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祈るのに飽きたので、旅に出ます。探さないでくださいね~

作者: 千椛

「あーきーたー!」


 山の頂上に建つ神殿に、声が響き渡る。


「巫女さま!また、そんな大声を出されて。はしたないですよ!」


「だって、飽きたんだもん」


「…だからって、叫んでも何も出てきませんよ」


「ねぇ、出してよ。あるんでしょ、知ってんだからー」


「ありません!」


「チェッ、ラリアのけちんぼ」


 我がシャルファ王国は龍神様の守護の元、ここ百年程は平和が続いていた。

 そもそも百年前に、突如現れた龍神ヴェリ・シェレンが、この国のイェルリカヤ山を気に入って住み着いたのが始まりだ。

 そのことに気づいた当時の王(先々代)が、守護を求めて山に詣で、結果として色んな条件がつけられた上で、守護してもらえることになったのだ。その条件の1つが神殿と巫女だった。


 この山に龍神様を祀る神殿をもうけることと、()の神の偉業を讃え、日々感謝の言葉を捧げる巫女を置くこと。その巫女は王家、又はそれに準ずる者から輩出すること。

 そして王は年に一度は必ずこの神殿に(もう)でること等だ。他にも色々とあるようだが、私にはあまり関係ないため、忘れた。


 その約束は守られ、更に各領地にも支神殿が造られ、それぞれの領主一族から輩出された巫女も置かれるようになった。


 私ベルナ・ファルキは、生まれながらに高い神力を持っていたため、龍神を奉る神殿の巫女となるべく育てられた。ただし、実家のファルキ侯爵領の支神殿のだ。

 なのに、気がつけば本神殿であるイェルリカヤ山の神殿の巫女にされていた。王家とは、全く関わりが無いのにだ。


 お陰で、物心がついた頃(三歳)には既に神殿住まいで、巫女としての勉強と修行の日々を送る羽目になっていた。


 しかし、先月十八歳になった身としては、十五年以上続いた巫女の生活に、さすがに飽きていた。考えてみよう。年間360日、毎日朝夕欠かさず一回二時間の祈りを捧げ続けた私は、十五年で、21600時間祈った事になる。


 これは6日ごとに休みのある一般の務め人の9年分になる。実際は、別口で休暇が年10日は取れるから、それまで合わせると9.3年分、私の人生の半分以上だ。それだけ祈れば、もう引退してもいいだろう。


 何より、食べる物にほとほと飽きた。だって肉、魚はアウト。野菜、果物、乳製品は大丈夫。卵はグレーゾーンらしいけど、めったに出てこない。肉、食べてみたい!魚って美味しいらしいよね!ケーキって、どんな味なの?!せめて卵くれ、卵!!


 てなわけで、さっきも信者さんの持ってきた砂糖菓子でも出てこないかと思い、世話役であるラリアにごねてみた訳だが、結果は言わずもがなだ。


 両親はいるにはいるが、この五年ほどは神殿を訪れていない。まぁ、別に親が恋しい年でもないしかまわないのだが、私の巫女としての報酬の大半をネコババしているのは、そろそろ止めさせよう。


 なんせ、毎月支給される月給と、四半期ごとに支給される季節費があるのだが、私の手元に来るのは季節費の半分だけだ。なので、月給まるっぽと季節費の半分は、奴らが使っていることになる。

 だが、それも今月までだ。来月からは金が入って来ないと判った時の両親の唖然(あぜん)とした顔は、さぞかし見ものだろう。まぁ、わざわざ見には行かないが。取っ捕まったら面倒だし。


 そして、どうにかして全額返してもらおう。なに、私の引退後の快適ライフのためにも、ある程度のお金は必要だしな。


 あと、三才下の妹もいるが、神殿に来たことさえ無いから、名前がシーラってことだけで、どんな顔をしているのかも知らない。


 私がネコババされたお金の総額を調べるために計算式を書き出していると、


「悪い顔して熱心に何を書いているのかと思ったら、ネコババされた金の勘定か。しかし、お前の親達って、ネコババしてることをベルナが知らないと思ってるのかねぇ。だとしたら、おめでたい奴等だな」


 おや出たね、元凶。そう、こいつこそが全ての元凶にして、我が国の守護神ヴェリ・シェレン様だ。こうして人化して、私のところに遊びに来る。しかも毎日。暇か?暇だよな!!私の言葉が悪いのも、全てこいつに感化されたせいだ。


「まぁ、ここにいたら、お金使うことも無いからねぇ。ご飯も出るし、着るものも支給されるから」


 言いながら、出た金額を足していく。


「だからって、娘の稼ぎを横取りして良い訳ではなかろうが」


「当たり前だわ。だからそろそろ終わりにしようかなぁって。ついでにこの仕事も飽きたし、親からこれまでのお金を取り返したら、旅にでも出ようと思って。話に聞いたハーミト山とか、アルプ湖とか見てみたいし、温泉にも入ってみたいし。何より、美味しいものが食べたい!」


 それに乙女としては、ときめく様な恋もしてみたい!ラリアに頼んで買い漁り読み漁った恋愛小説のような、嬉し恥ずかしな胸キュン、ドキドキを経験したいのだ。


 なんせここだと、恋愛対象となる相手がいない。

 唯一の選択肢が、この龍神様ってどうよ?しかも顔だけはスゴく良いから、始末に終えない。初恋?当然こいつだ、ちくしょう。


「良いな、それ。よし、俺も付いて行ってやろう!」


「何でよ。この仕事辞めるのに、あんたが付いてきたら本末転倒でしょうが。第一、国の守護はどうするのよ。もうじき奉納祭もあるのに」


「それ、判ってて辞める奴が言うか?」


 なんて話をしてたら、王宮からの手紙が届いた。


 読んだら、開いた口が塞がらなくなった。


 それは今年の奉納祭は神殿ではなく、王宮で行うという、非常にバカにした内容だった。ご丁寧に、現国王エルデム二世からの招待状まで入ってやがる。


「どうした?顔が岩ガニになってるぞ」


「あんたも読んだらいいわ。カニになれるから」


 そう言って、手紙を渡す。ほら、なった。


「こいつ、とうとう代理さえ送るのをやめたのか!しかもこれ、ベルナが有り難がると思ってる辺り、笑えるな」


「だねぇ」


「それに俺の守護の条件を何だと思ってるんだ?ベルナじゃないけど、俺も辞めよう。絶対先々代と交わした約束なんか守る必要無いって思ってるぞ、あいつ」


 そう。先々代は真面目に毎年神殿に詣でていた。先代は、足が少しばかり悪かったため、神殿には身内の代理を立てていたが、少なくとも山の(ふもと)までは必ず来ていた。


 で、こいつ、エルデム二世だ。十年前に即位した現国王のこいつは、毎年役人に代理をさせていて、一度も(ふもと)にさえ来たことがない。そして、とうとう巫女を王宮に呼びつけやがった。

 しかも、神殿から出ることの無い巫女を、王宮に招待してやるから光栄に思うようにという、実にふざけた文言付きで。


「まさか、ここまで酷いとはね。あんたが守護やめるんなら、うちの領地、独立しようかな。ここに引っ付いとく理由が無くなるし。なんなら、一緒に来る?」


 ちょっとばかり期待して聞いてみる。


 元々、うちの領地はファルキ公国という小さな国だったのだが、ヴェリ・シェレンの守護を受けるために、シャルファ国の一員となったのだ。その際、結構な金額の金品と引き換えに、この国の侯爵位を授かったのだが、守護が無くなるなら、元に戻してしまった方が後腐れ無くて良い気がする。


「良いぞ、元からベルナと一緒に行くつもりだったし。独立するんなら、お前んとこを守護してやるよ!」


 まじか?!これでうちの領地は安泰だわ。ついでに結婚してくんないかな?さすがにそれは無理か。


「後は、どうやってお金を取り返すかよねえ。それにあんたも行くなら、本神殿や支神殿の皆を何とかしないとね」


 神殿に勤める神官や巫女、補助巫女さん達は、大半が真面目に信仰してるし、うちの領地の領民もだ。まぁ、それは私が本神殿の巫女をしているせいもあるが。


「ああ、それならどっちも良い手がある。俺に任せておけ」


「じゃあ頼んだ。それなら、一応王宮に連絡入れとくわ。さすがに黙って辞めるのは悪い気がするから」


「こんなやつらに、律儀だねぇ」


 招待状をヒラヒラと振りながら、ヴェリが言う。


「そうでもないよ。独立宣言もあるしね。あっ、そうだ、ついでだから……」




 1週間後。


【祈るのに飽きたので、辞めます。旅に出るので、探さないでください。

 ついでに、うちの領地は独立して、もとのファルキ公国に戻ります。

     元巫女で、現領主 ベルナ・ファルキ】



 巫女から届いた手紙のせいで、朝から王宮は大騒ぎとなっていた。

 なぜか国王エルデム二世は、巫女から王宮への招待を感謝する手紙が来ると思い込んでいたのだ。しかし、来たのは辞職と独立の知らせだった。


「なんだ、これは?!今すぐ巫女に真偽を問うから、直ぐに連れて来い!ふざけるにも、程がある!」


 それを聞いた宰相が、呆れて口を開いた。


「だから、何度もご忠告申し上げましたのに!本来ならば、王家から巫女を出さないといけないところを、王女様が『パパ、わたし、巫女なんてやだぁ』と言ったからって、侯爵令嬢にその任を押し付けた上に、少なくとも年に一度の奉納祭では、王自らが神殿で祈りを捧げなければならないという約束も反故にし続けたのですから!巫女さまがお怒りになるのも、仕方ありません」


「しかし、ちゃんと給金はたっぷり払っているぞ!」


「そういう問題ではありません!それに、王家が巫女様を粗雑に扱い、神殿に詣で無いため、他の貴族や国民達まで(こぞ)って神殿に詣でなくなっているのですよ。貴族をはじめとして、全ての国民も、年に一度は神殿か支神殿で祈りを捧げなければならないというのに!」


「しかし、ほれ、それは偉大な巫女様がいるから…」


「その巫女様は、たった今辞められました」


 数年前、神殿に詣でないことへの言い訳として、国王が『龍神さまの寵愛深い、偉大な巫女様が祈りをささげている限りは、我が国は安泰だ』と言ったせいで、いつの間にやら皆が祈りを捧げるのを、怠けるようになっていたのだ。


 そのくせ、裏では【巨大な巫女様】等と言って巫女の背の高さを笑っていたのだから質が悪かった。

 実際巫女は178センチと、背が高い。 成人男性の平均身長が175センチだから理屈でいえば10人中5人以上は巫女様に身長で負けていることになる。

 現国王の身長が170センチで平均以下なのは、側近しか知らない秘密だ。


 するとそこへ、何人もの衛兵が慌てて走り込んできた。


「陛下、大変です!神殿と各地の支神殿が、何者かに破壊されたと連絡が!」


「陛下、我が国の結界がぁあぁぁぁあぁ!!!」


「陛下、大量の魔獣が国内に入り込んできたと報告が!!」


 続けざまに飛び出してくる報告の数々に顔を青くした国王は、すべての原因は巫女が辞めたせいだと思い至り、


「えぇい、巫女を探してこい!これも全ては巫女が責務を放棄したせいだ!今すぐ捕まえて神殿に閉じ込めろ!」


「どの口が言うんです。それに、聞いてました?神殿は破壊され、巫女様はお辞めになられたうえに、領地を独立されました。頭だけでなく、耳まで悪くなったんですか?では、私も辞めて逃げようと思いますので、これで失礼します」


 そう言うと宰相は後ろに隠していた鞄を引っ掴み、走り出した。それを見た周りの人々も、宰相に続けとばかりに走り出す。


「宰相様、どちらに?」


「自領です。書類を揃えて、出来るだけ早くファルキ公国と盟約を結ぶか、あの国の配下に入れて貰います。おそらくは、龍神様の守護はファルキ公国に移った筈ですから」


「おぉ、では我々も急がなくては」


「うちはファルキとは近い。うまく行けば、直ぐに入れてもらえるかも」


 あっという間にもぬけの殻となった王宮に、ポツンと残された国王エルデム二世が呟いた。


「なぜだ?昨日迄は何の問題も無かったのに……いったい、わしが何をしたというんだ?」



[何もしなかったから、こうなったんだろうが。ばーか]



どこからともなく、声が聞こえた。



****



「あっ、ここでいいよ」


「じゃ、あとで迎えに来るわ」


「お願いねー」


 領地に向かう前に、取りに行かないといけない物が有ったため、ヴェリに頼んで王都にある侯爵邸(実家)に連れてきてもらったのだが、どうせ誰も私のことなぞ覚えていないだろうと、玄関ではなく一番高い塔の部屋のバルコニーに降ろしてもらった。


 なんせ、ここにいたのは三歳までなので、私もほとんど覚えていない。ただ、おばぁ様の遺品の場所だけは何度も聞かされていたので、問題なく判った。


「この家でおばぁ様だけだよなぁ、私のこと、気にかけてくれてたの」


 おばぁ様は五年前に亡くなるまで毎年数回は必ず訪ねて来てくれていたし、その際は渋る両親も引き連れていた。その度に口癖のように、


『私の物は、全部あなたの物ですからね。あんなぼんくら息子や嫁になんか、何一つとして、やらないし、触らせもしないから』


 と言っていたが、実際全部私に譲った辺り、徹底した人だった。


 バルコニーから塔の中へと入っていく。ここの壁には特殊な魔法石がはめ込まれた隠し部屋があり、私の神力でのみ開く仕様になっている。セッティングしたのは当然、おばぁ様だ。


 そこに目当ての遺品がしまってあった。家紋の入った金の錫杖と指輪だ。併合されたときに持ってきたこれ等は、独立するから今度は領地に戻さないといけない。それを箱ごと持って部屋から出ると、


「ねえ、本当ですの?先程龍神様がこのお屋敷の塔に権現されたって。もしや、わたしをお見初めになられたのかしら?だったらどうしましょう!龍神の巫女であるお姉さまを差し置いて、わたくしが龍神様の花嫁に選ばれたりしたら…うふふっ」


 なんだか気の毒になるぐらい、妄想バリバリの声が近づいて来るのが聞こえたが、関わり合いになるのは面倒くさそうなので、そのままバルコニーへと向かう。が、少し遅かったようだ。


「誰ですの、人の屋敷に無断で入ったのは!……そのばかでかい身体に、その巫女服…もしや、ベルナお姉さま?」


 侍女や騎士を引き連れた、えらく派手なドレスを着た()()()()()()()が騒いでいるが、知らない顔だ。


「えと誰だっけ?」


「酷い!お姉様ったら!あっ、お姉様で合ってますわよね?!はい、どうも。では、気を取り直して」


 確認されたので頷くと、大きく息を吸い込んだあと、一気に捲し立ててきた。


「妹である私に向かって、そんな言い方……貴女の妹のシーラに決まっているでしょう!」


 あっ、耳いたい。キンキン声が耳に刺さる。


「あんただって、判んなかったくせに。第一、一度もあったこと無いし」


 そう言いながらバルコニーへと向かうが、どうやら手元の箱を目ざとく見つけられたようで、


「お姉様、それは我が家の家宝が入った箱ではないですか!いくらお姉様でも、勝手に持ち出すのは許せませんわ!」


「この指輪と錫杖は私の物よ。おばぁ様の遺言、知らないの?」


「そんなもの関係無いって、お父様が言ってましたわ!お姉様には巫女としての勤めがあるからって。それにこれは、代々、侯爵家の主人のものだって!」


 だからそれは、お父様の物ですわと言いはる妹は、本当になにも知らないらしい。両親よ、せめて手元においている娘ぐらい、きちんと教育しとけよ。


「だから、私のだってぇの。おばぁ様は、私に侯爵家を継がせたんだから。正確には、ファルキ領に付随するすべての物をね。父様は、私の代理でしかないの。知らなかった?」


 しかも今在、実際に領地の運営を担っているのは、おばぁ様の末弟で、大叔父にあたるフィクレト叔父さんだ。冗談抜きに父様は、ただのお飾り代理ってことだな。


「だから、あんたは侯爵令嬢ではなくて、侯爵代理令嬢なの」


 今日からは、それもなくなるけどねー!この国の爵位、返上したから。


「そんな…」


「おーい、待たせたな」


 いつ戻ってきたのか、ヴェリがバルコニーから入ってきた。良いタイミングだけど、さっきの妄想を考えたら、面倒だなーと思ったら、案の定、シーラの目がハートになってる。


「お姉さま、こちらは?」


「これはヴェリ。ここまで送ってもらったの」


『なんてイケメン!お姉さまとは、どういう関係かしら?それにヴェリって……もしや龍神ヴェリ・シェレン様?では、やっぱり私に会いに?!あぁ、私の愛らしさは、きっと神様さえ惑わすのね。なんて罪作りなのかしら……』


 おい、心の声が駄々もれだぞ、妹よ。誰か教えてやってくれ、哀れで仕方ない。こら、そこの侍女、目ぇ逸らすな!


「はじめまして、ヴェリ・シェレンさま。私この侯爵家の……」


 シーラが何故か両腕を交差させてから、指を絡ませ手を握り、身体をくねらせながら前に出てきた。


「なんだ、このクネクネ虫は?」


 クネクネ虫ってヴェリ、容赦無いな。


「あー、それ、妹だって」


「ヴェリさま、今、なんと?クネ…?虫…?」


「だって、クネクネ、クネクネと、芋虫みたいに動くから」


「芋虫って…」


「虫は嫌いか?じゃぁ、ミミズと呼ぶか?それともムカデ?」


「あー、ヴェリ。どうやら妹は、その意味不明な動きが可愛いと思ってるみたいだから、それ以上は言わないであげて。かわいそうだから」


 思わず止めるが、それもシーラは気に入らなかったらしい。


「そんな傷口に塩塗りたくるような同情なんて、いりませんわ!!キーィィーッ!」


 あっ、私ハンカチ噛んでキィーってさげぶの、初めて見たかも!面白いから、それを見ながらヴェリに首尾を聞く。


「で、どうだったの?」


「王宮の財宝庫に行って、貰って来た。大丈夫、ちゃんと領収書は置いてきたから。それと、今まで侯爵に払った分は全部返してもらうように書いてあるから、問題無いって。後、契約不履行の賠償として、それなりに色々と」


 悪い顔してにやりと笑うが、良いのか、神様がそれで。まぁ、龍神の守護を盾に、近隣国から侵略される心配もなく交易なんかで稼いでたから、良いっちゃ良いか。


「じゃあ、皆の給料には事欠かないね」


 神殿の皆は引き続き、ヴェリが雇うことになっていた。そのために、一週間前に全ての支神殿で、【我を信ずるものは、秘密裏に今すぐファルキ領へと旅立て】てな御神託をしたらしい。そんで、みんなしてお引っ越しをしたわけだ。


 なので、お引っ越しがすんだ今、必要無くなった神殿と支神殿は、さっきヴェリが片っ端から木っ端微塵に壊してきたらしい。それを聞いて、ちょっとスッキリだ。


 ついでに独立宣言もしたし、ヴェリの守護は確約済みだから、うちの領は安泰決定だ。


「あっ、後で島に保護幕、張っといてね!」


 なんせうちの領地は島だからね。


「もう、張った。それと、保護幕じゃなくて、結界な!」


「あぁそうだ、結界。じゃ、そういうことで、お父様達によろしくねぇ」


 まだハンカチを噛んでいるシーラに別れを告げる。


「え、お姉様、いったいどこから…」


「「ひゃほーーー!!」」


 掛け声と共にバルコニーから二人で飛び出すと、忽ちヴェリが龍に変化するから、その背中に乗っかる。


 『ちょっと待ってお姉様、私も!』なんて聞こえるけど、あんたを連れてく義理は無い。まぁ、来たければ、公国に来ても良いよ。入れるかは、知らんけど。


「さて、どこに行く?」


「まずはこれを島に持って行くから、そこで美味しいもんが食べたい!それから温泉に、お祭り、でもって……」


 行きたい所を指折り挙げていく。


「良いよ、どうせ新婚旅行だし。少し島に寄ったら、一年くらいあちこち見て回ろうぜ」


??なに言ってるんだ、こいつは??


「ねぇ、私達いつ結婚したっけ?」


「今からするに決まってるだろうが。ベルナ、結婚しよう!」


 あーーーーーーっ、もう、ほんと、この龍神様ときたら。

 こちとら、ロマンチックを愛する乙女なお年頃なんだから、プロポーズには、たっぷりの夢と希望と憧れが花しょってリボンくっつけて鎮座しているてぇのに、なんだ、そのチョーーあっさり感は。


 でもまあ、いいか。私達らしいかも。それに、プロポーズには変わりない。そう思うと、自然に頬が緩んで来た。


「あはは!いいよー」


 答えた途端に、体が金色に輝く。


「ハイ婚姻完了!」


「え、いいの、これだけで?」


「いいの、龍だから」


「そっか」


「ちなみにおれ、山と湖に隠れ家持ってるんだけど、最初に行くのは、どっちが良い?」


「温泉ある?」


「山にはな」


「じゃあ、山ーー!」

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[気になる点] えっ好きなもの食べて良いのか??? 冒頭部分を読んだ限りでは、乳製品や豆類OKなら栄養は偏らないだろうけど、なんで食事制限してるんだろう?もしかして巫女とかは建前でドラゴンの餌を養って…
[一言] 続きものに出来そう 面白かった
[一言] >掛け声と共にバルコニーから二人で飛び出すと、忽ちヴェリが龍に変化するから、その背中に乗っかる。 ぼうや~(以下自粛)
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