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第2話 聖剣アフラ・マズダ

「なんだっ?!」

「ご主人様っ!」


 突然満ちた光に僕は目を細め、リリムは警戒して僕の前に立ちふさがる。


 だけど、僕は見た。


 声を上げたシャリテがのけ反る様に状態を反らすと、彼女の胸から深い漆黒の剣が生えてくる。

 柄や鍔にはゴツゴツとした装飾が施され、姿を現した刀身は黒く染まっていて複雑な曲線を描いた切れ味より威圧感や重厚感を重視したデザイン。その剣の柄をシャリテが掴み、一気に引き抜く。シャリテの身長ほどもあるその巨大な刀身が露わとなり、それと同時にシャリテの背中にばさりと現れる白い翼。


「片翼……?」


 そう、それはシャリテの左側にのみ現れた片翼の翼。

 地面につきそうなほど垂れ下がった片翼の翼と、こちらも地面に引き摺るように構える巨大な抜き身の剣。


 それはこの世界では今まで見たこともない姿。

 国や貴族に仕える騎士や、冒険者と呼ばれる人たちとは全く異なるスタイル。そもそも、人の中から剣が出てくるなんて聞いたこともない。荷物や武器を仕舞っておくことの出来る魔導袋と呼ばれる魔導具は存在する。だけど、あれはそういった物とは全く異なる。この世界で唯一の、まるで世界から選ばれた勇者であるかの様な姿。

 なにか特殊なユニークスキル持ちなのだろうか?


「聖剣アフラ・マズダなの!!」


 誇らしげに漆黒の大剣を構えるシャリテ。

 深い闇色に染まり威圧感あふれるその大剣に似つかわしくない、『聖剣』という表現。その言葉で彼女は大剣を呼んだ。


「行くじゃんシャリテ! アーリマンなんかやっつけてやるじゃんっ!」


 妖精が口笛なんて吹きながら、シャリテの周りを飛び回る。


「ヴオオアアアッ! ジャマするナああッッッ!」

「ヴイイイイイイッ! オカネオカネえェェェェッ!」


 シャリテの姿を認めて、咆吼する怪物達。

 アーリマン、でいいのか? 怪物達は激昂しバシンバシンといくつもの蛇のような腕を振り回す。


 シャリテに迫る、いくつもの蛇の腕。


「危ないっ――!!」


 思わず声を上げる。


 あんな女の子が怪物達と戦えるとは思えなかった。

 僕だって『錬金王』っていう大層なスキルをもらっているんだ。女の子を護るくらい出来なくてどうする!


 だけど


「どうしてだっ、僕はっ――」


 だけど僕の足は、まるで鋼にでもなったかのように一歩も動かない。

 下を見ると、がくがくと震える両足。


 情けないっ! いつもいつも僕はっ?!

 多少錬金術が上手に出来るといっても、肝心な時はいつもこれだっ!


 視界が涙でにじむ。

 僕の身を護ることに専念しているリリムに彼女を助けるよう言うべきか――、わずかに逡巡した時


「大丈夫なのっ! こんな奴に負けないの!」


 シャリテの金の瞳が、きらりと輝く。


 とんっ、とわずかに後ろに跳ねながら、手に持つ聖剣アフラ・マズダを振るう。見た目の重量感からは信じられないほど軽やかに一閃された聖剣アフラ・マズダが、いくつもの蛇の腕を薙ぎ払う。


「オノレエエエエッッ! チョコマカとオオオオォォッ!!」


 さらにいくつもの蛇の腕が、同時にシャリテに迫る。


「捕まらないの! そんな攻撃にシャリテは負けないのっ!」


 軽くステップを踏み、くるりと身を翻し、軽やかに宙を舞う。

 シャリテはまるで舞う様に、踊る様に怪物――アーリマンの攻撃を躱していく。


 自分の身長の倍ほどもある巨大な怪物二体と戦っているというのに、シャリテはとても楽しそうだった。まるで今がとても貴重な時間であるかのように、きらきらとした表情で楽しそうに戦場で舞う。

 そんなシャリテの姿が、僕にはまるで光り輝いているように見えた。


「きれいだ……」


 思わず呟きが漏れる。


 僕が自分が嫌いだった。

 前世でも今世でも、僕はそれを克服することは出来なかった。

 だけど、今人知を超えた怪物ときらきらとした表情で戦う可憐な少女は、僕には欠けている物を持っている美しい存在に見えた。


「シネシネシネシネシネえェェェェェェッッ!!」

「キエエエエエエッッ! ジャマよオォォォォッ!!」


 一向に捉えられないシャリテにしびれを切らした二体のアーリマンが、大きく跳躍する。

 シャリテを圧殺しようと迫る、巨大な質量。


 ばさり――


 羽ばたくシャリテ左半身の片翼。

 瞬間、シャリテの姿は後方に大きく跳ぶ。


 空を飛んでいる訳ではなく、まるで飛んでいるかのような跳躍。アーリマンの攻撃をかわし、人の身ではありえない速度と跳躍力で空を舞ったシャリテは、空中で左手の人差し指をすうっとアーリマンへ向ける。


「『ソーン』――」


 マナを宿したすらりとした指が、宙にアルファベットの小文字のbの様な記号を描く。


「『逆位置(コントラ)アンスール』――」


 次に描かれたのは、ひっくり返ったFの様なルーン。

 しかも逆位置のルーンは、力が強い反面扱いが難しい。


「『エイワズ』――」


 三重魔術(トリプルキャスト)だって?!

 続けて描かれたMの様なルーンを見て、衝撃を受けた。三重魔術(トリプルキャスト)は僕は魔導具の補助なしでは使えない。三重魔術師(トリプルキャスター)といえば、都市に一人いるかどうかというレベルの術師だ。それがこんな女の子が使えるなんて――


 だけど彼女は止まらない。


「『逆位置(コントラ)シゲル』――」


 四重魔術(クアッドキャスト)っ?!

 四重魔術師(クアッドキャスター)っていうのは国一番の魔術師とか、そういう領域の魔術師だ。僕の作った魔導具を体内に宿すリリムでも三重魔術(トリプルキャスト)までしか使えない。


 宙に浮かぶ四つの光り輝くルーンに向けて、シャリテが唱える。


轟炎槍牙陣ヴェルメ・ヴレン・ヴルフシュベール――」


 彼女の綺麗な声に呼応するかのように、ごうごうと燃える炎の槍が彼女を取り囲む。

 『ソーン』(炎の巨人)の力と|逆位置の『アンスール』《神をも貫く槍》の力を宿した地獄の轟炎。シャリテを中心にくるくると回っていた炎の槍は、彼女が聖剣アフラ・マズダを掲げると、それに応えるようにぴたりと制止し二体のアーリマンへと狙いを定める。


「行くの!」


 振り下ろされる聖剣と、唸りを上げて降り注ぐ炎の槍。


 炎の雨のように降り注ぐいくつもの轟炎は、アーリマンの身体を形作っていた漆黒のオーラとぶよぶよとした肉体を、あっさりと抉り取っていく。抉られた本体と切り離された黒いオーラは、ゆらゆらと揺れると宙に溶けるように消えてゆく。

 父さんと母さんの顔をした怪物が狂乱の悲鳴を上げる。

 自分の身体から切り離された黒いオーラを惜しむように。


「父さん! 母さん!」


 思わず声を上げていた。

 今何が起きているのか分からなかったけど、悲鳴を上げる父と母の表情を黙って見ていることは出来なかったから。


「だいじょうぶなの! 安心して欲しいの!」


 僕の声が聞こえたのか、音もなく静かに着地したシャリテがこちらに向かって微笑みかける。

 その無邪気な笑顔に、思わず胸が高鳴る。

 こんな状況だっていうのに。


「聖剣アフラ・マズダ!」


 シャリテが手の中の漆黒の大剣を掲げるように振り上げる。

 聖剣アフラ・マズダから、シャリテの声に呼応するように放たれる純白の光。溢れ出すように放たれた輝きは、しだいに指向性を持ちアフラ・マズダの闇色の刀身へと収束していく。


「この世の穢れを殲滅する! デストルクティオ・エイド・アヴェスター!!」


 振り下ろされる、光。


 聖剣アフラ・マズダからまっすぐに伸びた光の刀身が、二体のアーリマンを飲み込む。


「ギャアアアアアアアッ?!」

「イギャアアアアアアッ?!」


 悲鳴を上げるアーリマン達。


 だけど、効果は劇的だった。父さんと母さんからぼろぼろと、黒いオーラが剥がれ落ちていく。次第に父さんと母さんの手が、足が、そして身体が漆黒のオーラのあいだから露わとなる。

 そして剥がれ落ちた黒いオーラは、一か所に集まるような動きを見せた。まるで吸い込まれるように一か所に集まると、黒い宝石のような物にその姿を変える。


「あっ!」


 どさりと崩れ落ちる、父さんと母さん。


 つい先ほどまで暴れまわっていた怪物は姿を消し、そこにあるのは気絶した両親と宙に浮かぶ二つの黒い宝石のみ。


「殲滅完了なの!」


 シャリテがぱちんとウインクし、ブイサインをした。

お読みいただいて、ありがとうございます。 


 少しでも面白い、と思って頂けましたらブックマークや、下の☆を入れて頂ければ嬉しいです。


 つまんねぇな、と思われた方も、ご批判や1つでもいいので☆を入れて頂ければ、今後の参考にさせて頂きます。


 なんの反応も無いのが一番かなしいので……。



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