20話 ウケウリ
生未渡の過去も明らかに?
あのさんのお父さんと会った翌日。
毎日の恒例になった学校に着くと既にいるあのさんと会うこと。でもこの日あのさんは学校を休んでいた。
「彼のお父さんが調子が悪いらしくて。側にいたいと連絡があったそうよ」
「えっ? 」
保健室の先生は、悲しそうな目をしていた。
「身体っていうより、心の体調が悪いみたいなの」
「そうなんですね……」
私は昨日自分が会って話したせいで、明日歌さんの心の体調が悪くなったのだと思った。あのさんが知ったら怒るだろうなとも思った。
「そういえば、彼の担任から彩香里ちゃんに頼まれてることがあったんだった」
「はい? 」
「彼から今日の放課後に家に来てほしいって。生未渡くんを連れて」
「……?そうなんですね」
「そうよ。なんだか伝言ゲームみたいになってるわね」
「そうですね」
「大丈夫よ。きっと彼は彩香里ちゃんに隠し事したくないんじゃないかな? 」
「うん」
その時の私は先生の言うとおりなら嬉しいなと思っていた。でも、何か嫌な予感がした。
あっという間に放課後になった。私は生未渡を連れてあのさんの家に向かった。ピンポンを鳴らし、ドアをノックする。
「あのさん、彩香里です」
ドアの向こうから聞こえたのはあのさんの声でなく、達音さんの声だった。
「彩香里さん、今開けますね」
ドアの鍵を解錠それ、家の中へと迎えられた。達音さんの顔は昨日と違ってとても疲れていた。彼は私の後ろにいる生未渡に気が付いて挨拶をした。
「どうもこんにちは、君があの子のお友達ですね」
「はい。初めまして、鶴ケ谷生未渡です」
「なんて呼んだらいいですか? 」
「生未渡でいいです」
「分かりました。生未渡くん、僕のことは達音さんって呼んでください」
「分かりました」
達音さんは咳払いをしてから、今日呼んだ理由やこの場にあのさんがいないことを教えてくれた。
「今日、二人を呼んだ理由は簡単です」
「達音さん、普段の話し方で大丈夫ですよ」
達音さんは、私に会釈をして話に戻った。
「一言でいえば、あいつの父親明日歌のわがままだ」
「わがままですか? 」
「今日は、まだマシだな」
「そうなんですか? 」
「あぁ、酷いときは暴れるから気絶さすのが大変だ。暴れるといっても殴るじゃなくて物を投げたり、壊したりだから後片付けが面倒くさい。明日歌は一度眠れば、落ち着くおこちゃまだからな」
「酷い言われようですね」
「それだけ苦労かけられてるんだ。幼馴染といえ義理の弟でもな。正直、面倒臭い。あの子がいる以上ほっておくことも出来んからな」
達音さんは心の底からの想いのたけをぶちまけた。
「本題に戻ると、今日は明日歌からあの子が離れるのを泣いて嫌がるまるでおこちゃまのようにな」
私と生未渡くんの心の中で、おこちゃまのようになをさっきも聞いた気がするとツッコミを入れていた。
「あの子に悪いが、今日は出来るだけ離れないように言ってある。トイレと風呂以外は明日歌の部屋から出ることを禁じている。できる限りの家事は僕がやることを条件にな。だから今あの子は、父親の添い寝をしている」
「それでしたら、私たちが来た意味は? 」
「大丈夫、叩き起す」
「それって、大丈夫? 」
ここまで沈黙をしていた生未渡くんが声を出した。
「まぁ、なんとかなるだろうな」
達音さんは、少し他人事のように言った。
「さっき二人を呼んだのは、明日歌のわがままって言ったけど。本人曰く、時々これは絶対に何が何でもしろと誰かに命令されているらしい。それをしないと気持ち悪くてたまらないそうだ。たぶん、きさきが彩香里ちゃんから生未渡くんの話があった次の日に君に会ったから自分もって思ったんだろうな」
「なるほど」
「まぁ、きさきの葬式とかに来てくたから一応は会ってんだけどな。明日歌自身それどころじゃなかった。まだ、自分の中で整理がつかないんだろうな。アイツはアイツでボロボロになってるのに、嫁が病気であっけなくこの世を去ったから」
達音さんは下を向いて、前髪で目を隠す。自分の表情を見られなくないのか、それでも声は悲しみと辛さ、悔しさをはらんでいた。
「二人ともそろそろ行くか」
「はい。達音さんは今日もこのあと仕事ですか? 」
「今日は流石にあの子を置いていけないから、臨時休業にした。ホームページにも載せてるから大丈夫、あんまりこの曜日は来ないんだ」
達音さんはからっと笑った。
「分かりました」
私と生未渡くんは、達音さんについて明日歌さんの部屋に行く。
「ちょっと、様子見るからちょっと待ってろ」
「「はい」」
達音さんは明日歌さんの部屋にノックをせずに入っていった。少し声が聞こえ、カシャッというシャッター音が鳴り響く。少ししてから彼が戻ってきたが、なぜかニコリとしている。
「あぁ、いいもん見れた」
達音さんはそうつぶやくと、スマホに映る写真を見せてくれた。
「親子の寝てる姿というより、あの子完全に抱き枕にせれてるからな」
達音さんが言う通りあのさんは明日歌さんに抱き枕として扱われていた。あのさんは嫌な表情をしていても、なんだか嬉しそうにも思える。
「ちなみにこれが、明日歌の本当のは抱き枕なんだよ」
もう一枚の写真は明日歌さんの羊の抱き枕だった。
「かわいいですね」
「これはきさきがプレゼントしたんだ。アイツが夜の仕事を始めてから一緒に寝れないって明日歌がグスッてな。アイツはおこちゃまだからな」
「誰かにもらった物は大切にするね」
「生未渡くん、そうだな」
「達音さん、すみません」
「ん? 」
「私たちは……」
「あぁ、一瞬また部屋に入って呼ぶから待ってろ」
「「はい」」
達音さんはもう一度部屋に入った。そして部屋の外までま聞こえる声で二人を起こしていた。
「二人とも起きろ!明日歌!お前のわがままで彩香里さんたちが来てくれてんだろうが!! 」
あのさんと明日歌さんの声はうっすらと聞こえていた。
「達音、お願いだから拳骨はやめて」
と明日歌さんの叫びも聞こえてくる。
「大丈夫だ、お前の息子にはしないから。僕は子供には優しいから」
「俺にも優しくしてよ。一応、病人だよ? 」
「限界」
「達音は俺に対して、辛辣過ぎない? 」
「知るか」
「きさきに似てるね」
「そりゃあ、双子だからな」
二人の喧嘩の声が聞こえていると、あのさんが部屋のドアを開けた。
「彩香里、鶴ケ谷来てくれてありがとうな」
「大丈夫です」
「俺は早めに帰らないと。小さな子たちの世話があるから」
「分かった。すぐに終わらせるから」
「うん」
私たちはあのさんに部屋に招かれた。
「彩香里ちゃん!来てくれたんだ、ありがとう」
「……はい」
「明日歌のテンションとさっきの僕たちの言い合いとで、彩香里さんが引いているぞ」
「ごめんね」
明日歌さんは優しい表情で謝ってくれた。彼はやはり痩せていて、目には隈ができている。
かなり心の苦しみが強く、それが身体にも襲っているのだろう。
「大丈夫ですよ」
「うん、良かった。ごめんね、今日はベッドに横になってのお喋りになるけど……」
「大丈夫です。無理をしないようにしたほうがいいと思うので」
「ありがとう。それで彼がうちの子のお友達かな? 」
「はい、俺は鶴ケ谷生未渡です。以上」
「生未渡くん、以上って…… 」
「プッ、生未渡くんは面白いね。あっ、悪い意味じゃないからね」
「仲が悪く見えて、良いってタイプの友達ってことだな」
「何で、考察されるの? 」
「ごめんね」
また、明日歌さんは優しい表情で謝った。
「気にしてないです」
「この子にはピッタリな友達に思えて嬉しいんだ」
達音さんは、あのさんが自分の息子のように語る。あのさんにとっても彼がおじではなくて、もう一人の父で兄の感じがすると前に教えてくれた。
「あのさん? 」
あのさんは一人だけ後ろを向いていた。
「大丈夫だ」
「彩香里ちゃん、大丈夫だよ。うちの子は照れが出てその顔を見られるのが嫌なんだよ」
「明日歌、そんなこと言ったらあの子が余計に振り向けないだろ」
「ねぇ、彩香里ちゃん」
生未渡くんが小さい声でコソコソと話す。私もそれ合わせて話した。
「どうしたの? 」
「これアイツのことをからかってるよ」
「心配じゃなくて? 」
「うん、二人の顔を見て。微かに口角が上がって笑ってるよ」
「本当だ」
「お前ら聞こえてるぞ! 」
気持ちが落ち着けて振り返り、私たちを睨みつける。
「ごめんね、達音以外は悪気がないから」
「明日歌、もう一発喰らいたいんだな? 」
「絶対に、うちの子は達音に似てるよ」
「ハァ? 」
「口が悪いところ?少し手が出るところ?きさきも悪いけど、元をたどれば達音に行き着くから、ね?」
「ね?、じゃねぇからな。お前は俺を悪者にしたいのか? 」
「うん」
「曇りなき瞳で返事をするな」
達音さんは「これだからおこちゃまは」と、呆れてため息をついた。
「俺、帰っていい? 」
生未渡くんの一言で、場は静かになった。なぜならその声は冷たく重かった。
「俺、ごめんって言葉嫌い」
生未渡はまた一言をこぼすと、明日歌さんの部屋から出ていった。
「生未渡くん!待って」
「彩香里、追いかけろ。俺たちは大丈夫だから」
迷っていた私をあのさんが背中を押してくれた。
「失礼します」
私はそう言うとすぐに生未渡くんのあとを追いかけた。生未渡くんはアパートの階段を駆け降りて、走っていた。
「生未渡くん! 」
彼は私の声が聞こえてないのか、そのまま止まらずに走る。でも生未渡は全速力で走っていなかった。
「待って!!あっ!? 」
私はアパートの階段を降りて、そこから少し離れたところで生未渡くんを追いかけていると道端の小石に足が取られ転んだ。私の両膝から血が流れる。
「痛っ」
よく見ると両手からも擦り傷になっていた。たぶん転ぶ直前に手をついたのかもしれない。私が道端で座り込んでいると、よく知ってる足音がだんだんとこちらに向かってきた。
「生未渡くん! 」
「…… 」
生未渡くんは自分のせいで私が怪我したと思い、バツが悪そうな顔をしていた。意識的に視線を合わせないようにしているのに、その手には濡れタオルがあった。
「生未渡くんせいじゃないよ。私が勝手につまづいて転んで怪我したの」
「うん、でもごめんね」
「うん、大丈夫だよ」
「危ないから、ちょっと道の端に避けよう」
「うん」
生未渡くんに肩を借りて道の端に移動して、濡れタオルで傷口を洗う。
「痛っ……」
「彩香里ちゃん、我慢してね」
「うん」
生未渡くんに応急処置をしてもらってると、よく知った声の人が声をかけてくれた。
「彩香里さんと生未渡くん? 」
「あっ、達音さん」
「私がそこで転んで怪我してしまって」
「よし、明日歌の家に行くぞ」
「えっ? 」
「あそこなら、手当ての道具山程あるから。それにすぐそこだ」
「でも……」
「彩香里ちゃん、言葉に甘えよう?このままだったら、施設に帰れないよ。少し歩くから」
「うん」
「施設? 」
「うん、俺たちは施設で暮らしてるから」
「そこって、もしかして公園のすぐ隣のか? 」
「そうだよ。達音さん知ってるんだ」
「まぁな」
達音さんは考えていた気がした。何か思い当たることがあったのだろう。
「生未渡くん、彩香里さんの荷物持ってやれ」
「えっ? 」
「僕が彩香里さんをおんぶするから」
「分かった。でもちょっと待って」
生未渡くんはそう言うと、カバンから大きめのハンカチを二つとティッシュを出す。ハンカチにティッシュを挟んで、私の両膝に結ぶ。
「これで、応急処置が完成した」
「ありがとう」
「うん」
「彩香里さん、僕の背中に乗りな」
「はい、失礼します」
「立つぞ。手、痛いかもしれないがしっかり捕まれ」
「はい」
「ヨイッショ」
達音さんは軽々と私をおんぶして立ち上がる。
「日頃から趣味でジムに行ってるから。大丈夫だからな」
「はい」
私たちは来た道を戻って、あのさんのアパートに行った。
「おい、開けろ。達音だ」
扉の向こうであのさんの声と鍵を開けるガシャガシャと音が鳴った。
「達音さん、忘れも……」
あのさんはそこまで言うと、私が達音さんにおんぶされているのに気がついた。
「彩香里?! 」
「僕が買い出しに行こうとしたら、すぐそこの道端で二人にあったんだ」
達音さんはそこまで言うと、生未渡くんに私の靴を脱がさせソファーに座らせてくれた。
「話はあとだ。救急箱取ってこい」
「うん」
あのさんは達音さんの指示で素早く救急箱を取った。達音さんは手慣れた手付きで私の怪我の手当てをしてくれた。
「よし、これで大丈夫」
「ありがとうございます」
「礼はいらない」
「ねぇ、電話借りたいんだけどいい?遅くなったことを言わないと心配するから」
「そうだな。僕が電話するよ」
「ありがとうございます」
生未渡くんは、達音さんから何かを感じたのか急に丁寧な言い方をし始じめた。
「ちょっと、きさきの部屋でしてくるから、そこで待ってろ」
「はい」
達音さんが戻ってくる間に、生未渡くんは自分の話をした。
「俺ね、施設に住む前まで父親から殴られてたんだ。痛くて泣くと、ソイツがごめんねて謝って手当てしてくれるだ。それの繰り返しをしてた。父子家庭だったから、施設の人が来てもソイツ手放さくて。ひたすら殴ってごめんねって謝る。死にそうになったときに、施設の人と警察が来てなんとかなった。だから、同じようなことをした男の人のごめんが嫌なんだ」
「鶴ケ谷、話してくれてありがとうな」
「えっ? 」
「俺の親父のせいで、心の傷を思い出させたよな。辛かったよな」
「なんだよ、それ……」
「鶴ケ谷、泣いてんのか? 」
「ないで……る」
「泣いてるのか、ほらこれきれいから」
あのさんはティッシュを生未渡くんに渡す。いつもなら手を払う生未渡くんは素直にティッシュを受け取る。少ししてから、扉の開く音がした。
「おい、これどういう状態だ? 」
電話を終えた達音さんが、泣いている生未渡につられて私とあのさんを泣いていたから、軽く引いていた。
「彩香里さんと生未渡くん、施設に電話したからな。そうしたら真柴のオジサンって人が迎えにくるって言えば分かると言ってた」
「はい、真柴のオジサンは施設の子たちが何かあったらワンコインで来てくれるタクシーです」
「すごいな」
「すごく助かります」
ガッチャと少し離れたところから明日歌さん部屋のドアが開く音がした。
「明日歌、起きたかも」
「そうだな」
「僕、ちょっと見てくるからな」
「うん」
達音さんはリビングを出て廊下で明日歌さんに会ったのだろう。二人の声が漏れ聞こえていた。少ししてから、達音さんに支えられるように明日歌さんはリビングにやってきた。
「なんだか、またにぎやかになったと思ってね。見に来たんだ」
明日歌さんはそう言ってから、自分専用の一人がけのソファーに座る。
「彩香里ちゃん、怪我したんだって。大丈夫? 」
「はい、大丈夫です」
「そりゃあ、良かったね。生未渡くん」
「う、うん」
明日歌さんは私の怪我をした原因を達音さんから聞いたのか、それとも生未渡くんを見て気づいたのか彼に声をかける。
「誰だって怪我をさせてしまうことだってあるよ。大人の俺や達音のでも見える部分と見えない部分に怪我をさせたときもあるからね。あとから自分がしたことを必要以上責めるんじゃ、相手も自分も疲れる。そういう時は相手がもういいって言ってくれるだったら、おしまい」
「おしまい? 」
「そう。お互いにそのこと納得したうえでね。何も無かったことにするんじゃない。もうお互いが傷つかないためにっておしまいってね」
「明日歌が言ってるのは全部きさきのウケウリだ」
「そうだよ。きさきが僕にとっての神みたいな存在なんだ。彼女がいなかったら、俺はいないしこの子は生まれてなかったよ」
「まぁ、僕たちの出会いは壮絶なものだったからな」
「そうなのか? 」
「うん、でも今日はここまでね」
「そのほうがいいな。迎えに来たって、クラクションが鳴ってるから」
「本当だ」
「あのさん、皆さん今日はありがとうございます」
私はお辞儀をして、生未渡くんと見送りをしてくれる達音さんとともに再びあのさんの家を出た。
「真柴さん、遅くまですみません」
「大丈夫ですよ。この子たちにとってもいい時間を過ごせたのならと、施設の方も言っておりますから」
私と生未渡くんは先に車の中に乗せられ、外で真柴のオジサンと達音さんが何やら話していた。
「タクシーと聞いていましたが、自家用車なんですね。タクシーと同じタイプの車で……」
「はい。これは仕事と関係なく、趣味のようなボランティアのようなものです。子供たちに、偽であろうとタクシーに乗りお金を払うことの経験を目的にはしています。私たちは、そう機会がなかなかないので」
「とてもいいことだと思います」
「はい、ではそろそろ」
「はい、お気を付けて」
真柴のオジサンは車に乗り込み、エンジンをかける。それを合図に私たちは窓を全開にして、達音さんにさよならを言う。
「また、来てくれ」
「「はい! 」」
手を振り合い、真柴のタクシーに乗せられ私たちはその場を走り去った。
「彩香里さん、怪我は大丈夫ですか? 」
「大丈夫」
「彩香里ちゃん、お腹空いたね」
「そうだね。晩ごはんなんだろう? 」
「カレーかな」
「うどんかな」
私たちは施設に着くまでに、晩ごはんは何かと言い合っていた。答えはカレーだった。
明日歌はきさきのことが大好きです。達音は一生明日歌に振り回されると思います。
よろしくお願いします。




