4 二人の転移者
「彩乃はどのくらい前にこの世界に来たの?」
「多分三〇分くらい前だと思う。しばらくここら辺を彷徨ってたけど向こうに道が見えたから行こうとしたら狼に襲われて」
三〇分ならば、黒い端末のことを知らなくてもしょうがないか。今回襲われたのは運が悪かっただけだ。運が悪かったので死んだ、というのは納得できないが生き残ったので不運だったで済ます。
「俺もその道に行こうとしてここに来たんだよ。どこでもいいから人がたくさんいる場所に行きたくてね」
「それなら一緒に行く?」
俺が承諾すると彼女も立ち上がる。ふと気になったことを聞いてみる。
「その服はもともと彩乃が着ていたもの?」
「え?」
「いや、俺はこの世界に来た時にはこんな格好になってたからさ」
俺の今の衣装は全身真っ黒の服だ。ゲームなどで見かけるようなコスプレ衣装だ。それに引き換え彩乃は白を基調とした服を着ている。アイテム袋の光の渦も白黒だったしどうなっているのだろう。
色の話はなんだって構わないが、彩乃の服はあれだな。いいな。彼女自信も可愛いと素直に思う。口に出したりはしないが学校にいても多分声も掛けられない感じの人だ。もちろんそれは嘘だけど。
「そういえば…。こんな服持っていなかったはずなんだけど」
「だと思ったよ。ところで、彩乃は何歳?見た感じ俺と同じぐらいだけど」
「一七。……高校、二年生」
「俺と同じだね。今後ともよろしく」
彼女は同じ転移者だ。この世界で一人は心細いので今後とも友好的な関係を気付きたい。せめて家に帰れる間でも一緒に入れられれば嬉しい。
「ありがとう。レイはいつからここにいるの?」
「んー、だいたい一時半ぐらい前かな?黒い端末について調べたり森を彷徨ったりして今に至るよ」
「もし良かったら私に黒の端末について教えてくれない?」
横に並んで歩いている彩乃が少し前かがみになって上目遣いで頼んでくる。そんな可愛い仕草をされたら断る男子はいないだろう。そうでなくとも彩乃には教えておこうと思っていたので街までの道のりで俺が知っている限りのことをできるだけ詳しく教えることにした。
その後も世間話程度の他愛無い会話を交わしながら街に向かって歩いていた。
しばらくすると街が見えてきた。これまたアニメなのでよく見る感じのファンタジー世界の街だ。大きな壁で囲まれている。思うのだが、これ作るの大変だろうな。やるじゃん。だれ。
門には門番がいてこちらを見ていた。怖い。
「お前たちどうして徒歩できた?馬車はどうした」
とのことだ。残念ながら馬車などない。そもそもそんなものがあったら苦労はない。
「さっきまでは近隣の森にいてね。それで、入ってもいいかな」
「…冒険者か?見ない顔だな。それにその格好も。一般入領だと一〇〇〇ドル払ってもらうことになるがお前たちは冒険者なのか?ならギルドカードを出してくれ」
俺たちは黒い端末でギルドカードを出すことができる。現金がなかったので助かった。
「彩乃、黒い端末使える?さっき言ったみたいにギルドカードになっている部分を二回タップすれば普通のギルドカードとして使えるようになるよ」
「わかった。やってみるわね」
門番の人には、ギルドカードが黒いことに驚かれ怪しまれたがそれほど問題なく街の中に入ることができた。
普通ギルドカードは白いらしい。そんなこと知らないしどうしようもないので適当にスルーしておく。
「さっきの門番の人に宿の場所を教えてもらえばよかったね」
「確かにそうね。でもさ、お金はどうしたらいいのかな?一応ギルドカードがクレカとか電子マネーみたいな役割をしているみたいだけどどのお店で使えるかわからないよね。」
これも世界の管理者が用意してくれたものなのだろう。ギルドカードには残高という欄があり一〇万ドルと書かれている。
円マークなのだが、ドル読みらしい。不思議だ。この世界の物価もなにも知らないので慎重に使わなければならないだろう。どこに落とし穴があるかわからない。
「見て、あそこ。人がそこそこいるわ。あそこで聞いてみましょう」
「それがいいね。休憩を含めて情報収集かな」
ギルドにやってきた。冒険者ギルドと商業ギルドが大きな一つの建物に併設されており、人口密度が高い。今の時間は商業ギルドに来ている人が多いのだろう。周りは冒険者というより商人という風格の人ばかりだ。と思ってはみるが、俺には商人と冒険者を見分けることはできない。会ったことがないから。
俺たちは周りをキョロキョロしながらも互いに見失わないように注意しながら空いていると思われる冒険者ギルドがある方へと向かう。ギルドの中に入れば、案の定、人は少なく受付にいるギルド職員もつまらなそうにしていた。
「あんまり人がいないわね」
「冒険者は朝が早いかお寝坊さんなのかも?」
他愛ない会話をしながら受付へ向かって声を掛ける。まずは体を休ませることができる場所を探さなければならない。