生きていたい
初小説です。とてもとても短編です。
あ、今ちゃんと確認してから渡るべきだったな。そう思っても、もう遅い。あっという間に僕の視界は真っ暗。小学生の頃、よく言われたな。右見て、左見て、もう一回右を見てから渡るんだよって。歩行者信号が青になっていても、いつでも安全に渡ることができるとは限らない。そんなことは小さい頃からよく言われたはずなのに。
僕が小学生の時は、もしもクイズ、というものが流行っていた。もし〜で始まる質問を友達と出し合うというものだ。例えば、もし明日地球が滅亡するとしたら、何をして過ごしたい?だとか、もし一日だけ芸能人と入れ替わることができるとしたら、誰と替わりたい?だとか。起こるはずもないことをあれこれ議論して、結局は笑い合うのが好きだった。これまでは横断歩道で車に轢かれるなんていうのも、この「もしも」のうちだった。ある訳が無いとは思っていなかったけれど、誰もが交通ルールを守っていれば防げるし、そもそも横断歩道は何のためにあるのかという話だ。こんなことを考えていると、友達が聞いてきたもしもクイズが思い出された。
「もしこの後死ぬとしたら、最後に何したい?」
小学生の僕は、この質問になんと答えたのだろう。いつ死ぬにしても、思い残すことはたくさんあるんだろうなと思っていたけれど、こうして考えてみると、僕は何をしたいんだろう。命を落とすという実感が湧かないのか、やりたいことが多すぎるのか、ぱっと答えが思いつかない。一瞬一瞬を大切になんて聞くように、明日もいい日になるといいな、よりも、明日が最後かもしれない、と生きた方が思い残すことも少ないのだろうか。
こんなことを考えていたら、やり残したことを思い出した。遺書だ。遺書を書いていない。僕のイメージでは、息絶える間際に病院のベッドで家族への想いを綴るのだが、それ以外の場面も考えるべきだ。具体的では無いが、突然の別れ。何も伝えることができないまま、永遠に会うことが出来なくなる。そうなる前に、こっそりと遺書をしたためておく。そうすれば、家族や大切な人に想いを伝えることができるのはもちろん、やり残したことを書いておいて誰かに託すこともできるかもしれない。そうなるとまた、最後に何をしたいのか、これを考えなくてはいけないのだが。
あれこれ考えながら、僕は真っ白なベッドに乗っかる、足の包帯をさすった。ツンと消毒の匂いがするこの部屋に、僕は一週間ほど前から世話になっている。スマホがパッと明るくなり、ロック画面を映し出す。通知が溜まっている。中には、僕が事故にあったその日から今日までずっと、メッセージをくれる人もいる。きっと今死んだら、思い残すことしかないだろうな。最後。最後に何をしたいんだろう。結論が出ないまま、僕の頭をぐるぐる回り続ける。
とりあえず今は、生きててよかった。
答えになっていないけれど、結局私は「生きていたい」って思います。歩きながら考えていた話なので、もし車とぶつかったら…みたいに心配していたが故に完成した物語です。後書きすらも何を伝えたいのか分からなくなってしまいました。