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小鳥は見ていた

作者: 古川志穏

私は、鳥かごの中から出して貰えないまま、9年が経った。外の世界に羽ばたいて見たい。9年前に見た広くて青い空に羽ばたいて見たい。

私を閉じ込めた者が、毎日、家の中に人を呼んで話を聞いているけれど、私には理解できない。

その者は男だった。髪は長く後ろで束ねている。眼鏡をかけ、白衣を着た長身の男性だ。

男性は、何時も人の話を聞いている。真っ白な顔をしながら、時には、うねり声をあげ、時には、喜びの笑い声をあげた。私は、男の食べているものが、カップラーメンであったり、コンビニのお弁当であることも見ていた。食べるのは、遅かった。何時も、1人で食事をしていた。

男は人が嫌いなようであり、訪ねてくる男性が興奮していても、女性が泣いていても、冷静に親身になって聞いていた。何時も、本を読んでいた。男にとって読書は趣味でもあり友達のようにも見えた。私に、男が話しかけてくることがあっても、触ってくる事はなかった。

今日も、見知らぬ男が訪ねてきた。中年の男性で何か悩みを持っているように見えた。

この家に来るものは、皆、同じような表情をしていた。必ず、若い男の子や女の子が一緒にいた。

その子供たちは皆、10代で気絶しているのか意識がないのか、動かなかった。この子達を生き返らせる事をしているのかのように、子供たちは、元気になった。

男は、訪ねてくる者達から、金を貰っているようだった。でも、男は何故か人と1メートルいないには近寄らないし、体には絶対に触れるのを嫌っていた。とても、静かな1日が過ぎていく。人がいるとき以外は、時計の音がするのを聞くぐらいだった。

男は、珈琲を飲む事はするが後は一切、間食を取らない。それでも、体が疲れるのか何時もソファーに、横になり本を読んでいた。

男の仕事は人の話を聞く事なのか、子供の命を助けることなのかは分からないが、感謝されていることは、私にも理解できた。

男は結婚しないようだった。彼女がいないと言うよりも、同世代の中の良い友達も自分から作ろうとしないらしく、電話が、かかってきても仕事の依頼らしかった。

何故、頭がいいように見える男が、こんな田舎に暮らしているのか分からないが、1日に、決まって1人か2人は、助けを求めてくるように、若い夫婦が一緒に、娘や息子を運んできては、何か儀式の様なことをする。

その時の、表情は慎重に事を進めなければならないと言う切羽詰まった緊張感が、私にまで伝わってくる。

家の中は、和風の部屋で1部屋が広くて、物はほとんど置いていなかった。広い部屋でなければ仕事は出来ない。死んだ様な子供を寝かせるための広さと、親と男が1メートル離れていても大丈夫な広さが必要で、本棚とソファーがあった。

私には、男の事が分からなかった。何故、仕事以外の人と接触を避けるのか。私には、話しかけてくれるのに、孤独のなかで生きているように見えた。朝は早起きで夜はお酒も飲まずに、本を読んでそのまま寝落ちする。気がついて、風呂に入って上半身裸で出てくる。食事は、夜は食べない。

そのまま、ソファーをベッド変りに寝てしまう。冬は、隣の部屋に寝室があるのかも知れない。男の家族はいないようだった。9年間、男の家族と思える人が来なかった。いつも、敬語で話していたので、家族はいないのかもしれない。

家事などは、殆どしないが、几帳面な彼は汚れを発見すれば綺麗にした。洗濯は、クリーニングに出しているみたいだった。服もそれほど持っていないらしく何時も同じものを何日も着ていた。

朝になって私がお腹を空かせていると、餌を入れてくれた。食べていると、男は、ニコニコして、

挨拶をしてくれる。水も新しくしてくれる。

けれど、私は空を飛びたい。男に言っても言葉が通じない。私が人間の言葉を分からないと同じ様に。

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