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ヒューマンドラマ系短編

浮つく寝言

作者: 涼風岬

 女性は、いつも隣の人物の寝言で夜中に目が覚める。その主は半年前に結婚した夫だ。まだ新婚ホヤホヤと言えるだろう。ここ最近毎日、彼が寝言で連呼するのだ。よりにもよって女性の名前を。


 彼女には彼に問い正したい自分と、信じたい自分とが混在している。しかし、日に日に不安が募っていくばかりだ。


 今日も彼の隣で眠りにつく。しかし、いつものように彼の寝言で目が覚める。また彼は同じ女性の名前を連呼する。


 ついに、これまで不安を募らせていた彼女は堪忍袋の緒が切れてしまう。しかし、すぐに冷静になるように己に言い聞かす。そして、深呼吸を始める。すると気持ちは落ち着いてきつつある。


「死んじゃえばいいのにっ」


 つい心の声が漏れた。しばらくすると彼が、もがき苦しみ出す。慌てる中、彼女は声を掛けるが、彼は声を発せられない。彼女は震える手でスマホを手に取る。そして、119番に緊急通報した。


 しばらくして、救急隊員が駆けつけ、彼に付き添い夜間救急病院へと向かう。そんな中、彼は気を失う。彼女は血の気が引いていく。


 到着すると、彼は運ばれていく。彼女は、まだ震えている手で祈る。しばらくして、医師から説明がある。まだ彼は目を覚まさないそうだ。これから、精密検査をするとの事だ。時間がかかると告げられる。


 気が気でない彼女は、それまでロビーで待つことにする。すると、彼女は吐き気がし、それを何回も繰り返し手洗いに駆け込む。


 その度に、彼女は鏡に映る自分を見る。


「私のせいだわ」


 そう毎回、鏡の中の自分を言霊であったのだと責めた。


 時間が経過するにつれ吐き気の症状は落ち着きつつある。彼女はソファベンチに少しだけ横になる事にする。すると、意に反し眠りにつく。


 しばらくして、彼女は二人の人物の名前を寝言で叫ぶ。その自分の声で目覚めた。よりにもよって、その女性と彼の名を言ってしまったのだ。今の彼女の感情といえば、女性の名前を口にしてしまった憂鬱さと彼への気がかりが交錯している。そんな中、医師が近づいてくる。


「ご主人が目を覚まされましたよ」


 その言葉に彼女は安堵する。そうしたのも束の間、再び吐き気がぶり返す。そして、張り詰めていた緊張の糸が途切れたのか彼女は倒れる。彼女は担架に乗せられ運ばれていく。





 数カ月後、彼女は女児を出産した。


 そう、あの頃の彼の寝言は、これから産まれて来てくれるであろう子が女の子だったら名付けたいと思っていた名前だったのだ。

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