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水塔  作者: 世葉
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第二話 結

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

特記案件報告書(速報)

島根県警察本部 刑事部 捜査第一課

件名:大田市浮布池周辺における女性死亡事案について


1.発生日時・場所

令和7年7月2日(水)04:25頃

島根県大田市三瓶町浮布池北東岸付近


2.被害者

氏名:山本やまもと 美琴みこと

年齢:18歳

住所:奈良県奈良市登美ヶ丘(滞在先:大田市内宿泊施設)


3.事案概要(初動報告)

 本年7月2日早朝、前日夜より所在不明となっていた女子大学生について、池周辺の雑木林において遺体が発見された。発見時、身体には複数の刺創が認められ、事件性が高いものとして県警本部に報告された。

 地元署(大田署)刑事課および鑑識係が現場臨場の上、捜査開始。

 第一発見者は同行していた大学研究員関係者。現在、詳細な経緯と関係者の聴取を進めている。


4.被害者背景

 被害者は父親(山本 孟・奈良大学文学部文化財学科教授)と共に、地元自治体依頼による調査団の一員として来訪。父親は6月30日夜間、同池にて水難事故により死亡(別途報告済)。


5.現時点の対応状況

 県警本部 刑事部主導にて本件を殺人事件として捜査中

 地元警察署・県警科学捜査研究所と連携中

 捜査本部設置検討中


6.特記事項

 本件被害者は、前日の水難事故による死亡者と親子関係にあることから、連続事案の可能性も視野に入れ、慎重な情報整理が必要。



逮捕報告書

文書番号:第R7-7-0003号

作成日:令和7年7月2日(16:45)

作成者:大田警察署 刑事課 第一係 巡査部長 喜納川 武雄


【1. 件名】

大田市浮布池周辺における女性殺害事件に係る容疑者逮捕について


【2. 被疑者】

氏名:立花たちばな おと

年齢:不詳(住民票上:69歳)

職業:小屋原温泉 熊谷旅館 管理人

住所:島根県大田市三瓶町


【3. 被害者】

氏名:山本やまもと 美琴みこと

年齢:18歳

住所:奈良県奈良市登美ヶ丘(滞在先:大田市内宿泊施設)


【4. 逮捕日時・場所】

令和7年7月2日(15:12)

島根県大田市三瓶町 立花宅内(同宿泊施設敷地内)にて通常逮捕


【5. 概要】

 令和7年7月2日早朝、大田市浮布池北東岸において、女子高校生の刺殺体が発見された件について、同日午後までに得られた目撃証言、現場遺留物(毛髪・足跡・刃物痕等)および防犯カメラ映像の解析結果から、同施設管理人である立花音を重要参考人として任意同行。その後の取調べにより、犯行をほのめかす供述が得られたため、緊急性および証拠隠滅の可能性を鑑みて通常逮捕に至った。


【6. 被疑者供述(要旨)】

「私が殺した。あの子は私の大事な物を奪ったから」

「大事な物、それは命」

「でも、あの子は奪った命で生き返るから、これはただの腹いせ」

「生き返ったら、なんの罪になりますか?」

 合理的な動機の説明には至っていないが、供述内容は一貫しており、事件発生直前の行動記録・物的証拠との整合性が確認されたため、殺人容疑にて立件の方針。


【7. 特記事項】

 被疑者は本名・年齢ともに不明瞭な点が多く、戸籍上の履歴にも断絶箇所あり。

 医療記録、写真記録、地域住民の証言等により、昭和40年代から現在まで外見的変化に乏しいことが確認されており、今後、精神鑑定および経歴調査を進める予定。


【8. 今後の対応】

捜査本部による本格捜査を継続

鑑識・科学捜査研究所による追加検査中

被疑者の精神状態および経歴に鑑み、精神鑑定実施を地検に要請予定


【添付資料】

・現場写真・供述調書(抜粋)

・DNA鑑定記録(簡易報)

・当署作成 時系列行動記録(別紙)



大田警察署 当直日誌(抜粋)

令和7年7月2日(水)~7月3日(木) 当直責任者:生活安全課 警部補 三伊比則俊

副責任者:地域課 巡査部長 木野武彦 実働当番:巡査 涌井里奈


17:45 当直勤務開始。引継書に基づき、留置人員・備品・鍵類を確認。被留置者1名(氏名:立花 音、女性/69歳)収容中。健康状態:特段の異常報告なし。

19:00 通常巡視(木野巡査部長)実施。被留置者は布団上にて横臥中。呼びかけに対し反応・返答あり。問題なし。

20:30 夕食配膳・摂取状況確認。被留置者は半量摂取。体調に関し「少し疲れている」との申し出あり。歩行等に支障は見られず。

22:00 巡視実施(木野巡査部長)。被留置者は就寝中とみられる。呼吸・顔色・室温確認。異常なし。

00:15 巡視実施(涌井巡査)。被留置者は変わらず横臥姿勢。寝返り等の動きなし。

02:10 巡視時、呼吸・脈拍の確認が困難。木野巡査部長と共に照明下で再確認するも、目立った外傷なし。仰臥位。

02:15 当直責任者 三伊比警部補へ報告。状況より意識反応なしと判断。直ちに119番通報、救急要請。

02:23 救急隊到着。バイタルサイン確認・救命処置実施も、反応なしとの初見報告あり。

02:31 救急隊より「明らかに反応がないため、蘇生見込み低い」との判断があり、搬送は行わず、司法対応(検視)を要する案件として警察に引き継ぎ。

02:45 署内監察係・捜査課・警務課へ状況報告。所轄署長にも口頭報告済み。

03:10 留置場区域一時封鎖。対象者の遺体を留置外個別保管室へ移送完了。必要措置を実施のうえ、翌朝第一報にて監察医の所見確認を予定。



検視報告書

報告者:島根大学法医学教室所属医師 山代 守

1.被検視者情報

氏名:立花たちばな おと

性別:女性

推定年齢:外観年齢 約90歳

本籍・住所:島根県大田市三瓶町

身元確認:施設関係者および関係機関照会により照合済


2.検視日時・場所

検視日時:令和7年7月3日 午前10時30分

実施場所:大田警察署 留置関連区域内 応急保管室


3.検視依頼元

所轄警察署:島根県大田警察署 刑事課

検視理由:被収容者死亡につき異状死の可能性を排除するため司法検視を実施


4.外表所見

明らかな外傷、皮下出血、打撲痕等は認められず

頸部に索状痕等の圧迫所見なし

爪・口腔・性器周辺にも抵抗痕・異常所見なし

体表冷感、死斑・死後硬直の進行度より死亡時刻は午前2時頃と推定

顔貌・皮膚等に加齢による萎縮・黄変所見が顕著


5.解剖・内部所見(行政解剖未実施)

検視およびX線撮影結果より、重大外傷・骨折等の外因性死因所見は確認されず

胸腹部の視診および聴診においても、急性心疾患や窒息等の強い徴候は認められない


6.死因に関する判断

明確な外因性・他殺的所見はなく、自然死とする判断に合理性あり

明確な持病・治療記録は現時点で未確認だが、年齢相応の身体的衰弱所見と全身臓器の老化推移により、死因は「高齢による自然死(老衰)」と判断される


7.付記

 被検視者の年齢と外観が事前記録と著しく乖離していた点について、現場警察より照会を受けたが、個人差の範囲内で説明可能と判断。引き続き身元・経歴については所轄にて調査継続予定

 関係機関への通報および遺体取扱は、所轄警察署の判断に委ねる


報告書作成日:令和7年7月3日

作成者:監察医 山代 守(島根大学法医学教室)

照合署名:島根県大田警察署 刑事課 捜査係



死体消失に関する内部調査報告書(第1報)

作成日: 令和7年7月3日

作成者: 島根県大田警察署 刑事課 課長補佐 芦川 美香

報告先: 島根県警察本部 刑事部 捜査第一課


1.概要

 令和7年7月3日10時40分頃、本署内仮安置所に安置中であった殺人事件被害者・山本美琴氏(18歳)の遺体が所在不明となっていることが判明した。山本氏は令和7年7月2日午前中、管内旅館客室内において刺殺体として発見され、関係各所の手続きを経て同日09時30分頃、司法解剖準備のため本署内仮安置所に搬送・保管されていた。


2.発覚経緯

 令和7年7月3日10時30分頃、司法解剖に向けた前準備(搬送・記録確認等)のため仮安置所へ職員(刑事課巡査部長、警備課職員)が入室。同所にて山本美琴氏の遺体が存在しないことを確認。即座に署内関係部署に報告され、安置所内部の再点検及び署内監視記録の確認が開始された。


3.安置状況と管理履歴

 7月2日09時30分以降、開錠履歴なし。監視カメラ映像にも人の出入りなし。

 仮安置所出入口は電子錠及び物理鍵により二重施錠。

 署内監視システム、鍵管理簿等に不正使用・異常記録は認められず。

 遺体安置台には明らかな乱れや血痕の追加的付着なし。

 冷却装置・照明設備に異常なし。腐敗臭・異音等の異常兆候も当時報告されず。


4.関係者聴取状況(抜粋)

 署内勤務者計9名への聴取実施(7月2日夜間~7月3日早朝)。

 同時間帯に安置所周辺への立ち入り者はおらず、異常を察知した職員も存在しない。

 解剖搬送予定先(県内病院)への事前連絡履歴も通常通り記録されており、誤搬送等の可能性も否定。


5.初動対応および今後の方針

 仮安置所の封鎖および保全を実施済(7月3日11:00)。

 島根県警本部へ緊急連絡し、監察官の派遣を要請(同日11:10)。

 現時点において遺体の所在及び消失手段は不明。外部侵入・内部関与ともに証拠不十分。

 刑事課にて引き続き周辺事情聴取、署内設備点検、映像データ再解析を実施予定。


6.付記

 本件は殺人事件に関する被害者遺体の所在不明事案であり、証拠保全及び組織的管理体制に重大な影響を及ぼす可能性があるため、県警本部の監督下で事案調査を継続することが適当と判断する。

 捜査への影響及び情報拡散の懸念から、本報告書の取り扱いは「署内厳秘」とする。



職員死亡報告書

作成日:令和7年7月5日

提出先:総務部 人事課長

作成者:産業振興部 観光振興課 課長 三田 翔


1.氏名・所属

職員氏名:川上かわかみ たけし

所  属:産業振興部 観光振興課(主査)

採用年月:平成30年4月1日


2.異常勤務状況の経過

令和7年7月3日(木)以降、無断欠勤(理由連絡なし)

同日午前中に所属課内にて電話等による本人連絡を複数回試みるも不通

同日夕刻、係員1名が職員住居を訪問(不在/反応なし)

令和7年7月4日(金)も出勤せず、上記対応を再試行

令和7年7月5日(土)午前10時過ぎ、所属課長の判断により市職員2名が改めて住居を訪問し、呼びかけに応答なく、警察に通報


3.死亡確認と初動対応

同日11時12分頃、大田警察署立ち合いのもと、住居内にて当該職員が倒れているのを確認

警察および消防の判断により、すでに死亡していることが確認された

死因については警察により現在調査中との報告を受けている

市側としては職員の死亡確認を受け、速やかに遺族への連絡を行った

また、人事課と連携の上、庁内各課に状況を共有し、今後の対応を検討中


4.当該職員の直近の勤務・業務状況

6月28日、29日、30日の三日間、市内浮布池における水塔調査事業現地担当として業務従事

7月1日(火)以降は通常勤務に従事していたが、7月3日(木)より無断欠勤

職場内において特段の精神的・身体的異常は報告されていないが、6月末の業務において若干の疲労の色は見受けられていた。

ただし、業務上の大きなトラブル・対人問題は確認されていない(同僚複数名の証言による)。


5.対応と今後の予定

遺族および人事課と連携し、必要な公務上手続きを進行中

所属課として、故人の業務記録および遺品管理にあたる予定

死因等の警察調査結果を踏まえ、改めて最終報告書を提出予定


備考:

本報告は内部共有および人事課判断に基づく初期対応報告であり、詳細確認後に再報告を行います。


【署名欄】

産業振興部 観光振興課 課長 三田 翔



市職員用端末内ファイル

ファイル名:新規 テキスト ドキュメント.txt

作成者:産業振興部 観光振興課 川上 猛

最終更新日:令和7年7月2日 02:11


もういい。いや、もういい。あれは、あれは絶対に見ていた。俺たちを見ていた。あの小窓から目が、確かに。

建造物なんて嘘だ。誰が言った?ただの遺産?文化財?違う。違う。あれは、嘘じゃない。


美琴が死んだ。あのとき、俺は止めようとしただけだったのに、教授が、あいつが。そうじゃない、違う。俺が、手を。

ああ、いや、違う。順番が違った。いや、合ってる。わからない。

でも死んだのは彼女で、次に教授も死んで、俺だけ生き残って逃げた。


美琴が生き返った。水塔がやったんだ。あの目が、命を付け替えたんだ。教授の命が、彼女に。

意味がわからないか。俺だってわからない。でも、でもそうなんだ。死んだのに生きてる。

それを見ていた。水塔が。俺にも、あの目が向けられた。ずっと。見られてた。今も見られてる。


あの女がまた、美琴を殺した。きっと、あの女は美琴の前の奴なんだ。だから無駄なのに、殺した。

美琴はまた生き返る。次はだれの命。あの目がずっと見ている。



──ぜったい、忘れられない。


──あの目。目を閉じてもまだ、まぶたの裏に、焼き付いてる。


──なぁ、俺はどっちに選ばれたのか?


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