9話 追いつかない心
私は早退した日から体調がよくなっても、学校に行けなくなった。
「彩香里ちゃん、無理に学校に行こうとしなくて大丈夫よ」
「そうだよ。顔色が悪いよ」
「大丈夫だから」
私は朝ごはんをみんなで食べて、制服に着替えて玄関に向かった。
そこまではいつも出来るのに、靴を履こうとすると気持ち悪くなった。
生未渡くんの手を借りて立ち上がろうとしても、力が入らなかった。
「何で、学校に行こうとしてるのに、身体が言うことを聞いてくれない。何で? 」
「彩香里ちゃん、きれいなハンカチだから使って」
生未渡くんからハンカチを貸してもらって、ポロポロと流れる涙を拭う。
「彩香里ちゃん、心が追いついて無いんだね。学校に行きたいけど、何か行く目的がポッカリと空いてるの。今無理をしたらいけないよって、身体が教えてくれてるんだよ」
「彩香里ちゃん、先生の言う通りだよ。心が追いつくまでに、学校はお休み!その代わりに先生のお手伝いをしてくれると嬉しいな! 」
二人は私の良き理解者だ。行きたくても行けない私を赦してくれる。
少しの期間でも、あのさんがいないのが辛くて堪らなかった。
先生の言う通りで、あのさんに会うという目的が無くなってポカリと空いてる。
人はどこかに行きたくても気持ちがのらないことが多い。そんな時は何かを目的として行こうとする。
それが無くなったらまた元通りになることも多い。
自分が何でこんなに駄目な人間なのかを考えて追い詰めて、ボロボロになっていく。
誰かに救って貰わないと人間は生きていけなくて、誰かに認めてもらったり、赦してもらったりしないと心が粉々になっていく。
「彩香里ちゃん、明後日の日曜日は俺とお出かけするからね。もうちょっとだよ! 」
「うん」
「俺も学校、休みたいよ!でも受験生だから、それが出来ない。辛いよ」
「生未渡くん、頑張ってね。あのさんと同じ頭の良いところに行くんだから」
「彩香里ちゃん、ありがとう。頑張るよ」
生未渡くんは嬉しいそうに笑う。そして、私の横にいる先生をジーと見る。
「……先生」
「ん? 」
「俺にも、彩香里ちゃんに言ったみたいにありがたいお言葉はないの? 」
「ほら、そろそろ学校に行かないと遅刻するよ」
「えっ?ちょっと待って。マジでないの?あっ、ホントに行かなきゃ、遅刻だ! 」
「彩香里ちゃん、先生と一緒に生未渡くんのお見送りをしようか? 」
「うん」
「彩香里ちゃん!行ってきます!あっ、先生も! 」
「行ってしらっしゃい! 」
「私はおまけなの?気をつけてね! 」
生未渡くんは、笑顔で玄関を出て行った。これを私は毎日繰り返している。
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