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水塔  作者: 世葉
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第一話 序

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

日報:令和7年6月28日「水塔調査・第1日」


記録者:大田市役所 観光振興課 職員 川上 猛

調査対象:三瓶山 浮布池 水塔(外観調査)

関係機関:大田市消防本部、大田警察署、奈良大学考古学研究室、観光協会・商工会数名同行

天候:晴れ(湖面:波なし)


行程記録:

08:00 現地集合・準備完了。調査参加者全員、所定の安全確認を行う。

08:30 水塔外観調査開始。塔の表面材質は経年による風化があるが、構造に著しい劣化は認められず。

09:10 塔の基部を湖岸から目視確認。塔は周囲水面から約6.8mの高さ。外壁には扉・開口部・出入り口等の構造は認められない。なお、地上から約4.5mの高さに、直径20cm程度の小円窓(4箇所)を確認。構造的な通気孔または意匠的要素と推定される。

11:15 ドローンによる塔上部の空撮実施。天頂部分にも構造的開口なし。表面に装飾性を帯びた模様あり(詳細は後日映像分析予定)。

13:20 塔周辺の湖底地形スキャンを実施。調査は消防隊による水中確認を併用。

15:40 水中基部においても出入り口等の構造は確認されず。塔下部は円柱状に湖底まで続くように見える。塔内部への進入可能性は現段階で否定的。

16:40 初日の調査終了。機材回収・データ整理作業に移行。


所感・留意点:

・塔に出入り可能な開口部が現時点で一切存在しないことを確認。建造目的については今後の内部調査に委ねられる。

・空撮映像の一部に光反射によるものと思われる影が一時的に記録されている。明日以降の解析資料に付記。

・調査に対する地元住民の反応はおおむね協力的。観光資源としての活用可能性について、観光協会との協議を予定している。


備考:

・明日の内部音響調査は、午前9時より開始予定。奈良大学 山本教授の立ち会いを予定。


以上、調査第1日目報告。

(文責:観光振興課 川上 猛)



日報:令和7年6月29日「水塔調査・第2日」


記録者:大田市役所 観光振興課 職員 川上 猛

調査対象:三瓶山 浮布池 水塔(内部構造調査)

関係機関:奈良大学考古学研究室(機材提供・立会)、消防隊潜水班、観光協会立会1名

天候:晴れ(湖面:穏やか)


行程記録:

09:00 水塔周辺にて機材展開開始。音波調査機器(広帯域ソナー・GPR共振装置等)設置。奈良大学チームによる調整。

09:40 水上部分より音波照射による内部空間の把握を実施。

11:20 地上部分(湖上に出ている6.8m区間)内部には構造物・設備・堆積物等は認められず。空洞に近い反応が得られた。

13:30 水中部の調査に移行。消防潜水隊の安全確認の下、湖中から音波照射・構造把握を試みる。

14:00 塔内部への水の侵入が確認される。水密構造でないことが判明。

14:20 一部の区画(塔中心部)において、音波が不自然に遮断される領域を確認。周囲との波形に顕著な差異あり。

15:30 当該領域はほぼ球体に近い構造と推定され、表面からの音響透過が困難。材質異常、空洞、または異物の存在が考えられるが断定不可。

16:00 奈良大学 山本教授より「自然構造では説明困難」との私見あり。詳細は映像データ解析後、正式な所見として提出予定。

16:30 調査終了。水温低下により潜水作業を打ち切り、機材撤収。


所感・留意点:

・水上部の構造は想定通り単純だが、水中部中央にある遮蔽領域の存在は、構造上不自然であり、今後の解析が求められる。

・塔全体が「構造物」というより、中心部を囲う殻のような構成である可能性も指摘される。

・映像解析において、塔中央部に断続的にゆらぎのような反射が見られるため、山本教授より映像・波形ともに大学側で再解析する旨の申し出あり。


備考:

・調査3日目(6月30日)は本日確認された異常領域に対し、ピンポイントでの精密波形解析を実施予定。

・なお、ドローン映像の再検証作業中に、水塔の窓部分に不明な光の反射が一時的に確認されたとの報告あり。現在、該当映像は編集部にて精査中。


以上、調査第2日目報告。

(文責:観光振興課 川上 猛)



調査所見報告書


提出日:令和7年6月29日

提出先:大田市観光振興課

提出者:奈良大学文学部文化財学科考古学研究室 教授 山本 孟


件名:三瓶山浮布池 水塔構造に関する調査中間報告(私見)

 本調査は、令和7年6月28日~30日にかけて、大田市より依頼を受け実施中の「三瓶山浮布池 水塔」実地調査の一環である。以下、現時点での構造的所見について、研究者個人としての私見を記す。


1. 塔構造に関する観察結果(要点)

 塔は全高約13m(うち地上部分約6.8m)で、湖面より垂直に延びる円筒形構造。外壁には出入り口、階段、明確な維持管理痕跡等は確認されず。

 水上部は空洞構造であり、内部に物理的装置・堆積物等は見られない。

 水中部においては、中心核にあたる領域が音波・電磁波いずれにおいても非透過性を示し、周囲との波形に顕著な差異を示している。当該領域は、反響特性から判断するに、球体に近い立体構造を持ち、内部素材または構成について通常の石材・金属類とは異なる反応を示している。


2. 所見および推察

 塔全体が一体の人工構造物として設計されているとすれば、その中心部(遮蔽領域)は核として意図的に囲われた可能性がある。すなわち、塔は内部にある「何か」を保管・封印・あるいは演出する目的のための「シェル」的構造物であるとする解釈も可能である。

 また、水中部の中心において取得された映像および波形記録において、ゆらぎのような断続的ノイズが周期的に観測された。これは単なる機器ノイズともとれるが、時間帯・位置に依存して規則的に発生しており、自然構造物における共鳴現象とは異質な性質を持つと考えられる。


3. 今後の対応提案

・該当区域について、波長の異なる音響/電磁測定機材を用いた再解析が必要。

・ドローン空撮映像の再解析(特に側壁の小窓付近)、および光波干渉測定による動的変化の有無の確認。

・音波が遮断される範囲の正確な三次元座標マッピング。

 必要であれば、地質学的視点・非破壊物理探査の専門家との共同調査を提案する。


 本報告は中間的所見であり、今後の追加解析により内容が修正・拡張される可能性がある。現時点では、塔の構造は単なる歴史的建造物とは異なる特殊性を有する可能性が高いと考える。


奈良大学文学部文化財学科考古学研究室

教授 山本 孟(記)



日報:令和7年6月30日「水塔調査・第3日」


記録者:大田市役所 観光振興課 職員 川上 猛

調査対象:三瓶山 浮布池 水塔(精密再調査)

関係機関:奈良大学考古学研究室、消防潜水班、観光協会代表ほか

天候:曇り時々晴れ(午後より風強し/湖面やや波立つ)


行程記録:

09:00 水塔周辺に再集結。昨日の遮蔽領域を中心とした再調査開始。

09:30 奈良大学 山本教授チームによる波長差スキャン、ならびに多層音波再照射を実施。

10:15 波形に大きな変化なし。ただし、遮蔽領域の境界部分において、断続的なノイズを伴う断層反応を検出(前日より拡大傾向あり)。

13:40 28日に取得されたドローン映像の再確認を実施。塔側壁に設けられた小窓(計4箇所)のうち、南東側に位置する一箇所において、静止フレーム中に球形の反射像が一時的に確認された。

14:30 当初予定の調査終了。全機材撤収へ。


所感・留意点:

・小窓からの球形の反射像は、形状および色調において眼球と類似しているとの指摘が一部スタッフ間であったが、現段階では外的光源との反射または機器由来の偶発的像との判断にとどまる。

・山本教授より、調査終了後も現地に留まり塔の観察を継続する意向が非公式に示されたが、当課としては現場管理上の理由により、今回はご遠慮いただくよう申し入れた。


備考:

・現時点での三日間調査データは、市に帰還後、正式にまとめて報告予定(大学側より別途提出)。

・水塔の観光資源化に関しては、現時点での結論は保留とし、協議継続とする。


以上、調査第3日目報告。

(文責:観光振興課 川上 猛)



中間調査報告書


提出日:令和7年6月30日

提出先:大田市観光振興課

提出者:奈良大学文学部文化財学科考古学研究室 教授 山本 孟


件名:三瓶山浮布池 水塔 調査経過報告

 令和7年6月30日現在、当地における水塔構造物の調査について、下記の通り本日分の調査経過および所見を報告する。


1.調査概要

 本日6月30日は、前日までに取得された各種データの再解析および、水中部の遮蔽領域を対象とした補足的スキャン調査を実施した。午前中は音波測定および電磁波探査の再照射を行い、午後はドローン映像および波形データの解析作業に時間を充てた。


2.観測結果の要点

 水中部中心領域においては、依然として異常な波形遮蔽が持続しており、機器調整を重ねても明確な内部反応は取得されなかった。遮蔽域の外縁部では、波長帯の変化に応じて微弱な干渉パターンが確認され、中心に球体構造が存在する可能性が高まっている。

 6月28日撮影のドローン映像を再確認した結果、側壁に設けられた小窓の一つにおいて、一瞬ではあるが球状の強い反射が映り込む静止フレームが検出された。光学的異常の可能性も否定できないが、反射の輪郭および屈折の方向に特徴があり、単なる外的光源の干渉とは言い切れない印象を受ける。

 上記を含む一連のデータについては、帰京後、研究室において解析ソフトによる再評価を行う予定である。


3.現時点での私見

 水塔は、従来の観光構造物や儀式建築とは異なる封鎖的・遮蔽的性質を有する人工物である可能性が高い。とりわけ、内部における波形遮断と球体状構造の存在は、単なる空洞構造では説明がつかない目的性を示唆しており、塔そのものが中心物体を外界から隔離するための防壁的構造であるという仮説が成り立ち得る。

 また、前述の映像中の反射像についても、自然現象と断定するには検証不足のため、帰還後の追加解析をもって再考を要する。

 現地条件下ではこれ以上の非破壊調査は困難であり、次回以降の調査において機材・時間・環境の再整備が必要である。


4.付記

 今後の追加調査においては、夜間を含む時間帯別の観察環境を確保する必要性があると判断する。ついては、現地湖畔における夜間定点観察の実施に関し、自治体側の理解と協力を得られれば幸いである。現地の安全管理体制に配慮の上、追って正式な観察計画案を提示する。


 以上、現時点での中間報告とする。


奈良大学文学部文化財学科考古学研究室

教授 山本 孟(記)



出動記録報告書


大田市消防本部 出動活動報告

記録番号:第R7-814 水難-01


1.出動概要

発生日時 令和7年6月30日(月) 22時17分 通報受付

出動時刻 22時21分

到着時刻 22時43分

出動種別 水難救助対応(要救助者の捜索・引き上げ)

出動先  大田市三瓶町池田 浮布池・湖畔北側水塔付近

要請者  山本 美琴(要救助者実娘)

通報内容 父親の行方が確認できず、湖畔周辺を探索中、水塔付近に私物が遺置されているのを確認。水難の可能性があるため通報。


2.現場状況

 現着時、湖岸に私物(腕時計、履物、上着等)が整然と置かれており、周辺には人の気配なし。通報者(山本美琴氏)より、20時以降、父親が宿泊先に戻らず連絡も取れていない旨の申し出があり、同氏は関係者とともに周辺を探索し、単独で水塔近傍にて遺留物を発見したとの説明があった。

 22時48分、投光器による照射下にて、湖面約10.5m沖合に浮遊物とみられる不自然な反射光を確認。外形より人型と推定され、水難救助隊員が接近・確認の上、水面に浮遊中の要救助者1名を23時08分に引き上げ。発見時、要救助者はうつ伏せ状態にて水面に浮いており、外傷の有無は目視範囲で確認されず。呼びかけ反応なし。


3.対応内容

23時12分 要救助者を水面より引き上げ後、湖岸に搬送。

23時18分 バイタルサイン(呼吸・心拍)を確認、応急処置を行うも、明確な自発反応は認められず。

23時31分 現地対応中の警察署員に状況報告を実施し、救急隊による医療機関(大田市立病院)への緊急搬送を開始。

23時54分 同病院へ到着し、医療スタッフへ要救助者を引き渡し。


4.要救助者情報

氏名 山本やまもと たける

年齢 62歳

所属 奈良大学文学部文化財学科教授

備考 市調査事業に学術協力中。宿泊先:同市熊谷旅館。同行者(通報者含)あり。


5.所見および付記

 遺留物は整然と並べられており、外的な事故痕跡はなし。水塔周辺に滑落や侵入の形跡も確認されなかった。

 発見時の通報者の様子には強い動揺が見られたが、発見時の詳細については一部説明が不明瞭であり、今後の聞き取り対応が必要と判断される。


対応責任者:大田市消防本部 消防救助隊 隊員 宇須美 透子

報告書作成日:令和7年6月30日



件名:浮布池水難事故の初動対応および現場状況について(令和7年6月30日発生)


送信者: 大田署 地域課 巡査部長 木野 武彦

宛先: 刑事課・生活安全課・地域課 各係長

Cc: 副署長、当直本部、事故対策班

日時: 令和7年7月1日(火) 09:17

分類: 内部連絡/初期対応報告


関係各位

以下、昨日発生した浮布池における水難事故について、消防・現地関係者からの情報をもとにした初期対応報告を共有いたします。本件は現段階で事故と判断されておりますが、一部状況に不明点があるため、引き続き慎重な経過観察が必要と考えます。


【発生概要】

発生日時 令和7年6月30日(月) 22時43分 消防の要請を受け、現場出動

通報者:山本 美琴(18歳・女性)

被害者:山本 孟(62歳/奈良大学文学部文化財学科教授)

内容:実父が不在となり、水塔付近で私物を発見したとして消防に救助要請。

22時48分、消防が被害者を発見し、警察へ通報。


【初動対応】

23:12 消防により湖面から男性1名を引き上げ(湖中央・水塔付近)

23:54 大田市立病院へ搬送

翌7月1日(火) 0:28 医師により死亡確認

外傷等目立ったものなし。衣類等は湖岸に整然と置かれていたとのこと。


【所見】

現場に外的な侵入痕等は見られず、第三者関与の明確な痕跡なし。

通報者の山本美琴は、単独で湖畔に出て、短時間で遺体を発見しており、経緯に不自然な点が一部見られる。


【今後の対応】

生活安全課にて通報者への状況確認聴取を実施予定。

死因・時刻の確定を医師側に確認中。司法解剖は現段階では未定。

現場保全・関係者調査記録等は警備課で継続保管。

状況により刑事課への引継ぎの可能性あり、予備的に情報共有いたします。

以上、取り急ぎご確認のほどお願い申し上げます。


島根県大田警察署 地域課 巡査部長 木野 武彦(内線345)



件名:三瓶山浮布池付近における水難救助事案に関する関係者聴取要旨

文書番号:大田署-生活-調整第014号

起案日:令和7年7月1日(火)

担当:生活安全課 地域係 武田圭吾


【1】聴取対象者:山本 美琴(18歳・女性)

 山本教授の実娘。本件水塔調査に同行。

 6月30日20時00分頃、父親が宿舎に戻っていないことに気付き、関係者と現地を捜索。22時17分、水塔付近にて私物を発見し、119番通報。23時12分、消防によって水中にいた山本教授を確認、その後死亡確認。

 父親のトラブルや敵対する関係者などは思い当たらないとのこと。


備考:動揺は見られるものの供述は一貫しており、現時点で事件性を示す言動・矛盾は確認されず。


【2】聴取対象者:立花 音(70代・女性)

 調査期間中、山本教授ら大学関係者が宿泊していた施設の管理人。

 溺死した山本教授については、温厚な人で宿泊中、文句の一言もなかったとのこと。娘との関係については「仲が良さそうだった」との評価。

 水塔調査について、観光資源として活用するなら歓迎するとのこと。


【3】聴取対象者:観光振興課 川上 猛(26歳・男性)

 本件調査の行政側担当者。消防および学術機関との連携役。

 山本教授の行動に関して、「日中は礼節ある人物だったが、調査に没頭していたのは確か」と証言。水塔調査に関し、外部からの干渉や妨害等は確認されていないとの回答あり。

 職員の間でも「塔の窓から何か見えた」という噂話が散見されたが、業務上の記録対象ではないとの立場を示した。


【総評】

 関係者聴取において、明確な事件性を裏付ける供述は現時点で確認されていない。

 山本美琴による通報・目撃は整合性あり。教授の行動は個人的な執着によるものとみなせば、異常とまでは言えない。

 生活安全課としては、今後の類似事案への注意喚起および地域住民の不安払拭のための情報整理が必要と判断。


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