6 ユーグラムの街
俺たちが今いる街は、ユーグラムという街らしい。この街には、大きな港があり海鮮物が有名だという。この地を治めているのはジルベスター・ジュリエッタという貴族だ。
ご領主様は、街の経済支援に力を入れていて外国から来た商品を他領に回す中継地としてこの街を発展させてきたとか。大きい道はきれいに整備され旅商人が多く立ち寄っているという。治安も悪そうには見えず、市場も活気づいていた。
俺たちは今、そんな町のはずれにある丘に来ている。高台から街の全体を見れば行きたい場所も見つかるかもしれない。
「きれいだわ。ねえ、レイ」
「そうだね」
こうしてみるとほどほどに木々もあり、あまり住宅が密集している感じはしない。広大な土地だからというのもあるだろうが先に述べたように商業で発展してきた土地なのだろう。元々あまり人がいないという印象を受ける。
「ねえ、レイ。お金が貯まったらさ、ここに土地を買いましょう。それでお家を建てるの。……一緒に住んでくれますか?」
こんな可愛い子にそんなことを言われると颯爽に勘違いをしてしまうからやめて欲しい。既に彼女のことが好きになりそうだ。いや、多分なっている。
「当たり前でしょう。ずっと一緒に居ようね」
あっ、遂にやってしまったー。
柄にもないことを言ってしまった。これが異世界転移の力か。だいぶ浮かれてるな。気を付けなければ。
「お金を貯めないとね」
どこまで本気なのかわからないが、ずっと宿に泊まるわけにも行かない。俺も自分の部屋が欲しいことだし家を建てるというのは存外良いかもしれない。ただ、同年代の女の子と同じ家で二人というのはいただけないな。何かと世間体が良くない。
今日はもう宿屋に戻り、休むことに決めた。寝るときの着替えがなかったことを思い出しどうするか迷っていると黒い端末を見ていた彩乃が思いがけないことを言った。
「あっ、新しい補助が追加されてるよ」
「うそっ!……着替え?寝るときの服をどうしようか迷っていたけどこれを使えば大丈夫…ってこと?」
「そうじゃない?取り敢えず、使ってみましょう」
そう言って黒い端末を操作すると足元に白黒の光の渦が描かれる。それはだんだん上がっていき彼女の衣装が一瞬にして変わった。
「これまた、便利なスキルが実装されたね」
「どう、似合う?」
「似合ってるよ。とても可愛い」
「あ、ありがとう」
正直に、すごくいいと思う。俺じゃなかったら速攻で告白して振られている。それどころか気持ち悪がられてもう会ってくれないまである。いや、可愛いとか言ってる時点でもう俺はダメかもしれないけれど。
そうなったらどうしよう。俺は何も知らない異世界で一人なんて絶対イヤだ。
多分そうなったら自害してもおかしくない。家族もいなく、街の外にでれば魔物がいる世界なんて無理だ。
「さっきからどうしたの?体調悪い?」
彩乃の様子が変だ。今日は突拍子もないことが多かったからそのせいかもしれない。
「なんでもないよ。さてと、俺も着替えてみようかな」
タンタンタン、と黒い端末をタップして補助スキル着替えを起動すると足元に白黒の光の渦が描かれる。だんだん上がってくる光の渦を見ながら浮かれている気持ちを落ち着けていつもの俺に戻ることを決意しているとあっという間に着替えは完了した。
「レイ……レイも、似合ってるよ」
「ん?」
「レイも似合ってるって言ったの!何度も言わせないで」
彩乃は恥ずかしいのか頬を赤くし俯いてしまう。まだ、服の話をしていたらしい。そういえば、俺が勝手に先に進んでいただけだった。でもどうしたものか。この子、性格まで可愛いな。
それはともかくとして、衣装の問題もなくなったのでもう一度街に戻り、歯ブラシやタオルなどの日用品を市場で購入してから宿屋に戻った。
彩乃と別れ自分の部屋に入ると黒い端末を操作し<着替え>で着替えを済ませる。
布団の中で明日は何処に行こうか考えているとうとうととしてきた。そういえば、今日はたくさん歩いている。疲れが溜まっていたのかもしれない。
翌朝、いつもよりもすっきりと目が覚めた。筋肉痛になるかもしれないと覚悟をしていたが特にそんなこともなく異世界生活二日目が始まる。
階段を降り一階の食堂に向かうとすでに彩乃がいた。俺は彩乃が座っている席に向かった。
「あっ、レイ。おはよう。レイの分の朝ご飯も作ってもらったから食べて」
「おはよう。それからありがとう」
「このお魚すごく美味しかったよ。なんて魚なのかな?」
彼女が言っているのは、白身魚のムニエルのことだろう。人参やアスパラガスなどと一緒に盛り付けされている。他にはパンや肉があった。
「レイ、今日はどこ行く?今日も街も回る?」
「一応、一着ぐらいは服を買っておこうかと思ってるよ。あとはアイテム袋についてちょっと調べたいと思ってる」
「アイテム袋?」
アイテム袋は一応<補助>というスキル扱いされている。だから、今の段階でどのくらいの量、どのくらいの大きさまでが入るのかを調べたいと思っている。
その旨を伝えると午前中は一緒に街を回り、午後は別行動することを提案された。彼女もやりたいことがあるのだろう。
「それじゃ午前中は昨日行かなかった港の方に行ってみる?」
「いいわね。私、これでも都会育ちで海ってあまり行ったこともないんだよね」
「昨日丘で見たときはすごくきれいだったからね。夏にBBQとかできたら楽しいかも」
他愛のない話をしながら朝食を食べると一度商業ギルドでお金をおろしてから港に向かって出発する。
冒険者ギルドには、冒険者らしき人がたくさんいた。これから依頼を受けに行くのだろう。自分も冒険者の一人だというのに港に買い物に向かうという背徳感と罪悪感がある。比率としては九対一ぐらいだ。圧倒的背徳感だった。
これもひとえに隣にいる女の子の存在がそうさせているのだろう。本当はもっと違う理由があるんだけど。
港に着くと主に魚を売っている市場が目についた。魚市場独特の臭いが鼻に着くが魚自体は新鮮で美味しいのだろう。
「なにか買う?アイテム袋に入れれば腐ることもないし」
確かにアイテム袋に入れれば腐ることなくずっと入れておいても問題ない。
「でも調理できなんだよね。魚を捌いたこともないから買うにしてももう捌かれているやつがいいかな」
「そっか…確かにそうね。私も魚は捌いたことないわ」
「それとね。俺、魚って苦手なんだよね」
衝撃的な告白だっただろうか?彩乃の表情は少し困った感じになっている。
「も、もしかして朝のやつ、無理してた?」
朝のやつ。彩乃が美味しいと勧めてくれた白身魚のムニエルだ。
「ああいや、誤解しないで。ちゃんと美味しくいただける人だから。見た目が無理ってだけなの。ほら、あいつら気持ち悪いじゃん!?」
指をビシッと立てて主張する。
「あっ、うん。そうかも」
絶対反応に困っている彩乃には少しごめんって感じだけど食べ物の見た目は大切だ。
そういう理由もあったので、せっかく港に来たが、魚は買わなかった。俺たちは一通り市場を回り、その後目的の服屋に入る。
やはり俺は魚が無理らしい。どうして人間は生き物を食べるのだろう?あれらが美味しそうには見えない。
実際は美味しいのだけれど。
「わたしも何か買おっかなー」
店の中には男性用も女性用もある。
「服一式買うならもう少し現金を持ってくればよかったね」
手持ちの現金だけでは心もとないようにも感じる。服はそれなりに高価だから。