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展開してきました。


 どこかで聞いたような言葉だなと思い返す。

 

 侍女のマヤを笑顔にするための方便としてティアナが言った言葉に似ているのだ。いや、それ以上に難易度が高く、そして傲慢だ。


 ティアナはマヤに「婚約してから好きになることもある。相手にも好きになってもらえるようにしたい」そう言ったのである。この関係に愛を求めるのならそれは、お互い様のはずだ。


 けれど目の前の男が言ったのは「俺の好きな人になってくれる?」。ティアナがルイスを好きになるのは当たり前みたいな物言いに、これからの未来が見えた気がした。


 ティアナは結婚に恋や愛はいらないと思っている。政略結婚なんて所詮仮面夫婦だ。他人同士が「夫婦」と名乗るだけ。人前で仲よさそうにしてくれれば、それでいい。愛人を囲ってもかまわない。愛人が産んだ子を自分の子だと公表するというのなら、一生、白い結婚でいたっていい。


 夫婦をうまく装うこと、家を守る権限をティアナに与えること、そして家に他の女性を連れ込まないこと。それさえ守ってもらえればそれでよかった。ティアナはそれしか求めるつもりはない。


 それなのに、ルイスはティアナに「好きな人」になることを要求したのだ。こちらが望むのは最低限だけなのに、ご機嫌取りまでも要求するのか。そう考えたら、ティアナは自分の中の怒りが膨らんでいくのを感じた。


「できる限り努力しますわ」


 けれど、顔には出さない。そういう教育を受けてきたから。笑顔のティアナにルイスも笑顔を返す。


「ああ、そうしてくれ」


「それではお好きなタイプを教えていただけますか?」


「え?」


「…?あの、どのようなタイプがお好きなのかわからなければ努力のしようがないのですが」


「そっか、タイプか。…考えたこともなかったな」


「…ルイス様は、今まで何人かの女性と、その…とても親しくされていたと記憶しているのですが、どういう基準でその…仲良くなれたのでしょうか?」


 何が悲しくてこんなことを聞かなければならないのか。ティアナは出てきそうになるため息を必死で堪えた。


「別に、特定の女性と仲良くしてた覚えはないけど?」


「…」


「みんな友達だよ」


「あの…ルイス様」


「なんだい?」


「…私は貴族同士の結婚について、理解があると自負しております。そして、恋をしたいというルイス様のお考えを否定するつもりもありませんわ」


「うん」


「だから結婚してからも本当に愛しい人と一緒にいることを咎めたりしませんわ」


「まあ、そういう夫婦関係もあるだろうけど、俺たちは違うでしょう?」


「…」


「俺が君を好きになれれば、相思相愛の夫婦になれる。家のことも考えると、この結婚は有意義だ。だから、俺が君に恋して結婚するのが一番いいと思うんだよね」


「…いや、でも私は…ルイス様を好きなわけではありませんので、相思相愛にはなりませんわ」


「え?」


「…え?」


「君、俺のこと好きじゃないの?」


 それは冗談でも何でもなく、心からそう思っているようなそんな声色だった。その反応に驚きながらもティアナは頷く。


「本日初めてお会いしましたし、特別な感情はございません」


「…」


「私は、夫婦でいることに必ずしも恋愛感情は必要ないと思っています。家族として大切に思えばいいのではないかと…ルイス様、聞いておられますか?」


「聞いてない」


「…はい?」


「ちょっとびっくりしていてね」


「えっと…何に、でしょうか?」


「ティアナ嬢が俺のことを好きでないことに驚いている」


 この発言をしても、どこか許せてしまえるあたり、家柄と容姿は大事なのだなとティアナは思った。一つだけ、深めの息を吐く。


「ルイス様、私は貴族の令嬢として生まれてきました。ガイラ家に子どもは私一人です。結婚し、夫となる方に家を継いでもらうこと。そしてその方を後ろから支えること。万が一、うまくいかないときは自らの手で家と領地を守ること。それが私の何よりの願いです」


「…」


「だからそこに、恋や愛はいりません。恋や愛を求めるのなら、どうか別の人としてください。私はその邪魔はしないと約束いたします。二人で良い夫婦関係を結びませんか?」  


 言葉を飾ることをやめて、ティアナはルイスに伝えた。まっすぐ視線を逸らさないルイスに同じようにティアナもまっすぐルイスを見る。


「嫌かな」


「………え?」


「うん。嫌だね」


「…ルイス様?」


「決めたんだよね。君と恋をするって」


 子どものようにまっすぐな目でルイスはそう言った。


 今まで耳にしたことのあるルイスの噂話は女性関係のものだけであった。言い方を変えれば、それ以外は問題がないということだとティアナは思っている。けれど、違ったのだろうか。目の前のこの見た目麗しい男は、言葉の意味を理解できていないのだろうかと不安になる。


「悪いけど、勉学の成績なら、弟よりも俺の方が上だよ」


「え?」


「こいつバカじゃないの?って思っただろう」


「そんなこと…」


「表情を読むのは得意なんだ。特に女性のはね」


「…」 


「ねぇ、ティアナ嬢。一つ覚えておいた方がいい。男っていうのはね、逃げられるとね、追いかけたくなる生き物なんだよ。だからさ、覚悟しておいてね」


 にこりと笑うその顔は、どこか黒さがあるが、それでも絵本に出てくる王子様のようだった。キラキラと効果音がつきそうなその顔は、自分ではない他の誰かに見せてあげればいいのに、とティアナは思った。


自分でも少し『あの日、聖龍に好かれた少女は、第一王子の婚約者となりました』に展開が似ているかもと思っておりますが、

ルイスとティアナの方がもっと大人かな~~とも思っています。

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