9 ゴブリン討伐後
街に帰ってきてすぐに俺は冒険者ギルドに向かった。森には約五〇体以上のゴブリンがいたのだ。討伐依頼があるかもしれない。
もちろん森で何があったかなんて考えたくないし考えると気分が落ちるが他の人に危険があると思ったらここに来ていた。
それに、他にも理由はある。
もしあったら明日受けて今日倒したものを横流ししちゃおうという考えだ。黒い端末の前では時間の経過など些細なもの。
なんたってアイテム袋は収納した状態で情報化して保存しているため劣化しないのだ。どの程度劣化しないのかは検証の余地があるが、一日二日程度どうとでもなると思う。
「えー、とゴブリンっ…の討伐依頼は…」
討伐依頼が張り出されている提示版はランクごとに分かれている。今の俺はFランクなのでEランククエストまでしか受けることができない。F、Eと見たがあの森でのゴブリン討伐依頼はなかった。
「Dランクも一応見てみるかな」
結果はなかった。いや、正確にはあるのだが、場所が全然違う。もしかしたらまだ被害が出ていないのかもしれない。流石に場所がまったく違う場所の依頼を横流しで完了するわけにはいかない。実害が出るのだから。
アイテム袋の容量は知らないけれど、まだまだ入ると思う。アイテム袋の入り口は俺の意志で大きさを変えることができ、容量も多い。最悪ずっと入れておけば良い。そして今後ゴブリンを受けた時に少しずつ流してしまえば済む話である。
宿屋に戻るためギルドを出ると彩乃を見かけた。彼女はどうやら商業ギルドに用があるようだ。声を掛けようか迷ったが、やめておいた。
決して、人前で少女に声を掛ける勇気がなかったわけではない。勘違いしないで欲しい。いや、本当だから!
ギルドを出るとそのまま宿屋に戻り借りている部屋で休憩する。夕食までもう少し時間があるので黒い端末を弄ぶ。
「ポイント増えたね~。何か買おうかな」
今日だけでゴブリン六四体、ウルフ四体を倒している。現在総計一万三三五〇Pある。この世界に来たときは確か五〇〇〇Pだったので十分増えたと言っていい。
「そういえば、今日の戦いで細剣の突きが良くなかったんだよね」
もちろん、俺に技術がないからかもしれないが、振り下ろした時と感覚が全然違った。
高周波を纏った細剣を振り下ろしたときは切った感覚すらなかった。だが、突きをしたときは刺した感覚があった。それが俺の気分を悪くした原因でもある。
「そうだ。じゃ、突き専用のスキルを買おう」
刺した感覚が無くなれば俺の気分は晴れやかなままなはずだ。
俺はメモに細剣の突き専用スキル(内容はおまかせ)と書いて提出する。提示されたスキルの詳細を見てみる。
『<万物貫通> 万物を貫通する。剣専用スキル』
これで詳細とは片腹痛いがわかった。とてもシンプルで強い。強力なスキルだ。これを買うことに決めた。
決済画面に移行し七〇〇〇P支払う。なかなか高いがそれだけ強いということだろう。万物を貫くのならむしろ安いくらいだ。
新たにスキルを買った俺は夕食のために一回の食堂に向かう。空いてる席に座ると店員のランさんが注文を取りに来る。彼女はこの宿屋の娘さんだ。
「何にしますか?」
まだ来たばかりだ。それにメニューすら見ていない。そもそもここで注文を取るのは初めてなのでどんなものがあるのかも何も知らない。
「えっと…あの人が食べているのと同じもので」
そう言って隣の席を指す。彼が食べている物がなにか知らないがもう何でもいい気がしてきた。
「キノコグラタンですね。他にはありますか」
「他はいいよ。あっ、水貰える?」
「わかりました」
軽くお辞儀をして去っていく。だんだん人が入ってきて、ランさんも忙しそうにしている。俺に注文を取りに来たときは暇だったから早かったのだろう。それにしても早すぎる気がするが…。
「レイ、もう来てたんだ」
「さっき来たばかりだよ。今注文が終わったとこ」
人間観察していると彩乃が顔を出した。話しかけられると少しドキッとするのはまだ彼女に慣れていないからだろう。
彩乃もキノコグラタンを注文し、話しながら料理がくるのを待つ。
「そうだ、午前中に買った指輪を魔術具に出来たよ。午後にギルドにいって魔法について教わってたんだ。それでね、<氷の盾>を出す魔術具にしてみたの」
「すごいね。ありがとう。大切にするよ。午後はずっとギルドにいたの?」
「んーとね。レイと別れた後はギルドに行って魔法について話を聞いてたけどその後はこの前行った丘で指輪を作ってたよ。あんまり見られたくないからね。それでね、商業ギルドに行ってお金を卸してからここに来たの」
そういえば、彩乃は指輪代で現金がなくなったのだ。お金がなければご飯は食べられない。
「そういえばレイは午後はどうしてたの?もう着替えたみたいだけど」
「森に行ったよ、地図を埋めるのとスキルを使いこなせるように……魔物には実験台になってもらってた」
「すごいね、私なんかまだちょっと怖くてスキルも魔術具を作るのしか持ってないよ」
彼女の気持ちはわかる。いや、わかりすぎる。俺も戦っている最中ならまだしも終わった後に自分が殺した死体が転がっているのをみるのは吐き気を起こす。
直視することなく巨大なアイテム袋の光の渦をだして一気に収納していたくらいだ。だからアイテム袋の性能が高いこともわかった。
俺は自分が痛いのも痛がっている人を見るのも嫌いだ。だから今まで即死できるように脳を狙って銃を撃っていた。大脳辺縁系の自律神経が壊されれば生物は生きていけないはずだから。
「女の子を危険な場所に行かせるのは感心しないな。あまり戦場には出て欲しくない」
「レイの気持ちは嬉しいけど、レイ一人を危険に曝す方が私は嫌だよ」
嬉しいことを言ってくれる。でも本当に彼女を戦わせるのには抵抗がある。ウルフに襲われてたときの光景がどうしても頭から離れないし、彩乃が屍の上で笑うのも泣くのも見たくない。
「こっちの方がトラウマになってどうするよ」
誰にも聞こえない声で呟くとため息を吐いた。
せめて彼女の前だけでもカッコつけたい。少なくとも、惨めなことだけは見せないようにしなければならないだろう。
<万物貫通>は貫けますがそれ以外は何にも応用の効かないスキルです。