26話 ジイさん
あのさんは、ピンポーンピンポーンと二回チャイムを鳴らす。
「ごめんください」
「はーい!ドア開いてるから、入っておいで」
明るい女性の声が玄関の扉越し聞こえてくる。いつものが終わった達音さんが扉をガラガラと開けて家の中への入っていく。
彼のあとに続いて、ゾロゾロと私たちは家の中に入った。
「おばさん、来たぞ」
「遠くからよく来たわね」
出迎えてくれたおばさんは、少しぽっちゃりして明るい印象の人だ。とても極道ものを好きな人にはみえなかった。
「明日歌ちゃん、あれから体調はどうなの?大丈夫?痩せたんじゃない?」
「おばさんは、相変わらずマシンガントークだね」
「そう?で、どうなの? 」
「達音たちのおかげで、これでもだいぶマシになったほうだよ」
「それなら良かったわ。ここにいる間にもう少し太りましょうね」
「ほどほどにしてよ。おばさんたちの料理は美味しいけど、まだお腹が壊しやすいんだからね」
「達音ちゃん、ご飯大変ね」
「本当に大変だ」
達音さんは大げさにため息をついた。
「……ちゃんも大きくなったわね。今何年生? 」
おばさんはあのさんに聞く。
「中学三年」
「あら、受験生じゃない。志望校はどこ? 」
「○○○高校です」
「進学校じゃない。きさきちゃんに似て頭いいのね」
「はい」
「おばさん、運転疲れたわ」
達音さんは、おばさんのマシンガントークで押されそうになるあのさんに助け船を出した。
「中で休みなさい。あら、後ろにいるのは達音ちゃんから聞いていた子たちね」
「あぁ」
「野崎彩香里です」
「鶴ケ谷生未渡です」
「「今回は私たちのわがままを聞いてくださりありがとうございます」」
これは施設の先生からお礼を言いなさいと教えられていたから。
「わがままじゃないわよ。ここはいつも人が多いから、何人増えても大丈夫。それにお手伝いしてくれるのは助かるわ」
おばさんはニコニコと応えてくれた。
「やえかさん、早くお客さんを上げなさい」
「あら、お父さん」
玄関のすぐの部屋から、きれいな白髪を生やし真っ直ぐ立ったおじいさんが現れた。
「さぁ上がんなさい」
「ジイさん、ありがとう。久しぶりですね」
「ワッハハ。達、お前はその年でシワが増えたな」
「ジイさんこそ、顔中にシワが前よりも増えてる」
「うるさいわ」
「三人とも安心してね。この二人は仲が良いからね」
「「「はーい」」」
玄関を上がって、広い座敷に通された。そこには大きな机と小さなコタツに使う机もあった。まだ全員揃ってないので、それまでにお話をしよう言うことになった。
「明日、調子はボチボチか? 」
「うん。これでもだいぶマシになったほうだよ」
「そうか、畑仕事したいか」
「会話にならない……」
落ち込みブツブツ言う明日歌さんに、達音さんがポンと肩に手を置いた。
「ワシのひ孫は三人もいたか? 」
「ジイさん、電話で言っただろう」
「そうじゃたそうじゃた。明日の横にいるのがワシのひ孫じゃな。大きくなったな! 」
「で、その後ろがお友達の」
「野崎彩香里です」
「鶴ケ谷生未渡です」
「そうかい、彩香里ちゃんに生未くんか」
「オジイさん、生未渡です」
「生未渡くん、許してやってくれ。このジイさんは、男限定で名前を二文字で成立できるなら省略するんだ」
「何で? 」
「本人は、なんとなくだそうだ」
「そうじゃ」
オジイさんは笑う。そういえば達音さんたちもそう言われていた。
「でもな、名前は大切にしないといけない」
「どうして? 」
「親からの最初の贈り物じゃ」
「綺麗事にすぎないよ」
生未渡くんはオジイさんに素で話す。オジイさんはじっと彼を見てニコリと笑う。
「確かに綺麗事じゃな。あなたは生未渡くんと言ったかな」
「うん」
「どんな字を書く? 」
ジイさんはやえかさんに紙とペンを持ってこさせ、生未渡に自分の名前を書かせた。
「うんうん。良い名じゃ。生未渡くんのご両親が一生懸命に考えてつけてくれたんだな」
「そんなことないよ」
「何で? 」
「だって俺を……」
「話は聞いているから、みなまで言わなくてもよい」
「うん」
「きみとは、生きるに未来に渡ると書く。これはワシが勝手に考えた由来じゃ。どんな未来でも生きてたくさんの経験をして次へと進んで行く子になればいいと言う願いがあるんじゃないかな。ワシが思うに渡るは次へと新しい場所に進むという意味がある気がしてな。どうじゃ、生未渡くんは前よりこの名前が好きなっただろ」
生未渡くんから声に出しての返事はなかった。なぜならポロポロと涙が溢れ出し、それを塞き止めるのに必死で声を出せなかったから。代わりにコクコクと頷いてた。
あとで達音さんから聞いた話だ。オジイさんはどんな子に対しても真正面から話を聞いてから、相手のホントに言ってほしい言葉を言って前向きにさせるのがうまいそうだ。
「母ちゃん帰ってきたで」
「はーい」
玄関で男の人の声がした。誰が帰って来たのだろうか。
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