遺言
「先生、なにか急いでいらっしゃいます…?」
ネットで読み物作品を公開する私に、一通のコメントが寄せられた。本名も顔も性別も年齢も知らない人から、私の想いを悟るかのように届けられた。
私はここ最近、目的もなく作品を公開し続けている。
ネットなのに私の筆圧が見えるのだろうか。
どこかに私の本当の想いが綴られているのであろうか。
わからない。
だけど、判らないなりに何か悟らせているのだろうと思う。
私はただ、私の心のなかで生まれた主人公が、言葉を扱い、誰かと交流をして欲しいと思っただけだった。それぞれの作品で主人公は息をし、そして心を通わし、幸せになって欲しいと思った。しかし、作品を終了した後でそれぞれの主人公たちが私の瞳を見つめた。「じゃあ、お前は?」と……。
色んな主人公たちと眼があっている私はどうしたらいいのだろう。
いや、どうしていいかも解らず、淡々と文字を並べている。
言えることがあるのなら、私はなにか代表作を遺して、ペンを二度と持ちたくない気持ちだ。そう、読者が言うとおりに、私は急いでる。
なんと滑稽なことだろうか。
インクの出が悪くならない、デジタル万年筆は今回も健全だ。