし分かった、さらにここを増築しようじゃねえか、二か月くらい掛かっちまうかもしれねえが、勉強部屋と孤児達数人分の部屋ぐれえなら作れるぜ」
「レオンさん……貴方何か悪事を」
「やってねえよ!こないだの戦争での報奨金だ、俺の命懸けの金だ、どうか頼むぜ、アイツらこのままじゃ心配なんだよ」
「分かりました。正直言って自信はありませんが、実際その月謝はとても有難いです。お引き受け致しましょう」
「おお!助かるぜ、さすがシスターエルシア、いい女だぜ!」
「レッ、な、何言ってるんですか!私は神に仕える……」
「あー悪りい悪りい、それじゃ明日から工事にかかっから、出来たら開始って事で頼まあ、アイツらは何とか説得しとくからよ」
ふう、肩の荷が降りたぜ、シスターエルシアなら安心だ。
俺にも万が一って事があるしよ……いや、十が一ぐらいか?何せ平の兵士だ命は軽いぜ。
少々メタい台詞も出てますがご愛嬌って事でどうかご容赦を。
やっと三話ですが、のんびりやっていきますのでどうぞよろしくお願いします。
読んで下さって有り難いです。




