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第30話

 カイトはラヴィと不良依頼をこなしながら、時たま街を出て自身のスキル把握の為に、トレーニングを行っていた。

 トレーニングの成果は徐々に表れ魔力提供、破裂、そしてバリアに対する解像度は以前よりも大分と上がった。

 そしてトレーニングは方法が徐々に変遷し、街中の路地裏でひっそりと行っていた一人きりでのトレーニングから、次第に相手を用意しての実戦形式へと移っていく。

 実戦形式とは、その名の通り近くの草原や森で自身以外を対象とした訓練。

 冒険者は基本的にクエスト以外や、クエストでもターゲットではないモンスターの討伐や捕獲等を、ギルドから禁止されている。

 許可されるのは自分が襲われた時や、誰かが襲われているのを目撃した場合のみ。

 他にも特殊な事案として対象外となるものはあれど、基本的にはこれらの条件に当てはまった場合のみ、クエスト外での討伐等を許可されていた。

 路地裏で一人、トレーニングをしていたカイトだったが、自己判断出来る分は粗方行えたと認識した結果、実戦経験を増す必要があると認識し始める。

 だが不良依頼は悉くラヴィが同行し、彼女が傷付くのを恐れるカイトはそこで検証を行おうという気にはなれず。

 かと言ってラヴィに待機しててと伝えても、暇だから嫌と却下される。

 故に討伐ならば破裂させ、捕獲ならばキングスコーピオンと同様にバリアで覆う事だけを行っていた。

 よって、カイトが出した結論。

 それは苦肉の策であった。

 散歩と称して、一人で街の外へと繰り出す事にしたのだ。

 ギルドはまだ、カイトの適正ランクを見極められてはいなかった。

 不良依頼を着々とこなすカイト。

 その完了報告書に記載される苦戦の場合の内容は、ラヴィに何か危機が迫りそうになりそれをこの様にして何とか防いだであったり、クエストに向かう森の中でターゲットではないインセクトモンスターを発見したラヴィが悲鳴を上げ大量の無関係なインセクトモンスターに襲われて本命を倒すのに時間がかかった等。

 カイトはそれらを全て自分の対処が遅れたり、警戒を怠ったという理由で纏めていた。

 だが要約すると、その全部が同行人起点でのトラブルばかり。

 よってギルドはソロの冒険者であるカイトの力量を測り切れずにいたのだった。

 その為、カイトはまだ暫定的なFランク扱い。

 新人冒険者が優先される為カイトが通常依頼を受ける事は出来ず、継続して不良依頼のみが現時点で受ける事の出来るクエスト。

 だが不良依頼は当然ながら近場のクエストは無く、いずれも馬車を使用したりと街から離れた地でのクエストのみ。

 よって一つのクエストを完了させるのは短くても一日がかり。

 しかもそれらは、暇だからとラヴィが付き添う。

 ラヴィが同行しては、不安からカイトは新しい事に挑戦する勇気が出ない。

 つまり、クエストを利用してのスキル検証は行えなかった。

 したがってカイトは、苦渋の決断を下したのだ。

 あくまでも街の外に出るのは、散歩。

 その道中で万が一モンスターに襲われたならば、戦わなくてはならない。

 偶然に襲われたのならば、それは正当防衛でありギルドの規約違反には当たらない。

 悩んだ末に、カイトはそう決めて街の外へと散歩に出る事にしたのだった。

 違反と成長。

 その二つがカイトの中で激しくせめぎ合ったが、最終的には成長が勝った。

 今よりももっと理解を深めないと、出来る事を増やさないといけない。

 もっと自分の力を使いこなせる様にならないと、いざという時に発揮出来ないかもしれない。

 今までと同じやり方で不良依頼をこなしていく中で、カイトの心に生まれたそんな思い。

 それは次第に焦りとなり、散歩という名目でカイトを街の外に出すまでになったのだった。


 街の外に出る様になって、カイトが行った訓練。

 それは多方面に渡った。

 どれだけ魔力を維持出来るのか。

 以前ラヴィとの検証で、半径約二〇〇メート程が自身の力を及ぼせる範囲だとは、既に理解していた。

 そしてユクマ村の農地開拓で、その範囲の木を全て破裂する事が出来たという実証も得た。

 だからこそ、今度はどの程度それを維持出来るのか。

 用心の為カイトは、徒歩の妨げにならない程度に全身へとバリアを張り、森の中を歩いた。

 そして常時、魔力提供をイメージし続ける。

 対象は木々。

 可能範囲内全ての木に魔力を提供するイメージを作り続けながら、ひたすらに歩く。

 歩くごとに範囲外へと出てしまう木、新たに範囲内へと入る木。

 それらを気にせず、カイトは数時間歩き続けた。

 結果として、カイトの体調には何ら変化無し。

 ラヴィが居ない為、カイトには果たして本当に魔力提供が出来ていたのかという確証は無い。

 だが、魔力提供は出来ていると思い込むしかなかった。

 この方法でラヴィに、そして小石や木へも魔力提供が行えたのだ。

 ならば同じ方法で、魔力提供が出来ないと考える必要は無い。

 知覚出来ないのなら、信じるしかない。

 魔力提供が出来ている言った、ラヴィを。

 よって、魔力提供が行えているという前提で、魔力切れの様な身体の不調は訪れなかった事から、魔力無限というスキルの確度を高める。

 次いで、同じく魔力提供が行えているという前提で、魔力提供のスキルについても検証を進めた。

 そこで分かった事。

 一本の木に魔力を提供する。

 魔力が提供された木に、再び魔力を提供するイメージを作り上げる。

 だが、木には何の変哲も無い。

 別の木で同様の作業を繰り返す。

 対象とする本数を増やしていき、同じ事を続ける。

 しかし何れも、結果の違いは現れなかった。

 そこで得られた結論。

 魔力提供に魔力提供を重ねても、変わらない。

 逆を返せば、魔力提供に魔力提供を重ねても、破裂する様な事態には陥らないという事が分かった。

 不良依頼をこなす合間、これらに数日の時間をかけたのだった。


 別の日には再び散歩に出て、同じく森に入る。

 そこで試したのは、破裂の検証。

 カイトは一本の木をターゲットに破裂させる。

 今までと同じ様に、破裂した。

 次いで違う木をターゲットにし、破裂のイメージを組み上げる。

 だが相違点を設けた。

 カイトは頭の中で木全体ではなく、木の上部で生い茂る大量の葉を見上げる。

 そしてその中の一枚が破裂するイメージを作り上げた。

 すると、カイトのイメージ通りに一枚の葉だけが綺麗に破裂したのだ。

 そのまま、今度はその木全体をイメージして、その中にある一本の枝だけが破裂するイメージを作り上げる。

 甲高い音。またしてもイメージ通りに、指定した枝だけが破裂したのであった。

 つまりは対象の全体を破裂するだけではなく、対象の一部だけをピンポイントで破裂する事も可能。

 全てを消し飛ばすだけが、この技の使い方ではない。

 これを知れた事は、カイトにとって大きな収穫と言えた。

 再び、木全体をイメージする。

 そして今度は、葉を一枚だけ残してそれ以外の全てを破裂させるイメージ。

 轟音。

 やがてカイトの視界に、空気の流れに揺らめきながら地面へと舞い落ちる一枚の葉が映った。

 成功したと、カイトは認識する。

 全体を破裂、一部を破裂、そして一部を残して破裂させる事が出来たのだった。

 そこから移動し、また別の木で今度は二枚だけを残すイメージを組み立てる。

 また別の場所に移り、今度は枝だけを残すイメージで破裂させた。

 結果的に、その全てが成功。

 これらの検証により、多くの事が分かった。

 破裂という技の多様性が、理解出来たのだ。

 そして、新たな可能性が見えた。

 依頼によって存在する、討伐証明の納品。

 それが行える様になると、カイトには思えた。

 討伐証明の納品とは、対象のモンスターを討伐したという証としてギルドや依頼主に、そのモンスターの指定部位を納品する事。

 それを以て完了となるクエストは、不良依頼の中にも幾つか存在していた。

 だがこれまでカイトは、その依頼を受ける事は無かったのだ。

 何故ならば、全てを破裂させてしまうから。

 一撃必殺とも言えるカイトの破裂は、討伐証明となる指定部位まで跡形も無く破裂させてしまう。

 だからこそ完了が見込めないと、今まで受ける事はしなかった。

 しかしこの検証により、討伐証明の納品も可能になるという結論に至った為、カイトが受けれるクエストの幅が広がったのである。

 それを認識出来ただけで、非常に大きな収穫と言えたのだった。

 また別の日、不良依頼を終えて帰って来たカイトはラヴィと別れて、再び森へと向かう。

 破裂の精度を高めるトレーニングを繰り返す為に。

 繰り返し破裂のイメージを作り上げてきた事で、徐々に具体的に破裂させるイメージを組み立てるのが早くなってきたと自覚したカイト。

 ならばもっと練習をすれば更に早くなるのではないかと思い、その訓練に訪れたのだった。

 一つの場所で大量に木を破裂させては、誰かに怪しまれるかもしれない。

 故に場所を変えつつ破裂の訓練を進めるカイト。

 そして分かった事。

 破裂させる対象の細かいディティールを想像する必要が無い。

 カイトが意識している対象の大まかな分類をイメージするだけでも、その効果を発揮する事が分かったのだ。

 木であれば、どの様な形や模様をした木という細かい情報は不要で、ある程度木という分類をイメージさえすれば、対象が破裂する。

 一つ一つを細かくイメージせずとも、破裂は可能だった。

 カイトが思い返せば、ユクマ村で農地開拓として範囲内の木を全て破裂させた時、その一つ一つを細かく意識していたかと言われれば否。

 あの時は範囲内の木を全て破裂させる、という大雑把なイメージで成功したのだ。

 故に今回の検証で得られた理論は、ユクマ村での一件の証明となったのである。

 そして、その前に受けた依頼。

 大量発生した謎のインセクトモンスターであるジャイアントロークストを一掃したあの出来事も、もしかしたらこれで説明出来るかもしれない。

 ジャイアントロークストの羽音により窮地に陥ったカイト達。

 あの状況下で、細かいイメージの組み立て等不可能。

 よってラヴィの証言通りジャイアントロークスト達だけを破裂させたならば、大雑把に昆虫だけの破裂という様なイメージをしたに違いないと、カイトは思い至った。

 そうでなければ説明のつかない現象となる。

 現時点で分かっている事を当て嵌めれば、その様な帰結となるのは自然だった。


 違う日、これまでの検証から新たな疑問が湧いたカイトが森に入る。

 そして多少は破裂させても問題なさそうな場所を見つけ、実験に移った。

 対象の木に、魔力を提供する。

 次に、魔力を提供した木を破裂させるイメージを作り上げたのだ。

 カイトが抱いた疑問。

 それは、スキルの組み合わせについて。

 今までラヴィに魔力提供をし、自身にバリアを張り、そしてターゲットを破裂させるという事は同時に行ってきた。

 けれど、組み合わせて同一の対象へと使った事は殆ど無い。

 魔力提供とバリア。

 その組み合わせに関しては、キングスコーピオンとの戦いでラヴィに使った。

 キングスコーピオンに向けて大量の魔法を放ち魔力不足となったラヴィに言われ、魔力提供。

 その直後にラヴィへと向けられ飛んできた針を、彼女の身体にバリアを張る事で防げたのだ。

 よって、魔力提供とバリアを同一対象に併用する事は可能。

 ならば魔力提供と、破裂はどうなのか。

 破裂と、バリアの組み合わせではどうなるのか。

 その様な疑問が、カイトの中に生まれたのだった。

 魔力提供した木に、破裂のイメージを組み立てたカイト。

 だが、ターゲットとした木が、破裂する事は無かった。

 想定外の結果に、思わず目を丸くするカイト。

 彼の予想では、恐らく破裂するだろう。そう思っていたのだ。

 カイトの中で、唯一の攻撃手段である破裂。

 それ故、破裂が他よりも優位性が高いのだと認識していた。

 だが結果は、破裂しなかった。

 別の木で同様の検証を行う。

 変わらない。

 複数の木で同時に試す。

 変わらない。

 範囲内の木全てで、同じ作業を行ってみる。

 変わらなかった。

 全ての魔力提供を切る。

 そして眼前の木を破裂するイメージを作り上げれば、轟音が響いた。

 カイトはそこで漸く、結論を得る。

 魔力提供と破裂の組み合わせは、魔力提供の方が優位性が高いと。

 よって、魔力提供した対象にはそれを解除しない限り破裂する事は出来ないと認識。

 それにより先日確証を持った事象が、カイトの中で揺らぐ。

 ジャイアントロークスト達だけを破裂させた方法。

 ラヴィは無事で、ジャイアントロークストだけが破裂した理由。

 あの時ラヴィには、事前に魔力提供をしていた。

 だから破裂の影響が及ばずに無事だったのか、それとも想定通りにイメージで破裂させる対象をジャイアントロークストだけに絞れたのか。

 それが分からなくなった。

 だが、その思考を頭から消し去る。

 今出来る事だけを考えれば良い。

 カイトは自分に言い聞かせた。

 ジャイアントロークストの件が揺らいだとしても、今回の検証で得た事実。

 対象を意識して、漠然とその分類をイメージすれば破裂が可能。

 魔力提供をしている対象を破裂させる事は出来ない。

 その事実が分かっていれば、今深く考える必要は無いだろう。

 だから今は、検証を進めよう。

 力をつければそれだけ出来る事が増える。

 力をつければそれだけ夢に近付く。

 力をつければ、誰かを助けられるかもしれない。

 力をつければ、恩を返せるかもしれない。

 力をつければ、罪滅ぼし出来るかもしれない。

 そう考えながら、次なる検証の地を求めてカイトは歩き出した。


 森の中を歩き続けていたカイトはその道中で冒険者達を見つけ、ターゲットであろうモンスターと戦っている姿を目撃する。

 年の頃は全員カイトと同じ位だろうか。

 剣司(ソルジャー)の男、盾司(タンク)の男、魔法司(ウィザード)の女、回復司(ヒーラー)の女。

 四人パーティーが、一体のモンスターを相手に苦戦していた。

 相対するモンスターは、グリーンベア。緑色の体毛に覆われた、熊の様なモンスター。

 カイト達のパーティーが直近で受けていたクエストよりも数段格下の相手。

 相手の攻撃を辛うじて躱し、剣司(ソルジャー)の男が攻撃に転じるも容易に躱され攻撃を受ける。

 同じ剣司(ソルジャー)であるアレックスならば、最初の攻撃でクエストを完了していた。

 他の仲間が盾を構えて前に出るが、モンスターの攻撃で簡単に吹き飛ばされ、魔法司(ウィザード)の女は攻撃魔法を放ち援護をするも、それが敵の体毛に触れて霧散した。

 これがもしルインであれば、彼女の魔法だけで今頃このモンスターは絶命していただろう。

 最後尾で回復司(ヒーラー)の女が吹き飛ばされた仲間に回復魔法をかけるが、その効果は弱く、リーンの様に即復帰をさせる事は無い。

 全員が疲労を隠せずに大量の汗をかきながら、肩で呼吸をしている。

 だが。


「大丈夫! 皆で協力すれば絶対倒せる!」


「俺が何とか耐えるから、その間に攻撃してくれ!」


「魔法で少しでもヘイトを向けられる様に攻撃してみるわ!」


「まだ! まだ回復は出来るから! 慌てないで大丈夫だよっ!」


 それぞれが励ます様に声を掛け合い、陣形を崩さない様に務めるのだった。

 それを見るカイトの中で、感情が大きくなり始める。

 懐かしさ。

 次いで、寂しさ。

 そして、羨ましさ。


「ぐあッ」


「大丈夫!? す、すぐ治すからっ」


「くそっ……あいつ、許さねえ!」


「ダメよっ、一人で突っ込んじゃ……!」


 まるで冒険者になったばかりの自分達の様な光景。

 まるで自分達ではもう見る事が叶わなくなった光景。

 まるで自分には無い物を見せられている光景。

 郷愁、寂寞、羨望の感情が、カイトの中で入り乱れる。


「……悪い、ついカッとなっちまった」


「わ、わりぃ……防ぎきれなかった」


「謝る事無いわ。盾司(タンク)で防げないのなら、他の人ではもっと酷い怪我を負っていたもの」


「治ったよ! 軽い怪我で良かった!」


 眼前の光景が酷く眩しい物に見え、思わずカイトは目を細めた。

 自分にとって、これは二度と戻らない景色。

 けれども、大切な思い出。


「……どうする? このままじゃジリ貧だ」


「俺にもっと力があれば……!」


「いえ、私ももっと魔力があれば……!」


「ずっと、皆を回復させられる力があれば……!」


 そして、失いたくないと思える光景。

 気付けばカイトは、


「……ん?」


「何だ……?」


「えっ、どうして……」


「急に、魔力が……!」


 四人へと、魔力を提供していた。

 突然魔力が回復した四人は困惑を隠せない。

 だがやがて、剣司(ソルジャー)の男が表情を変えた。


「何か分からないけど……これなら、きっと戦える!」


 力強く声を上げれば、他の三人も続く様に呼応した。

 声に反応したのか、グリーンベアが駆けて剣司(ソルジャー)の男へと向かう。


「させるかっ! 意地でも止めてやるッ!」


 そこに盾司(タンク)の男が割り込んで、重心を低くし盾を構えた。

 モンスターと盾が衝突する直前、カイトはグリーンベアが地面に着けている右脚の爪を一つ、破裂させた。

 走る為に土を掴んでいた力が僅かに消失した事により重心がズレて、突進するグリーンベアの動きが微かに減速。

 そこへ数多の魔法が降り注ぎ、その身体をよろめかせる。


「ぐぅっ……負け、るかぁぁッ!」


 弱まった力は盾司(タンク)の男を吹き飛ばすには至らず、渾身の叫びと共にその場へと留めさせたのだった。

 同時に回復魔法が男へとかけられ、その疲労が徐々に治っていく。

 動きを止めたグリーンベア。

 剣司(ソルジャー)の男が飛び上がり、魔法を宿した剣をその首に振り下ろす。


「これで……終わりだああああッ!」


 力の籠った叫びと共に、振り抜かれた。

 僅かな沈黙。

 やがて大量の血を、その首から噴き出したグリーンベアの身体がゆっくりと傾き、地面へと伏せた。

 それを見据える四人。


「……たお、した」


 誰かが呟く。


「……倒せた……倒せたぞぉぉっ!」


 剣司(ソルジャー)の男が雄たけびの様に歓喜の声を上げれば、瞬く間に三人へと伝播する。

 剣を天に掲げ喜びを表す男に、三人が駆け寄った。


「最後の攻撃! すごかったな!」


「お前もよくあの突進を防いだな!」


「上手く魔法が刺さって良かったわ!」


「皆! 完璧な連携だったよ!」


 各々の声、各々の喜び。

 だがその全てが、一丸となっていた。

 その光景を遠くから見つめるカイト。

 やがて静かに、踵を返したのだった。


 次の日。

 カイトはトレーニングをしてくるとラヴィに告げ、一人街を出た。

 そして向かうは、近隣の森。

 只歩き続けていれば、やがてその足を止めた。

 カイトの視線の先。

 そこには冒険者達がモンスターと戦っている姿。

 昨日のパーティーではない。

 だが足場の悪い森の中で、ブルースパイダーとの戦いを繰り広げる姿があった。

 糸を使い、木々を移動し相手を翻弄するのが、大きな蜘蛛の様な形をしたブルースパイダーの戦い方。

 そして疲れ果てた相手を糸で絡め、捕食をするのだ。

 まだ戦い始めたばかりなのか、冒険者達は疲れを見せてはいないが、それでもブルースパイダーが糸で木々を移動する速度に対応出来てはいない様だった。

 これもまた、直近でカイト達が受けていたクエストよりも数段格下の相手。

 カイトはそれを見つめ、やがて魔力提供をしたのだった。

 暫くと戦闘が続きカイトが糸を吐き出す部位を僅かに破裂させ、突如糸が出せず移動の慣性で宙に浮くだけとなったブルースパイダーを捉えた冒険者が攻撃を当てる。

 そして地面に落ちたブルースパイダーに、別の冒険者達が何度か攻撃を仕掛け、とどめを刺したのである。

 嬉しそうに喜びを分かち合う冒険者達。

 それを見つめ、カイトはまた静かにその場を後にするのだった。


 更に次の日、そのまた次の日もカイトは森や草原に向かい同じ事を繰り返した。

 遠目に戦闘中のパーティーや冒険者を見つけては、魔力提供をする。

 そして戦闘終了を確認し、その場を後にした。

 連日トレーニングを行う様になった事で、ラヴィから怪訝な目を向けられる様になりつつも何とか誤魔化し、カイトはその行動を繰り返した。

 三日、四日、五日と日が過ぎる。

 カイトは只、同じ行動を繰り返し続けた。

 そして一週間の時が経つ。

 そこでカイトは、


「カイトさん。あなた、他の冒険者に魔力提供をしていますね?」


 説教されていた。

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